ダンジョンもし   作:ばばばばば

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もしもライオスとマルシルが恋人になったのなら(4/4)

 

 

 エルフとドワーフ、両国の見合いの日取りは1か月後と俺は決めた。

 

 準備期間は短いがそれはあえてである。

 

 変に時間をあけて、両国が適当な言い訳で逃げないようにするためにそうしたのだが、短い日取りは当然こちらの首を絞めることにも繋がるわけで……。

 

 

「今回の見合いはライオス王の肝いりだ! 皆も全力を尽くしてくれ」

 

 

 準備はやれるだけやっているが、残された日数は非常に少ない。

 

 

 そんな中で俺の我儘を実現しようと動く彼らには、本当に頭が上がらない、今もヤアドは俺が言った思い付きに従って、見合いの準備の段取りを指示している。

 

 

「大広間の花の手配は済ませたが、調度品と合わせてみるとバランスが悪いですね……、少し調度品の主張を抑えめにするか花の飾りつけを考えた方が良いかもしれません、そうだ。あの子に誰か伝言を頼めるかい」

 

 

 メリニの城で働いてくれる侍従の多くは元黄金郷の住人……、ダンジョンの地下にいた頃からの古株である彼らが俺を支えてくれていた。

 

 

「ヤアド様、どうなされましたか?」

 

「部屋が華やかになるよう、調度品と合わせてくれないかい?」

 

「分りました! 今回は王様たっての希望ですから! となれば私たちはもちろん全力を尽くしますよ!」

 

 

 彼らの千年生きた経験と知恵は素晴らしく、俺なんかよりもはるかに思慮深い

 

 例えばヤアドに呼ばれた少女にしか見えない彼女、趣味の生け花を800年程度嗜んでいると言っていた。

 

 せいぜい生きて60年の俺にとって、もはやその道に名を遺す巨匠では?

 

 そう言いたくなるほどの人材がこのメリニにはいるのだ。

 

 園芸、服飾、剣術、料理、家具作り、絵描き、建築、陶芸、酒造り、鍛冶、手工業

 

 彼らは皆その技術を“素人の手慰み、下手の横好きです”と皆口を揃えて言うが、公平な目で見て、狭いコミュニティにより趣向が偏っている所もあるが、その腕や手並みは明らかに極めている者のそれにしか見えない、多少の個性も腕が良すぎてこれがメリニ風なのだと言いきれる風格すら俺は感じる。

 

 

 話は変わるが見合い前には互いの肖像画を送りあうのが一般的らしく、黄金郷の住人で一番絵のうまい者に何枚か書いてもらっていたりする。

 

 題材が俺なので肖像画はパッとしないが、彼の書く風景画などは絵の善し悪しの分からない俺でさえ何か感じ入る所があるため、部屋にも一枚飾らせてもらっている。

 

 

「王様の絵を書くのは結構楽しかったですよ、書いてると色んな人が邪魔しに来てたくさんの顔が見えました。 俺の絵が上手くてすごい? ……まぁ、やることもなかったんでねぇ……、みんな大抵の趣味は一通りやって自分に合ったのを細々とやるんですが、同じ趣味の奴や見てくれる人がいないと張り合いがないんで、今回は自分の腕を見せられるので正直楽しみですよ」

 

 

 そんな彼らは地上に浮上してから作った作品を見せられるのを大変喜んでいるらしく、今回の俺の提案に好意的に付き合ってくれている。

 

 

「王様のご提案! 新しい発想にみな奮ってます。王様のために素敵なお召し物も新調してますから楽しみにしてくださいね!」

 

 

 どうやら他国の要人を迎えるのにあたって、城の準備の方は何も心配いらなそうだ。

 

 そう考えた俺は自分の発案が上手く行くかと思いをはせながら歩いていく。

 

 

「やぁカブルー、マルシル、調子はどうだい?」

 

 

 一応は俺の机も置かれている執務室を扉からひょいと覗く。

 

 そこには、今回のお見合いで使う物の出納に関する書類を睨んでるカブルーと、目隠しを付けながら杖を握り続けるマルシルがいた。

 

「王……」

 

 どこをほっつき歩いているんだコイツはというカブルーの視線に、俺はすぐさま首をひっこめる。

 

 

「逃げないでください、別に手伝えとか言いませんよ、もちろん猫の手だって借りたいほど忙しいですけどね」

 

「ありがとうカブルー、……それでマルシルは?」

 

「今使い魔を操作しているそうです。なんでも連絡したい人たちがいるらしくて、何かを片っ端から頼み込んでいるみたいですが……」

 

 

 そんな風にカブルーと話していると、マルシルが突然立ちあがり、目隠しを解く。

 

 

「ライオス、ちょうどいい所に! 」

 

 

 そして俺に気づくと直ぐに駆け寄ってきた。

 

 

「みんな割とメリニに近い所にいたから連絡とれたよ! 明日あたりには着くって! あっでもイヅツミだけはどこにいるのか……」

 

「彼女ならさっき、城の窓辺でヤアドをじっと見下ろしてたよ、ヤアドは気づいてないけど、今頃一緒にいるんじゃないかな?」

 

「まぁ、これで人は揃えられそうだけど……、ライオス、本当にやるの?」

 

「あぁ! 俺だけ何もしない訳にはいかないからな!」

 

「やるって……、何か用事でもあるんですか?」

 

 

 これもすべて、このメリニのため、そう考えれば王自ら動かない理由はない!

 

 俺はタンスの奥にしまったケン助と鎧を引っ張り出しに自室へ向かった。

 

 

「……王? ライオス王……? まさか……、おい王を止めろ! 行くんじゃないライオス! ヤアドさんを呼べ!! おいマジでふざけるなよアイツ!?」

 

 

 

 こうして準備を進めていけば、見合いの日は直ぐにでも来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドワーフとエルフの一行は、昼食を終えた昼下がり、両者は狙いすましたかの様に同時に到着した。

 

 どちらを先に案内するか、侍従達が困ってしまっている様子が遠くからでもわかる。

 

 

「あぁ、まったくつまらない争いを……、奴らは他国まで来て恥ずかしくないのでしょうか」

 

「まぁ良いじゃないかヤアド、じゃあ迎えに行ってくるよ」

 

「しかし、わざわざ王自ら出向くなど……、何度でもいいますが、こういった品位に欠ける行動はですね……」

 

「いいさ、こっちの方が俺らしい、いつかそういう貫禄もつける必要もあると思うが……、どうせ俺は王様の素人だ。見栄を張っても相手にはすぐばれてしまうよ」

 

 

 心配そうなヤアドの目を背中に受けながら、俺は馬車の方へと歩いていく。

 

 今回の見合いのすべては俺が取り仕切っていると言いたいところであるが、そうもいかない。

 

 希望は言ったが、正直細かいあれこれは丸投げであるので、なにもかも俺が自由に動けるわけではない。

 

 だが、王として俺が決めるべきことは決めさせて欲しいとヤアドには伝えてある。

 

 

「わざわざ同じ時間に会えるとは奇遇だな」

 

「ハハハ、本日はエルフの国にとってめでたい日となるのですから、いち早く駆け付けようと馳せ参じました」

 

「そうか! まさかこちらのことを祝ってもらえるとは! 今回の見合いでドワーフとメリニの縁が生まれるからな。我らの血族一同、祝杯を上げるべき日になるだろう!」

 

「「ハハハハハ」」

 

 

 いや、ヤアドは争いなどと言っていたので、ケンカ腰と思えば、案外両者とも仲が良いのだろうか

 

 

「ようこそメリニへ!」

 

「あぁ、ようやく従者が来たようですな、ではどちらから馬車を動かせばいい?」

 

「ドワーフご一行はあちらの方の案内へ従って向かうと良い、片方ずつとは言わずに仲がよろしいご様子なのでエルフのご一行もどうぞ一緒について隣に置いて、そのまま来るといいだろう」

 

 

 両者の眉がピクリと動いたような気がする。

 

 

「えぇ、ありがとうございます」

 

「話を楽しませてもらう」

 

 

 やっぱり思ったより仲は悪くない様子で安心した。

 

 

「ふん、従者を見れば王の程度は知れるな」

 

「相手を敬う口上すらまともにできんとは……」

 

 

 俺はあとは本当の従者に任せて、その場を後にする。

 

 

「思ったより良い人そうな人たちで安心したよ」

 

「王よ……」

 

「もういっその事、間の行事は省いて、王の間に直ぐに連れてきてくれてもいいんじゃないか?」

 

「いいですか、あなたは煩わしいと思う礼儀ですが、それを必要とするにはそれなりの理由があるのです」

 

「それは正しいフォークの持ち方のようにかい?」

 

「はい、正しさというのはそれを理解していなくとも、ただそれだけによって守られることがあるのです」

 

「わかった。ヤアドを信じよう」

 

 

 まぁ、せっかく準備したものを使わないというのは悲しいものだ。

 

 俺もあわよくばと思っただけで、本当に自分の意見が通るとは期待してはいなかった。

 

 

 ため息ついでに遠目で馬車の方を見れば、エルフ側からは薄いベールを額から垂らした女性、ドワーフ側からは縁の大きい山高帽にこちらも薄い布を垂らした姿が目に入る。

 

 

「うーん。顔がよく見えないな」

 

「貴人は顔をみだりにさらさぬものなのです。王よ、貴方も貴人ですからね、相手に顔を知られるというのは名が知られることと違って厄介と覚えておいて下さい」

 

「そういうものなのか? 彼らは俺の顔を覚えていないようだったが……、見合いの絵も送ったのに従者と間違われたよ」

 

「……王の威光は絵では表現できませぬ故」

 

 

 そう言われてはどうしようもない、俺はゆっくりと着替えを済ませてから衣装室で一休みするが、それでも相手方の準備は終わっておらず、まだまだ時間はかかるらしい。

 

 

「女性の身支度です。それくらいの時間は待つ気概を持つのがよろしいでしょう」

 

 

 俺の身の回りにいた女性の身支度が早いせいだろうか、どうしても遅く感じてしまうのは

 

 ファリンは言わずもがな、ナマリも早いし、マルシルはそれに比べて時間がかかるが、それは俺たちと比べて多くの手順を踏んでいるからだとは見ればわかる。

 

 

「なぁヤアド、今日の俺の服はどうだろうか?」

 

 

 正直、俺は服にそこまで拘りがない、身に着けるもので今まで一番こだわったのはナマリと買ったプレートアーマーくらいだろう。

 

 そして、こんな俺に威厳を持たせてくれる服というのは、やはりどれも胸や首が詰まったり、肩が重かったり、鎧以上に疲弊してしまうため、俺は冗談のつもりで、魔物で出来た服なら我慢できると言ったのだが……

 

 

「大変、良く似合われていますよ、王らしさが出ております」

 

「こんなに立派なものを貰って嬉しいよ、ありがとうみんな」

 

 

 俺は先ほどまで、着替えも手伝ってくれた黄金郷の誇るお針子部隊の面々に感謝を送る。

 

 

「ブリーチズとウエストコートはコカトリスとバジリスクの薄く光沢を放つ蛇皮を主体に、ゴージャスさを演出していみました!」

 

 

 確かにこれは蛇皮だ。

 

 彼らが地を這うための柔らかく複雑な外皮、その模様は僅かな光沢を放っている。

 

 

「コートにはとにかくありったけの哺乳類の魔物から取った皮毛皮を揃え、パッチワークでつないだ一品で、王の威容を示すのにぴったりかと!」

 

 

 ミノタウロス、ワーグ、ウサギやシェイプシフターやバイコーン……、いやこれはもっとあるぞ……!

 

 思わず見て、撫でて、その違いに心を躍らせてしまう見事な作り、田舎で摩耗した服を直したり補強するわけでもないパッチワーク、明確な意図で形と皮を配置されているそれは別々の素材を一つの純粋な芸術として完成させていた。

 

 

「裾にあしらったボタニカル柄はテンタクルスのモチーフを取り入れ、それらをメリニ伝統の手法で仕上げて上品さを醸し出しました!」

 

 

 たしかに……、よく見ればこの裾のところ、 金糸で縫われた植物の柄、特徴的な三つ葉とループした蔦はアイビーテンタクルスだろうか?

 

 

「コートのボタンにはミミックや大サソリの殻から作ったボタン、袖のカフスには宝虫をあしらい遊び心も忘れていません!」

 

 

 甲殻類から作り出したツルツルと艶やかな丸いボタンは触ってて楽しく、次いでカフスを見れば光り輝く飾りボタン、ただ単純に宝虫を使ったわけではないのだろう、その光輝く外殻を削り組み合わせて世で二つとない素晴らしい光を放っている。

 

 

「すごく綺麗だけど……、ライオスが着るとまるでキメラね……」

 

「まぁまぁ、マルシルさん、確かに王にピッタリじゃないですか」

 

 

 針子たちの解説に耳を傾けていると衣装室にマルシルとカブルーの二人が顔を見せに来てくれた。

 

 

「ふっ二人も! その服いいなぁ! やっぱりみんなでそろいの服はカッコいい!」

 

 

 マルシルとカブルーもいつもと違う服で来ている。

 

 カブルーはシーサーペントの青白いコート、マルシルはアリアドネ種であるオオグモから織られた反物、そこから黒に染められ、花の模様をふんだんに盛り込んだドレスを着ていた。

 

 

「……その服、すごくかっこいいよカブルー、マルシルも……、その……、すごく綺麗だ……!!」

 

「王たっての希望ということで皆、魔物の素材を使った服を着てますよ……。はぁ、確かに良い服ですが、まさか僕が魔物で出来た服を着ることになるとは……」

 

「私、ライオスが自分で気づいて、服を褒めるところ初めて見たわ……、まぁ結局魔物を褒めてるんでしょうけど……」

 

 

 この短い期間で仕立ててくれた彼女達には頭が上がらない、俺は言葉の限りで感謝を伝えたが、それでも俺のこの喜びを伝えきれたかどうか

 

 

 俺は二人の服を褒めちぎり、また自分の衣装を自慢しながら大広間へと向かう。

 

 辿り着いた大広間はいつもよりも華やかに飾り付けてあった。

 

 おかれた花々、豪奢な飾り鎧、銀で色どられた調度品や歴史を感じる絵画など、少し派手過ぎないかとも思うが、それでも嫌味な感じに見えないのは皆の手腕だろうか……?

 

 

「なんか楽しくなってきたな!」

 

「はぁ……、気楽に言ってくれるけど、これからが本番なんだからね……」

 

「これから来るのは海千山千のエルフやドワーフです。どんなことを言い出すかわかったもんじゃありません」

 

「うーん……、でも今回は俺の見合いのことだ。余計な話は関係ないだろう」

 

 

 それでも不安の色が取れない二人だが、ヤアドは何食わぬ顔で俺の横に立つ。

 

 

「王の仰る通りです。何を気後れすることがありましょうか、こちらの見合いに向こうが是非にと頼んできたのですから堂々とすればよろしいでしょう」

 

 

 ヤアドがそう言ってくれると心強い

 

 おれは従者から差し出される俺の毛皮で出来たマントを羽織ると、玉座に腰を掛ける前に皆を見た。

 

 

 ナマリの卸したピカピカの鎧を着たオーク達やコボルト達が立ち、まだ背格好は子供なままの元黄金郷の民に違和感なく交じったハーフフットたちが最後の準備と部屋を動き回わり、年季の入ったトールマンやドワーフとノームの官僚達は部屋の隅で真剣な顔で何かを話し込んでいる。

 

 

「みんな、俺の我儘を聞いてくれてありがとう」

 

 

 俺の言葉はなんとなくで出てしまった言葉であるが、そういうと、忙しく動き回る皆は少しだけこちらを見て足を止める。

 

 畏敬の眼差し、呆れの含んだ目、苦笑いをしたり、面倒くさそうだったり笑ったり、ただふとこちらを見ただけの者

 

 いろいろな種族、いろいろな目が俺に集まるのが面白くて、彼らを見返しながら笑みを浮かべる。

 

 

 そんな風に彼らと見つめあってると、わき腹にマルシルの肘が当たった。

 

 

「こら、なんか皆に言うんじゃないの?」

 

「えっ、いや別に俺はそんな気はないが? 準備の邪魔しても悪いし」

 

「……そう思うならさっさとなにか言ってください、これは普通そういう流れです」

 

 

 カブルーが言うならそうなのだろう、俺はわき腹をさすりながら、再度みんなの方に顔を向ける。

 

 さて、何を話そうか迷った。

 

 今さっき感謝は伝えたし、今更頑張ってくれと言っても、まさに頑張っている最中の皆にそれを伝えるのも違う気がした。

 

 

「今日、俺はこのメリニという国の素晴らしさを外の皆に伝えられるように頑張るよ」

 

 

 ならば、俺は覚悟を伝えよう、何せ今日は俺の見合い、一番頑張らなければいけないのは俺なのだから。

 

 

 

「……新生メリニはまだ始まったばかりの国だ。歴史は無いに等しいし、王にも威厳はない、何もかも足りていないと皆は思うかもしれない」

 

「でもそうは思わない、俺はこのメリニがとてつもなくすごい国になる気がしている」

 

「……一説では自然界では強さとは生き残る者であり、そして生き残る者とは闘争に優れた者や賢い者が生き延びる訳でもない。 唯一生き残るのはもっとも変化に適応できる者と言われている」

 

「もう一度言うがこのメリニはすごい国になる。だってこんなに多種多様な種族がいて様々な考えを持つ民がいるこの何者でもない国が、きっとすごく楽しい国になる気がして仕方がないんだ」

 

「ここは素晴らしい国だ、外の人にこのメリニがどういう国か俺は伝えるよ」

 

 

 

 俺がそう言い切ってから、玉座に座る。

 

 皆の中には小さく声をあげる者もいたが、大多数はしばらくこちらを見た後、各々の仕事に駆け出して行った。

 

 

「うーん、あいさつって難しい……、なんかうまく言いたいことが言えなかった気もするが……」

 

「王よ、心震わす素晴らしき言葉だったと誓えます。少なくとも私はそうでした」

 

「そうか? 言いたいことは伝わったかな?」

 

「皆の顔にも気合が入ってます。僕も保証しますよ」

 

 

 俺に気を使っての言葉かは分からないが、彼らがそういうのならそう思った方が良いと俺は切り替える。

 

 

「多種多様で様々な形に変化できる話の下り……、もっとわかりやすく、スライムや歩き茸みたいな国を目指そうと言えばよかったんじゃ……」

 

「止めなさい、ライオス、あなたは上手いこと言おうとしないでそのまま話した方が良いわよ」

 

 

 そんな風に玉座で待っていれば、向こうの準備が整ったそうで、ようやく見合いが始まる。

 

 

 

 俺は今まで、かなりの数の見合いを経験してきた。

 

 

 ヤアドの言によれば、それらは正式なお見合いというわけではないらしい。

 

 立場の上の者が見合いをするということは実質的な婚姻であり、本来ならその最終確認のようなものであるらしい、互いに一回も会わずに結婚ということもある世界だと彼は話していた。

 

 言われてみれば今まで女性と会う時というのは、メリニへの挨拶だったり、交易の話し合いの場や純粋な社交界など、見合い単体で行われることはなかった。

 

 

 つまり、今回のお見合いこそ、ある意味正式な見合いと言えるのではあるが……

 

 

「こちらが見合いの話を持ってこようとしたら、自分たちもとは、エルフは礼儀がなってないんじゃないか?」

 

「それは異なことを、話を先に持ってきたのは我らがエルフの方だったはずですが」

 

「どこで俺たちの話を盗み聞いたんだか……、この覗き魔め……」

 

「なんとまぁ粗雑な言葉を使いますね、ここは王の御前ですよ、さすがドワーフ達は腕白でこまりますなぁ……」

 

「腕どころか顔すら生白い貴様らに言われても何も思わんわい」

 

 

 言い争いを続ける両者を宥めながら、俺は心でため息をつく。

 

 

「……今日は西のエルフと東のドワーフが来てくれた素晴らしい日だ。君達だけでなく、俺も話に混ぜて欲しい」

 

「……えぇ! もちろんです」

 

「……あぁ、エルフとドワーフ、王がどちらを選ぶかの話だからな」

 

 

 見合いが始まり、まずは顔見せとなってほんの一言二言の自己紹介の後で、肝心の見合い相手は席の奥に引っ込み、代わりに出てきた者他は老齢のエルフとドワーフ

 

 彼らは挨拶を済ませると、直ぐに俺越しに舌戦を始めていた。

 

 

 今までの見合いが、他の用事を隠れ蓑にしたものなら、今回は見合いにかこつけた政争というのが実際のところなのであろう。

 

 俺の見合いへの縁のなさを嘆くべくか……

 

 今も俺が最奥に座り、左右にエルフとドワーフの代表が椅子に座っているわけであるが、見合いの場というのに、見合い相手の女性は一番遠くの席にいた。

 

 

 ドワーフとエルフ、彼らが連れてきた女性はトールマンである。それを知った時、どうせならエルフとドワーフの女性でも良かったのにと俺は思う。

 

 彼女たちはただ、何も言わずに静かに座っていた。

 

 二人はそれぞれエルフとドワーフの国の属国からきてくれた女性らしく、この言い争いにも表情一つ変えはしていない。

 

 間違いなく美人ではあるが、その窮屈そうな表情に、俺は少しだけ同情した。

 

 

 

 そんな風に彼らの言い争いを宥めているさなか、突然エルフの一団が何か思い出したようにこちらに話を振ってくる。

 

 

「そういえば、時にライオス王……、メリニには様々な民がいらっしゃるそうですね? この広間を見ればわかりますが亜人も多くいるとか」

 

「あぁ、そうだ。みんなこのメリニの民だよ」

 

「実は最近、西大陸のトールマンの国々から我らエルフによく相談されることがございましてね、何でも彼らの所有するコボルト達が貴方の国の噂を聞き脱走する事件が多くおきて困っているというのです」

 

「そうなのかい? うちにコボルトの奴隷は居ないな……」

 

「ほぉ! そうですか えぇ、先進的な私たちエルフの国では雇用することはあっても()()()()()()()()()()()()()()()ですが……、既に多くの者がメリニに密入してるのでは? そして今後も増え続けるでしょう、王はそのことをどうお考えでしょうか、いや、西大陸の者達が不安に思っているようでしてねぇ……」

 

 

 城の警備兵に交じったコボルト達が体をわずかに揺らす。その中の何人かは兜の中から歯ぎしりが聞こえる唸り声を放つ者もいた。

 

 

 エルフの代表はその態度に目を細めると、嬉しそうに声の調子を上げた。

 

 

「ふふっ、今そこで唸り声をあげた亜人、全く躾がなっていない、そういえば西方では奴隷のコボルトの耳に傷を入れてるらしいですが……、そこの亜人の兜を取ってみてもらっても?」

 

 

 唸りを上げていたコボルトは黙り込み、明らかに動揺したように首を回していた。

 

 

「まさか、このメリニに逃げ出している奴隷がいるとは思いませんが一応です。何か不都合でもありますかなライオス王、こんなところに奴隷から逃げた負け犬がいるとも思いませんが……」

 

 

 明らかな挑発に周りのコボルト達の握る槍に力がこもり、今にも吠え出してしまいそうな空気となるのを隣のオーク達が宥めている。

 

 

「フフフ、犬は嫌いじゃありません、直ぐに吠えるところなんて特に分かりやすくて好きですよ」

 

 

 それを楽し気に吠えたければ吠えろという表情を崩さないエルフの代表

 

 客人の前で無礼を働くなどでもしたらこちらの落ち度、すかさず目の前のエルフはそれを材料に仕掛けてくるだろう。

 

 

「グル゛ル゛ルゥゥ…… ヴォウ゛!!」

 

 

 広間に響く吠え声

 

 予想外に突然目の前から発せられた大音声の吠え声に、驚いたエルフは椅子から盛大にひっくり返ってしまう。

 

 

「うん? ……犬が吠えるのは好きじゃなかったのかな? 俺の数少ない特技なんだが……」

 

「なっ……、なにをぶ、無礼な……!」

 

「いやなに特技の紹介だ。お見合いではよくあるだろう?」

 

 

 俺は目の前の彼を助け起こすため、手首を掴んで引きあげる。

 

 そして引き起こした後に彼の目を見て、俺の考えを伝えた。

 

 

「君が何を心配しているかは知らないが、大丈夫だよ、うちのメリニには今のところ奴隷制はないから()()()()()()、この国には俺の民しかいないのだから()()()()()()だ君たちの国と同じようにね」

 

 

 俺は先ほど唸ったコボルトの彼に目線を向け、らしくもなく命令する。

 

 

「我が国の兵士を務める君、兜を取って彼らに見せて欲しい」

 

 

 彼は俺の言葉を聞いて直ぐに直立し、静かに兜を外し耳を立てる。

 

 するとコボルトの耳には人為的に欠けさせたと思われる傷があった。

 

 

「王が問うが、君は奴隷かい?」

 

「オレ……、ドレイ、チガウ……! メリニ ノ ヘイシ!」

 

「そうだ。君はメリニの誇り高い衛兵だ」

 

 

 俺が満足そうに頷くと、エルフの彼は歯をむきながら彼らへ指をさす。

 

 

「詭弁だ! こいつらは客人に威嚇するような亜人で……」

 

「さて……? そんな者達は見えないが」

 

 

 もう、コボルトの彼らは唸ることや威嚇を止め、ただ堂々と胸を張って前を見ている。

 

 

 

「コボルトは勇敢で命令に忠実な我がメリニの誇る国民だ。彼らがこの国のルールに従う限り、我が国は彼らを受け入れ続けるよ」

 

「なっ……」

 

 

 俺がそう言い切ると、笑い声が響く

 

 

「ハハハハハッ、いや、トールマンの王と聞いていたが、ずいぶん気骨がある王だ。エルフの情けない姿も見れたし、俺はアンタのこと嫌いじゃないぜ」

 

 

 まさにドワーフらしくと豪放に大笑いするドワーフ代表の彼、しかし彼は突然笑うのを止めてこちらを見る。

 

 

「俺らはエルフ共と違ってまどろっこしいことは言わない、率直に言わせてもらうぞライオス王」

 

「俺はそっちのほうが嬉しいよ」

 

 

 彼は机から身を乗り出して、睨みつけるような鋭い目でこちらを見る。

 

 

「お前らの国に流れているオーク共の話だ」

 

 

 目はこちらを見据えたまま、ドワーフの彼は広間に並ぶオーク達の方へ顎をしゃくる。

 

 

「奴らは俺たちの作った坑道に勝手に住み着いて、()()()()()()()()()()()()()()()()()……、まぁそういうとアンタは怒りそうだが、犯罪者なのは間違いねぇ……」

 

 

 下手な誤魔化しは許さないと、目で分かった俺は、彼の言葉を静かに聞いた。

 

 

「ヤツラを国から締め出せ、じゃなきゃ賠償しろ、それすらも嫌だというなら、お前らがどれだけ自分たちをマトモな国だと言ってもオレは信じない」

 

 

 彼の言葉には一定の正当性があった。

 

 オークがしてきたことの責任については国内でも議論されている。

 

 古くは長命種から土地を奪われた彼らは人里離れた僻地で静かに暮らすも、その貧しい土地では食料を賄いきれず、略奪民族としてこの大陸を流浪した歴史が彼らにはあった。

 

 国内の反発は、俺が抑えてはいるが、外の国での責任を問われれば俺がいくら援護したところで弱い。

 

 俺はしばらく考え込んでから口を開く。

 

 

「まず、彼らが略奪を行うのは自分たちを養う土地がなかったからだ。それを持たない彼らは略奪者となるしかないし、ここでメリニが彼らを追い出せば結局被害は出続けるだろう。俺は彼らオークがこのメリニに安息の地を見つけることこそが、今後君たちドワーフへの被害を無くす一つの方法だと考えてる」

 

「まぁ悪くねぇ答えだ」

 

 

 鼻を鳴らす彼は、そういうが全く顔は笑っていない。

 

 

「で? こっちの被害は泣き寝入りしろってか? 通る訳ねぇだろうがよそんな戯言」

 

 

 彼のスタンスは徹底している。

 

 受けた被害を補填しろ、目の前の彼に余計な解決策など示しても納得しないことはなんとなくわかってしまった。

 

 

「賠償の場合、どれくらいのものを予想している?」

 

「まぁ、ざっと金貨換算で15万枚くらいだな」

 

「どういう内訳なんだい?」

 

「そりゃ、今まで受けた被害額の概算だよ」

 

 

 できたてほやほやのこのメリニにそんな大金は勿論ない、それでも返済しようとすればおそらく金銭の代わりの要求が来るだろうし、突っぱねればこちらは敵側だとドワーフは決めつけて、近くない内に争いの火種が生まれることは明らかだ。

 

 

 俺はふと、広間のオーク達を見る。

 

 その表情は硬い、自分たちの処遇を案じているのだろう、もしかして俺が彼らを追いだすなんて考えているのかもしれない。

 

 

「オークは生まれながらの戦士だ。短く頑丈な毛、暑い皮膚の下の強靭な筋肉、そしてなにより永くを耐え忍ぶ不屈の心がある。開墾、建築、防衛……、これから先彼らのような精強な種族が居なければこのメリニは立ち行かない」

 

 

 宣言するように言い切ると俺は一人の男の名を挙げた。

 

 

「ゾン」

 

「はっ!!」

 

 

 衛兵の一団、普段は族長として警備などには加わらないが、今日は彼を呼んでいた。

 

 彼はよく通る声を上げ、すぐさま片膝をついて頭を下げる。

 

 その洗練された動きは、粗野で粗雑なオークという偏見と真っ向でぶつかる流麗さがあった。

 

 

「……なんだこのオークは?」

 

「彼はゾン、このメリニでオーク達を取り仕切ってくれている者だ」

 

 

 だからどうしたと不機嫌そうな彼を見ながら、俺はゾン族長に問いかける。

 

 

「君たちの中で、外の国に出て略奪を働いた者は?」

 

「王よ、我らの部族の祖先は100年前にメリニの迷宮に移り。今この地にいるオークの者達は外の国で略奪を働いた者は居ないと誓えます」

 

 

 よどみなく話す彼に俺は満足して前を見る。

 

 

「……というわけで、今この地に住むオーク達はこの迷宮にたどり着いた者達がほぼその数を占めている。君達の場所を荒らしているオーク達とは別の部族だと知ってほしい」

 

 

 彼らが直接ドワーフを脅かしたわけではなく、問題は国内で完結する。

 

 そう言った俺の主張に対し、やはりドワーフの彼は納得などしてくれない、彼は明らかな侮蔑の色を交えながらこちらを見下した。

 

 

「短命種はいっつもそうだな。覚えてない、昔のことってか? ()()()()()()()()()()()()()? たかだか100年程度前の話だ。お前達オークは迷宮が出来る前はどう暮らしてた? どうせ俺たちの財をコソコソ盗んで逃げ伸びてきてたんだろうがよ」

 

 

 彼はこちらの声に耳を貸しはしない……、こうなってはどうしようもないだろう。

 

 

「過去の罪は消えないか……、俺は短命種だから実感は薄いが、君達長命種と付き合っていく上で、互いの相互理解が必要だと俺は感じている。清算もその手段の一つだろう」

 

「やっと払う気になったか王様」

 

 

「ヤアド」

 

「はっ」

 

 

 俺が小さく呟くと、後ろに控えていたヤアドが、一歩前に進み、鋭利な表情でドワーフの一団を見下ろす。

 

 

「我が祖国、黄金郷のメリニは数奇な運命を辿ってきました。1000年の時を経て再興したこの国……、そもそも黄金郷が地下に沈んだきっかけはあなた方ドワーフがエルフと戦争をするために我が国を侵攻したことが始まりです」

 

「なに?」

 

「えぇ、今は亡きデルガル王の膝元でなんども聞いていましたとも、こちらの財を盗み、傷つけてくる身勝手な略奪者……、まぁそのようにいうと貴方達は怒りだしそうですが、これが不当な侵略行為なのは間違いありません」

 

「ちょっと待て……」

 

 

 だがヤアドは止まらない、語勢はしり上がりに上がっていき、容赦しないとまくし立てるように話し続ける。

 

 

「賠償が金貨15万枚!? はっ! 我が国が受けた傷がその程度なわけがありません……! 焼かれた村や略奪された財宝……、あなたは我らにそれらを賠償する義務がある!」

 

「そ、そんな昔の……」

 

 

 ドワーフの彼は自分でその言葉を言った後、すぐさま口に手を当てた。

 

 

「過去の罪が消えるとお思いで……!!」

 

 

 睨むヤアドと黙り込むドワーフ

 

 

 そんな沈黙の中、俺は小声で話し始める。

 

 

「俺はね、長命種も短命種も互いの相互理解が必要だと思っている。もっと実りのある関係にすべきだろう」

 

 

 まだ言い足りないといった様子のヤアドを目で制し、俺はドワーフの代表へ向き直る。

 

 

「オークの略奪は問題だ。今後このメリニに新たなオークが来ることも考えれば、ここでその全てを決めるのは早計だろう、それは今後君達ドワーフとメリニがより良い関係を築くために、もっと時間をかけて話し合うべきことだ」

 

 

 何か言おうとするドワーフを無視し、俺は言い切る。

 

 

「互いの国の見識を深める歓談はこれぐらいで良いだろう、今回は俺の見合いのために集まってもらったんだからね」

 

 

 こうして俺はようやくこの集まりが、そもそも何であるかを言うことができたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、俺はライオス・トーデン、今日は君たち二人と合うのを楽しみにしてたよ」

 

 

 俺は彼女たちに自己紹介をするが、反応は鈍い、あれだけ長い話し合いをしていたらそうだろう、あの後も結局、俺の呪いの所為で起きた魔物の大移動やら、他の問題について詰められて大変であった。

 

 彼らの歓迎のためにと、皆で用意した服や美しい調度品すら、貶された時には流石にカチンともきたが、王である俺が怒るわけにもいかないので我慢した。

 

 大広間の席、今は先ほどの代表たちと入れ替わるように左右に座る見合い相手の後ろにまだ彼らは居座って会話を差し込んでくる。

 

 

「ライオス王、彼女は我がエルフの美貌にも引けを取らない美女でしてね、しかも魔術にも明るい才女でもあります。きっと、お気に召すかと」

 

「いや、うちの属国からだした武門の名家の娘にしとけ、こっちも魔法は仕込んであるし、あんた冒険者出だろ? きっと話が合うと思ってな」

 

「うん、まぁ、そうか、それは色々話を聞いてみたいが……」

 

 

 肝心の彼女達はあまりしゃべらずにこちらを伺っているが緊張でもしているのだろうか。

 

 俺がこのメリニの良さを話したり、彼女たちの母国のことを聞いても、えぇ、とか、はいと言うだけであまり話が盛り上がらない様子だ。

 

 

 俺はふと視線を感じ、顔を上げるとマルシルと目が合った。

 

 

「あのぉ……、流石に少し王と話す時間を作ったらどうかしら……」

 

 

 その一言にカブルーも頷いている様子なので、俺もそうするべきなのだろうと、彼らに話を伝えるが……

 

 

「まだ、王と言えども、うら若き乙女と男だけにするというのはまずいでしょう」

 

「そうだな、信用をしてない訳じゃないが、王には俺たちの目の前にいてもらわなきゃな」

 

「そうか……、そういうものか」

 

「いやっ、そんなわけあるかっ こんな状況じゃ落ち着いて話せないでしょ! 仮にもライオスのお見合いなんだから、ちゃんと話して……」

 

 

 俺は納得しかけるが、マルシルは我慢できずと言ったように俺を叱る。

 

 

「おやおや、魔術顧問どの、流石にそれは過干渉でしょう」

 

「そうだぜ、ハーフエルフのお嬢ちゃん、俺たちだって好きで出歯亀をやってるわけじゃない、王の選択次第じゃ、こっちも対応が変わる」

 

「お言葉ですけど……、ライオスにちゃんとお嫁さんを選んで欲しいのは、こっちのメリニも一緒なの!」

 

 

 とにかく、俺と見合い相手の邪魔はさせまいと、マルシルはぐいぐいとエルフとドワーフを向こうへ向こうへと押し出していく。

 

 

 こうして、なんとか三人になれた。

 

 いや、正確には向こうで押し問答しているマルシル達の姿が見えるし、話が聞こえない程度の距離にカブルー達が控えているので俺たちだけではないが、まぁ少しは落ち着いて話せる環境になった。

 

 

「君たちの国のことに俺は興味があってだね……」

 

 

 俺はさっそく、彼女たちの国のことを聞こうと口を開きかけるが、先に向こうからポツリと声がこぼれた。

 

 

「ライオス王はお強いんですね……、長命種を相手取ってあんなふうに振舞えるなんて……」

 

「うん?」

 

 

 先に口を開いたのはエルフの国から紹介された彼女、なぜかこちらを眩しいものを見るかのように目を透かしている。

 

 

「私はエルフの保護国の貴族です。実家はエルフしか加工できない貴重な鉱石を採掘して財を成しました」

 

「へぇ!! そうなのか!! 詳しく聞きたいな、君の国の文化とか興味あるなぁ!」

 

「文化? そんなものはありませんよ、だって横に自分たちより優れた文化があるんですから……、私たちの国のトールマンは皆エルフに憧れてエルフみたいに暮らして……、そしてエルフにはなれない、文化も学問も種族としての価値もすべて上回っている国に支配されているんです。私の魔法の才や美貌だってエルフと比べたら意味はないでしょう……?」

 

「うん?」

 

 

 確かに、俺は話せと言ったが、弾丸のように話される暗い感情が乗った言葉に、俺は固まってしまう。

 

 

「すいません……、こんな話……」

 

 

 どの言葉から返していいのか迷っているうちに、今度はドワーフの国から送られてきた彼女が口を開く

 

 

「まぁ、アンタほどヒネちゃいないが、私の方も似たようなもんだね、うちの家もドワーフの下請けみたいなもんで、したくもない雑用をさせられてるよ、武門の家だって言っても体のいい傭兵ってとこだね、文化? 多分ドワーフに聞いた方が早いぜ、うちの国はドワーフの子分だからな」

 

 

 あっけらかんと物騒なことを言う彼女に今度は目を丸くする。

 

 

「えぇと、まず質問なんだが、君達はこの見合いに乗り気じゃないのかい?」

 

「いえ、……どうなんでしょう、行って来いと言われただけなので……」

 

「結婚出来れば家の立場は良くなるらしいが……、まぁどうでもいいけどね、あんな家」

 

 

 意外にも、乗り気じゃないらしい見合い相手に俺は肩を落とす。

 

 

「そ、そうか……、うん、まぁ、正直に言ってくれて助かった。嫌なのに無理にとはいえないからな……」

 

「こんなこと言うのは家を裏切ることになるんでしょうけど、……なぜか、さっきのあなたを見ていたらわざわざ隠すのが馬鹿らしく思えて……」

 

「こんな王様いるんだなって驚いたよ」

 

「まぁ俺が王様なんてやれてるのは、皆のおかげだが……」

 

 

 俺は向こうでドワーフとエルフの一団を食い止める大立ち回りをしているマルシルを見ながら苦笑する。

 

 

「そういえば、ドワーフ共から聞いたんだが、アンタ、あのハーフエルフと付き合ってるのかい?」

 

 

 突然の言葉、しかし、王になってから何度も聞かれていた質問に俺は笑いながら手を振って答える。

 

 

「別に付き合ってないよ、大事な人だけどね」

 

「えっ、それって……、本当は好きってことですか……?」

 

「あぁ、ちがうよ、別に俺の思いがどうとかではないんだ。うぅん、まぁそうだな……」

 

 

 正しい言葉を当てはめようとするが、どれも大げさだったり、足りていなかったりで、俺は悩みながらゆっくりと答えた。

 

 

「できれば一緒にいてあげたいが……、短命種の俺じゃ彼女を最後には悲しませてしまうだろう? うん、そうだな……、言ってしまえば、俺は彼女にずっと笑っていて欲しいんだ」

 

 

 そう言って、目線の端にいるマルシルを俺は自然と目で追いかける。

 

 俺の言葉に二人は黙り込んだ後

 

 

「あんた結構女泣かせなタイプだね」

 

「それって、あの人がかわいそうだと思います」

 

「えぇ……、いやそれは……」

 

 

 予想外の言葉に俺が驚いていると、大きな言い争いの声が聞こえる。

 

 

 

「だから余計な邪魔はさせないって言ってるの!」

 

「えぇい! 邪魔をするなハーフエルフ!」

 

「お前は王のなんだ!? 女房気取りか!」

 

「もう、またそれ!? だから違うって言ってるでしょ! 確かにライオスは良い人だけど……」

 

「……まさかあの噂は本当だったのか」

 

「あの噂ですか? はぁ、これだからドワーフは……、ハーフエルフとトールマンに子供は生まれませんよ、王族としてその選択は論外だ」

 

「そりゃ寿命が違い過ぎるが、それが問題なんだよ……!」

 

「……そ、そんなの関係ないでしょ! 私はただライオスが心配なだけで……」

 

「その反応……、まさか本当に? 止めておきなさい、ハーフエルフは孤独な種です。しかも、よりにもよって短命種のトールマンとなど……」

 

「……それは」

 

「だから危険なんだ。どうせ500年もたてばお前の周りに誰も居なくなる。そうすりゃこの国はお前の国だからな」

 

「……うっ」

 

 

 

 向こうにマルシルがいる。

 

 少し、泣きそうな顔だ。

 

 

 

 なんだろうか、こんな気持ちは初めてだ。

 

 

 

「王よ、その顔は良くないですよ、女性を怖がらせてしまってます」

 

 

 いつの間に傍にいたカブルーにそう言われ、俺は手で顔を覆った後、ゆっくりと深呼吸をした。

 

 

「カブルー、君、前にいっただろ? 俺以外の男がマルシルを笑顔にしてる光景を想像してみろって」

 

「えぇ、なんでも、元気が出るだとか仰ってましたね」

 

「それで、気づいたんだがな、カブルー、俺はマルシルが笑顔でいてくれるのならそれが誰であっても良いと思っていたが……」

 

 

 収まりきらない感情を、何とか深呼吸で抑えようとするが上手く行かない、こんなことは初めてだ。

 

 

「俺はマルシルを泣かせようとする奴は誰であっても許せないんだ」

 

「分りました。では準備をしてきます」

 

「あぁ頼む」

 

 

 

 俺は見合いの女性を置き去りにマルシルの方へ歩いていく。

 

 

 

「やぁマルシル」

 

「……あっ、ライオス……」

 

「ライオス王? どうだったでしょうか?」

 

「こっちの娘の方が良かっただろ?」

 

「ううん、まだ決めかねていてね」

 

 

 俺は顎をさすり、唸りながら悩んで見せた。

 

 

「実は俺はもしも、嫁に迎えるなら、絶対に譲れないことが一点だけあってね……、正直この条件をのんでくれるなら諸手を上げてこちらから是非結婚を申し込むんだが……」

 

「それは一体!?」

 

「どんな条件だ!?」

 

 

 俺は掴みかかられる勢いで聞かれた後、もったいぶりながら話し出す。

 

 

「俺と一緒にご飯を食べてくれることだ。できれば知り合いも全員食べてくれるなら最高なんだが……」

 

「なんだと?」

 

「その程度のことでですか……?」

 

「もしや、君たちは付き合ってくれるのかい?」

 

「えぇ、もちろん」

 

「それぐらいならいくらでも付き合うぞ!」

 

 

 なんだ、そんな簡単なことならと言う彼らを見て、俺はにっこりとほほ笑む

 

 

「じゃあ食事の時間にしようか」

 

 

 手を叩いた瞬間、扉は開かれ、次々に調理道具が運び込まれていく。

 

 

「もう遅い時間だ! すぐに始めよう!! 今回の晩餐は俺の趣向を全面に採用して、その場で調理して食べてもらう。新生メリニ風料理とでも名付けたいところだ!」

 

 

 運ばれてくる皿と、大量の調理器具、城のお抱えの料理人と共に今回の総料理長が姿を現した。

 

 

「今日はライオス王のめでたい日、全力でもてなさせてもらおう」

 

 

 俺の準備した趣向の料理に、ドワーフとエルフの皆は戸惑いながらも促されるままに席へ案内される。

 

 

「まぁ、変わった食事ですが余興と思えば……」

 

「まぁ、何でもいい、……それで、何が出てくるんだ? さっきから食材が一つも運ばれてきてないが……」

 

「ふふふ、よくぞ聞いてくれたね、実は食材は既に用意してある」

 

 

 俺はすたすたと部屋を横切り歩いていくと、そこに置かれていた巨大な生け花に触れる。

 

 俺が触れると、その草花は必死に蔦をしならせ、俺から逃げようと全身をくねらせた。

 

 

「う、うわぁぁあ!?」

 

「お、おい!? なんだこれ! 衛兵は何をしている! 早く叩っ切れ!?」

 

「食人植物だよ、特製の針金で止めてあるから安心してくれ、そうだろう料理長?」

 

「……うむ、こやつの葉と実でつくるサラダが前菜じゃ」

 

「テンタクルス! テンタクルスも少しだけあっただろう料理長!」

 

「量は少ないがちゃんとある。……今回はお主が主役だからな、最後に多めに取り分けたのをやるから静かに待ってるといい」

 

「ありがとう! 料理長!!」

 

 

 次々と配膳されていく器を眺めながら、俺は料理を待つため、ホクホク顔で歩き出そうとすると、突然脇から掴みかかられる。

 

 

「おいっ! どういうつもりだ!? 魔物じゃないか!!」

 

「お、俺たちを毒で殺す気か!?」

 

「うん? だって一緒に食べてくれるんだろう? まぁ、食べれなければ無理はさせないが……、美味しいのに……」

 

「こ、コイツ!? 本気で言ってやがんのか? こんなの普通の人間なら食べるわけ……」

 

「いや、それはどうでしょうか」

 

 

 脇からすっと現れたカブルーは向こうの席を指さす。

 

 

 そこには談笑しながらテンタクルスのサラダを食べるマルシルと見合い相手の女性たちがいた。

 

 他の席でも出来上がった料理を粛々と口に運ぶメリニの者たちの姿が見える。

 

 

「あー、確かにこんな感じの味だったかも」

 

「前も食べたことあるんですか?」

 

「えっあぁ、うん、冒険者やってた時ね……、というか二人とも、よく食べられるね……」

 

「まぁ、私たちの場合は……」

 

 

 慣れた手つきで葉と蔦をフォークで巻き上げていく彼女に、エルフとドワーフの両者は絶句していた。

 

 

「我が国の者は皆ライオス王の料理を楽しんでおりますが? ……来られた彼女達でさえ手を付けているようですが皆様方のお皿はいかがいたしましょう? ライオス王たっての願いではありますが、皆さまが女性にだけ任せるというなら、水の一杯ほどならお出しできますよ?」

 

「な、舐めやがって、やってやろうじゃねぇか、いくぞテメェら!」

 

「こらっ待て、……く、クソ、皆さん、行きますよ!」

 

「ではご案内いたします」

 

 

 カブルーはこちらにウインクするとそのままエルフとドワーフの一団を連れて歩いていく。

 

 そしてすれ違う直前にカブルーはこっそりとこちらに耳打ちをしてきた。

 

 

「僕とマルシルさん用に特別に2食だけ作った普通の材料の料理を見合い相手に出していますから、マルシルさんには秘密でお願いします。じゃ、僕はウェイターに徹してるので」

 

 

 なんだ。彼女たちは食べてくれなかったのか……、俺は少し残念に思いながら自分の席、マルシル達の方へ向かって歩き出した。

 

 

「うぅ……、た、食べたぞ」

 

「た、食べられない味ではなかったのが救いだ……」

 

「おぉ! 食べてくれたのか、じゃあオードブルに行こう!!」

 

「つ、つぎは何だ」

 

「実はオードブルまでは既にここに食材を運び込んであるんだ……!」

 

 

 俺はスキップしながら、置いてあった調度品、傍から見れば鎧にしか見えないそれに近づいた。

 

 鎧に近づいていくと、沈黙を保っていたはずのそれは小刻みに震えだして蠢く。

 

 

「二品目! オードブルの食材は動く鎧だ!!」

 

「は?」

 

「鎧が食える訳ねぇだろ……」

 

「まぁ見ててくれよ」

 

 

 俺は動く鎧の兜を引き抜いてから皆の前に持っていき、手渡されたナイフを隙間にさして持ち上げる。

 

 ミリミリと音を開けて開いてゆく隙間、空気の漏れた音なのか、フシュルと気の抜けた音を立てて柔らかな物体が隙間からこちらへ身を伸ばす。

 

 

「どうだ!? 動く鎧は魔法で動いていたとされていたが、こいつの正体は貝のような軟体生物だったんだ! 驚いただろう!? これは俺が見つけたんだがね……! 俺にはそういう学がないから、今知ってるものに教わりながら論文に纏めているんだ!」

 

「えっ、あっ……、え?」

 

「は……?」

 

 

 俺の発見に皆も衝撃の事実に驚きの表情を浮かべながらこちらを見ている!

 

 

「王よ、オードブルは動く鎧のグラタンにしてみたが、お主も喜ぶかと思って動く鎧の兜の蒸し焼きにも再挑戦してみたぞ」

 

「えっ! それは本当かい!?」

 

「前回は兜の埃っぽい匂いも閉じ込めてしまったからな、今回は良く汚れを落とし、兜の頭頂部を下に上に別の蓋を置いて蒸し上げる。中に香草とダシをいれた調味液で適度に隙間を開けながらじっくりと火を通してみたんだが……」

 

「う、うわぁ! すごい、すごいぞ!!」

 

「こ、こいつ……、正気なのか?」

 

「く、狂ってやがる……」

 

 

 エルフとドワーフ達はなぜか縋るような目でマルシル達の方を見た。

 

 マルシルは動く鎧の殻を皿に、身をグラタンにして焼いた料理をおいしそうに頬張っていた。

 

 

「もういい! 諦めていいんだ! 私達も食わなければいけなくなるだろう!?」

 

「あ、あのハーフエルフも平気な顔で食ってやがる……」

 

 

 再挑戦した兜の蒸し焼きは、開けた瞬間に動く鎧とダシの匂いが全体に広がり食欲を煽り、ごく弱火で火を通したプリプリの身、特に兜の身は思った以上に肉厚で、中にたまったスープごと、吸い込むように食べあげてしまった。

 

 

「さぁ!メインディッシュだ!! これは高級な目玉食材を使った料理で、俺もまだ食べたことがない逸品だぞ!!」

 

「い、一体次はなにがくるんだ……」

 

「あ、あぁ……、椅子か? 机か? 今度食われるのは俺たちか?」

 

「最後の食材はこれから運び込まれるからよく見てくれ! 超高級食材で滅多に手に入らないのだがたまたま最近見つかったんだ」

 

 

 俺は興奮しながら、かぶりついて広間の扉が開かれるのを待ち、そしてとうとうその時が来た。

 

 

 両開きの扉すら通るのにギリギリな大きさの黒く巨大な球体、それがフヨフヨと浮きながらドアの前をくぐる。

 

 

「は?」

 

「あ?」

 

 

 皆は予想外の食材に言葉もないようだ。

 

 

 黒い単眼、そこから伸びる触手にはさらに小さな目玉が生えていて、その数は計10本、その触手は一本で金貨50枚ほどの値段で錬金術師の間で取引される超高級食材

 

 

「見てくれ! ビホルダーだよ! ビホルダー! 別名は見つめる者! ゲイザー! 名を呼んではいけない者! 東方での呼び名はドゥゲザァー・エモンだったかな? いやーまさかコイツに出会えるとは思えなかった」

 

「あっあっあっ……」

 

「あぁ! 浮いているのが不思議だろ? ビホルダーは単眼の中心に脳があってだな、そこに浮遊をつかさどる魔法器官があるんだ! 今はそれを無理やり動かしてこの巨体を運んでいるという訳なんだよ!!」

 

「……も、もう、もうおわりだ……、悪食王ライオスは狂王だ。来るべきじゃなかったんだこんな場所……あぁ、あぁ……!」

 

「ううむ……、この食材は正直どうしたものか迷った。まだ誰も食べていないだろうし、まずは言い出しっぺの王に食べてもらうことになるが……」

 

「えっ!? 一番最初に食べていいのか!? ありがとう料理長!!」

 

 

 俺はワクワクしながら料理長の料理を眺めながら待った。

 

 

「可食部分について事前に検討したが、外皮は厚く、火を通しても硬い、目玉のついた触手も同じ理由で取り除くため内部を料理する」

 

 

 浮かんだビホルダーをくるくると回転させながら料理長に捌かれる姿は圧巻。

 

 それだけで楽しめてしまうこの目玉食材に俺の目も釘付けだ。

 

 

「内臓もそのまま取り除くと中心の目玉とその周りしか残らないが、目の周りの筋肉は柔らかくゼラチン質、メインにはこれと……」

 

 料理長は目玉の中心にある黒目に刃を入れるとその手を突き入れ、何かを探るように引き出す。

 

 

「目のレンズを引っ張る虹彩だ。筋肉の中で最も大きさが伸び縮みすると言われるこれもメインに使ってみる」

 

「あ、悪夢だ……」

 

「俺たちは何を見せられてるんだ……」

 

「目の周りの肉はそのままスライスしステーキに、虹彩の部分は一回り小さい串におおきな筋繊維一本をうねらせながら串を打って特製のたれをつけて焼く」

 

「おぉ! すごい勢いで縮んでいく! おもしろいな!!」

 

「残った目玉ももったいないと一応考えたのだが……、目玉の中に入っているものの大部分を占める硝子体、無色透明のゼリー状のこれをデザートにする。そのまま砂糖とレモンの果汁を合わせて冷やしフルーツと合わせて完成じゃ」

 

「おぉ!!」

 

 

 俺は料理長に感謝してからビホルダーのステーキに食らいつく。

 

 

「うっ……」

 

「死んだか!?」

 

「むしろ頼むから死んでくれ……」

 

「うまぁぁぁい!! うわぁ! なんだろう、こんな柔らかいステーキは食べたことがない!! 確かに魚の目玉とか食べた時、目の周りに柔らかい何かがついてるなと思った時はあるけども! こ、これをこの大きさでかぶりつけるなんて! 最も巨大な目玉を持つビホルダーでしか味わえない贅沢だぁ!!」

 

 

 すぐにでもぺろりと平らげた俺は、横に置かれた串焼きにかぶりつく。

 

 

「うわっ串焼きの方は一転、ものすごい噛み応えだ! いや、でも噛み切れない訳じゃない……、圧縮された筋肉を歯で嚙んでいくたびにプツプツと千切れそこから放たれる油……、あぁこれは慣れ親しんでいるはずなのに慣れない、新しい食感だ……!」

 

 

 手が止まらないまま、全く予想できない最後のデザートに、膨らんだ期待そのまま手を伸ばす。

 

 

「最後のデザートこれは……、あれ? 普通のゼリーだ……、少し塩味が効いてるのではと予想したがそれすらないな……、水のゼリーに甘い汁をかけたら、うん、こんな味になる……」

 

「ううむ、出来るかはわからんが一度溶かして固められれば、その間に色々と混ぜ込んで風味良く仕上げられたな……」

 

 

 俺が料理長と料理の感想を言い合う内にどんどん皿が並べられていく。

 

 

「こ、こんなのがメリニ料理だと!? ふ、ふざけるな私達を追い出そうとしてる演技なんだろ!?」

 

「そうだ! こんなものに付き合える馬鹿がどこにいる!?」

 

「皆様方落ちついてください、見てくださいライオス王の喜ばれようを、彼は悪意なく、善意のみで皆さまに料理を振舞っておいでです」

 

「なおさら質が悪いわ!!」

 

「それにあちらをご覧ください、我が国の魔術顧問殿のお姿を」

 

 

 見れば何食わぬ顔で食事を楽しむマルシル、やっぱりマルシルはなんだかんだで食べてくれる。

 

 

「おいしー! 何これ! えっ、これ何のお肉……、じゃなかった……、ま、魔物のお肉はやっぱり美味しいなぁ……!」

 

「う、うそだ……」

 

「悪食王の傍に控えるあの女も……、やはり悪食……! いや悪食妃(あくじき)か……!」

 

 

 マルシルの方を見ていると、彼女たちはまるで食べるか食べまいか、迷うように食器をもてあそんでいる姿が見えた。

 

 とうとう意を決したように二人同時に料理にフォークを入れようとしてみせたその瞬間……

 

 

「もう良いんだ!食べなくていい!! こんなところにはいられるか!?」

 

「早く帰り支度をしろ! 直ぐに出るぞ!!」

 

「おや、皆さん、帰りも同じとは……、王は是非に食事を最後までとおっしゃっておりますが……」

 

 

「付き合ってられるか!!」

 

「見合いの話は無しだ無し! これ以上おかしな物を食べさせられたら頭がおかしくなる!」

 

 

 エルフとドワーフ達は流石に手を付けてくれなかったか……、美味しいが仕方がない、後で皆で食べればいいだろう。

 

 慌ただしく、出ていってしまったエルフとドワーフの一行、残された広間ではたっぷり余った食材と料理達

 

 

「……とった魔物の食材で、食べきれなかった物、全員分に満たないからと出していない食材がいくつも残っている。痛む前に皆で食べてしまおう」

 

「そうだな」

 

 

 俺は広場にいる全員に声をかける。

 

 

「あぁ、全員聞いてくれ! これからここにいる者で食べたい者がいるなら食事をしよう! 参加者は各自で準備を手伝ってくれると嬉しい! 食材は魔物だが味は保証する! なんせ料理人は飛び切りの腕利きだからな!」

 

「そう持ち上げんでもいい、少しこそばゆい」

 

「事実を言っただけだよ、センシ、それで俺は何を手伝えばいい?」

 

「そうじゃな、まずは……」

 

 

 俺は袖をまくり上げながら、まずはジャガイモを剥きに調理場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城の者、全員で食べる夕食は、魔物の料理が並び、既に宴会の様相と様変わりしており、俺たちはそんな中の一つのテーブルに顔を突き合わせて、同じように食事を共にしていた。

 

 

 

「まぁ……、上手く行った……、上手く行ったのかこれ?」

 

 

 動く鎧のグラタンと共に出されたミミックの焼きグラタンをチビチビと摘まみながらチルチャックはボヤく。

 

 

「はぁ……、エルフとドワーフ達が見合いの話を持ってきた時に、ライオスが言ってた通りにはなったわね。 一つ “俺は相手のことなんてちっとも分からない” 二つ “自分が相手を理解できない以上に相手も自分を理解できないのでは?”って……」

 

 

 マルシルはよほどビホルダーのステーキが気に入ったのだろう、二枚目を食べながら呆れたようにため息をついた。

 

 

「だからって堂々と言うか? 三つ目に “おそらく俺が全力で相手をもてなすと、ひょっとして相手は見合いの話を向こうから断ってしまうんじゃないだろうか” なんてよぉ……」

 

 

 魔物食に慣れていないナマリは恐る恐ると言った風にバジリスクのソテーを口に入れて渋い顔をしている。

 

 

「まぁでも、俺はそれを聞いて膝を打った」

 

「私も、その光景が容易に目に浮かんだし、目の前でおきてる」

 

「それはそうだ」

 

「俺は、それでも相手が楽しんでくれるかもと思ったんだが……」

 

 

 あの夜に俺は皆に頼んだ。

 

 見合いを真正面から受けてメリニに得がないなら、角が立たぬように断らなければいけない。

 

 だが、生半可な理由では向こうが納得するわけがない

 

 ならば、向こうから断ってもらえばいい、こちらが頼み込んでも折れるような要求を突き付けてやれば俺は大手を振って相手にお帰り頂くことができる。

 

 ……それでも、万が一、喜んで食べてくれるような女性であったなら、交際を真剣に考えたかもしれないが……

 

 

「そんなに魔物食はダメか……、こんなにおいしいのに……、いや! こんなにおいしいんだ! 毎日だって食べていいだろう!!」

 

「無理に決まってるでしょ、ライオスの我儘のために、センシやイツヅミ、みんなに頼んで、メリニの周囲から魔物をかき集めたんだからね……」

 

「むぅ……」

 

「魔物を着て、魔物を食べ、それを城の皆で食べる姿を見せつけるなんて作戦、多分この世でアンタぐらいしか思いつかねぇよ……」

 

「あれっ、チルチャック、そういえばさっきまでいたイヅツミとセンシは?」

 

「センシは調理場に戻ったぞ、イヅツミは……、今俺のグラタン盗って向こうで食ってる……、たくっ、向こうにたくさん置いてあるだろうがよ……」

 

「ん? おぉ、二人が戻ってきた」

 

 

 そんなことを話しながら食べていると、向こうからカブルーとヤアドの二人が何かを話し込みながら近づいてきた。

 

 

 

「王よ、ふっ、とりあえずはエルフとドワーフ達が逃げ帰るさまを確認しましたよ」

 

「魔物食が逃げるほどいやなのか……」

 

「まぁ、食べたくない人にとってはたとえ味が良くても拒否感がですね……」

 

 

 そういうカブルーも今日は魔物食を食べていない、少し悲しみを湛えた目で見てみるが、露骨に目をそらされる。

 

 

「無理強いは良くないぞライオス、まぁこれもワシの腕が至らぬ所為だ。口惜しいが普通の食材を使った料理もいくつか持ってきた。ほれ」

 

「す、すいません」

 

「食わんほうが問題だ。遠慮するな、ヤアド、お主も話してばかりでロクに食っていないな?」

 

「つい、奴らと話していると怒りで時間を忘れてしまいまして……」

 

 

 カブルー達の後ろから現れたセンシは、手に持った皿をカブルーとヤアドの胸の前へ差し出した。

 

 きっとセンシがどこかにいっていたのはこれを作っていたからなのだろう。

 

 

「はぁ……、こんなにおいしいのに一口くらい食べて見ればいいのに……」

 

「ファリンにも食べさせてやりたかったが、あの娘は今旅の途中だったか……」

 

 

 ふと思い出すようにファリンのことを話すセンシに俺はニヤリと笑う。

 

 

「まぁ、元気にやってるだろ。……それにアイツ、時々センシの魔物料理を食べたって自慢してくるし……、旅先のあれやこれやで楽しそうだし……、俺も聞いてて楽しいが、やっぱり羨ましいからな、ククク、今度は俺が自慢する番だ……」

 

「性格悪いわよライオス……」

 

「こんな豪勢な魔物食にありつけないとは……、不憫な妹よ……!」

 

「はぁ……、あっ、そういえば向こうの見合い相手の人たちすごかったわね、オードブルまでは普通に何食わぬ顔で魔物を食べて、私と話してたわよ?」

 

「うん? あれは普通の食材で作ったやつだぞ? 城の者が作った魔物食に形を似せた料理だ」

 

「へぇ、じゃあ私やカブルーと同じものを食べてたんだ。……あの子たちも話を聞いたら無理やり見合いの話を出されて連れてこられたみたいだし、言い方は悪いけど向こうのエルフとドワーフはいい気味ね」

 

「いや、あれはマルシルとカブルーの二人分しか用意しておらんぞ?」

 

「へ?」

 

 

 しまったという顔をしたカブルーだが、既に諦めて、あれは言い訳を考えている顔だ。

 

 

「えっ、じゃあこのステーキも……」

 

「お主が、晩餐会で出した肉と同じものが食べたいと言ったのだろう? いや、上手く出来たのになかなか減らないから助かったぞ、お主が旨そうに食ってくれるおかげで皆も食べ始めた」

 

 

 ワナワナと震えだすマルシルは、直ぐにカブルーを見つけ出して問い詰める。

 

 

「カブルー!?」

 

「いえ、ライオス王と二人の会話を見て、一芝居打ったんです。横暴な主人に一泡吹かせてみませんかってね、マルシルさんも彼女達を気にかけていたでしょう?」

 

「それは……! 確かにあの子たちはかわいそうだったけど!! けども……!!」

 

「おかげで縁もできました。マルシルさんも文通して欲しいと慕われて満更ではなかったのでは?」

 

「意外なパイプが出来ました。流石マルシルさんです。まぁ案外向こうも強かな女性でしたよ、こちらの話も探りたいようでしたし」

 

「……もう分かったわよ!」

 

 

 そう言いながら、マルシルはフォークをビホルダーのステーキに突き立てて、肉を口に放り込む。

 

 

 

「まぁ、いいじゃないか、こうやってみんなで楽しく食事で来てるし」

 

「王よ、そういえば、相手方は王のことを褒めてましたよ、エルフのよこした女性は、外から見る分には見てて飽きない、とても面白い御仁でしたとおっしゃられておりました」

 

「えぇ、ドワーフの相手も、善意あふれながら人の心が分からない、まさに王になるために生まれた男だと」

 

「えっ、そんなに褒められるとなんか照れるな……」

 

「言う程褒められてるそれ……?」

 

「ちなみに今回の見合いで魔物食に興味は……!」

 

「ないそうです」

 

「それだけは無理だと」

 

 

 声を合わせて言うヤアドとカブルーに俺は、寂しく下を向く。

 

 

「しかし、王よ、今回のこともありますが、やはり早く身を固めるべきだと私は思います」

 

 

 そんな傷心中の俺にヤアドは真剣な声色で話してくる。

 

 

「あぁ、そうだな、今回の件も元を正せば俺が不甲斐ない所為で起きた問題だ」

 

 

 俺は食器を置いて、ヤアドの目を見据える。

 

 

「実は少し考えてみたんだが……」

 

 

 いつものように話を煙に巻くつもりは毛頭ない

 

 俺の真剣な声を聴いていたのか、自然にテーブルの周りにいる皆の目線が俺に集まった。

 

 

「俺は自分が王に向いてるなんて思っちゃいない、そんな大それた人間じゃないし、皆を喜ばせたいからこのメリニの王になったみたはいいが……、正直に言えば、自分の周りの人たちが笑顔でいてくれれば良いぐらいにしか考えられない小さい人間だ」

 

 

 それでも、王様という身分になれば、その周りの人の輪は広がり、俺の手の範囲じゃ届かない程膨れ上がるのだから始末が悪い。

 

 

「だから、もし俺に嫁いできてくれる人がいたとして、一番身近なその人を笑顔でいさせる自信が俺にはなかった。きっと苦労をかける。今日みたいに大国の小競り合いに巻き込まれたりもするだろうし、絶対に大変だ」

 

 

 喋りながらいまさらになって気づく

 

 長々と話してはいるが、纏めてみればそう大したことも話していない、つまるところ俺は……

 

 

「言ってしまえば逃げていたんだと思う。俺は俺の横にいる人を幸せにする自信がなかった」

 

 

 幸せにしてあげたい人を幸せにできないなら、初めから作らない方が良い、自分で言っておいて情けなくなってしまうがそれが俺だ。

 

 そんな俺の言葉を皆は何も言わずにただ静かに聞いていた。

 

 

「だが……、俺は……、その、なんというか、それはひょっとして間違いなんじゃないかと思ってきていてだな……、なんというか、自信は無くても俺がやらねばというか……、それでも隣にいて欲しい……、と思ってしまうというかだな……」

 

「えっ!? そ、それってもしかしてライオス! 貴方好きな人が出来たの!?」

 

 

 俺の一言に皆がぎょっとした表情をした後、にわかに騒がしくなる。

 

 一番最初に詰め寄るのは、やはりマルシル、いや、後ろでチルチャックが他の面々を押し戻してる姿が見えた。

 

 結局一人抜け出したマルシルが俺の目の前で頬を上気させながら、まくし立てるように問いかける。

 

 

「だっだれ? 誰なの!?」

 

「その、矛盾するようなことを言ってるのは分かるんだが……、俺の横にいると苦労をかけるのは分かってる。だがどうしてもその人に笑顔でいて欲しいと思う俺も居てだな……」

 

 

 俺の言葉に目を輝かせながらマルシルはさらに顔を近づけてくる。

 

 

「さっきの子! もしかして前のお見合いの子! ひょっとしてオークの族長の妹さん!? だれなのライオス! 吐きなさい!!」

 

 

 こんな風に伝えていいのだろうかとも思いながらも、もはや掴みかかって、頭を振られる勢いで揺すられる俺は胸に詰まった言葉を大人しく吐き出した。

 

 

「君だ、マルシル」

 

 

 俺の肩に手を置いたままポカンとした表情のまま固まるマルシル。

 

 まぁそうだろうなと思いながら、俺は逆に彼女の腕に手を置く。

 

 

 「俺は君の笑顔が好きなんだ」

 

 

 はっきりとそう伝えるが、彼女は静止したまま、それでも俺の喉は詰まった線が抜けたみたいに言葉がとめどなくあふれてしまう。

 

 

「別に君が魔物を一緒に食べてくれるからじゃない、たぶん……、そんなことはどうでもいいんだ」

 

 

 魔物よりも……? そんな驚きの声が後ろから上がるが無視して俺はしゃべり続ける。

 

 なんでよりにもよって皆の前で言ったのだろう?

 

 俺はただ。相手を幸せにする自信がないから、俺が幸せにしたい女性を横に置きたいとか、そういう風に皆に伝えるつもりだけだった。本当だ。

 

 だけど、マルシルが目の前に飛び込んできて、全てが吹き飛んでしまった。

 

 

 俺はマルシルの目をのぞき込みながら言い訳のように言葉を並び立てるしかない。

 

 

「誰であっても君の笑顔を守ってくれるならそれでもいい、でも俺は君を笑顔にするならなんだってやれる男を自分しか知らない」

 

 

 マルシルの笑顔が好きだ。ずっと彼女には笑顔でいて欲しい、俺が出来ることならなんだってやるし、実際にどうすればいいかだって考えていた。

 

 

「俺はマルシルが寂しくないような国を作るつもりだった……。千年後だって君を一人にしないような楽しい国、でもそれは俺の傲慢だろう? それは俺が頑張ったって確実にできることじゃない、それに君が笑って暮らせるならそれでいいんだ。国に縛るような真似はしたくない」

 

 

 だけど、俺は結局短命種で、どう足掻こうが、彼女は一人残される。俺が彼女に出来ることは何だ?

 

 

「そう思った時、俺が君の為に出来ることを考えてみて、君がこの先いつにだって思い出せば笑ってしまうようなことを沢山してあげたいと思ったんだ」

 

 

 それは、彼女のためと考えたのに、ものすごく身勝手な考えで、だけどどうしても俺はそれが悪くない考えにしか思えない。

 

 

「マルシル、俺の恋人になってくれないか?」

 

 

 いつの間にか逆に、彼女の肩を掴み返していた俺はそんな言葉を彼女に言っていた。

 

 

 時が止まる。

 

 周りは飲んでや歌えの賑やかさなのに、俺たちの周りだけがやけに静かで、後ろで誰かの息をのむ音すら聞こえた。

 

 

「も……」

 

「も?」

 

「もっと!! ロマンチックな感じじゃなきゃ イヤッーーー!!!!」

 

 

 俺はいつの間にか天井を見上げていた。

 

 突き飛ばされ、後ろに転がった俺は、そのまま床に大の字になる。

 

 耳元でドコドコと賑やかに鳴る床、顔を上げれば……、ぽっかりと空いた空間。

 

 

 「ロマンチックな感じかぁ……」

 

 

 後頭部の痛みを感じながら、俺はそのまま、痛む頭を床に乗せた。

 

 

「王にしては言葉は悪くなかったかと」

 

「時間と場所は悪いと私は思うけどね」

 

 

 そういうものかと、俺はボーっと地面の冷たさを背中で感じる。

 

 

「なに、寝転んでやがる。さっさとマルシルを追え、だからテメェは唐変木なんだよ」

 

 

 しかもチルチャックが蹴ってくる。的確にあばらの隙間を狙われてすごく痛い。

 

 

「くくっ、チルチャックさん? そういうのはしないんじゃ?」

 

「確かに、アンタらしくもない」

 

「……クソッ」

 

 

 なぜか笑いを含んだカブルーとナマリがチルチャックをからかうように声を上げる。

 

 確かにここで寝てても仕方がないだろうと、俺は体を起こしてからあたりを見回した。

 

 

「そうだな、チル、方向は?」

 

「聞かんでもわかる。向こうの扉だ」

 

「助かる、少し二人で何か摘まんでるよ、皆はこのまま食事を楽しんでくれ」

 

 

 立ち上がり、マルシルの去った場所を見据える俺の目の前に、ヒョイと小さな皿が二枚差し出される。

 

 

「デザートのゼリーを作り直した。今度は上手く行ったぞ」

 

「ありがとうセンシ」

 

 

 俺はありがたくそれを受け取ると、宴会の会場を後にした。

 

 広場を抜けて、さてマルシルはどこに行ったかとウロウロしていると、心地よい風が吹いている窓辺にイヅツミがいた。

 

 

 彼女は興味なさそうに幾つかある道の一つを指をさすと、欠伸を一つしてそのまま丸まってしまう。

 

 

「助かるよイヅツミ」

 

 

 どうやら彼女は研究室の方にいるらしい、今の時間なら確かに誰もいない、そう思い部屋をのぞいてみるが、人影は……

 

 いや、よく見ればうず高く積まれた研究機材と本の山から、長い耳がとびだしていた。

 

 

 俺は笑いをこらえながら思う。

 

 

 別に俺は断られてもいいんだ。

 

 

 確かに初めは気まずい思いもするだろうが、それでもきっとまた俺たちは一緒にご飯を食べられるのだから。

 

 

 ただ、俺は彼女がどう思っているか知りたい。

 

 そのために俺が出来ることはやっぱりこれぐらいしか思いつかないが、きっとこれぐらいが大事だとも思うのだ。

 

 

 俺は真っ赤になった丸くて長い耳に声をかけた。

 

 

 

「悪かったよマルシル、実は夜食があるんだ。俺も腹が減ったし少し食べるかい?」

 

「……どうせ魔物なんでしょ」

 

 

 

 そういいつつも、ひとしきり怒った後は一緒に食べて笑ってくれる。

 

 

 俺はそんな予感を感じながら、マルシルの隣に座った。

 

 

 

 

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