ダンジョンもし   作:ばばばばば

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もしもだライオス

君がこの迷宮のすべてを踏破し、問題を解決して新たな国の王となったらの話だ


もしも君のパーティーの魔術師と恋仲になったのなら
もしも君の信頼する鍵師の上の娘と恋に落ちたのなら
もしも君の尊敬する戦士と始めから仲間であったなら
もしも君が頼るドワーフの娘の境遇を知っていたなら
もしも君が好きらしい東洋人の彼が女であったのなら
もしも君が憧れてる獣人と魔術を求める旅に出たなら
もしも君の妹と君がもう少しだけ近い距離にいたなら


ライオス、これはそういった"もしも"の話だよ



もしもライオスとマルシルが恋人になったのなら(1/4)

『もしもライオスとマルシルが恋人になったのなら』

 

 

 

「ちょっとライオス? ちゃんと聞いてる?」

 

 

 ふと気が付くと俺は大げさな玉座に座り、横にいるマルシルに杖で頭を小突かれていた。

 

 

「王よ! 真面目に話を聞いてください!」

 

 

 そこで俺は先ほどまでの話を思い出す。

 

 

「うん……、まぁヤアド、その件はそこまで急ぐような話でもないんじゃないか?」

 

 

 俺の立派なお飾りの冠よりも大層にお冠になっている宰相のヤアドは、もう何度したかも分からない話を言い始めるので、俺もせめてもの抵抗をと同じような断り文句を言ってみる。

 

 

「この黄金郷メリニをおおさめになられるライオス王に在らせましては、良く民に尽くしている名君であることを私は知っています。なればこそ! この問題は先送りにできません!」

 

「まだ、国内の問題だって山積みじゃないか、そんな片手間でする話でもないしこの話は一旦……」

 

「なりませぬ!!」

 

 

 こうなったヤアドを曲げる術を俺は持たない、建国以来お世話になりっぱなし、いやむしろ政治の分からない自分を補佐する彼こそがこの国の中枢と言っても過言ではない。

 

 そんな第一の忠臣の諫言を跳ねのけるようで心苦しくはあるのだが、なぜか自分はどうも気分が乗らないのだ。

 

 

「いい加減伴侶を決めなくては! 国が興り、地盤を固めている今だからこそ王妃が必要なのです!」

 

「結婚かぁ……」

 

 

 そう結婚、破落戸と変わらぬ冒険者になった時分からそういったものは自動的になくなったと思っていたのだが、何がどう転んでか今の自分は一国の王、確かに次代のための婚姻は考えないといけないだろう。

 

 なのだが……

 

 

「そうよライオス、ヤアド君のいうことも真剣に考えて、ただでさえトールマンの寿命は短いんだから国のためにも血は早いところ残さないと!」

 

「あー、だったらファリンの子でもよくないか? 良い人いないか聞いてないかいマルシル?」

 

「いない! 並大抵の男じゃいたとしても認めないわよ私は」

 

「俺は良いのか俺は……、あぁファリン、シュローの誘いの時、どうして逆に婿に取らなかったんだ……」

 

「あの話はもう断ったから無効ですー」

 

 

 マルシルもこの手の話になるとヤアドと組んで手に負えない、すぐに目の前の鉄腕宰相から援護が飛ぶ。

 

 

「そもそもです! このメリニは現在多種族国家として新生しました! それに関しては、黄金郷が浮上した時、民が圧倒的に少ない我が国の土地を埋めるため、とにかく人を集める必要があったので同意しましたが、その結果この国は貴方という象徴! つまり王のカリスマによって成り立っているのだと何度言えばわかるのです!!」

 

「あぁ、わかってるよヤアド」

 

「この様々な思惑で成り立つ多種族国家、それをまとめる貴方という正当なる王位継承者、そしてその胤を受け継ぐ後継者! 作って遅いということはありません! 今も王のおこぼれにあずかろうと多くの者がその座を狙っているのです」

 

 

 早い話が悪い虫がつく前に早く身を固めろ。

 

 ヤアドに言われるまでもなく、偉くなったらやけにその話を振られるなとおもっていた。

 

 最近は他の大臣たちからも会うたびに嫁はどうだとよく言われているので逃げ場がなくて困っている程である。

 

 

「……ちなみに大臣たちの紹介は皆私から直に断り、注意しておきました。あ奴等は自分の利益を最優先に恣意的に選んでいます。真に国のことなど考えてなどおりません」

 

 

 そうだったのか……

 

 

「そうだったのか……、みたいな顔してるんじゃないわよライオス……、いいじゃない結婚」

 

「……そうか、うーん」

 

「煮え切らない態度取ってぇ、そんなに結婚するのいやなの?」

 

「いいや、王様だもんな、しなきゃいけないとは考えてた。でももう少し猶予があるとも思ってたんだ」

 

 

  俺はここまで来るのに多くの人に助けてもらった。

  だからこそこの国で恩を返せるなら何でもしたい。

 

 しかし、そう思っているのは俺だけであって、結婚というのは一人では出来ない。

 

 俺にも昔は親が決めた許嫁がいた。その時の俺はよく考えもしなかったが、いきなり村に来て村長となるはずだった自分を支えなければならないというのは、普通の村人同士の結婚と違って覚悟がいるはずだ。

 

 そして今の俺はお飾りでも王様で、ここに誰かが来るならお妃さまだ。

 きっと色んな不便をかけてしまうことは想像に難くない。

 

 

「うーん、俺なんかのところに来てくれる人がそもそもいるのか……?」

 

 

 そんなうだうだとした考えから出た一言、しまったと思った時にはもう遅かった。

 

 

「ふふふ、今確かに言ったよねヤアド君」

 

「えぇ確かに聞きましたともマルシル様」

 

 

 罠にかかった獲物を見るようなその目を見て、俺は慌てて言葉を翻そうとするが、そんな隙は与えられない。

 

 

「えぇ! 用意しましたとも、この国に身を捧げる覚悟をお持ちのご令嬢たちを! 既に見合いの日取りもいくつか設定しております!」

 

「待てヤアド……」

 

「ホホホ しかも一人目は今日の午後から! さぁ観念して衣裳部屋に行くのよ!」

 

「マルシル!? 君楽しんでるな!」

 

「これもメリニのため観念しなさいライオス! さぁさぁいらっしゃい!!」

 

 

 マルシルが手を叩くと同時に、今までどこに隠れていたのか侍従達が部屋の隅の陰から現れ、こちらに殺到する。

 

 

「うわぁっ、今までどこに!?」

 

 

 熟練の忍びと伍するその隠密の練度、恐ろしいほど無駄のない動きで俺は衣装室へ連行される。

 

 そこからはされるがままのなすがまま

 

 正直、俺が王になって特に慣れないことの一つは、何をするにも人がやるということだ。

 

 それが食事の準備や洗濯ならまだ分かるが、着替えや体を洗うところまで行くと勘弁してくれという気持ちになる。

 

 王族なら体を侍従に洗わせるぐらいは当然だと言い張るヤアドに、それはおかしいと譲歩してもらい自分の体は自分で洗えるが、今になって思えばダンジョン時代のヤアドもそんなことをしていた感じには見えなかったので、上手く丸め込まれたのではと思ってしまう今日この頃だ。

 

 

「昔は服なんて一張羅しかなかったのになぁ……」

 

 

 昔に借りていた部屋ぐらいのクローゼット、――衣装室ではない、クローゼット一個が部屋と同じ大きさなのである――を眺めながら、そんなせめてもの抵抗のか細い呟きは衣擦れにしまわれた。

 

 

 

「うんうん、衣装はいいわね! ……あれ、でもライオス、あなたやっぱり太った?」

 

 

 始まる前から疲れ切って衣装室の椅子に座る俺、その腹をマルシルはひょいと摘む。

 

 

「うーん、最近は体を動かさないもんね、ご飯もおいしいし……」

 

「なぁ、マルシル、こんな不摂生な王に会わせるなんて申し訳ない、今日のところは」

 

「ハイだめです。 今更中止なんてそれこそ向こう方に失礼よ」

 

「そりゃそうか」

 

「それに太ってる人も安心できていいじゃない! 私は好きよ」

 

 

 話し中、ずっと腹の肉をムニムニともんでいるマルシルはニコリと笑う。

 

 

「君が言うなら信じよう」

 

 

 その笑顔を見て少し元気が出た俺もマルシルに笑い返した。

 

 

 

 

 

 

 かくして「第一回ライオスお見合いパーティー(マルシル談)」が始まったわけであるのだが

 

 

「午後から会う方は北方大陸から来る大貴族のご令嬢、王家筋の分家で血統は上々、もともとトールマンの多い北方大陸、王の故郷も北方であることを考えれば話は合うのではないでしょうか?」

 

「北方のトールマンかぁ……」

 

「言っておきますが、血を残していくことを考えれば同種が第一選択となるのは自明の理、……手前ながら長命種を内に取り込んで国を取られた短命種の国などという逸話は事欠かないと知ってるはずです……」

 

「なに、いつもの俺の悪いところが出た。どうせなら自分の知らない国の話でも聞けたらいいなと思ったんだ」

 

 

 軽口のつもりで言ったがヤアドに複雑そうな顔をさせてしまった。

 

 申し訳なさを感じるので無理やり話題を変えようと口を開く。

 

 

「正直に言えば会って何を話そうか思いつかなくて不安なんだ」

 

「ふむ、同じ者達と長年過ごしていた私はそういう感情を忘れてしまいそうになっていましたが……、気になさらずとも二人きりで会うわけではありません、向こうの御付きの者もいます。直接お二人の会話に割って入ることはないと思いますが、困ったら助け船は出せますから」

 

「そうよ!」

 

 

 その時、後ろからの突然の声に振り替えると、そこには頬を上気させ、ワクワクが止まらないと言った雰囲気のマルシルがいた。

 

 

「楽しそうだね」

 

「正直ライオスには申し訳ないけど、めちゃくちゃ楽しみ……!」

 

 

 思えば彼女はこういう色恋の話がとても好きであった。

 その隠しきれない喜色満開の興奮は自分が標的でありながらに絆されそうな笑顔だ。

 

 

 どうやら先ぶれの人の話によれば、相手の女性はすでにメリニに到着していたそうだ。

 

 遠路はるばるようこそとあいさつに行きたくなるところだが、そうはならない。

 

 相手とはいきなり会う訳ではなく、こちらについて身支度をしてもらい、夕食のときに対面する予定だという。

 

 それまでは向こうの貴族の付添人のあいさつを聞かなければいけない、というよりは体面上はこの話し合いのために向こうは来ていて、その後のディナーで相手の女性と会うのはついでなのだそうだ。

 

 なんで? とも思うが、ヤアドからは結婚する確約もないのに見合いはできない、選ばれる向こうの立場がどうなど話していたが、よく覚えていない、そうした方が良いという程度の理解だ。

 

 そういったこまごまとした人のあいさつや口では言わぬ暗黙の了解を律儀に一通り守ってからようやく会えるというわけである。

 

 昔の俺はこんな手間なことをしなくともと思っていたものであるが、周りの人が言うには格式や品性とはそういった長ったらしいものから生まれるらしいのでとりあえず従っている。

 

 

 長い話し合い、というよりは情報交換のようなことを大臣たちが自分越しに話しているので、俺が話している気はしないが、とりあえず頷きながら適当に口を挟めば会議は終わった。

 

 

「えぇ、相手方には僕の方からも挨拶させていただきました。かわいらしいご令嬢でしたよ」

 

 

 会議の間中、自分の横で話し合いの解説をしてくれていた御付きのカブルーは夕食を目前にそう言った。

 

 

「ううん、君からしたらどんな女性も可愛らしいで収まるかもしれないが、初対面の人とうまくやれなんて俺は気が重いよ」

 

「まず相手に興味を持つのが大切だと思いますけどね、そうすれば自然と会話も弾むかと」

 

「簡単に言うなぁ……、俺は相手のことなんて少しも知らないんだ。興味の持ちようがないだろう?」

 

「刺繍が趣味で冬の間はよく自作されているそうですよ、ですけどこれは建前の趣味っぽい感じも……、作品のハンカチと他にもいくつか見せてもらいましたが花をモチーフにしたものが多かったですね、城内の花を熱心に見ていましたし、雪国ということもあって興味があるのだと思います。そういったところから会話を広げてみればいかがでしょう」

 

「君は向こうの女性ともうそんなに仲良くなったのかい?」

 

「いえ、少しだけ挨拶しただけです」

 

 

 目の前の彼との力の差に項垂れそうになるが仕方がない、とりあえずあってみないことにはどうにもならないだろうと気を取り直す。

 

 こうして俺は夕食の場へと向かった。

 

 こういった他所から来た客人をもてなす夕食は食事の内容がいつもより豪華なのは嬉しいがその分の手間と言うものが発生する。

 

 

「王が来られました」

 

 

 まず食事に着くまでの時間が長い、自分が来たことを知らせる従者、そして俺が一番奥の席に着いてから、皆が席に座っていく

 

 

「本日は北方大陸から遥々お越しいただきありがとうございます。今日の料理は東大陸の趣向を凝らした料理でもって歓迎いたします」

 

 

 大臣の一人がそういうと北方貴族の方に目配せをする。

 

「ライオス王につきましては……」

 

 それぞれ挨拶をしてくださいということらしいが、またここからが長い、代表で一人口上を言えばいいのに、場合によっては複数人と話さなければいけないのだから、とにかく目の前の料理と合わせて腹が減る。

 

 俺は鷹揚になるべく笑顔でその挨拶を返していく、既に意識は食事の方に行きかけているが、ここで、向こうの貴族の一人が女性を紹介する。

 

 いったい誰だと思いかけるが、そこでこの晩餐会の目的を思い出した俺は佇まいをただした。

 

 

「えぇ、私の姪です。身内びいきながら美しく育ちましてね、ほら、王に挨拶をしなさい」

 

 

 静々と目の前に連れてこられた人はとても美しい女性だった。

 

 色白が多い北方でも見ない白くきめ細かい肌に整った目鼻立ち、良いものを食べているのだろう、北方で村人をやってるなら絶対になれないような豊満な体つきは生物の雌としての美しさを雄弁に語っていた。

 

 

「やぁ、初めまして」

 

 

 そんな俺の無難な挨拶に視線の端にいるマルシルはもっと気の利いたことを言えとでも言いたげな表情だ。

 

 

「綺麗な人で驚いたよ」

 

 

 とりあえず褒めてみるがまだマルシルの表情は渋い

 

 

「それにその首元に毛皮をあしらったドレス、すごく素敵だ」

 

 

 マルシルのホッとした表情、よしこれでいい、たしかカブルーも女性と一緒に服装を褒めると良いと言っていた。この方向性だ。

 

 

「その特徴ある強く立った毛質に熊のような光沢だが真っ白な毛並み……、いやもしかしてムーンベアかい? すごいなぁ! しかもこの毛量は冬毛だ。冬眠中や前のムーンベアを毛皮にするなんて! よく冬を前に食い詰めた村が一攫千金のために、冬眠前のムーンベアの毛皮を求めて狩りをするも、村中の人間が逆に食い殺されたなんて話を聞いたがここで現物を見れるなんて驚いた!」

 

 

 相手方のポカンとした表情、視界の隅には顔に手をやるカブルーと、目を覆うマルシル

 

 

「いや、うん、北方なら食事が冷める前に食べるのがマナーだった。さぁ、食事を食べようか」

 

 

 かくして始まった晩餐会

 

 結論から言うとあまり向こうは楽しんで食事を食べていなかったのだと思う。

 

 もちろん相手も相手なりにこちらに話題を向けてくれていたのだが……

 

 

「へぇ、刺繍が趣味、花の刺繍かぁ、村の女衆も冬場の稼ぎのために良くしていたよ、もしかして花が好きなのかい? 北方では雪解けの春でもまだ緑は芽吹かない、でも雪解けのぬかるんだ泥から生える花も少しはあって、俺は好きだったなぁ……」

 

 

 そう、そういうアプローチをしろと視界の隅で虚空に向かって拳を突き出すマルシル

 

 

「えっ? 好きな花? あぁ! よくぞ聞いてくれた、北方では見かけないだろうが南方の人食い植物には個性的な花をつける種もあってだね! これがかなり変わっていて、その花の種子や花粉に強力な鎮静作用を持っているんだよ、あぁそうだ。それで相手を無力化して捕食するんだ! きっとこれを医療面で活用すれば人の役に立つと思うだろう? だけど面白いことに問題があって採取してから時間が経つと……」

 

 

 しばらく話し倒してから、相手の反応がないことを不思議に思い、そこでようやくマルシルの顔を見て、どうやら自分が間違ったことを悟った。

 

 もちろん俺は王様で、この場でその失敗を咎められることはない、それが少し恐ろしくも思ってしまい、俺は自重することにした。

 

 そんな風に黙ってしまえば話が弾むわけもなく、食事自体は何事もなく……、いやこの場合は何の成果も得られずといった方が正確か

 

 こうして一回目のお見合いは収穫なく終了した。

 

 

 

 

 

 

「反省会を行います」

 

 

 これは懲罰である。

 

 そう言いたげなマルシルとそれをなだめるカブルーに囲まれ、俺は自室でありながら、消えてなくなりたい心持ちであった。

 

 

「魔物ォ! どうしてそこで魔物の話を出すのよ!? 相手びっくりしてポカンとしてたじゃない!」

 

「面目次第もない」

 

「まぁまぁマルシルさん、王も頑張っていたと思いますよ、あのライオス王が相手や服も褒めてましたし、すごい進歩ですよ」

 

「ライオスなんてあの子の半分も頑張ってない!!」

 

 

 カッと目を見開きながらマルシルは俺を指さす。

 

 

「いい! いきなり遠くの国の王様とお見合いしろなんて言われて! 必死におめかしして! 何とかお話ししようと緊張で少ない話題を振り絞って! なのにつながる話題全部魔物! 魔物ッ! 魔物ォッ!! そう! 全部のゴールが魔物!! どういうこっちゃい!!」

 

「面目次第もない……」

 

「それしか言えんのかい! 自分の興味を前面に押し出しすぎ! もっと相手に興味持ってそれに沿った話をしなさいよ!」

 

「相手の話を聞いてこちらから話題も振ってたじゃないですか、花の話の持ってきかたとか良かったですよ」

 

「……それ、カブルーの入れ知恵でしょ」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「女の勘を舐めないで、思えばライオスが相手のそんな細かい所、気づくわけないでしょ」

 

「いや……、はい、すいません、マルシルさん、でも王も王なりに……」

 

「へぇ、擁護するんだ。ライオス……、勘ついでに聞くけど、まさか相手のあの子の名前覚えてないとか言わないわよね」

 

 

 棘のような視線を受けながら俺に出来ることは一つだけ

 

 

「その……、面目次第もありません……」

 

 

 カブルーは流石に擁護できないと天を仰ぎ、激高したマルシルの説教はさらに続いた。

 

 

「いい! 次は魔物の話題はなし! 分かった!?」

 

 

 ようやくマルシルの息が切れたのはそれから四半刻も経ったときだろうか、カブルーの絶妙な助け舟で何とか説教が終わる。やはり彼はとてもいい人だ。

 

 

「まぁこういった話はなるようにしかならないと思いますがね」

 

 

 俺とマルシルを交互に見て苦笑いを浮かべたカブルーはそういって部屋から離れる。

 

 

「もう、怒ったらお腹減っちゃった。晩餐会じゃ気が気じゃなくてご飯も手につかなかったし……」

 

「悪かったよマルシル、実は夜食があるんだ。俺も腹が減ったし少し食べるかい?」

 

「……どうせ魔物でしょ?」

 

「俺の方はね、イヅツミが前に取ってきた魔物をベーコンにしてもらったやつがあるんだ。いや、ちゃんとマルシルには焼き菓子があるから安心して、砂糖で煮詰めたナッツが入った高そうなの」

 

 

 俺は部屋の隅にある棚からたっぷりの糖蜜で表面が光るケーキを取り出してニヤリと笑った。

 

 

「えっ、なにそれ食べてみたい」

 

 

 マルシルはケーキが楽しみで落ち着かない様子だ。

 

 俺が二人分の皿を取り出している間に、待ちきれないと笑みを浮かべるマルシルは別の棚にしまってあった赤ワインとグラスを取り出してこちらに向ける。

 

 

「赤ワイン暖めてあげよっか?」

 

「ホットワインか、いいね! 実はいいジンジャーとスパイスがあるんだ」

 

「そうなの? じゃあそれ入れてみましょうか!」

 

 

 グラスに注いだ赤ワインにショウガを一欠けら、スパイスを一つまみ、マルシルが両手に持ったグラスを魔法で軽く温めると、次第に部屋中へワインの酒精、それに溶け出したジンジャーとスパイスの香りが部屋を満たす。

 

 

「いい香り、ミント……、じゃないわね、すごく爽やかな香りだけど柑橘系の甘さがあって……」

 

「ううむ、香り的にそっちのお菓子の方が合うかもしれない」

 

「いいわよ、少しあげる。もともとライオスのだしね」

 

「肉と菓子と酒、あぁ王になって良かったと思えたことの一つだ」

 

「ふふっ なにそれ?」

 

 

 ころころと笑うマルシルと隠れて贅沢な夜食

 

 爽やかな香りのホットワインに菓子類は言わずもがな、意外にも重厚な赤ワインの風味を邪魔せず、ベーコンとの相性はとても良かった。

 

 力説する俺に根負けしたマルシルも肉と合わせて食べてみたがお墨付きをいただいた。

 

 

「うーん、ホッと落ち着くわ、この香りホント好き! ねぇライオス、このスパイスどこのヤツなの?」

 

「えっ、夕食の時に言ってただろ? 鎮静作用のある食人植物の種子の話、時間がたつと効果は無くなるが凄く香りがいいんだ」

 

「結局魔物かいっ! だからそういうとこ! そういうところなの!! 美味しいけど!!」

 

 

 そういいつつも、ひとしきり怒った後、グラスに口をつけて笑顔で飲み干してくれる彼女を見て、俺は自然と頬が緩んでしまうのだから、きっと俺は彼女の笑顔が好きなのだろう。

 

 

 

 

 

 




ライオスとマルシルはね、そういう恋人関係にはならないし、でも全くそういった空気がない訳じゃないし、絶妙な距離感で見てる人を狂わせなきゃいけないの(内なるマキマ)

でも俺、ライオスとマルシルが好き合う展開が好きだ(矛盾)


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