ぜんぶ、あげました。 作:釘パンチ
「ふぃー、あっついあっつい。なんて暑さだ。イオリもこんな日に当番だなんてごめんね」
「いや、ホントに……というか、先生、よくスーツ着てられるよね。シャーレの先生って安月給の上にクールビズも許されてないの?」
先生が思わず口に出しながらワイシャツの胸元をパタパタしてしまうくらいには暑くなったこの頃。
シャーレの当番のイオリと合流してから連邦生徒会に書類を渡すためにサンクトゥムタワーに来ていた。
「……こだわりかなぁ。ビシッとしてないと溶けそうでね……付き合わせたお礼にこれで何か買ってカフェテラスで涼んでていいよ」
質の悪い虫にあちこち痕を残されたせい。というのもあるが、こだわっているというのも本当のことである。
最低限大人として格好つけておきたい。正直なことを言えばスーツのジャケットに重りを仕込んでおいて本気を出す時にだけ脱ぎ捨てて周囲に驚かれるようなロマンを求めようとしたことだってあった。
「お、ラッキー。……代わりに脚舐めさせろとか言わないよね?」
「舐めて良いなら舐めるけど? ひんやりしてて良さそう」
「OK、今すぐ打ち首にしてやるからそこに直れ先生」
脇腹にイオリのスナイパーライフルを突きつけられた先生は両手を上げて降参する。
流石にスナイパーライフルを至近距離でぶち込まれたら耐えられる自信はない。
「冗談だってば。それだと打たれた首がズタズタになるって」
「分かればよし」
本来三桁くらいのところを四桁ほどに増額して小遣いをイオリに渡した先生は、変な汗をかいたせいで暑さが増して表情がほんのり険しくなる。
一人で執務室に向かう先生とすれ違う生徒が皆いつもとは違う目で見てくる。
祝福するような目、汚物を見るような目、むしろいつも通りで何も思ってなさそうな目。様々な感情が先生にぶつけられる。
先ほどのイオリとのじゃれ合いがパパ活と捉えられていたとしても異様な光景に先生の冷や汗は止まらない。
(なんかやらかしたか……? 昨日はゲヘナに行ってただけで、特に変なことしてないはず)
ということは、会長か。他の生徒か。
どちらにしても先生が空き缶や使い終わった弾倉を投げられそうな展開になるのは変わりない。
「あ、先生。おはようございます。書類はいつもの所に置いといてくださいね」
執務室では数人の役員と会長が作業していたのだが、デスクの前に居るのにわざわざ立ち上がって作業している会長の脚がいつもとは違い、制服をいつものロングスカートではなく、ミニスカートになっている。
問題は露出された会長の太ももに、先日うっかり付けてしまったキスマークがハッキリと見えていることだった。
「いやぁ、流石に暑すぎてもうロングは無理だと思ってミニに変えたんですけど、蚊に刺されちゃったみたいで……ねぇ、先生?」
「痒み止め使ったら?」
キスマークと先生を交互に見る役員の視線が痛い。サオリが放った銃弾が先生の腹部を貫いた時以上に痛い。
このノリに付き合うと痛い目を見るのは先生であるため、努めて冷静に常備している痒み止めを会長に差し出す。
「いえ、別に痒い訳ではないです。それはそうと、先生。以前先生がゲヘナの風紀委員の脚を舐めたと聞きましたが……」
「事実ではあるけども!」
アビドスのためにイオリに脚を舐めろと言われて必死のあまり舐めたことは否定はしない。
否定はしないが、何故それを掘り返すのか。それが分からない。
「そこはあっさり認めるんですね……」
「アビドスの生徒達を助けるためにやったことを恥じるつもりはないよ」
大人として、やったことの責任から逃れるつもりはない。
助けを求めて周囲に視線を送るも、誰一人目を合わせてくれず、会長以外が執務室を出ていってしまい先生は孤立無援になった。
「……暑くなってきたって言っても室内じゃ寒いからしまったら?」
「いえ、先日の熱が残っているのか、案外寒くないですよ?」
「ほいよ」
「~~っ~~!?」
先生がおもむろに冷凍庫から保冷剤を会長の太ももに当てると、普段の彼女から聞いたことのない声が出る。
あまりの冷たさ悶えながら先生の胸元を叩いて無言で抗議する。
「急に何するんですか!? 乙女が出しちゃいけない声が出ちゃったじゃないですか!?」
「乙女ぇ? はんっ……」
「どこからどう見ても、乙女でしょうが! 大体ですね! 舐めるなら私ので良いじゃないですか! こう見えても脚線美には自信が──ほんぎゃぁぁぁあああっ!?」
ようやく喋れるようになった会長の抗議に対して、鼻を鳴らして笑う先生は隠し持っていたもう一つの保冷剤を先程とは逆の太ももに押し当てる。
「やだ! 舐めるならイオリのが良い!」
先生が大人げなく駄々を捏ねる。
「……いや、何を見せられてるんだ私は」
コンビニでの会計を済ませた直後、執務室からものすごい悲鳴が聞こえたので先生の身を案じて急いで執務室にやってきたイオリを待っていたのは犬も食わないような痴話喧嘩の現場だった。
多分続く