Qが酷すぎたので旧作でハッピーエンドを目指してみた 作:納豆御飯
作品のストックはいくらかありますので、あと4~5話ほどは毎日投稿しますが、その後は投稿ペースが落ちます。
あと、本来のゲンドウってそこまでの外道ではないと思っています。
ですので、ゲーム版の『碇シンジ育成計画』の要素もある程度含んでおります。
その点をご了承ください。
「はい、コーヒーだよ。さすが司令部にある応接室だね。良い豆を置いているよ」
(ま、リツコさんが置いているのは知ってるんだけどねぇ)
そう言いながらシンジが四人分のコーヒーをそれぞれの前に置く。
ここは執務室へ向かう通路の途中にある応接室。
さすがに執務室には余所には見せられない機密文書があるため、その手前に応接室を用意してあるのだ。
執務室にソファなどの応接セットがないのはこれが理由である。
そこへ向かう途中、誰しもが無言であった。
なにしろ、聞かされた話があまりにもぶっ飛び過ぎていて、彼らの中で咀嚼されるまで時間がかかったのだ。
「ブラックだから、砂糖とミルクは自分で入れてね」
シンジはシュガーポットと白い陶器のミルク入れ――ミルクピッチャーという――を机に置くと、自分もソファに座った。
さすが金がかかっているようで、かなり座り心地が良い。
「…………」
未だに衝撃から回復していないのか、ソファに座ったままどこか呆然とした様子の三人。
「……そろそろ落ち着いた? まずはコーヒーでも飲んでリラックスして欲しいんだ。僕もアダムさんも、父さんたちに危害を加えるつもりなんて無いからさ」
実際、やろうと思えば最初に声をかけた時点で……いや、気付かれること無く瞬殺することも出来た。
しかし、長い時を生きてきた未来のシンジは最早、恨みつらみといったそれらの感情がかなり摩耗してしまっていたのだ。
そこをアダムが憑依することである程度補完され、更に逆行してこの時代のシンジと融合したことでほぼ人間としての感情を取り戻している。
しかし、だからと言ってそれら負の感情が再燃したわけではない。
むしろ、ゲンドウたちに対して同情的ですらあった。
それは、逆行したのが魂のみであったため、今のシンジは半分が人間、半分が使徒の、いわば『ハーフ』とも言える状態であることが大きいと言えるだろう。
例えば、第17使徒としてシンジの心に大きな足跡を残したフィフスチルドレン・渚カヲルこと、自由意思を司るタブリスの、あの泰然自若とも言える在り様を見れば分かり易いであろうか。
つまり、半ば人間を辞めているシンジは、超然とした境地に達していると言える。
……まぁ、人間も群体を司る第18使徒リリンであるため、ハーフという表現は語弊があるのかもしれないが。
どちらかと言えば、ファーストチルドレンである綾波レイの方に近いであろうか。
だからこそ、アダムが表に出てきたときはシンジの瞳が紅くなるのである。
ともあれ、大の大人が3人も居る中、一人泰然とした様子のシンジは一種異様である。
ゲンドウは、彼のその様子を見て疑問を口にした。
「……シンジ。その、お前は私を恨んではいないのか? アダムから事の真相を聞いているはずだろう」
「うん。それについては特に恨んでいないよ。それだけ母さんを愛してたってことでしょ? むしろ、僕からすれば羨ましいかな。それだけ人を愛せるなんて僕には出来そうにないし……」
「何故だ? 俺はともかく、ユイの子であるお前ならば出来ないこともあるまいに」
「う~~ん……これってたぶんアダムさんと魂がくっついちゃったからだろうね。どうにも物事を達観した目でしか見れなくなっちゃってるみたいなんだ」
本当はリリンとなったことや、何年経ったのか分からないほどの年月を過ごしたことも関係あるのだが……
まぁアダムと融合したことも関係が無い訳ではないし、なにより逆行のことは内密にすると決めたのだ。
こういった点はアダムが泥を被ると明言していたので、シンジとしてもその言葉に甘えさせてもらうことにした。
「それについては詫びようがないな。まさか私との融合が人の心にこれほどの影響を与えるとは思いもせなんだでな」
「アダムさんは悪くないよ。元はと言えば、あのゼーレって人たちが身勝手にアダムさんを利用しようとしなければ良かったんだし」
「ゼーレのことも知っているのか……」
ゲンドウの言葉にアダムが答える。
「あぁ。魂の状態だったころの私は、どこに行こうとも誰にも気付かれることなどなかったからな。当然、ドイツやゼーレの本部にも入り放題だったし、調べ放題だったぞ」
その言葉に三人は納得したのだが、実はこれも真実ではない。
確かに本部などを調べはしたが、それはサードインパクトの後のことだ。
まぁアダムにとってはどちらが先だったかの違いでしかないのだが。
「……それで、死海文書の解釈の違いのことなんだけど」
リツコが司令室でのことを尋ねる。彼女としてはそちらの方が気になっていたのだ。
「あぁ。あれは言ってみればテキストだ」
「テキスト?」
三人の言葉が綺麗にハモる。
そこから語られるのは、ゼーレの老人たちさえ知らない裏死海文書の真相であった。
「元々この世界には私という“個”が存在するのみだった。それを私を含む18の個体へと別けた。しかし、元は一つであったのなら、また元に戻ろうとするのも自然な話であろう?」
アダムはそこで一旦言葉を切り、三人を見回して『ここまではいいか?』という視線を送る。
ゲンドウたちはそれぞれ頷くと、アダムは言葉を続けた。
「だが、18番目に別けた群体を司るリリン。つまりお前たちの言う人間だけはその特性から自分でそれを成すことは出来ない。となると、そのためのプロセス、手順を記しておく必要があった」
「それが死海文書……」
「そうだ。だが、ゼーレはそれを神へと至る手順だと解釈したわけだ。まぁ、私が使徒や人類全ての生みの親であるから、ある意味神とも言えなくもないのだが……なんのことはない。私は見ての通り強大な力を持っているだけの存在に過ぎんのだよ」
呆然と呟くリツコの声に答えを返すアダム。
彼の言葉はあまりにも無常と言えるものであった。
「……もう一つ教えて欲しい。何故シンジに?」
「それについては必然の偶然であったとしか言えんな。あんな間違った解釈でサードインパクトを起こしたとしても、全ての生物の心の壁、つまりお前たちのいう所のATフィールドを失い、その形を保つことが出来なくなり、全てが生命のスープ……これもお前たちの言うLCLとなってしまうだけで、何も生み出すことなど無い」
アダムのその言葉に驚きの表情を浮かべるゲンドウたち。
正確に言えば少し……いや、かなり違う。
例えば、ゲンドウはアダムとリリスの禁断の接触によって人類補完計画を完成させ、その過程においてユイと再会を果たすつもりでいた。
しかし、アダムは裏死海文書の解釈が違うことを自身から告げることで、その目的は果たせないと認識させたのだ。
これを【思考のマジック】と言うのだが、まさしくそれだと言えよう。
アダムにとっては彼らの目的は果たせないという事実だけを認識させればいい訳であり、わざわざ真相まで教えてやる必要はないと判断したからである。
「それを阻止するにしても魂の状態のままでは無理だからな。それでその計画の中心にあるチルドレンに憑依するのが最も効率が良いと判断したのだ。それがシンジであったのは偶然だ」
「……なるほど。だから必然の偶然であった、と」
理論整然……というにはいささか粗があるものの、アダム本人が言うのならそれが真実だと思ってしまう。思考のマジックに陥った彼らにしてみれば、そう思わざるを得ないのだ。
「では俺、いや私からも教えて欲しいのだが……」
と、それまで黙って経緯を眺めていた冬月が発言する。
「なにかな?」
「その、アダムはどうして18もの個体に別けたのだ?」
冬月のその質問にシンジ、いやアダムは意表を突かれたと言わんばかりの表情を浮かべる。
それまで正に泰然自若といった姿を見せていたアダムの変わりように、質問した冬月の方が困惑してしまった。
何か不味いことを聞いてしまったのか、と。
「……あ~……まぁ、その、なんだ……」
なんとも言い難そうに言葉を綴るアダムを見て、残る二人も困惑した表情を浮かべた。
やがてアダムは観念したのか、その答えを返す。
「……かったのだ」
「はい? よく聞こえなかったのですが……」
アダムが零した言葉の前半部分が聞こえなかった冬月が尋ね返すと、アダムは諦めたのか、叫ぶような声で言った。
「だから、一人では寂しかったのだ! 言わせるな恥ずかしい……」
そう叫んでしまったアダムは、その言葉通りよほど恥ずかしかったのか、その顔はほんのりと赤みがさしていた。
それまで見せていた、正に神とも言える超然とした姿からはとても想像できないほど、今のアダムは人間臭さを漂わせている。
その様子にゲンドウたちは、思わずほっこりとした表情を浮かべた。
「な、なんだ? その顔は。……フン! 笑いたければ笑え!」
正に逆ギレである。
逆ギレする神……なんとも斬新なパワーワードにとうとう三人は吹き出してしまった。
「ほ、本当に笑うヤツが居るか! えぇい! この親不孝者どもめ!」
その後は正に爆笑であった。リツコなど思わず涙が出て来てしまうほどである。
それまで陰鬱とした雰囲気は完全に払拭されてしまった。
「……父さん。それに冬月先生もリツコさんも、あまりアダムさんをイジメないで下さいよ。アダムさん、引っ込んじゃったじゃないですか」
確かに眼の色は黒に戻っている。シンジが表に出てきた証拠であった。
そのシンジが苦笑しながら注意すると、ゲンドウが言葉を返した。
「そういうお前も笑ってるではないか」
「アハハ。あぁ、アダムさんからは『後はお前が説明しろ!』と言われてますんで、他に聞きたいことはありますか?」
シンジのその言葉に、ゲンドウは笑うのを止めると表情を改める。
「シンジ……ユイは、母さんにはもう会うことが出来ないのだな?」
やはり彼にとって一番の関心事はそれである。
そのためにこそ、これほどのことをやろうとしたのだ。
「うん。その計画じゃ母さんに会うのは無理だよ」
「……そうか」
シンジの答えに見て分かるほど落胆するゲンドウ。
しかし、シンジはそんな父親に優しく言葉をかける。
「父さん? 僕は“その計画では”と言ったけど、別に他に会う方法が無いとは言ってないよ?」
「……なに?」
「忘れたの? 僕の中にアダムさんが居ることを。アダムさんは自分を18もの個体に別けたんだよ? 初号機に溶けていった母さんと別けるなんて造作もないことのはずでしょ?」
シンジの言葉に、ゲンドウは思わずガタッと両手を机に着け、シンジへと身を乗り出す。
「ほ、本当か!? シンジ!!」
「ちょ! 父さん落ち着いて! そのことはアダムさんもそう言ってるから間違いないよ。……あと、それ以上顔を近づけるのは……その……」
迫りくるゲンドウに、思わず引いてしまうシンジ。
確かに強面の髭面にサングラスの顔が迫ってきたのだから無理もないであろう。
「む……ん……」
自分の顔を自覚しているゲンドウとしては大人しく元の席へと戻るしかなかったのだが、さすがに息子にまでそう言われて傷ついたのか、その様子はどこか寂し気であった。
若い頃はその顔のせいで喧嘩が絶えない日々であったのだ。
しかし、そのことで冬月と知り合うことが出来たのだから、世の中なにが幸いするのか分からないということであろう。
「アハハ。ゴメンね父さん。まぁその髭を剃れとまでは言わないけどさ、せめてそのサングラスを普通の眼鏡に変えればだいぶ印象は違うと思うよ?」
「……そうだな。そうするか」
そう言葉を返すゲンドウの表情は、今までとは打って変わって穏やかなものとなっていた。
「それと、母さんのことだけど、さすがに今すぐに戻すという訳にはいかないと思うよ?」
「……何故だ?」
ゲンドウとしてはこの後すぐにでも戻して欲しいと思っているのだが、シンジは少し呆れたようにこう言うのであった。
「何故も何も……母さんは実は生きてましたって公表するわけにもいかないでしょ? なにより、ゼーレに気付かれたらかなり不味いことになると思うし」
確かにシンジの言う通りである。東方の三賢者とまで言われた天才科学者であるユイが戻ってきたとあれば混乱は必須であろう。
なにより、ゼーレに気付かれでもしたら不味いどころの騒ぎではない。
「確かにシンジ君の言う通りだ。碇、まずはユイ君の受け入れ態勢を整えてからにしたほうがいいだろう」
「ですね。ユイさんの名前をそのまま使う訳にもいきませんし、戸籍を偽造する必要もあります」
二人の説得にゲンドウも渋々ではあるが、納得することにしたようだ。
そんなゲンドウにシンジが言い難そうに話しかける。
「それと、父さん? ちょっと本人の前では言い難い事なんだけどさ……」
「? なんだ? シンジ」
ゲンドウは聞き返しながらコーヒーのカップを手に取る。リツコと冬月もそれに釣られてコーヒーを口にした。
どうやらユイが戻ってきてくれることが分かったため、ようやく落ち着いた気分になったからであったのだが……
「えぇとね? その、リツコさんとのことはちゃんと話し合った方がいいかなぁって……」
ブフッ!!
その言葉にゲンドウとリツコがコーヒーを吹き出してしまった。冬月は変な所に入ったのか、盛大にゲホゲホとむせている。
特にゲンドウの目の前にはシンジが居たために、思いっきりその被害を受けてしまう。
「ちょ!? 父さん汚いって!」
「な、ななななな!」
三人そろって同じ言葉を連呼している。何気に無駄にシンクロしている三人である。
「何で知ってるかって? そりゃ勿論アダムさんが教えてくれたからに決まってるでしょ。それも、たった今」
「ちょおっ!?」
これも三人同時である。……お前ら実は仲良いだろ? と突っ込みが入りそうだ。
特に冬月など『嫌なヤツ』と思っていただろうに。
「あー……アダムさん笑い転げてるよ。たぶん、さっきの仕返しじゃないかな?」
「マテや!!」
またも三人同時の突っ込みである。
その様子にシンジは『思ったより仲が良かったんだなぁ』と愚にも尽かないことを考えてしまうのだった
今回はここまでです。
一応文字数は5000~6000文字程度を目指しております。
まぁ、いずれは伸びていく可能性がありますが……
それと、エヴァについては不明な点も多く、私個人の解釈が多分に含まれております。
ですので『それは原作と違くない?』と突っ込まれましてもお答えできません。
なにとぞご容赦の程を。