ぜんぶ、あげました。 作:釘パンチ
「先生、先生。バニーですよ。どうです?」
先生は自宅で休み明けのために必要な資料を整理していると、会長が白いバニー服に着替えて先生の後ろに立った。
そのバニーにはミスマッチな幼いドヤ顔もその下の部分から爪先まで、要するに何も先生からは見えていないのだが、振り向かない辺り興味がないのだろう。
「え、あー、うん。バニーだねって感じ」
「むぅ……これじゃありませんでしたか」
ツボではないのなら仕方がない。
会長は一度私物置きとして占拠している書斎に入っていく。
その様子を目を向けずとも何となく音で把握した先生は溜め息を吐く。
(あー、このノリ一日続くやつだ。仕事させてくれ。休みなのに仕事の準備してるの意味わかんないけど)
ただでさえ休みという時間が無いのに、仕事に時間を使わないといけないことに虚しさは感じるが、時間とお金があっても使う元気もない先生にとって、休日は身体を休める以上の意味はない。
「次はチアガールです! これなら先生も──」
「会長、お小遣い上げるからコンビニで何か甘い物買ってきてくれないかな?」
「え、良いんですか? やったー!」
少し面倒になってきた先生が汚いお金の力で会長を外に追い出した。
ちゃんと着替えてから出ていったため、外で変な騒ぎになることもなく、十分程度は時間が稼げるだろう。
(ふー……きっついな)
先生も大人である以前に男である。
その逆もまた然りではあるものの、それは外での話。自宅でくらいは素の自分でありたい。
モヤモヤしながらも、必要な作業が終わった先生は買い貯めしている炭酸水を口の中に流し込んで身体を冷やす。
「戻りましたー! どうして、暑い時に肉まん食べたくなるんでしょうね?」
戻ってきた会長はいつ着替えたのかわからないが、チーパオを着て買ってきたアイスを冷凍庫にしまった後、肉まんを両手に一つずつ持って交互に咀嚼し始める。
「食いしん坊め……」
「先生もなって良いんですよ? 食いしん坊」
先日の夏祭りのことを思い出した先生が半目で会長に呆れていると、彼女がチーパオのスリットに指を入れてニーソックスとの絶対領域を見せびらかして誘ってくる。
「あのさぁ。言わせてもらうけど、何着ても変わんないよ。そういうの興味ないから──」
「え」
会長の表情がぐにゃあと歪んでいく。
わざわざ過激で恥ずかしい服を調達して、先生の目の前で着て見せたのに、興味がない。とバッサリと切り捨てられてしまった。
そういうことをしたのに、一方的に自分のワガママに付き合わせているだけなのかと思うと、肉まんも一つしか喉を通らない。
「だって、何着ても会長は会長だし……そもそも流行っているからって着たところで、何かが変わる訳じゃない」
何をしようが、何を着ようが、先生の中で会長という存在が揺らぐことはない。
だから、結局は何処かの誰かが着た流行りを取り入れれば自分が振り向くと思われていることが浅はかさに呆れた。
「せ、先生……!」
「さっさと着替えて──」
「私のこと好きすぎませんか? 仕方のない人ですねぇ」
否定するつもりはないが、勝ち誇ったかのようにニヤニヤした会長が、食欲を取り戻したのか肉まんを丸々一つ食べきった。
「はぁ……」
色々思うことがある。言葉を選べば候補はいくつもある。
しかし、敢えて、端的に言えば、大人げなくムカついた。
「会長、ちょっと、部屋移そうか」
「あ、先生! 大人げないですよ! あと、そういうのはわからせる派とわからせられる派で戦争が!」
ぎゃーぎゃーとうるさい会長を持ち上げてみると、食い気の割に体重が軽いなと思いつつ、先生は寝室に移動した。