ぜんぶ、あげました。 作:釘パンチ
「先生! お祭りですよ! お祭り!」
「はいはい。はしゃぐと下駄の鼻緒破けるよ」
キヴォトスのイベントの中で晄輪大祭に匹敵する規模の夏祭りがある。
そんな規模の夏祭りでトラブルが起きない訳もなく、連邦生徒会やヴァルキューレの一部の生徒はパトロールに駆り出されていた。
「折角の夏祭りなんですから、楽しんだ者勝ちですよ」
「私達は運営側なんだが?」
二人も連邦生徒会会長とシャーレの先生という肩書きがあるため見回り要員として駆り出されていた。
先生はスーツを着ようとしたのだが、会長の職権乱用で運営側の生徒や先生も浴衣着用となった。
「私達にもこのお祭りを楽しむ権利くらいはあります。あ、りんご飴食べたいです。先生行きましょう」
「はぁ……まぁ、仕方ないか」
会長に腕を引かれてりんご飴の屋台まで連れていかれる。支払いは大人の自分がしない訳にはいかず、二人分のりんご飴を買わされた。
「先生、りんご飴固いです。先生の方ください」
「え、嫌だけど?」
飴の部分をさっさと噛み砕いてりんごに辿り着いた先生とは逆に会長の方はチロチロと飴を舐めて溶かしているせいか未だにりんごが見えてこず、噛み砕こうにも顎の力が足りていなかった。
「先生はお金しか出してくれませんよね! 所詮は私とはお金だけの関係なんですね……私はぜんぶあげて身も心も所有物として──あ、たこ焼き! 先生これ持っといてください!」
「……はいはい。もう好きにしろ」
たこ焼きの屋台を見た途端に先生に自分のりんご飴を渡して走って行ってしまったマイペース過ぎる会長にはもう慣れた。
とはいえ、呆れることには変わらず、りんご飴二刀流になってしまった先生は自分の物をさっさと噛み砕いて、一気に食べきる。
この後の展開を何となく察しているため、こんなものは前哨戦にすらならない。
「先生ー! 持ちきれないから移動しましょう!」
「ほーら……」
戻ってきた会長は両手に大量の屋台料理が入ったビニール袋を持っていて、先生の予想と一致していた。
「持ってくれよ。俺の胃袋……」
パトロール中なのを忘れてお祭り気分で浮かれた会長は先生を伴って、人気がない神社へと移動し、大量の屋台料理を並べ、それに手を付ける。
先に溶けてしまうかき氷に頭を痛め、熱々のたこ焼きで舌を火傷し、一品ずつ会長の胃袋に飲み込まれていくが、四品目で限界がきた。
「……先生。あの、お願いが……」
「……自分で頼んだ食べ物には自分で責任を負いなさい」
「何でもしますから食べてくださいよー!」
「……はぁ、何でもって言ったな?」
案の定食べきれずに泣きつく会長の『何でもする』という言質を取った先生は本気のフードファイトが始まった。
「……うぷっ……もうしばらくソース味は食べたくないな……」
三十分程で食べきった先生は神社の濡れ縁に座ってお腹に嫌な満腹感を抱えて身体を休める。
「さぁ、先生ご褒美の時間です! ここなら人も来ないでしょうし……本当に何でも──」
わざわざこんな所に先生を連れ込んだのは、やはりそういう目論見はあった。
先生の膝の上に座って誘惑するように浴衣の胸元をひらひらさせる。
「じゃあパトロール戻ろっか。食べるもの食べたし。これ以上はリンちゃんに怒られるしね」
勿論、そんな雑なハニートラップに引っ掛かることもなく、冷静に膝の上から降ろして会長をパトロールに連れ戻した。
流石に据え膳をちゃぶ台ごと破壊された会長も先生の方が正しいことを言っているのは頭では理解できるが、乙女としては不機嫌にならざるを得ない。
「……むぅ。先生はもうちょっと羽目を外してもバチは当たらないと思います」
「……まだ、家に帰って横になるまでは先生だからね」
横になっても呼び出しさえあればすぐに仕事モードに切り替えて『先生』として何処へでも行ってしまうのが先生である。
そういう所が目を離せない理由ではある。が、仕事とはいえ、二人きりで夏祭りに来ているのに先生に口を尖らせる。
「会長。今日の帰りはどこの線も終電まで混雑で乗れない可能性があるらしいよ」
キヴォトスのほぼ全ての生徒が参加する祭りなのだから、帰りのモノレールはほぼ全ての線が混雑で遅延するほどの人が居る。
そんなことは会長が把握していない筈もなく、連邦生徒会やヴァルキューレの一部の生徒は近くにあるホテルや旅館を確保済みである。
なのに、先生わざわざそんなことを言うのか飲み込めなかったが、瞬時に先生宅の住所の最寄り駅が唯一混雑しない路線であることを思い出して、色々察して会長の顔が祭りの最初に食べたりんご飴と同じ色になる。
「……あ、あの、先生……そういうのはズルです」
「大人だからね」
涼しい顔でそう発言する先生に熱を移すように、会長が彼の手を握って、パトロールという名のあとの祭りを楽しんだ。
翌日、先手を打って先生と会長を非番にしていたリンちゃんのおかげか、逆に連邦生徒会のコーヒー消費量が上がったとかなんとか。