蒼き炎のストライカー 作:FT治療法
俺が憧れた選手はテレビの中のフィクションの存在だった。
彼はその高い実力と冷静さ、判断力でチームを勝利に導いてくれる。そんな彼のサッカースタイルはまさに俺の理想だった。
俺は彼のようになりたい。アニメに憧れるなんてと笑われようが関係ない。
「己のゴールを何よりの喜びとし、その瞬間のためだけに生きろ」
そして今、俺は人生の分岐点に立っている。
「それが、"ストライカー"だろ?」
そうだ、俺はなるんだ。ただのストライカーじゃない。
"炎のエースストライカー"に!
最初に駆け出した一人の少年を追うように、次々と進む全国から集められたFW達。
俺、
バスに揺られること数十分、山の上にその監獄はそびえ立っていた。
日本サッカーのW杯優勝のために必要な世界一のストライカーを誕生させる。そんな実験の会場の名は"
バスを降り施設の女性にスマートフォン、財布等を預け、ボディスーツを受け取る。289、Zと番号が振られていた。
コンクリートの迷路を進み、Zの部屋にたどり着く。部屋の中には既に十一人の選手がおり、各々ボディスーツに着替えていた。俺もそれに習って素早く着替える。
「キミあの吉良涼介!? 日本サッカーの宝!?」
そんな声が聞こえ、そちらに目をやる。確か埼玉の松風黒王の選手だったか。日本サッカーの宝、随分と大層な二つ名だ。
着替えが終わると、部屋のモニターがつき看守である絵心甚八が映し出される。
絵心からの説明によると、ボディスーツの番号は集められた三百人をランキングしたものらしい。つまり俺は下から十二番目だ。
ランキング上位五名は無条件でU-20日本代表のFWに登録され、脱落した者はこの先一生日本代表に入る権利を失ってしまう。
最初の試練はオニごっこ。百三十六秒以内にオニにボールを当てられ、最後にオニだった者の負けというルールだ。
オニは最下位の五十嵐栗夢、先程吉良と話していた男。
腹を括った彼は勢いよくドリブルで角に集まっている選手達を狙う。しかしお世辞にも高いとは言えない精度のキックは簡単に避けられてしまった。
このゲームでは一体何が試されている。世界一のストライカーを生み出す施設なら、それに関連したものなのは確かだ。
選手達の読み合い、ドリブル力、キック精度、身体能力、冷静な状況判断、あとは……。
考えている間にオニが変わり、こちらに向けてボールを蹴る。身体を捻って回避するとオニは俺を狙いから外し、五十嵐に向けてドリブルを始める。ランキングが低い奴を狙う、合理的な判断だ。
「あっはは、チャンスだよーん!」
「てめっ、こら降りろ!」
筋肉質な男、國神錬介は体に張り付いている蜂楽廻を投げ飛ばす。投げられた先には五十嵐がおり、蜂楽は彼を下敷きにしながらケタケタ笑っていた。ただ、この騒動はランキング下位に狙いを定めるチャンス。
オニが迫り蜂楽はその場を離れるが、五十嵐は動けなかった。先程下敷きにされた際に足を痛めたのである。
「当てろ、今のうちに!」
吉良の助言にオニは足を振りかぶる。絶望的、誰もがそう感じた。
しかし、そのボールは五十嵐に届くことは無くオニの足元に留まっていた。
「……違うな」
部屋に静寂が訪れる。
その静寂を切り裂くようにオニは言葉を続けた。
「人生変えに来てんだよ……世界一になりに来てんだよ……俺は……」
その瞬間、オニの目付きが変わり五十嵐に背を向ける。最下位の五十嵐を狙わず、彼は他のメンバーに狙いを定め始めた。
そして、そんな彼に呼応する人間が一人。
「いいね、キミ」
蜂楽だ。
「だよね。潰すなら……一番強い奴っしょ!」
彼はオニからボールを奪取し、素早いドリブルで逃げる選手達に迫る。そしてその歪んだ笑みを向けた先には……
「……来い」
俺がいた。
シュートをジャンプで避けると、蜂楽はこちらの顔面を狙った飛び蹴りを繰り出す。先程五十嵐の顔面にも蹴りを入れていたが、これは流石に取り締まるべきだと思う。
咄嗟に首を引いて紙一重で躱し、蜂楽から距離を取る。当然後ろを見て次のアクションへの警戒も忘れない。
残り五秒。蜂楽が次に出したのはふわりとしたロブパス。俺を越えて辿り着いたその着弾地点にいたのは、
「一番……強い奴……!」
「BON!」
落ちてくるボールにジャストミートさせた良いシュート。
残り二秒。迫り来るシュートに対して俺が取った行動は。
「……ッ!」
そのシュートをダイレクトボレーで蹴り返すことだった。
全力で蹴ったボールは一瞬でシュートの主を追い越し、その後ろにいた選手の顔面にめり込む。
残り一秒。呆然としているその男の横にボールがコロコロと転がっていく。
ゼロ。タイムアップだ。
「……え?」
脱落者の名前は吉良涼介。再びモニターに映る絵心に文句を垂れる彼を尻目に、俺は一人の男を見つめていた。
「……潔世一」
何となく分かった気がする。このゲームで試されていたことが。
自分より強い者に勝ちたい、他者を蹴落としたい。人間なら誰しもが隠し持っているエゴ。そして、それが一番強い者こそが真のストライカーなのだと。
ブルーロック入寮テスト、終了だ。