ぜんぶ、あげました。   作:釘パンチ

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なまえをよんで

「先生、ぜんぶ、あげます……」

「ごめん……先生として、それは……」

 

 連邦生徒会長は大人の男性の顔つきはしているものの、少し子供っぽいところがあり、愛しいと思う先生の頬に手をそっと添える。

 本来であれば、教師と生徒という交わってはいけない。一線を越えることは許されない関係なのだが、そんなものに意味はない。

 文字通りぜんぶをあげたのだから。

 

「あげますとは言いましたけど! なんで私のプリン全部食べちゃったんですか!?」

 

 二人の間に置かれたプリンのパッケージは無惨にもカラメルの一滴まで綺麗に頂かれて空になっていた。

 

「ごめんってば」

 

 先生の頬を思い切り引っ張るとふにゃふにゃした声で彼が謝っている。

 業務中にも関わらず、イチャイチャしている二人をまたやってるよと諦めている派閥といつもの事なので無視している派閥に連邦生徒会は二分されている。

 

「責任を負う者について、話したことがありましたね」

「それを言うなら、名前書いておかなかった会長の責任では……?」

 

 連邦生徒会規則第十二条、冷蔵庫に入れる物には自分の名前を書かなければ所有権を放棄したと見なす。

 このルールを守っていないのであれば、会長のプリンが食い荒らされたとしても文句は言えない。

 

「私は書きました! ここに!」

 

 会長が剥がされたプリンの蓋を持つ、ロゴの上に文字がマジックペンでしっかり書かれている。

 しかし、その文字は『会長』としか書かれておらず会長の名前ではなかった。

 

「会長って名前じゃないだろ! これがありなら他の学校の生徒会長の物になっちゃうだろ!」

「ここに来る私以外の会長なんて居ないじゃないですか! それに……その」

「……な、なんだよ」

 

 急に少しだけ拗ねたような顔をした会長のせいで、面倒なことにはするなよ。という連邦生徒会役員達の視線が先生の背中に刺さって痛い。

 

「私のこと、会長としか呼ばないじゃないですか。それなのに会長で認識してくれないなんて……もう良いです。新しいの買ってきますから」

「あ、ちょっ、会長……」

 

 ぷんぷんという擬音でも出そうな態度で生徒会室を出ていってしまう。

 

「いた、止めなさい! こら、どさくさ紛れで尖ったものを投げたのはカヤだろ! わかったわかった! 追います! 会長の後を追うのでブーイングを止めなさい!」

 

 先生に物理的なブーイングの嵐に背中を押されて生徒会室を追い出される。

 会長は自分で買うようなことを言っていたが、こういう時のパターンは決まっていて、自然に先生の足はサンクトゥムタワーの展望フロアへと向かっていた。

 

「……何か用ですか、先生」

 

 展望フロアでは、サンクトゥムタワー周辺が一望出来て、夜になればライトアップされた街並みも見られる。

 そこそこ人気のスポットとして知られていて、たまに二人も夜中に見に来ることもある。

 そんなところで、不機嫌ですと言ったオーラを出しながら会長は外を眺めていた。

 

「用って……今回のことは全面的に俺が悪かったよ。ごめん。だから、一緒に下のエンジェル行こう」

「……嫌です」

 

 とりつく島もなし。むくれた会長が先生を拒絶する。

 そんな態度に先生は絶望するどころか、押し切れるという確信を得た。

 

「──」

 

 文字にすれば三文字、発音すれば三音。たったそれだけのことだけれど、とても大事なモノ。

 

「……ちゃんと呼べるじゃないですか」

 

 それを口にするだけで、会長の頬は緩むのだからチョロいものである。

 すっかり機嫌を直した会長が先生の胸元に背中を向けて寄りかかる。

 

「あんまり遅いと、リンちゃんに怒られるし、行かない?」

「先生。いや、今は──」

 

 会長の後に続いた文字の羅列は、いざ言われて見るとこそばゆい物があり、やっぱり二人きりの時でないと無理だと思った。

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