ぜんぶ、あげました。 作:釘パンチ
「先生、私ともじゃんけんしませんか?」
「え、何? 急にどうかした? 話聞こうか?」
会長の唐突な申し出に困惑しながらも、作業の手を止めて身体の向きを変えるという結構本気な心配を先生にさせてしまった。
「じゃんけんだけでそんな……赤ちゃんが出来ちゃった時どうするんですか? 初めてのおつかいさせる時にショック死しちゃいますよ?」
「するか! いや、心配はするけど!」
自身の頬に手を添えてもじもじとする会長。そんな彼女の言動に教職生命を断たれそうになり、責任はちゃんと取れよという周囲の視線が先生を焦らせる。
「じゃんけんって……してどうすんの。まぁいいか……じゃーんけーん──」
「待ってください! 先生がじゃんけんに勝ったらぜんぶ、あげます」
適当に後出し敗北して終わらせようと先生に、会長が待ったをかけて何故か賭け事になっていた。その様子にリンを筆頭とした生徒会役員達はこれから起こるであろうことを察し、無言で
「逆に先生が負けたらぜんぶもらいます」
「貰わないし渡さないからな?」
普通に仕事を遮られた上に面倒な方向に話が転びそうになり、さっさとトドメを刺した方が良い気がした先生は禁じ手を使う。
「お前さ。戻ってくる前もそうだったけど、幼児退行しておぎゃる性癖どうかと思うぞ? そんなんだから貢ぎマゾとか言われるんだぞ」
「な、なんてこと言うんですか!? 確かに先生におやつをねだったり、何かと甘えましたが私は私で色々あったんですよ!? というかその不名誉すぎる渾名は先生しか言ってないですよね!? バトルです! ムシクイーンで私とバトルしてください!」
確かに色々あったが、その色々あった裏でエデン条約やSRTの件といった会長のやり残しに振り回された先生としては堪ったものではない。
「…………私もコーヒー貰って良い?」
「今の流れで私に振ります!?」
先生が本気のスルースキルでカヤから紙コップに淹れたコーヒーを渡され、潤す程度に口に含む。
「……こほん。冗談はさておき、話を戻しますが。賭けるチップはもう先生のモノでしたね。なのであげられません。もう先生のモノなので……あ、いや、苗字だけはあげません。先生のを貰う予定ですので」
「はいはい」
またしても頬に手を添えてポッと擬音を出しながら赤らんでいたが、そんな乙女な仕草が許されない姿を見ていることもあってか、おざなりな反応を返しておく。
「というか、なんでじゃんけん? 一昔前のアーケードゲームですらじゃんけんのやつなんてもうないのに」
「いや、ズルいじゃないですか。私はじゃんけんしたことないのにOSごときがじゃんけんしてるなんて納得いきません!」
「えぇ……じゃあもう何でも良いからじゃんけんして終わりな……最初はグー」
ある意味自分自信に嫉妬している会長に呆れながら先生はじゃんけんの構えを取る。
それに釣られて会長もグーを出すが、先生の手はパーだった。
「グー……って! パー出しましたね!? 卑怯ですよ!」
「先生は大人だから……これが大人のやり方だよ。会長」
先生は片手でコーヒーをちびちびと飲みながら、決まったような表情をしているが、猫舌のせいで少しずつしか飲めないだけということは会長どころか役員全員が把握していたため、何も決まっていない。
「……わー、手ゴツゴツしてますね」
「仕事したいんだけど?」
パーを出した先生の手をベタベタと触る会長を振り払うことはしないため、結局その日の仕事は少しだけ進まなかった。
アロナとプラナと会長合わせて三手出せば絶対にじゃんけんに負けない。