トレーナーが桐生院トレと温泉に行った話を聞いたウマ娘 作:のるどすとりーむ
──数日前
「いやー……いい温泉でしたね!」
浴衣姿の桐生院トレと旅館の廊下を歩く。
「そうですね。ここならウマ娘の療養やリフレッシュに最適ですね」
「それにしても、まさか理事長さんが新しく作る施設の調査を任せられるなんて思いもしませんでしたよ」
そう、俺たちはあくまでも調査できている。理事長がまた私財をなげうって、トレセン学園から少し離れた場所に新たな施設を作り出した。そして俺と桐生院トレはその調査──平たく言えば先行体験ができたのだ。
ちなみにこの旅館っぽい見た目の建物も、その役割は滞在するための宿泊施設だ。
「これは早くミークにも伝えないとです!」
俺も担当に一度話してみようかな。
──シンボリルドルフの場合──
「やあ、お疲れ様」
放課後、生徒会室を訪れる。
「トレーナー君か、お疲れ様。生徒会室まで呼び出してしまって申し訳ない」
「いやいや、それくらい大丈夫だよ」
「そう言ってくれるとこちらとしても助かるよ」
「……それで、俺と直接話したいことって?」
「まあ……私としても最初は耳を疑ったのだけどね……」
少し浮かない表情をするルドルフ。
「トレーナー君、ハッピーミークさんのトレーナーと温泉旅行に行ったというのは本当かな?」
「え?」
少し意表を突かれた質問だった。特に事前に桐生院トレと調査に行ってくることは言っていたわけだし、理事長が大々的にあの施設のことを宣伝していたわけではない。……まあそれはそうとして、【温泉旅行】と言われるとなんだか変なカンジだな。別に仕事上宿泊しただけだし、何もなかったが。
「……少し言い方が違うけど、まあ概ね合っているよ。それがどうしたの?」
ルドルフの耳がピクっと少しだけ動く。
「……別に教員間での人間関係に生徒として介入するわけではないが、もう少し話題にならないような行動をしてもらいたい。トレーナー君のことはかねてより信頼しているが、トレーナーの評判がそのままウマ娘の評価にもつながることがあるんだ」
「……?もちろん分かっているど?」
なぜか話が見えてこない。もしかして彼女はなにか盛大な勘違いをしているんじゃないか?
「……そうそう、その桐生院トレと行った場所なんだけど、結構しっかりとしていてね。今度君とも行ってみたいなって考えていて」
「トレーナー君?君は一体何を言っているんだい?」
ふつふつと彼女から怒りのオーラがにじみ出ている。俺はなにか間違いをしてしまったのだろうか?
「え?何って最近理事長が作った【温泉リゾート型トレーニング施設】のことだけど?」
「……ひぇ?」
珍しくルドルフの口から間抜けな声が漏れる。
そして何を思ったか、いきなり立ち上がり、俺のもとにツカツカと寄ってくる。
「……温泉旅館、ではない、のか……」
俺とほぼゼロ距離の状態で問い詰めてくる。彼女からはいつも使っているという尻尾用のワックスの、仄かな花の匂いがする。
「う、うん……」
「そ、そうか……」
すぐに距離をもどして、ゆっくりと椅子に腰掛ける。
黙り込んでしまうルドルフ。しばらくうつむいていて、表情を伺うことができない。
「……前言撤回しよう、今度私にもその場所に連れて行って欲しいな。私もそのトレーニング施設には興味がある」
「そうか、じゃあ予定を合わせて今度行ってみよう」
「あ、あと……その、先程の私の発言については忘れてもらいたい」
「構わないけど……どうして急に?」
「私としたことが早とちりしてね……ま、まあこの話題は忘れよう。……そうだ新作のダジャレを考えてきただけど……」
生徒会室には橙色の夕日が斜めに差し込んでいた。
──ウインバリアシオンの場合──
「お疲れ様です、トレーナーさん」
学園の廊下でウインバリアシオンとたまたま鉢合わせた。
「やあ、シオン。今日はもう帰るのかい?」
大体トレーニングのない放課後は寮でゆっくりしているか、図書館で本を読んだり、練習部屋でバレエの練習をしていると以前本人から聞いたため、なんとなく質問してみる。
「まあ、そういうカンジっすね。……トレーナーさんもこの後暇なんですか?」
「え?そうだね」
「ならば、少しお時間頂けませんっすか?」
「良いけど……?」
──
学園のカフェテリアを訪れる。シオンもお年頃なので話したいこととかがあるのかもしれないと思い、長く楽しめるようにコーヒーとクッキーを注文する。
「さて、では本題に入るっすよ」
「うん」
本題、とつけるくらい深刻な話があるとは思えないが、取り敢えず了承する。
「トレーナーさん、この間桐生院トレといっしょにいましたっすよね?」
「え?……あー、もしかして先週のこと?」
「そうっす!私のクラスの人がたまたまその近くに居合わせていたらしくて、色々聞きましたっす」
「じゃあ話が早いね」
「話が早い?」
至極疑問のような顔をするシオン。俺は「それならそのトレーニング施設について色々話せるね」と思って言っただけなのだが……?
「……やっぱりトレーナーさんは桐生院トレとそういう関係だったんすか?」
「そういう関係がどういう関係かわからないけど……俺と桐生院トレはあくまでも仕事上の関係だよ」
「本当っすか?こっちには証拠があるんすよ?」
証拠って何よ。俺は今取り調べでも受けているんかいな、と内なるタマモクロスが出てきそうになったが、抑えて、話を続ける。
「先週俺と桐生院トレで理事長が作った新しいトレーニング施設のことでしょ?」
「え?」
「え?」
互いに顔を見合わせる。
「……な、なるほど、そういうことっすか、どうやら私が勘違いしていたみたいっすね」
少恥ずかしそうにしながら、俺のクッキーを一つ口に持っていくシオン。もしかしてこういう自然な感じでスイーツとか食べていないだろうか、と心配になる。
「でも、トレーナーさんと私のものなんですから、ちゃんとそういうときははっきり言ってくださいよ!」
なるほど、俺も気をつけないとな……って待って、今この子なんて言った?
「俺が誰のものだって?」
「え?……あ……」
シオンの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
ふと横目に見ると、机のコーヒーは冷めきっていて、湯気は出ていなかった。