Qが酷すぎたので旧作でハッピーエンドを目指してみた 作:納豆御飯
この作品は『Q』『シン』『序』『破』などの新劇場版の要素は含みません。
私自身は新作版からエヴァンゲリオンを知った口ですが、そこから旧作版を観てそっちの方が自分の好みに合いましたので、そちらを基準とさせていただきました。
あと、ここのシンジはかなりチートなのでいわゆる『スーパーシンジ』です。
過去の数々の旧作版二次創作も読み漁りましたので、今ではすっかり旧作ファンになりました。(閉鎖されたサイトが多々あるのは残念ですが……)
それでは『陳腐なハッピーエンド』の物語をご覧ください。
「ん……」
わずかに声を上げ、寝ていた布団から起き上がる。
「よし。上手くいったね」
起き抜けに、すぐさま壁に掛けられているカレンダーと時計の日時を確認すると、そんな独り言を口にしたのは、まだ中学生とおぼしき少年。
この部屋は母屋からの離れ……というよりは、ただのプレハブ小屋でしかない小さな一室。
それは
その家の、『先生』と呼ばれている人物は色々と綺麗ごとを言っていたようだが、要するに面倒なことには関わりたくないという拒絶の表れであったのだ。
そして、その独り言に応える声が
(そうだな。まぁ上手くいってもらわねば困るが)
少年の子供らしいソプラノ気味の甲高い声とは違い、その声は老成したような、それでいてまだ若いような、今一つ年齢がハッキリしない声であった。
「って、あー混乱してる混乱してる。そりゃ起きたらいきなりこうなってたら混乱するよねぇ」
誰に対して言ってるのか、この場にそのような狼狽している者など居ないはずである。
まぁ、それを言えばこの部屋に居るのは“傍目には”彼一人なのだが。
(フム。まぁ少し落ち着いてくれまいか? 別に取って食おうという訳ではない)
「でも、やったことはある意味食べちゃったようなものだけどね」
(コラ。せっかく落ち着かせようとしているのに、お前が煽ってどうする)
「はは、ごめんごめん。でもさ、
どこか他人事のように言う少年に、心の声は呆れたように突っ込みを入れるが、少年の方は仕方がないとばかりに言葉を返す。
しばらくしてから少年は、【もう一人】に対して優しく言葉をかけた。
「少しは落ち着いた? うんうん、訳が分からないよね? でも、少しだけこっちの話を聞いて欲しいんだ」
(その通りだ。まずはこの【記憶】を読んでくれればどうしてこうなっているのかが分かる。少し……いや、かなり長い話になるがな)
「今日が休日でよかったよ。どうせ先生は顔を出さなくたって気になんてしないし」
(……改めて思うが、本当に酷い教育環境だったんだな)
「僕としては虐待されないだけマシだと思ってたけどねぇ」
(これもある意味虐待ではないのか? まぁお前がそう言うのなら構わんが)
そんなのん気とも言える会話を交わしている間にも、そのもう一人は彼らの記憶を読んでいくのだが、段々と感情の揺れ幅が大きくなっていくのが彼らには手に取るように分かった。
「あー……泣いちゃったよ」
(無理もあるまい。かなり端折ってはいるが、自分の未来がこうなると知ってしまったら誰だってこうなるであろう。むしろ、この程度で済んでいるのを褒めるべきだぞ)
実際、彼らが見せた記憶は、普通なら悲観のあまり自殺しかねないレベルであった。
「え? どうしたらコレを防げるのかって? うん、そのために僕らが来たのさ。改めて自己紹介するね。僕の名は碇シンジ。【遥か未来の僕】だよ。そして……」
(私がその記憶の原因……いや、元凶だな。まずは初めましてだ。私の名は――)
と、そこで一旦言葉を切り、やがて思い切ったように名乗り上げる。
(私の名は【アダム】。あの連中の言うの使徒にして全ての人類の生みの親でもある。今はこうしてお前たちの身体に間借りしている魂だけの存在ではあるがな)
この日、本来ならば破滅へと向かうであろう歴史が変わることとなった。
◆◆◆
その日、ネルフ本部の最奥にある執務室では、来るべき使徒との戦いに向けて関係各所との調整に追われていた。
まぁ実際の実務は、ほとんどがこのネルフの副指令である冬月コウゾウが取り仕切っていたが。
(……子供を犠牲にしてでもやり遂げる計画か。どういう結末になろうが地獄行きは確定だな)
しかも、その犠牲となるのは教え子の息子である。
彼自身、その教え子である碇ユイにほのかな想いを抱いてただけに、その内心には様々な葛藤が繰り広げられていた。
しかし……
(もう後戻りなどできん。この男の計画に乗った時からな)
冬月はその考えを振り払うようにその男へと話しかけた。
「碇、もうすぐだな」
その男とは、ネルフの司令にしてユイの夫であり碇シンジの父親でもある碇ゲンドウである。
「あぁ……いよいよだ」
そう答える彼はいつものゲンドウポーズで微動だにしていなかったが、その実、彼の中にもある葛藤があった。
このまま息子を犠牲にしてもいいのか。それで愛する妻であるユイに会えたとしても拒絶されるのではないか、と。
(……何を今更。私はこのためにシンジを捨てたのだ。それを許されようなどとは虫が良すぎるだろうに)
彼は彼なりに息子を愛していたのだ。でなければ
だが、今の彼は既に後戻りできない所まできていた。何より、一緒に暮らしたところで親としても人としても失格である自分では息子を傷つけるだけだろう、と。
ゲンドウはそれらの思いを『くだらない感傷』だと切り捨てるために溜息を一つ吐いた。
そして思考を切り替えるため、この場に居る三人目の人物に声をかける。
「赤木君。零号機の起動実験は確か来週だったな?」
「はい。スケジュールの調整に少し手間取りましたが、予定通りに実施できます」
いつものように凛とした様子で報告するのは技術部の責任者である赤木リツコである。
ゲンドウとは愛人関係ではあるが、公式の場でそれを匂わせるようなマネなどはしない。
あの日、母親であるナオコの葬儀のあった日からの関係は今も続いていた。
(ホント、人の感情ってロジックじゃないのよね……)
自らの母親に対する複雑な感情を抱く自分に、内心で呆れたような感想を思い浮かべる物の、結局はこの男を見捨てられない自分をどこか皮肉っている。
普通の恋人関係とはとても言えない事実に彼女はこう思う。
(ミサトが知ったらどんな顔するかしら?)
と、もうすぐドイツから帰国してネルフの作戦部部長に就任する予定である親友のことを思う。
が、彼女もそのことをゲンドウと同様にくだらない感傷だと切り捨てていた。
どこか似ている二人である。だからこそこの関係を維持できているのかもしれない。
しかし、そんな三者三様の葛藤や思いは――
「やぁ、父さん。久しぶり」
この瞬間から打ち破られることとなった。
「なっ!?」
いきなりのことに驚きの声を上げる三人。
しかし、その中でいち早く我に返ったのはゲンドウであった。
「し、シンジ、か?」
「そうだよ。三年ぶりだね……父さんちょっと痩せた? ちゃんと食べてる?」
「…………」
あまりのことに二の句が継げられないゲンドウに代わり、次に言葉を発したのは冬月であった。
「シンジ君。どうやってココまで来れたのだね? ココのセキュリティだと入れるはずがないのだが……」
「あっと。失礼しました。えぇと冬月先生ですね? 母の恩師だそうで、父ともどもお世話になっております」
「あ、あぁ……いや、それよりも……」
いきなりな登場と丁寧な挨拶に、ゲンドウと同様二の句が継げられなくなった冬月は、助けを求めるかのようにリツコへと視線を向けた。
その視線を受けたリツコもようやく我に返る。
「シンジ君ね? 副指令の仰る通りココは……」
しかし、彼女の言葉を遮るようにシンジが言葉を被せる。
「リツコさんもお久しぶりです。髪、染められたんですね?」
「え? えぇ……貴方、覚えているの?」
「はい。十年くらい前でしたか、おぼろげですけど、ココで会ったことを覚えています」
その言葉にリツコは思わず息を呑む。
十年前の事を覚えているということは、あの実験のことも……
「シンジ。お前はどうやって……いや、それはもういい。だが、何故ここに来た?」
と、再起動できたのか、ゲンドウがそう尋ねる。
本来なら使徒来襲の直前に呼び出すつもりだったはずなのだが、息子の目的が分からず警戒レベルを上げた。
「……それはね、父さんたちを止めに来たんだ」
「止める? 何をだ?」
ゲンドウの警戒レベルが更に跳ね上がる。彼は本当に息子であるのかと。
そして、その息子から告げられた言葉に彼は、否、彼らは今度こそ絶句することとなる。
「勿論……【人類補完計画】を、ね」
「なっ!?!?」
先ほどと同じ驚愕の言葉ではあるが、発した音量は桁違いであった。
「し、シンジ君! どこでそれを……」
絞り出すような冬月の言葉に、シンジは柔らかく微笑みながら答えた。
「うん。ある人に教えてもらったんだ。だから止めに来たんだよ」
「ある人? それは誰なの?」
リツコが声を震わせながら尋ねた。その計画を知る者は限られている。自分達でなければ、おそらくは“委員会”の者という可能性があった。
(まさか、ゼーレが?)
三者三様にその結論に達する。
しかし、シンジの答えはそれを斜め上どころか、遥か次元の彼方までぶっ飛んでいた。
「うん。今紹介するね……」
そう言って目を閉じるシンジ。
三人は『紹介』という言葉に反応し、まさか同じようにいつの間にかこの部屋に居るのではと周囲を見渡した。
しかし、薄暗いこの指令室は天井にセフィロトの樹が描かれている以外に何も存在しなかった。
「どこを向いている? 私なら最初からここに居るぞ」
と、そこに響いたのは老人とも若者ともつかない不思議な声……
「だ、誰だ!?」
冬月が狼狽しながらもう一度見渡すが、この場には四人しか居ない。
「だから、ココだと言っているであろう」
「し、シンジ?」
最初に気付きたのはシンジの正面に居たゲンドウであった。
先ほどの声はシンジの口から発せられていたのだ。
「そうだ。南極で会って以来だな。碇ゲンドウ」
そう言いながらシンジが目を開けると……
「!?」
「そ、その眼は……!?」
驚く三人の中でシンジの眼に反応したのはリツコだ。
シンジの眼が赤く染まっていたからであった。
「……貴様、シンジではないな?」
「ほう。さすがに気付くか。ま、親子なのだからそうでなくてはな」
その言葉に、ゲンドウは懐から拳銃を取り出そうとするが、次の声でその行動を遮られた。
「ちょっと。演出が過剰すぎますよ? 見てよ、父さんが僕を撃とうとしてるじゃないですか」
「いやスマンな。ただ、南極での事を思いだすと、ちょっとな」
「それは分かりますけど、まずは説明しないと。ホラ、皆固まっちゃってますよ」
交互に同じ口から紡ぎ出されている二つの異なる声。
しかし、同時に三人はあることに気付く。
声が変わるたび、シンジの眼の色が入れ替わっていることに。
赤から黒、黒から赤へと。
「そうだな。では自己紹介といこう。私の名はアダム。お前たちが第一使徒と呼んでる存在だ」
「あ、アダム!?!?!?」
意外過ぎるその名に、彼らは今度こそ完全に絶句してしまった。
「そうだ。今は魂だけの存在なのでね。悪いとは思うが、お前の息子の身体に間借りさせてもらっている」
あまりのことに、リツコなどまるで金魚のように口をパクパクとさせていた。
「……アダムが、いったい何時から……」
ゲンドウは先ほどの冬月のように声を絞り出して尋ねる。
「ほんの数日前だな。まぁ、
アダムはあえて『この時代の』とは言わなかった。
既にこの時代のシンジは、未来のシンジと記憶を統合したため、今ではほとんど融合してしまっているからである。
『未来から逆行してきた』などと説明しても、余計に混乱させてしまうだけだろうと、シンジ
「あぁ。言っておくが、別にお前たちをどうこうしようという訳ではないぞ? ただ、その計画を実行したとしても無駄に終わるだけだからそれを告げに来ただけなのでね」
「む、無駄だと!? しかし、裏死海文書には……」
冬月が驚愕の表情のまま尋ねる。あの文書があったからこそこの男の計画に乗ったのだ。それが無駄だと言われては……
「そうだ。だが、お前たちはその解釈を間違えている。だから止めに来たのだよ」
「……解釈の違い?」
と、今度はリツコがようやく再起動したようだ。
「あぁ。何しろ書いた本人がそう言ってるのだから間違いないであろう?」
「え!?」
これで何度目の絶句であろうか? そろそろ驚かれるのにも飽きてきたな、とアダムとシンジは彼らの思いなど余所にそう思い始めてしまった。
「……父さん。それと冬月先生もリツコさんも、ちょっと驚き過ぎて疲れたでしょう? だからここじゃなくてもっと落ち着ける場所で続きを話そうと思うんだけど、いいかな?」
シンジのその提案に、三人はただ黙って頷くしかなかったのであった。
今回はここまでです。
少々短いですが、あまり長すぎるのも読む側がダレてしまうと思ったので文字数はだいたい5000文字程度にしようと思っています。
もっと長くても良い。いや、短い方がいいと思われる方は感想欄にてお聞かせください。
追記:ちょっと見過ごせない誤字がありましたので修正しました。
赤城リツコ→赤木リツコ