[アイム・ア・ネヴァーダイズ]   作:さぼてんmark.2

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[デイブレイク・オブ・ネヴァーダイズ]#1

廃墟の前に、立ち尽くす一組の男女。

一人はスーツを着た人間の男。

一人は制服姿のウマ娘。

目を閉じ、祈りを捧げている二人。

しとしとと降る酸性雨が、肩を濡らしてゆく。

人が殴りつけられる音と、悲鳴が響く。

それでも構わず、彼女らは続けた。

己の家族と、そして師の安らぎをーー

 

[デイブレイク・オブ・ネヴァーダイズ]

 

それは今から、十六年前のことである。

 

「ザッケンナオラー!スッゾコラー!」

「アイエエエ!助け、グワーッ!」

 

口汚いスラングが響き渡り、悲鳴があがる。

死と暴力に包まれた、マッポー的アトモスフィア漂う辺境の国で、一人のウマ娘が生を受けた。

 

一時は産まれてくることすら危ぶまれた彼女であったが、何の奇跡か、ブッダの慈悲か、母子共に無事に出産を終えることができた。

 

そして命を拾った彼女をーー両親はこう名付けた。

 

不死者ーー『ネヴァーダイズ』と。

 

彼女の家庭はこの国の平均的な家庭に倣って裕福ではなく、明日をも知れぬ身であった。

しかしながら深い愛情を受けて育ったネヴァーダイズは、心優しき素直なウマ娘へと成長した。

 

そして、彼女が齢十五になったその頃ーー運命を決定付ける出来事が訪れた。

 

「お母さん、行ってくるね」

母へ声をかけ、シューズを履くはネヴァーダイズ。

「ゴロツキには気をつけなさいよ?」

心配そうに、母は娘へと言う。

「ダイジョブダッテ!もし来たら、このカラテで…イヤーッ!だから」

彼女は元気よくチョップ突きをしてみせ、にかりと笑う。

やれやれ、と母もまた、笑う。

 

(一体どこで覚えたのやら)ーーと思う母。

 

ネヴァーダイズはいつしか、独特な喋りをするようになっていたのだ。

そして習ったこともないはずの格闘技術をーー彼女曰く、カラテを習得し始めた。

 

だが、彼女はそれを自ら振るうことはなかった。

両親の教育故か。

そんなやりとりを交わしたのち、ドアの閉まる音が鳴った。

 

「もっとゆっくり閉めなさい!…もう」

ふふ、と笑い頬杖をつく母。

何にせよ、娘が元気に育ったことはーー親として喜ばしかったためだ。

そして、常にこうも考えていた。

 

(あの子をちゃんと走らせてあげられれば)

と。

 

♢♢

 

臙脂色(読み:えんじ。濃い紅を指す)にちかい鹿毛を揺らす、小柄な影が一つ。

ネヴァーダイズだ。

先刻家を飛び出した彼女は、朝も早いスラム街を駆け回っていた。

急激な近代化がもたらした酸性雨も気にせずに、彼女は実に楽しそうな笑顔を浮かべていた。

走ること。

それはウマ娘としての本能である。

しかしながら、彼女の家庭にはそのための用具を揃えたり、トレーニングをさせるための蓄えは無い。

それをよく理解しているが故に、彼女は毎朝こうして街中を走りーーそれを解消している。

『実際安い』、『合法で安心』などと書かれた看板を掲げる店を横切りつつ、ネヴァーダイズはひた走る。

 

そうするうちに、彼女の耳が揺れ動いた。

 

「ブッスゾコラー!」

「アイエエ!助け…誰か…!アバーッ!」

 

ナムアミダブツ!

細い路地の先から聞こえる、怒号と悲鳴、そして鈍い打撃音。

このスラム街では、実にチャメシ・インシデントな光景だ。

それを横目にチラと見たネヴァーダイズは、思う。

一つ違えば、自分があそこに転がる物言わぬ男になっていたのでは、と。

そしてさらに思う。

強くならなければ、のし上がらねば、食われるだけだ、と。

ネヴァーダイズには夢があった。

それはーー『大規模なレースに出場し、勝って己が名を轟かすこと』。

そして得た力でーーこの場合は名声によりーー家族に安全な暮らしをさせること。

全員でこの国を出て、穏やかに過ごすこと。

彼女は、いつしか強く、そう願うようになっていた。

惨劇から正面へと目線をを元に戻すと、彼女は振り切るようにスピードを上げた。

赤黒いつむじ風が、通りを駆け抜けてゆく。

何軒かの屋台を走り過ぎたのちーー彼女は朝焼けの彼方に消えた。

 

「ほう…あの走り…」

 

そんなネヴァーダイズの姿を、何者かが見つめ、呟いた。

しわがれた男の声だった。

サングラスをかけた老人はーーはためくマフラーに彼女の残したものを感じ取り、ふ、と口角を上げる。

 

そして彼は下駄を鳴らしつつ、歩き出した。

この時、ネヴァーダイズはまだ知らなかった。

この偶然なる出会いが、己が運命を変えることとなろうとは。

 

#1 完

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