ぜんぶ、あげました。   作:釘パンチ

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動いたら塗装が剥げて質量のある残像になるくらい暑いよぉ~

「先生、責任を負う者について、話したことがありましたね」

 

 季節の色が完全に夏になったキヴォトスは相も変わらず、じゃれ合い程度の銃撃戦やら部活動の一環で爆破騒ぎが起きているが、平和だった。

 しかし、シャーレは今未曾有の危機に陥っていた。

 サンクトゥム攻略以上に困難で、最悪の結末を迎える可能性がある中で、先生はもがき続ける。

 ようやく掴んだハッピーエンドを手放さないために。何度でも。

 

「ねぇよ! あっちいから離れろ!」

 

 要するに、シャーレのビルが点検日なのにうっかり癖でオフィスに来てしまった間抜け二人が空調の無い部屋に入った状態で停電状態になり、電子ロックを解除できない状態で閉じ込められ、汗だくでくたばりかけているだけの話である。

 

「体温もぜんぶ、あげましたので……体感温度17度ほど先生にあげます」

「いらねぇ……クーリングオフで」

「む、冷たい人間の先生が私の温かさを捨てたらただの冷血人間じゃないですかー!」

 

 団扇をパタパタと振ってなんとか涼もうとするが、会長の肌に届くのは40度に差し迫る猛暑のせいで温まった空気で、それが頬を撫でる。暑い。動いたら蒸発するし、動かなければ溶ける。

 

「大体、連邦生徒会はどうした」

「ふふん。サボりです」

「リンちゃんに電話っと」

 

 普通にお叱り案件だったため、無慈悲にリンに通話を掛けると、いつものように落ち着いた彼女の声が先生の耳に届く。

 なお、会長がその声を聞こうと先生の端末に耳を近づけているため、余計暑くなって発汗量が増えている。

 

『先生、どうかされましたか? また会長がご迷惑を?』

「うん。まぁ、その通りなんだけど、デフォルトの想定それなのか……会長がサボってこっちに来てるんだけど……停電なの忘れて、二人揃ってオフィスに閉じ込められてる」

『…………なるほど』

 

 溜め息が聞こえないだけで、リンに呆れられていることだけは伝わる間があった。

 

『今日に関してはあの人が居なくても回るので問題ありません。そもそも、長いこと行方不明になる人が居なくてもキヴォトスが回ることは先生もお分かりかと思いますが……』

「リンちゃん……!」

 

 会長が先生の端末を引ったくろうとしているのを察知して、首を振って避ける。

 あまりにもリンの言う通りなため、特に擁護をする気もない。

 

「そう言われればそうだ」

『いえ、こちらこそ会長がご迷惑をお掛けして申し訳ありません……ところで、業者に連絡すれば出られるのでは?』

「それが作業自体は終わってるのに、電源の再起動は夜中に遠隔で行うってさ。まぁ、気にしなくても大丈夫だから」

 

 これくらいの暑さなら耐えられないことはない。

 先生はリンとの通話を切ってから敢えて隙を見せて、会長に端末を奪わせる。

 

「リンちゃんまだあのこと怒って──って、通話切ってから渡さないでくださいよ!」

「通話中に抱きつくんじゃないよ。あっついもう……」

 

 会長のベタつきのせいで暑さに痺れを切らした先生がジャケットを一枚脱いで、ネクタイを緩めてシャツのボタンを一つだけ外すと首筋から垂れる汗の一滴が光る。

 

「先生、それはえっちなので止めましょう」

「は? 何が?」

「良いですから、ね?」

 

 会長は先生のネクタイをきゅっと締めるとふーっと息を吐きながら額の汗を腕で拭った。

 

「先生、涼むために怪談をしましょう」

「……これはある金曜日の話、俺が仕事で疲れて宿直室で休もうとしたら──」

「ごくり……」

 

 まだ明るいじゃん。というツッコミもせずにシームレスに怪談に移行すると、わざわざ生唾を飲み込む音を口で出して会長も身構える。

 

「バニーメイドが布団に潜り込んでいた上に、そのメイドとは別の何者かが後ろから手で目隠しをしてきて──」

「先生、警備強化しましょうか……」

 

 先生視点でかなり怖い体験なのは理解したが、至極真っ当に不法侵入なので、会長は頭を抱えた。

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