ぜんぶ、あげました。 作:釘パンチ
「会長代理。今度の視察の件なんだけど──」
「その件は──」
連邦生徒会長代理。
過去には偽連邦生徒会長とすら呼ばれていた彼女も今ではすっかり連邦生徒会に馴染んでいた。
「なるほど、じゃあ少しお願いできる?」
「構いませんよ。会長の方をサポートしてあげてください。他の生徒のこともありますし」
「別の時に何かお礼させてほしいな」
先生と会長代理が仕事の話をして、二人とも何だかんだで忙しさ故に話が終わったらどこかに行ってしまう。
(そろそろ昼食の時間ですね……今日は時間もありませんし、手早く済ませましょう)
会長代理がようやくできた隙間時間を見計らって、エンジェル24でパスタサラダとホットスナックを買ってイートインスペースに持ち込む。
(……少々足りない気もしますが、仕方ありませんね)
密かにハマっている水出しの麦茶を入れた水筒も合わせて小さくいただきますと口に出してから会長代理は食事を始める。
「会長代理じゃん」
「先生。先ほど振りですね」
エンジェル24に立ち寄った先生と目が合い、会長代理は左手で口元を抑えてフォークを置いて右手で小さく手を振った。
「会長代理……」
「……先生?」
が、会長代理の食事のラインナップを見た先生の顔は険しかった。
「会長代理! ちゃんとご飯を食べよう!」
「せ、先生?」
「コンビニのご飯は楽かもしれないし、自炊は大変かもだけど! 育ち盛りなのにこの量は先生不安!!!」
どうやら食事の量を気にしているらしい先生は母親のような声音で会長代理の心配を始める。
「明日、もう一度来てほしい、本当のランチを食べさせてあげよう」
「え、えぇ……明日は当番ですので……」
相槌のような、困惑のような。そんな声が会長代理から漏れ出たのをよそに、先生は謎に髪を搔き上げてオールバック風にしながらエンジェル24を出た。
そして迎えた翌日。
「おはようございます。先生、今日は当番としてよろしくお願いいたします」
「おはよう会長代理。待ってたよ」
「先生、何ですかこれは! 代理ちゃんまで来るとは私聞いてないんですけど!」
いつの間にかシャーレの先生の執務室に用意されていたガスコンロを前に、ピンクのエプロンをした先生と空色のエプロンをした会長が会長代理を迎えた。
何一つわからない状況で会長代理の頭にはクエスチョンマークが浮かび上がっていた。
「会長代理。今日はちゃんとご飯を食べてもらおうと思ってね。こういうので良いんだよっていうランチを作っていこうと思う」
「先生! 私が沢山食べると小言行ってきますよね!?」
「会長のは健啖というより暴飲暴食だから……」
先生と会長のやり取りを聞きながら会長代理は困惑しつつも明らかに自分が座るために用意された椅子に座る。
「あの、私は何をすれば……?」
「食べよう! ご飯を!」
そう言うや否や先生はレタスチャーハンとスープを会長代理の前に置く。
香ばしい胡麻油の匂いやチャーハンその物を覆うレタスの葉の他にも細かく刻まれた具材のおかげで色鮮やかに見えるそれは会長代理の腹を鳴らすには十分だった。
「い、良いんですか?」
「勿論!」
「先生、私の分は……?」
「ない!」
今日は終始会長の扱いが雑なところを見るに、この後が色んな意味で怖くはあるが、会長代理はレンゲを手に取る。
「いただきます……はふっ……」
一口分チャーハンをすくって口の中に入れると、会長代理は目を見開く。
香りや色だけではない。このチャーハンはただのチャーハンではない。
(中華料理特有の濃さはあってもくどくない。むしろどんどん食が進んで……!)
目の色を変えて黙々とチャーハンを食していく会長代理を先生は微笑ましそうな表情で見守る。
隣の会長は先生の足を踏みながら自分用のチャーハンを作っていた。
(スープも良いものですね。具は最低限であっさり目の味が飲みやすくて、チャーハンとの調和がまた……)
二人を尻目に会長代理は食事をしていると、気がつけば目の前の皿の上の料理は平らげられていた。
「ごちそうさまでした……先生、今回は一体?」
「シンプルに会長代理の食べる量が少なくて心配」
「あ、本当にそれだけなんですね」
大人びていそうな生徒も多いが、子供は沢山食べていてほしい。
先生は胃もたれが怖いので、そんなに多くは食べれはしないが、高校生が500キロカロリーも無さそうな食事をしているのは不安で仕方ない。
「だから、これからはちゃんと栄養価とかに気をつけながらちゃんと食べてほしい」
「先生ってこういう時ほんの少し気持ち悪いですよね」
「ごはぁっ……!」
会長の何気ない言葉が先生を傷つけた。
「会長も健康診断前だけダイエットとか言って減量中のボクサーみたいなことしだすくせに……」
「げふっー!!」
何気ない先生のカウンターパンチが会長を傷つけた。
「でも、私の贅肉も先生にぜんぶ、あげます……」
「それはちょっといらない……」
床に四肢をついた先生の背中に寄り添うようにくっついた会長は軽く拒否されていた。
(……毎度のこと何なのでしょうか。この流れは)
何だかんだで会長がいつものように先生に余計な物まで貢ごうとしている様子を見ながら会長代理は、先生の使っていた中華鍋の上に残っていた先生の分のチャーハンを自分の皿に盛っておかわりをしていた。