[アイム・ア・ネヴァーダイズ]   作:さぼてんmark.2

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[デイブレイク・オブ・ネヴァーダイズ]#2

「ただいまー……?」

 

走り込みに出てから三十分ほどして。

ネヴァーダイズは元気よく家の戸を開け放ち、両親へと帰りを知らせる。

しかし、その声はみるみるうちに疑問混じりへの声へと変わってゆく。

何故か?

その答えはーーまさに家の中にあった。

人影が、一人多い。

ネヴァーダイズの家庭は、両親と彼女の三人家族で構成されている。

だが、今ここにいるのは四人ーー見知らぬ老夫が、机を挟んで両親と向き合っているのだ。

 

「ネヴァー、お帰り」

 

穏やかな口調で娘へと言う母。

その表情は明るい。

しかし、だからこそネヴァーダイズは警戒した。

彼女の周囲は、いつも死と暴力が渦巻いている。

乗り込んできたヤクザやヨタモノに脅されているかもしれないーーそう思った彼女はすかさず全身に力を漲らせ、老夫をじっと見据えた。

重々しい足取りでにじり寄り、老夫の近くに立つ。

彼女はゆっくりと両の手を合わせ、合掌の形を取る。

そしてオジギをし、言い放った。

 

「ドーモ、はじめまして。ネヴァーダイズです」

 

彼女は一体、何をしているのか?

そうお思いになられるかもしれない。

しかし懸命な読者の皆様であれば理解できたはずだ、彼女の行いが!

そう、これはーーアイサツである!

古事記にも記されたこの神聖不可侵の行為を、ネヴァーダイズは物心ついた時から行っていた。

したがって、今から何が為されようというのかーー最早お気づきのことだろう。

イクサだ!

血で血を洗う凄惨な戦いが、幕を開ける合図なのだ!

老夫は少し驚いた後立ち上がり、同じように両手を合わせ、オジギを返す。

 

「ドーモ、ネヴァーダイズ=サン。アビス・リュウゲンです」

 

アビス・リュウゲンーー老夫がそう名乗ったコンマ0.5秒後。

 

「イヤーッ!」

 

決断的カラテシャウトが響き渡った!

ネヴァーダイズが老夫へ向け、右斜め上からのチョップ斬撃を繰り出したのだ!

ナムアミダブツ!

ウマ娘腕力を持ってすれば、彼は一瞬でネギトロと化してしまうだろう!

 

「甘いわ!イヤーッ!」

 

しかし、そうはならなかった!

アビスが素早く己の首に巻いたマフラーを解き、構える!

そして彼女のチョップの手を包み込み、勢いを軽減させる!

そしてマフラーから手を離すと、下駄を鳴らしてバックステップし、そのままネヴァーダイズの頭上を飛び越え後方へと着地した!

ゴウランガ!

何と言うタツジン的挙動か!

 

「随分気の早い小娘だ、大人しくせい」

そしてチョップ直後で体勢を崩していた彼女へ軽く足払いを仕掛けーーその身体を宙に浮かせた。

「しまった…!」

ネヴァーダイズは目を閉じた。

同時に、己のウカツを呪う。

(お父さん…お母さん…ごめん…!ワタシ…!)

心の中で悔やむ彼女。

ーーしかし、いくら待てども追撃は来ない。

彼女は恐る恐る、目を開く。

 

「えっ、えっ、アイエエ!?」

 

驚愕の声を上げるネヴァーダイズ。

身体が宙に浮いたままであったためーーそれも俗に言う、プリンセス・キャリーの形で老夫に抱えられているためであった。

 

「こ、これ、どういう…!ナンデ!?」

しめやかに赤面し、狼狽するネヴァーダイズ。

「ワシはオヌシの敵ではあらん。勘違いして先走りおって」

ネヴァーダイズをゆっくりと床へ降ろして立たせながら、アビスは言う。

 

「え…?」

ぽかん、と小首を傾げ、アビスを見やる彼女。

状況が飲めないネヴァーダイズ。

そんな様子にふ、と鼻息を鳴らして笑うと、アビスは懐に手を突っ込み、何かを取り出した。

 

それはーー長方形の薄いカードだ。

そこには、彼女にとって見慣れない言語がデジタル表記されている。

 

眉をしかめる彼女に、アビスはその内容を読み上げる。

 

「日本ウマ娘トレーニングセンター学園…この名ぐらいは聞いたことがあるだろう」

 

その言葉に、ハッとした表情を見せるネヴァーダイズ。

 

"トレセン学園"。

遠く離れた日本の地に存在するーーウマ娘達が集い、日々トレーニングに勤しむという学園。

街頭で流れるラジオや街中に設置されたテレビのニュースから、それがあるということはネヴァーダイズも知っていた。

が、自分には決して届かぬものであるとも同時に考えていた。

では何故、そこに身を置く人間が目の前にいるのか?

彼女のニューロンを、様々な思考が駆け巡る。

そして幾許か経った後。

 

「単刀直入に言わせてもらうとだな…オヌシをスカウトしたいのだ」

 

悩むネヴァーダイズへ一言、アビスが言った。

 

「…へ?」

理解できず、目を丸くして固まる彼女。

 

(スカウト?スカウトナンデ…!?ワタシが!?)

そして、内心でさらに狼狽する。

「何故自分が、といった顔だのう」

それを見透かしたように言うアビス。

ネヴァーダイズは返しに問うた。

「ワタシの何を見て、スカウトしようと思ったのですか」

 

アビスはふむ、と顎に手を当て、思考する。

そして短く言った。

 

「タダの老人の勘じゃ。年の功というやつだの」

「そ、そんな理由で」

ネヴァーダイズが反論する。

まぁまぁ、と手を突き出して彼女を諌め、アビスは続ける。

 

「今朝、オヌシが走っている所を見かけたのがそもそもの発端だ。それに先程の身のこなし。やはりオヌシは鍛えればよいウマ娘となる…そう思ったまでよ」

 

「でも」

なおも彼女は反論した。

しかし彼女が次の句を継ぐ直前。

アビスはその内容を見透かしたように、言い放つ。

 

「資金面ならワシが工面してやるわい。何、こう見えてもそれなりに蓄えはある。そんなものより、オヌシの才がここで埋もれるほうが惜しいのだ」

 

彼の目は真剣であった。

そんなアビスを見た後、ネヴァーダイズは両親の方を見やる。

未だ悩みの色を見せる彼女へーー父が言った。

「受けるべきだと思うよ、ネヴァー」

続いて、母が言う。

「母さんとしても、貴女をちゃんと走らせてあげたいと思ってた。だから…ね!」

 

「お母さん…お父さん…」

ネヴァーダイズは少し涙を溜め、強く頷いた。

そして、アビスの方へと向き直る。

 

「交渉成立、ということでよいか?」

優しい目と声で、アビスが言う。

 

ネヴァーダイズは、再び強く頷いた。

 

#2 完

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