ダンジョンもし   作:ばばばばば

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もしもライオスとマルシルが恋人になったのなら(2/4)

「そもそも王はどういった女性が好みなのでしょうか?」

 

 

 わざわざ自室まで来て、今日の会合の補足について伝達してくれたカブルーは俺にそう何気なさそうに聞いてきた。

 

 

「あっ、それ私も気になるかも」

 

 

 すかさずその話にのるマルシルは、自室の机でやっていた編み物を編み棒ごと放り投げて、興味ありげに顔を寄せる。

 

 

「なんとなくライオスの好きな人って想像できないのよね、……魔物?」

 

「いや、マルシルさん……、人だって言ってるじゃないですか」

 

「やっぱり、ドラゴン、それに動物系の魔物が好きだなぁ……」

 

「王も何を言っているんですか、だからそういうことではなく……、そもそもそれは興味としての好きで、女性に対する好きとは方向性が違うでしょう?」

 

 

 呆れた表情のカブルーを見て、おそらく最近の見合いで気が滅入っている俺のことを心配してくれているのだろうと思い、真剣に考えてみる。

 

 理想の女性……、と言われて自分で言うのもなんであるが、あまり想像できない、だが無理やりにでも考えてみる。

 

 そもそも理想の雌とはなんだ?

 

 ヒトがクラゲやある種の虫のように単性ではなく、オスとメスに分かれている理由、それは多様性によって種族の生存性を高めたからだという説がある。

 

 だからこそオスであるなら生物として優れているメスを好むのだろう。

 

 優れている……、強くて美しい生物、そう考えればとても単純であるが、ヒトは社会性のある動物だ。

 

 社会的地位、権力、金、健全な精神性、両者の相性

 

 何をもってして優れているか、その定義すら個々人によることを考えれば、答えというのはやはり曖昧になるだろうが……

 

 

「うーん、やっぱり尊敬できる人かなぁ……」

 

 

 ただ自分の定義で話せと言われるなら俺は素直にそう答えた。

 

 

「シュローやセンシ、それにチルチャックだったり、あぁだからもちろん君達だって尊敬してるよカブルー、マルシル」

 

「……王、それは……、その、好きな女性とはまた違う意味でしょう?」

 

「もう、だからそういうことじゃなくて……」

 

 

 二人で顔を見合わせて、こちらをチラチラと見ながら歯切れ悪く話す彼らに、あまり自分の持論が二人に響かなかったことを自覚する。

 

 

「うーん、じゃあ笑顔かな、マルシルの笑顔とか安心できて好きだよ」

 

「はぁ……、だったらあんまり私を怒らせるようなことしないでよね」

 

「うっ……、善処します」

 

 

 なぜか俺とマルシルを見て何か言いたげな表情のカブルーが視線を宙に動かした後にため息をついている。

 

 

「ある意味、その無関心さは王器かもしれませんが、ただ純粋に女性の好みを聞いているんです……、できれば人間種で、好きな顔立ちとか髪の色とかスラっとした女性がいいとか、……誰かの笑顔が素敵だとか、その程度の話で良いんです」

 

「うーん……、目鼻立ちや体形の変化なんてトールマンの中で言えば誤差の範囲だろう?」

 

「だから異性の好みでそういう種族としての特徴を求めない! そんなんじゃライオスあなた。一生結婚できないわよ」

 

「まぁまぁマルシルさん、つまり王は女性の好みなら見た目より中身をより重視してるってわけでしょう?」

 

「聞こえがいい風に纏めたわね……、ライオスの場合は興味ないだけじゃない、しかもトールマンから形が離れているほど良いとか思ってる節があるわよ、どうせ人に魔物のパーツがついてれば喜ぶんでしょ?」

 

 

 し、失礼な、生物……、例えば魔物はそれぞれが独自に最適化したカタチをしている。

 

 ヒトがただヒトから離れた形を取った程度ではその機能美の前には霞んでしまうとは思わないのだろうか

 

 そう、やはりドラゴンのような、完成された造形は何物にも代えられない美しさが……

 

 

「ホラ見なさい、絶対今見当違いのことか、魔物のことか、それか見当違いに魔物のことを考えてる顔よ」

 

 

 

 

 そんな風に話していれば、会合の時間に近づいていく。

 

 マルシルが別の用事で離れ、俺とカブルーは会合――たしかメリニの土地について人を呼んで話をするらしい――のために玉座の間でなく、大人数が肩を合わせて話し合える広間へと向かった。

 

 もっぱら実務的な話し合いはそこで行われ、王である俺が最後に部屋に入るように執り行われるのだが、もうすでに議論は白熱しているようで部屋の外からでも言い合う声が聞こえる。

 

 部屋に入り、全員が立ち上がろうとするのを手で制してから、俺は奥の席へと座って会議の始まりを改めて促す。

 

 今回は大臣たち以外にも話を聞くため、メリニの様々なギルドや責任者が出席しており、この大広間でも手狭だ。

 

 そしてこれは俺の王を始めてからの実体験であるが、人数が増えれば増えるほど、会議と言うモノはパーティーじみて踊りだすのである。

 

 

「カーカブルードの賠償についての話は落ち着きましたが、今回は塩害で活用しきれない土地について、改めて話を……」

 

「だから、農地としての活用は難しいと言っただろう? 賠償として向こうに大人しくよこしてやれば良かったんだ」

 

「だからと言ってタダで土地を放棄する国家があるものか! それに王の意向は食料の充実を国是として掲げられておるだろう」

 

「幸い、突如生えた大木の周辺で塩害は避けられている。そこを中心に……」

 

 

 話を聞きながら相槌を打つ俺、皆は俺を気にせず話し合うので俺がいる意味は薄い。

 

 俺にできる仕事はないように思えるが、そこに王がいることが大切なのだろうと考えることにしている。

 

 

「だからといってそこだけでは農地が足りん!! 突然浮上したこの国に農業基盤などないのだぞ! 他所の手を借りねば立ち行かん!」

 

「だからといって他国の介入を受け続ければ……」

 

「いや、そもそもオークやコボルトなどの流れ者を受け入れて無駄に飯を食わせ土地をやるなど……」

 

「西から逃げ出したコボルトに東からくるオーク……、流れ者に空いた土地を与えるなど正気の沙汰では……」

 

「私は最初から……」

 

 

 余計な枝葉に火が付きだす会議、

 

 俺に出来ないことは俺に出来ないことを出来る人たちが代わりにやってくれるとはいえ、俺も彼らの話す一つ一つの言葉を何とか飲み込まなければいけない。

 

 王である俺の仕事の一つは、俺にしかできないことをすること、人の上に立ってどのような国にしたいか決めることだ。

 

 例え、話が理解しきれなくても、理解する姿勢を諦めないように振舞わなければいけない。 

 

 

「皆の意見はわかった。どれも頷ける理屈があると思ったよ、言いたいことは言った方が良い、俺も皆の話をよく聞きたいからね」

 

「王よ、やはり多少の土地を担保にするのが現実的です」

 

「貴様! 王を目の前にまたそのような世迷言を!!」

 

 

 どうやら大臣の二人が特に罵り合っている様子なので、俺はあたりさわりのない言葉で何とか話を仕切りなおそうとした。

 

 

「まぁ、落ち着いてくれ、どちらも国のために考えてくれたのだろう? だからどんな言葉でも俺は怒らないさ、君たちもそうあって欲しい」

 

「むぅ……」

 

「ならば王よ、今日ここに農業組合の者が来ているはずです。彼らから話を聞かれてはいかがでしょう?」

 

 

 今回は識者として広く人を集めたため、農民の組合長に来てもらっている。

 

 日に焼けた一団を見て、彼らが農民の一団だろうとあたりをつけ、その中で一番偉そうな人を探せば、意外にも日に焼けておらずかなり恰幅の良い男が手を上げる。

 

 

「これはこれはライオス王、えぇ、私が組合長です。私どもの言葉に耳を傾けてくださるとはなんともありがたい……、しかしあの塩害じゃまともに麦は育たんでしょうなぁ……、先ほど言ったように外国へ土地を担保に支援を受けた方が現実的でしょうねぇ……」

 

 

 俺は彼のあげた手の平を見た後、すぐに横にいる痩せた男に声をかける。

 

 

「そうか……、横の君はどう思う?」

 

「あ、あっしですかい?」

 

「君、農民だろ? 手を見ればわかる。組合長は取りまとめ役みたいだからね、実際に食物を育てる君にも話を聞きたいんだ」

 

「いえ、こ、これは私の従者で……、これにそのような学はありません」

 

 

 俺が話している途中に、横にいた組合長が痩せた男の肩を掴み後ろに下げて、良く分からないことを言っている。

 

 

「……? 俺もそんな学はないが、塩害でどのような作物を育てられるか君が知ってるのかい?」

 

「は? い、いえ、ですが、私が組合長で……!」

 

「君の手は綺麗なものだ。土も弄ったこともないんじゃないかい? ならば彼の話を聞くべきだろう」

 

 

 目の前の彼は顔を赤黒くするとついにはうつむいてしまう、同時に周りに沈黙が訪れたことを考えるにもしや不味いことを言ったのではとも思うが、思い返しても何がまずかったのか分からない。

 

 とにかく沈黙を嫌った俺は、なるべく目の前の彼を見ないように避けてから横の農民に話しかけた。

 

 

「俺は君の話を聞きたいんだが……」

 

 

 なぜか痩せた男はしきりに隣の組合長の顔を何度も見るので、彼に俺の意図が通じてないのではないのかと不安に思い、もう一度彼に問いかける。

 

 

「君の知恵を貸して欲しいんだ」

 

「え、塩害に強い作物ってーなら……、というなら、な、何種類かごぜーます。いや、ございますが……」

 

「いい、話しやすい言葉でかまわないから、皆にも聞かせてくれ」

 

 

 ようやく話し始める彼から具体的に育てられる作物の話を聞き、植物系の魔物ならばどうだろうと口を挟みたくなる気持ちをぐっと抑えながら、話を終わるまで俺は相槌をうった。

 

 農民の彼は俺のなにかがおかしく思えているようなのか、困惑した顔を浮かべて最後に。

 

 

「しかしそれが育てられるか、この国の民の腹を満たせるかは、あっしには分からないですぜ……?」

 

「安心してくれ、それは俺にも分からない、だから分かりそうな者に聞くとしよう、誰か心当たりがあるものはいるか?」

 

 

 王とはいっても、だからなにができるわけでもなく、物事一つ決めるだけでも右や左、しまいには前から下から後ろから、ああした方が良いこうするべきと突き上げを食らい、判断するにも一苦労

 

 結局はその判断すら頭の良い人に聞いて参考にしてから決めるのだから、俺は王としてはお飾りもいい所であろう。

 

 

「王よ、高名な農学者なら私に心当たりが……、ただしノームの国から招くことになるのでその場合……」

 

「……当座の食料なら交易で賄えないか、迷宮の発掘者の人員を増やして、もう少しさらってみましょう……、その場合発掘した魔術書の取り扱いなのですが……」

 

「古代魔術について調べることができると聞いて集まった者もいますが、純粋に西側の連中に売ることも……」

 

「その件で少し先の議題になりますが、盗掘の被害を抑えるために警備隊の増強をご一考していただけませんでしょうか? 現在人員について……」

 

 

 こうして何とか話がまとまるかと思った瞬間、他の者から思わぬ意見が飛び出た。

 

 

「王の御業で魔物は退けられていますが、魔力の濃い自然生型のダンジョンの魔物が領内にまだあります。領内にも小規模ながら一つ近くに出来たようでして、家畜が盗まれ、荒らされるなどの被害が……」

 

「えっ、その話、詳しく……!」

 

「……王」

 

 

 傍に使えるカブルーから冷たい視線を向けられ、俺は一旦口を閉じる。

 

 

「あー、まずひとつづつ片付けよう、俺としては民を飢えさせないことが第一に考えているのは知っているな? 土地の活用はまず食べ物が第一だ。まずは自国で食料は賄えるように良く練って、土地の安易な切り売りはなるべくしないようにしてくれ、じゃあ次の……」

 

 

 仕事の放り投げに近い俺の言葉で、議題は次へと進んでいく

 

 

 

 

 

 結局、一日中ずっと話し合いに次ぐ話し合い、俺は完全に参っていた。

 

 

「つ、疲れたぁ……」

 

「少々だらしないですよ、王たるもの威厳をお持ちください」

 

「ヤアドは手厳しいな……、今日はいつもみたいに仕切ってくれなかったし……」

 

 

 実質的な政治と同時に俺の教育もしてくれているヤアドにそう言われ、俺は渋々背もたれと癒着した背中を引きはがす。

 

 

「まぁ、今日は王の経験のため私は議論にあまり口を挟まないようにして見ていましたが、少しは政にも慣れてきたと思います」

 

「そうですね、特に農業組合の彼、裏で東のドワーフと蜜月な大臣と繋がっているかもしれないとはお伝えしましたが、よく流されませんでした。かの大臣は少し外国びいきな所がありますから」

 

 

 もちろんそんなこと伝えられた覚えはない、正直言えばカブルーが会議前になにかそういう話をしていた記憶はあるが、あまり覚えていなかった。

 

 

「……覚えてないって顔ですね……、まぁ良いですよ、そういったことに惑わされないのがあなたの良い所だと思うことにします」

 

 

 とにかくもうすぐ待ちに待った夕食の時間だ

 

 できれば少しは仕事のことは忘れておきたい。

 

 

「ヤアド、カブルー、今日の夕食は中庭で一緒に食事をしないかい? マルシルも呼ぼう」

 

 

 俺としてはこうして誰かと楽しく食事をとれることが大事で、この国の誰もがそれを当然の権利として持って欲しい

 

 

「僕は良いですよ」

 

「むぅ……、すいません、このあと出来れば話したい人が何人かおりまして……」

 

「だめだぞヤアド、君、今も時々食事を抜く時があるだろう?」

 

 

 俺がそう諭すと、ヤアドは用事が終わり次第来てくれると約束してくれたので、俺とカブルーはマルシルの研究所へと向かった。

 

 メリニの魔術顧問である彼女はこの国の研究所の責任者でもあり、今日はその関係で会議にはいなかったが、今の時間なら向こうの仕事も終わっている時間のはずだ。

 

 この国は禁忌とされる古代魔術の解明を許していることで、短命種の研究者が門戸を叩きに来る場合が多いそうで、研究所を開いたばかりのマルシルは大変そうだ。

 

 

「うーん、研究所も大変そうだな……」

 

「そうですね……、中央エルフとの関係性は良好に保ちたいですが、古代魔術の研究は良く思われないでしょうね、王が悪魔を倒したという功績と監視員を兼ねた外交官の駐留で何とかお情けで許されているのが現状です。……このままエルフ贔屓に見られてしまえば東のドワーフやノームもどう動くか……」

 

「いや、そこまで考えて言ったわけじゃないんだ……」

 

「知ってますが、あえて言ったんです。王にはこの問題を良く考えて欲しいですからね」

 

 

 研究所は城の中の書庫と付近の大広間と幾つかの小部屋をとりあえずで使っているが、まだ始動したばかりとあって、ガラス製の器具や何かの薬品などがまだ整理されずに置かれている。

 

 

 そんな中、研究員と話しているマルシルを俺は見つけた。

 

 

「おや……」

 

 

 マルシルを呼ぼうとした俺は、後ろからカブルーに手を置かれて立ち止まる。

 

 彼は何やら目を細めて前を眺めているようで、俺はその目線をたどっていく

 

 

「所長、ちょっといいですか?」

 

「しょ、所長……! はいはい! 私が所長ね!」

 

 

 マルシルがノームの研究者と話し込んでいる。

 

 所長という響きが彼女にとって嬉しいものなのか、マルシルの顔はニマニマと口が動いて喜びが隠し切れていない様子だ。

 

 それを見て古代魔術の研究を一任した時の彼女の気合いの入りようを思い出し、俺も頬が緩む。

 

 

「へぇ、彼、研究所に志願したノームの魔術師なんですけど……、ふぅん、権力に取り入るって感じではなくあの感じは……、なるほど……」

 

 

 俺を立ち止まらせたカブルーはそう言って突然考え込んでしまう。

 

 彼と知り合って時々こういう雰囲気になる時があるが、俺が茶々を入れると悪いのでそのままにしておく

 

 

「この後ですけど所長は何かご予定はありますか」

 

「えっ、私のこの後? 別にどこかでご飯を適当に済ませた後は夜も研究所に戻ってくるけど?」

 

「あの、よろしければなんですけど一緒に……」

 

 

「やぁマルシル」

 

「あれ? どうしたの」

 

「……いや、王……、タイミングが……」

 

 

 カブルーはなにか考え込んでいたので、俺は本来の目的通りにマルシルの方へと向かう。

 

 カブルーが後ろで小さく何か言った気もするが、俺はそのままマルシルに用件を伝えてしまった。

 

 

「……誰ですか、このトールマン……?」

 

「ん? あぁ、すまない仕事の話し中だったか、中庭で夕食でもどうかと思ってきたんだ」

 

「は? あんた急に割って入って何を……」

 

 

 もう仕事は終わっているので雑談かと思ったら大事な話だったらしい、ノームの彼は少し不機嫌そうにこちらを睨む、いや、悪いことをしてしまったと、俺は眉を下げて相手の話を待つことにする。

 

 

「悪かった。どうぞマルシルと話を続けてくれ」

 

「こ、こいつ……、俺だってこれから所長を食事に……」

 

「えっ、城の中庭でディナー? うーん、確かにいい気分転換になるかも、行く!」

 

 

 息抜きの食事に誘うと彼女は笑顔でそう答えた。

 

 

「……あー、もう……、これは……」

 

 

 後ろから追いついたカブルーが、俺たち三人を見て何か言いたげな表情をするが、最後には自分は何も知らないとでも言いたげな顔であらぬ方を見てしまう。

 

 

「しょ、所長、この人は誰なんですか……?」

 

「あれ、しらない? あー、研究所で直接雇ったから顔は知らないっけ? こちらはライオス」

 

「ライオスさん? 一体どこの……、ん? ライオス……? ライオス王ッ!?」

 

「そうそう、こんなんでもここの王様、あっライオス、今日の夕食って何出るの?」

 

「オークたちが湖で魚を獲ってきてくれたらしくてね、取れすぎたから今日の食卓に使ってくれと城まで届けてくれたんだ。魚のパイが出るらしい、焼き立てだぞ!」

 

「焼き立てかぁ……、あっ私も西のエルフ達から焼き菓子貰ったの! こっちは焼いて一晩しっとりとした奴ね、この前の夜、ライオスの部屋でお菓子食べたでしょ? お返しに持っていくわ」

 

「よ、夜……、王の部屋で……?」

 

「じゃあ食後にいただこう、……っと、そうだ話を遮って悪かった。話を続けてくれ、俺は先に行ってるから」

 

 

 またやってしまった。再度ノームの彼の会話を遮ってしまうとは本当に申し訳ない、俺は彼に話の続きを促すがどういう訳か、言葉ないままに俺とマルシルを交互に見た後、大きく肩を落としているようだ。

 

 

「いえ、あの……、何でもないです」

 

「あっ、ごめんね、ほらライオス、あなた一応王様なんだから萎縮しちゃってるじゃない」

 

「あぁ、そうか、俺なんてそう大した奴ではないんだが……」

 

「急ぎの用件でなくても私聞くよ?」

 

「いえ、その、本当に何でもないんです……」

 

「あっ、そうだ、どうせなら君も一緒に食事を……」

 

「もうその辺にして行きましょう! 食事の準備もそろそろ良いんじゃないですか! ねぇ!?」

 

 

 そこでカブルーが俺の背中を押し出す、それもそうかと納得した俺はマルシル達と中庭へと向かった。

 

 

「今日のライオス、ヤアド君が何も言わないから大変だったでしょ」

 

「いや、ヤアドがいないといつもの何十倍も言い争いがひどかった……、もう何が何やら、頭がこんがらがったよ」

 

「ふふふ、私の方はようやく研究所が動き出したって感じ、古代魔術の研究がしたいって在野の魔術師は結構いて、いろんな種族の人たちが集まってくれてね」

 

 

 最近の近況は食事の時にとでも思ったが、我慢できずに今日あったことを話す俺、マルシルも同じくらいたくさん話してくれるが、多分それでも食事の最中でも話題は途切れないだろうと思ってしまい、今日の食事がさらに楽しみになってしまう。

 

 

 マルシルとカブルーの二人と話しながらしばらくして、夕食の場である中庭に着くと、ヤアドは既にテキパキと指示を出して食事の準備をしていた。

 

 

「王よ、食事の準備はできております。それと……」

 

「よぉ」

 

「チルチャックじゃないか!」

 

「えっ嘘、チルチャックも一緒にご飯食べるの!」

 

 

 ヤアドの陰に隠れて見えなかったが、なんとそこにはチルチャックがいた!

 

 何故ここにという疑問よりも喜びが勝ってしまい、俺は直ぐにもう一つ椅子と料理を準備せねばとあたりを見回す。

 

 

「会議の後、それぞれの代表と話したいことがあり、チルチャック様とも少々話したのです。もちろんお食事にお誘いし、準備もしてあります」

 

「まぁ、あの話し合いで気になるところが何個かあったんでな」

 

「えっ、あの会議にチルチャックもいたのか?」

 

「仕方がなくだ。奥の方で聞いてただけだよ」

 

「そういえば参加者名簿にはハーフフットの代表として出席されてましたね」

 

 

 面倒そうに話すが、あの場にいてくれてたならそうと言ってくれても良かったのにと俺は思った。

 

 

「なんだ。カブルーも知ってたなら教えてくれればよかったのに」

 

「面倒なことになると口止めされてました」

 

「俺に変に話を振られても困るしな」

 

「でも……、その後に顔を見せてくれてもよかったじゃないか、ヤアドにはしたのに……」

 

「その拗ねたみたいな喋りを止めろ、……仕事の話だ。お前よりヤアドに話した方が早いだろ」

 

「なるほど! それはそうだな!」

 

「いや、王はそれで納得するんですか……」

 

「事実だろう?」

 

「ヤアドの気苦労も分かるぜ、もっと王様らしく偉ぶった方が良い時もあるぞ」

 

「その通りですな、王にはもっと威厳をもって……」

 

「しょ、食事だ。とにかく冷めないうちに食事にしようじゃないか……!」

 

 

 とにもかくにもこれで夕食はもっと賑やかになる。

 

 気の置けない仲間たちとの食事に俺は舌鼓をうった。

 

 

 出てきたパイ、良く下味を付けただろう濃い塩味の匂いがする魚の油と、それに負けない香草の香りがナイフを入れた瞬間に食卓に広がる。

 

 

「おぉ、これ美味しいな」

 

 

 まずは一口、噂の魚はどうやらニシンだったようだ。

 

 濃い味付けのホロホロの身とサクサクのパイ生地は一緒に出されたホップの苦みが効いたぬるめのエールとよく合う

 

「うまいなこれ、酒と合いそうな味だ。おっ、このエール、ヤアドのとこの奴だろ?」

 

「えぇ、飲んでくれる人がここには多くいますので、酒造りにも張り合いが出ると楽しそうに働いておりますよ」

 

「やっぱうまいぜこれ、正直売り出せばそうとう人気に……、いややっぱだめだな、売れすぎて俺の飲む分がなくなっちまう」

 

 

 南の方ではビールを魔法で冷やしたラガーが人気らしいが、豊かな香りや味わいを感じる常温のエールも俺は好きである。

 

 

「おいしー! 湖で取ってきたっていうから私、魚って聞いて淡水魚かと思った」

 

「海上から浮上した際にいくつか塩湖が出来ましたからそこからでしょうか、まだ港や漁場も作ってる最中なので新鮮な魚は貴重ですね」

 

「うーん、これはオークたちに感謝して、何かお礼をしないとだな!」

 

「コイツにゃ袖の下より舌の上か……、山吹色の菓子で菓子の方を有難がることを知っているなんてオーク共はこの国の王のことを分かってやがるぜ」

 

 

 料理を囲みながら、とりとめのない話をする。

 

 しかし、この顔ぶれで話すと俺としては望むところではないのだが、どうしても仕事の話になってしまう。

 

 

「ライオス、おまえ初めは心配もしたが、案外うまく王様やれてるじゃねぇか、あの小太りの農業組合の奴、最近威張り散らしてやがるからな、いい気味だったぜ」

 

「うん? あの人に何かあったっけ?」

 

「クク、調子に乗るな、お前は黙ってろ、お前は確かにそういってたじゃないか」

 

「えっ、いや、そんなこと言ってないだろ?」

 

「へっ、だろうな、知ってるよ」

 

 

 思い出し笑いをしているチルチャックに、流石にそんな失礼な言葉はしていないはずだと、俺は不安に思いながら確認するが、彼は笑うばかりだ。

 

 

「まぁ、ウチで開墾をしたいって来てくれたのはありがたいんですが、すこし大手を振り過ぎですね、あの時の王の対応は釘を刺す意味でも良かったと思いますよ」

 

「まぁ、土地の配分は王の権利です。こちらの領分に手を出さなければそこまで絞るつもりもありません」

 

「ヤアドのとこの奴で良いヤツ立てれば良かったんじゃねぇのか?」

 

「いくつかの土地を任せてはいるのですが、上に立ってどうこうというのは苦手な者が多くてですね……」

 

 

 俺の預かり知らぬ話なので良く分からないが、まぁ俺を良く諫めてくれるこの3人が良いと言うなら良いのだろう。

 

 

「私も身を粉にして王に尽くす所存ですが、やはり身内の者が少ないのは痛手ですな……、そう、見合いの話も進みませんし……」

 

「コイツが見合い!? はははっ ライオスもとうとう年貢の納め時か! えぇ? どうなんだよ」

 

「おかしい……、俺は年貢を納められる側では……?」

 

「こら、話を誤魔化そうたってそうはいかないわよ、聞いてよチルチャック、ライオスったら初めのお見合いでね……」

 

 

 こうなっては俺に身の置き場はない、俺の失敗に腹を抱えて大笑いするチルチャック達を少し恨みがましく見ることしかできない。

 

 

「その前の前のお見合いなんて、相手をそっちのけで付き添いの貴族にずっと貿易で訪れた異国のことについて何度も聞いてるんだから酷いものよ……」

 

「だって魔物の話はダメって皆が言うから……」

 

「お前はなぁ……、結婚は妥協なんだよ、お上の身分ならえり好みもできないってのにヤアド達は何人も候補を連れてきてんだから贅沢言うんじゃねーよ」

 

「贅沢というがな……、俺も自分の趣味を理解してくれなんて言わないさ、ただ、理解できなくとも尊重してくれれば……、あわよくば一緒に食べたり……」

 

「それ、最後の戯言を無視しても、結婚するなら途轍もねぇ贅沢な要求だからな?」

 

 

 この場で唯一の家庭を持っているチルチャックが言うと説得力がある。

 

 何の反論も浮かばない俺は黙ってエールをあおることしかできない。

 

 

「そうそう、そんな私みたいに我慢してあげられる人なんていないんだからね……、あっそういえばヤアド君、この次のお見合いなんだけどさ!」

 

 

 くそ……、マルシルみたいになんやかんや魔物料理を食べてくれる女性を望むのはやはり高望みなのだろうか……

 

 そのまま、俺を抜きに次の見合いの計画について熱論を交わすマルシルとヤアドを横目にみて、俺は結婚という高い壁を見つめることしかできない。

 

 

「……あの、誰も言わないので仕方がなく聞くんですが」

 

 

 そんな時、カブルーはなにか渋いものでも食べているような顔をして、俺とマルシルを見たあと、チルチャックに耳打ちしている。

 

 

「あの、王とマルシルさんって、その……、何かそういう話はないんですか?」

 

「はぁーー……、俺はパーティー内のそういう話は知らねぇし関わりたくねぇの」

 

 

 なにやら部分部分しか聞こえないがチルチャックが心底面倒くさそうにため息をついている。

 

 

「今は違うでしょう?」 

 

「止めとけ、そういうのに他人が骨を折ることほど無駄で野暮なことはないんだよ」

 

「いや、でもですよ、他の人からもすごく聞かれますし、今日もマルシルさん食事に誘われてまして、結構男性陣から狙われてるんですよね」

 

「へぇー」

 

「分ります。今のままであれば国としても何も問題はない、次代のことを考えれば二人が添い遂げることの方がリスクが高い、子供を望むのは難しいでしょう、万が一できたとしても逆に火種に……、というよりもその子供すらマルシルは寿命で見送らなきゃいけないことになるかも……、そういうのはなしで王なら妾の一人くらいはとも思いますが、ライオスが正妻と妾の二人の間で器用に立ち回ることは不可能ですし……、いやでも……」

 

「お前も健気だなぁ……、なんかため込んでそうだもんなお前……」

 

「……話過ぎました。……とにかく! 臣下としてこの国の行く末を心配してるんです」

 

 

 二人で何を話しているのだろうか? カブルーがすごく悩んでチルチャックに相談しているように見える。

 

 いつものカブルーらしくなく、酒もずいぶん進んでいるようだ。

 

 

「というか、国のためならライオスとマルシルが今のままでいいって自分で言ってるだろうが、それで答えは出てるんじゃねぇの」

 

「……それは」

 

「なのに納得できないって顔してるお前は何だ?」

 

 

「えっ、やっぱりなんか俺の話してる?」

 

 

「してないです」

 

「してないからお前はマルシルの菓子でも準備してろ」

 

 

 どうやら俺の話ではなかったようだ……、クッキーを取り分けよう……

 

 

「……あなたも元パーティーなら分かるはずです。あの二人はそういう恋愛的な面で言葉を取り繕わずにいうなら……、その……」

 

「クソボケだな」

 

「そ、そこまで言ってません……、ですがあなたも同じ気持ちのはずです。あの二人に、えぇ、その……、し、幸せになってほしいでしょう?」

 

「ククッ、やっぱり健気じゃねぇかよ」

 

「くそっ……、今日だって王が心配で様子を見に来ているくせに……、俺にだけそう言わせるのは小狡いですからね……!」

 

「まぁ否定はしないけどな。アイツがしっかりしてないと割を食うのは俺たちハーフフットだからな」

 

「ずるい回答ですね……」

 

 

 やっぱり二人で楽しそうだ。ずるいぞ……

 

 

「……わかりました。俺も野暮と思ってやりませんでしたが、少し探りを入れてみます」

 

「ほっときゃいいのに……」

 

「ライオスが少しでもマルシルを意識しているか確認するだけです」

 

 

「なぁ二人とも、やっぱりなんか俺のこと話してないか?」

 

 

「話してません」

 

「話してない、お前はマルシルのクッキーと飲む茶を入れてろ」

 

 

 どうやら俺の話ではなかったようだ……、しょうがないので茶でも準備しよう……

 

 

「ライオスはマルシルの笑顔が好きだと恥ずかしげもなく平気な顔で言います。しかも本人の前で、互いに何も気づかずにいますが……」

 

「はぁ……、やっぱりクソボケじゃねぇか」

 

「……そこまでは言いませんけど、ライオスがマルシルを心の奥底で意識してないかを確かめるべきです。常人なら誤魔化しそうなものですが……」

 

「多分、アイツ馬鹿正直に答えるぜ」

 

「もしも彼女の笑顔が好きなだけならそれは親愛でしょう、しかし自分で笑顔にさせたいと思うならそれは少なくとも異性への愛があると言えるのではないでしょうか?」

 

「……うん、まぁがんばれよ」

 

「……自分で言うのもなんですが、俺、ちょっと酒に酔ってますかね?」

 

「だいぶな」

 

 

 うーん、やっぱり俺のこと話してないだろうか、いや、勘違いか……

 

 

「ライオス、ちょっといいですか」

 

「えっ、なになに!」

 

「……犬かお前は」

 

 

 ようやくカブルーの相談事らしき話は終わったようで、俺はクッキーの皿を片手に近づいた。

 

 

「ちょっとした質問をするので答えてください、王の適性をはかる質問とでも思ってくれればいいです」

 

「うん? いいぞ」

 

「まずあなたがマルシルを笑顔にさせている光景を思い浮かべてください」

 

 

 急に何だとも思うが素直に想像する。

 

 この前のホットワインと魔物のベーコンを食べた夜を思い返す。

 

 

「じゃあ次にあなた以外の男にマルシルが笑顔をみせてる光景を想像してみてください」

 

 

 というよりもすぐそこでヤアドと食事を食べながら笑顔でいるマルシルがいるので、想像する必要もない

 

 

「……やはり誰でもではないです。そうですね、今日研究所にいたノームの男とマルシルが食事をして、彼女が笑顔になっている光景を想像してみてください」

 

 

 俺の目線に気づいたカブルーがいきなり前提を覆すので困惑するが、とりあえずやってみる。

 

 

 俺ではない、知らない男と一緒に笑顔でご飯を食べるマルシル

 

 人懐っこいようで、彼女も俺と同じで案外人見知りなところがある。

 

 そんな彼女が心開いて笑顔でいる光景……

 

 その中で俺は不思議なことに心の奥から、自分でも説明できないほどの感情が湧いてくることに気づかされた。

 

 

 

「どう思いました?」

 

「めちゃくちゃ元気がでるなぁ!」

 

「は?」

 

「いろんな所でたくさん笑ってくれてるマルシルを想像したら、なんだか嬉しいんだ」

 

 

 自分がここまで他人の幸福がモチベーションとなる人間とは思っていなかった。

 

 彼女を笑顔にできたらなんだか嬉しい

 

 そう考えれば、最近悩んでいた何もできない俺では王として向いていないのではという悩みが薄れ、心持で言えば王という立場は案外俺に向いてるかもしれないなんて、普段なら考えもしないことを思えてしまう。

 

 流石はカブルーだなと俺は思った。

 

 

「……クソボケが」

 

「えっ……」

 

 

「おーい、マルシル、クッキー食おうぜ」

 

「あっ、お茶入れてくれたの? ありがとうチルチャック、いい香り、これ何のお茶なの?」

 

「料理にも使われた香草を乾燥させ炒ったものを茶にして用意してあります」

 

 

 なぜか不機嫌になった彼。

 

 俺は何かまずいことをしたのかと動揺してしまう

 

 そんな俺の顔を見てカブルーはため息をついた後に自嘲するように苦笑いを浮かべる。

 

 全くもってどういう感情か分からない、もう怖いまである。

 

 

「カ、カブルー?」

 

「はぁ……、酔いのせいですよこんなの、あっ、酔い覚ましに水をください」

 

「あっ、うん」

 

 

 俺は言われるがまま水を注いでカブルーに渡すと、彼はそれを一気に飲んでしまう。

 

 

「ぷはっ……、魔物食らいで悪魔喰い、おまけに人を食ったような人なんですから、きっと貴方の隣にいたら退屈とだけは無縁でしょうね」

 

「うん? ……うん?」

 

「僕たちもクッキーをたべましょう、酔いのついでにライオスに言ってやりたい小言が何個か浮かびました」

 

 

 やっぱり酔ってたのだろうか、しかし機嫌は悪くないようで、そのまますぐ向こうに行って皆と一緒に楽しそうに話している。

 

 

 一緒にご飯を食べたい人がいて、その人たちと食卓を囲む

 

 その光景を見て、やはり俺は自然と嬉しいと思える。

 

 

 

「ライオス! これ! このジャムが乗ったクッキーが美味しいの! みんな食べきっちゃうよ!」

 

 

 ……さっきのカブルーの話を思い出す。

 

 もしもマルシルが笑顔でいてくれるなら、それが俺じゃなくても、どこの誰であろうが俺は関係ないと思った。

 

 

「一枚ぐらい残してくれ、一応は俺へのお返しだろ?」

 

「フフフ、残念、早い者勝ちだよ」

 

 

 

 だけどきっと、もしもマルシル以外の笑顔なら、俺がここまで勇気づけられることはないんじゃないだろうかと

 

 ふとその笑顔を見て初めて気づいてしまい、俺はほんの少しマルシルを見る目を細めた。

 

 

 

 

 

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