めっっっっっちゃ怪しいカードの精霊が契約契約って騒がしい   作:「めっ契」製作委員会

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演目10:深海より愛を込めて / 幻想キマイラvs???

「……君、病院は……」

 

 探るように言う。目の前の少女は以前病院で会った時と明らかに雰囲気が違う。間違いなく、カードの呪いに囚われている。

 

「……お兄さん、あの時……」

 

 そこで少女は初めて遊介に気づいたように視線を投げかける。

 

「ねぇお兄さん……海って……見たこと……ある?」

「海? ……それは……うん、見たこと……あるけど」

「そっか」

 

 少女は穏やかに言う。色白な頬に僅かに赤みが差しており、口調とは裏腹に興奮しているのだろうか。

 

「私……陽依(ひより)……私ね……今から、海に行くの」

「海……? ここはただの倉庫だ。海なら外だよ」

「そうかな」

「?」

「もっと……暗くて……深くて……不思議な、綺麗なところ……それが……海……」

 

 錯乱しているのか──?

 陽依と名乗った少女は正気を失っている。カードの力にあてられたのか、晶や鬼原の時と比べて、危険な予感がする。

 

「お兄さんも……一緒に、行こ」

「!」

 

 そう思っていると、不意に陽依が言う。その腕には決闘盤が装着されており、そこにデッキを装填していた。

 

「マズいぞユースケ、応戦しろ!」

「く……!」

決闘(デュエル)!」

 

●陽依 LP:4000

●遊介 LP:4000 

 

「私の先攻……だよ……」

 

 陽依がカードに手をかける。その刹那、陽依の手元がぼんやりと光りを放った。

 

「『ゴーティスの妖精 シフ』を召喚」

 

 その淡い光が形になるように、ふわりと一匹のモンスターが現れる。それはクリオネのような、はたまた深海魚のような、不思議な生き物だった。

 生き物は陽依と遊介の間を回遊するようにふわりふわりと舞い、薄暗い倉庫のなかで二人の決闘者(デュエリスト)の頬を照らす。

 

「次に……手札の、『ゴーティスの朧 キーフ』を特殊召喚」

 

 瞬きの刹那、二匹目のゴーティスが現れる。今度は頭が白骨化した小魚のような姿をしていた。

 

「見て……綺麗でしょ……? 私……この子たちと海に行くの……」

 

 うっとりとそう言う陽依は自身の周囲を漂うゴーティスに手を伸ばし、触れる。透き通る魚影に指先に触れると、淡い光が弾けて消えた。ゴーティス達はそんな陽依に対し、何をするわけでも無くただその傍を回遊していた。

 

「もう一度言いますが……ここは海じゃありません。あなたがいるべき場所は……もっと違うところでは?」

 

 遊介はあくまで平静を保ったまま、静かにそう言う。しかし陽依はそんな遊介に視線をやると、静かに首を横に振るだけだった。

 

「……レベル2の『キーフ』に同じレベル2の『シフ』をチューニングするよ」

「!」

「シンクロ召喚だ、来るぞユースケ!」

 

 陽依の指先に触れていたゴーティス達から放たれる光が強くなっていく。

 

「さぁ……光を灯すよ。シンクロ召喚。レベル4……『灯魚(フィッシュランプ)』!」

 

 二体のゴーティスは一瞬だけその光を強め、一つの光球と化した。青い光を放っていたゴーティス達から生まれた光球は一転して燃えるような赤い光を放ち、ゆっくりと陽依の掌へと降りてくる。そのまま球体内部から優しく噴き出した炎がひれの形をとった。

 

「そして……手札の『白鰯(ホワイト・サーディン)』の効果。デッキからもう一体の『白鰯』を墓地に送って特殊召喚するよ」

 

 次に倉庫の天井に現れたのは無数の鰯の群れ。いよいよ倉庫内は水族館の巨大な水槽のようになり始めていた。

 やがてその群れは陽依の周囲を廻るように降りてきた。それらは陽依の装着する決闘盤(デュエルディスク)の墓地へ吸い込まれるように消えていき、入れ替わるように数匹の鰯がふわりと戻ってきた。そして光を放っている『灯魚』の周囲を廻り始める。

 

「『白鰯』に『灯魚』をチューニング……“ふかく、ふかく。静かに息を潜めて、蛇は眠る”」

 

 『灯魚』とその周囲を廻る『白鰯』はやがて六つの小さな光に姿を変え、天井()へと昇っていく。

 

「シンクロ召喚」

 

 一閃。光が天を貫き、星を飲み込んだ光線がそのまま形を取って降りてくる。

 

「『ゴーティスの大蛇 アリオンポス』」

 

 シンクロ召喚の光が収まると、再び倉庫は闇に包まれる。そんな中で、淡い光を放っている大蛇は際立って見えた。

 

「“ゴーティス”……?」

「そう。私の……私の、ともだち。かわいいでしょ……? この子はアリオンポス。少し怖いけど……本当は優しくて、いい子なんだ」

 

 自らの傍に降り立った大蛇に陽依は近づく。するとアリオンポスは鎌首をもたげ、陽依の頬に優しく頭を寄せる。

 

「んっ……ふふ……」

「……」

 

 遊介は何も答えない。

 この子は、何か違う。以前戦った晶や、鬼原とは何かが違う──。淡い光に照らされた恍惚とした表情は、何か違和感のようなものを遊介に抱かせた。

 

「墓地に行った『灯魚』の効果発動。(フィールド)に……『ランプトークン』を二つ出すよ」

「トークン生成効果持ちか……まだシンクロが続くぞ」

「それと……『アリオンポス』の効果も。デッキから……『ゴーティスの月夜 サイクス』を除外」

「!」

 

 アリオンポスが身を起こし、その身を振るって波を起こす。まるで海中にいるかのようにその衝撃はゆっくりと遊介に伝わり、身を震わせた。視界の先では二対の光球がまた生成され、同時に陽依の決闘盤から一枚のカードが飛び出し、回るように身をよじらせているアリオンポスの口の中へ飛び込んで消えた。

 

「除外された『サイクス』の効果」

 

 それを見た陽依は静かに続ける。

 

「墓地の『白鰯』を除外して……自分を特殊召喚」

「除外をトリガーに特殊召喚する効果だと!?」

 

 幻惑の魔術師が驚愕の声を上げる。除外とは文字通り決闘(デュエル)から取り除かれるということ。そこから帰還できる存在はそう多くない。しかし事実、目の前で陽依の手の上に一匹のゴーティスが舞い降りてきている。

 それを見て遊介の表情が強張る。これはひょっとすると、少しイレギュラーなデッキかもしれない──。

 

「おかえり、サイクス……そのまま、『サイクス』の効果を発動。デッキから、『ゴーティスの守人 イーノック』を手札に。そして……サイクスを除外するよ」

 

 その宣言と同時にサイクスは陽依の掌の上で宙返りをし、泡となって消えた。同時に、決闘盤から一枚のカードが飛び出して陽依の手に収まった。

 

「次は……墓地の『シフ』の効果。自分を除外して……『アリオンポス』の攻撃力を500アップ」

 

『ゴーティスの大蛇 アリオンポス』ATK:2100 → 2600 

 

 墓地からクリオネのようなゴーティスが飛び出し、泡沫と化す。同時に、陽依の周囲を這いまわっていた大蛇が咆哮した。

 

「……ッ」

 

 その勢いに気圧された遊介が口を開く。

 

「彼らと一緒に海に行きたいのは結構……ですが、あなたは入院中の身。戻るべきです、あなたが危ない」

「ううん……大丈夫」

 

 陽依が目を開く。

 

「この子たちとなら、私はどこへでも行けるの」

 

 そこには、何処までも深い(宇宙)が広がっていた。

 

「フィールド魔法、『最果ての宇宙(うみ)』を発動」

 

 天井は闇に呑まれ、どこまでも深くなる。壁も、床も、全てが消える──いや、意味を成さなくなる。もともと薄暗かった倉庫壁や床といった境界線を失っていき、どこまでも広がる(宇宙)と空間を一体化させた。

 突如としてその場を包んだのは、深海とも宇宙ともつかない神秘の世界。ただどこまでも広がる闇。その中でゴーティス達と、宇宙を湛えた陽依の瞳だけが、うすぼんやりと光を放っていた。

 

「これは……!?」

 

 上下がわからなくなる。どっちが上で、どっちが下だ。右も、左も、前も後ろも──。正面に陽依が立っているということでかろうじてわかる。全方位どこを見ても広がっているのは闇と、遠い星のような淡い光だけ。

 

「ほら……どこまでも……深い、深い……宇宙()、だよ」

 

 瞬間、再び陽依の決闘盤から泡が立ち始める。その中から、やはり一枚のカードが飛び出し、消える。

 

「『最果ての宇宙』の効果で……墓地の『キーフ』を除外するよ。そして……デッキから、『ゴーティスの灯 ぺイシス』を手札に。そのまま……ターンエンドだよ」

「……」

 

 穏やかに笑う陽依は幸せそうだ。上気したように頬は赤らみ、夢見心地な視線を遊介に向ける。

 どうしたものか──彼女を傷つけずに、救い出さねば──。

 陽依とは対照的に、遊介の表情は堅かった。

 

「私のターン」

 

●陽依 LP:4000

場:『最果ての宇宙』(フィールド魔法)/『ゴーティスの大蛇 アリオンポス』『ランプトークン』『ランプトークン』

手札:2

 

●遊介 LP:4000

手札:5 

 

「スタンバイフェイズに、除外されている『シフ』と『キーフ』の効果を発動する……よ。除外されている二体を特殊召喚」

 

 遊介がカードをドローすると同時に宣言が飛ぶ。見ると、闇の向こうから生まれ出るように二体のゴーティスが場に帰還した。

 

「相手ターンにも動くのか……」

「気をつけろユースケ、何をしてくるかわからん」

「……わかってる。油断せずいこう。メインフェイズ!」

 

 手札のカードに手をかける。手に握られた六枚のカードを見て、今後の戦略を素早く組み立てる。いつも通り──いつも通りのことをするだけだ。

 

「私は手札から、『ミラー ソードナイト』を召喚。そのまま、リリースして効果を発動! デッキから『大翼のバフォメット』を特殊召喚」

 

 いつもの流れでカードを展開していく。『バフォメット』の効果で『幻爪の王 ガゼル』と『合成獣融合(キマイラ・フュージョン)』を手札に加え──そのまま発動。

 

「“交わる二対の獣王よ、その影を重ね合わせ、幻獣となりて新たなる姿を顕せ”……融合召喚! 『幻獣王キマイラ』!」

 

 キマイラは深淵の闇の中、ふわりと降り立ちアリオンポスと睨み合う。

 

「融合素材になった『ガゼル』の効果で『幻惑の魔術師』を手札に加えます」

 

 いつもなら元気にその宣言に答える幻惑の魔術師だが、今回は静かに遊介の傍に寄り添った。幻惑の魔術師もまた、目の前の陽依から放たれる不気味なプレッシャーを感じ取っているのだろう。

 陽依は穏やかに笑っているだけだ。しかし、周囲が闇に包まれているのも相まって底知れぬ緊張感を放っている。

 

「『キーフ』の効果発動」

「!」

 

 その緊張を破るように、陽依が口を開く。

 

「『キーフ』は相手の場にモンスターが特殊召喚された時、そのモンスターととキーフを除外して、除外されている『サイクス』を特殊召喚するよ」

「!」

 

『ゴーティスの朧 キーフ』 0 / 1500

このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

①:フィールドに魚族モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

②:相手フィールドにモンスターが特殊召喚された場合、その内のモンスター1体と自分の除外状態のレベル6以下の魚族モンスター1体を対象として発動できる。対象の相手モンスターとこのカードを除外し、対象の自分のモンスターを特殊召喚する。

③:このカードが除外された次のターンのスタンバイフェイズに発動できる。除外状態のこのカードを特殊召喚する。

 

 そう言い終わらないうちに、闇の中から一体のゴーティスが躍り出る。入れ替わりにキーフが闇の中に消えた。

 

「さぁ……ライオンさんも一緒に行こう……?」

 

 陽依が手を伸ばす。すると周囲の闇が深くなる。まるで暗闇からキマイラを飲み込もうと手を伸ばすように──

 

「墓地の『ミラー ソードナイト』の効果発動ッ! このカードを除外して、『キーフ』の効果を無効にします!」

 

 慌てて墓地の効果を起動する。どこからともなくいつもの剣士が現れ、深まる闇からキマイラを守った。

 

「あっ……」

「これにより融合召喚した『キマイラ』は除外されません。そしてエンドフェイズ時、あなたの手札を一枚墓地へ送ります」

 

 その宣言を聞いているのかいないのか、陽依は頬を膨らませ不満げな顔をする。キマイラの効果が通ったことよりも、キーフの効果を無効化されたことを不満に思っているかのようだった。

 

「でも……それなら、『シフ』の効果。シフが特殊召喚されたターンに、シフと一緒にシンクロ召喚をするよ」

「!」

「私は『アリオンポス』に……『シフ』をチューニング」

「相手ターンにシンクロか……来るぞユースケ!」

「“くらく、くらく。鋭い角を、優しく照らして翼は泳ぐ”──シンクロ召喚」

 

 陽依が両腕を広げる。その頭上で二体のゴーティスは八つの光へと姿を変え、閃光と共に宇宙を照らす。

 

「『ゴーティスの双角 アスカーン』」

 

『ゴーティスの双角 アスカーン』 2700 / 0

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

①:このカードがS召喚した場合、自分フィールドの魚族モンスター1体と相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。

②:このカードが除外された場合、自分の墓地から魚族モンスター1体を除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

 そして光は魚の形を取り、閃光の中からやはり朧げに光るゴーティスがひれを揺らしながら優雅に現れた。

 

「この子達もね……? ともだちを呼んだ時に効果が使えるんだ。墓地に行った『アリオンポス』の効果を使うよ……」

 

 ずっ──と陽依の背後の闇からアリオンポスが現れる。が、瞬きの刹那それが泡と消えた。同時に、

デッキから一枚のカードが飛び出し、陽依の手に収まる。

 

「『アリオンポス』を除外して……デッキから、『ゴーティスの兆 イグジープ』を手札に。そのまま……『アスカーン』の効果も発動するよ」

「!」

 

 アスカーンがゆらりとキマイラの前に躍り出る。周囲を包む闇のせいで遠近感が狂い、突如眼前に現れたアスカーンは巨大な影のようにキマイラと遊介を包もうとする。

 とっさに頭を庇った遊介をアスカーンは包み込むように被さる。しかし、次に遊介が目を開けると、そこにアスカーンの姿はなく、背後の闇へ消えていった。

 

「通り抜けた……?」

「ユースケ、キマイラがいない!」

 

 幻惑の魔術師の慌てた声。それに釣られて振り返ると、遊介の場からキマイラの姿が消えていた。

 

「除外されたか……!」

「ふふふ……みんな……みぃーんな、一緒……」

「なら……手札の『魔星のウルカ』の効果を発動。自分フィールドのモンスター一体のみが場から離れた時、このカードを除外してそのモンスターを帰還させます」

 

 夢見心地で呟く陽依の前で遊介が宣言する。同時に遊介の手札から一枚のカードが飛び出し、それもまた泡となって消えた。同時に遊介の背後の闇からキマイラがのそりと現れ、威嚇するように唸って見せる。

 それを見た陽依は動きを止め、悲しげな表情に変わると、やや上目遣いに遊介を見つめ、言う。

 

「どうしても一緒に行ってくれないの……?」

「申し訳ありませんが、一緒には行けません」

 

 静かに遊介が言う。

 

「あなたは今、自分を見失っている。暗い、暗い闇の中に、漂っていると思いながら、その実囚われてしまっている。戻りましょう。あなたが行くべき先はそっちではない」

 

 そう言って遊介が手を伸ばす。しかし、そんな遊介と陽依の間に突如として消えたはずのアスカーンが割って入ってきた。

 

「!」

「……『アスカーン』の二つ目の効果。墓地の『シフ』を除外して……『アスカーン』をもう一度特殊召喚するよ」

 

 アスカーンはまるで陽依を守るように彼女の周囲を廻り、遊介を寄せ付けない。渋面しながら手を引く遊介の傍に幻惑の魔術師が現れ、静かに口を開いた。

 

「……聞く耳持たず、といった感じだな」

「くそ……彼女は入院中の身だ。なにかあったら……」

「迂闊に傷つけるわけにはいかない。だが……」

「ゴーティス達が邪魔だ……!」

「それなんだがユースケ」

 

 不意に幻惑の魔術師は遊介に視線を送る。突然投げかけられた言葉に遊介も首を回し、両者が向き合う。

 

「なに」

「あのゴーティスとやら、少し違和感を感じる」

「違和感って……具体的には?」

「なんというかこう……何か違うのだ。これまで戦ってきたスネークアイやゴブリンライダー……この間倉庫で見た龍達とも違う……何かが。言葉にはまだ言い表せないのだが……」

 

 なんだよそれ──と遊介が言うと、幻惑の魔術師は顎に手を当て、考え込んでしまう。

 

「なんだ……? なんだこの違和感は……? 連中から伝わってくる印象というか……感じるものというか……そういうものが、何か異質なのだ。ユースケ、耐えてくれ。この違和感の正体に私はたどり着きたい」

「どのみち……やられっぱなしで終わるわけにはいかないよ。反撃する!」

 

 そう言いながら遊介は決闘盤に指を走らせる。相手がどんなことをしてくるデッキなのかはなんとなく理解した。そろそろ攻勢に転じるべきだ。

 

「墓地の『合成獣融合』の効果。このカードが墓地に存在し、場にキマイラが存在する時、このカードを手札に加えます。そしてそのまま発動」

「また……ライオンさんを喚ぶの……?」

「私は手札の『幻惑の魔術師』『鉄球魔人ゴロゴーン』、そして場の『幻獣王キマイラ』を墓地に送り……融合召喚!」

 

 鋭く飛ぶ遊介の宣言。それと同時にキマイラの傍に現れた二体のモンスターが闇の中に溶けていく。

 

「えぇ。新たなライオン……キマイラをご覧に入れましょう。さぁ、行きますよ」

 

 不意に周囲の闇が深くなる。それまで闇の中で朧げに見えていた遊介の輪郭はさらに薄くなり、陽依は目を凝らした。

 そして気づく。闇が深くなったのではない。遊介の背後に、巨大な影が立ち上がっている。そう認識すると同時に、影に二つの眼が開いた。

 

「“三つ首の荒ぶる守護神よ、三つの贄に現界し、暴虐の限りを尽くせ”──現れろ、『ガーディアン・キマイラ』!」

「……!」

 

『ガーディアン・キマイラ』 3300 / 3300

カード名が異なるモンスター×3

このカードは手札と自分フィールドのモンスターのみをそれぞれ1体以上素材とした融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。①:このカードが魔法カードの効果で融合召喚に成功した場合に発動できる。手札で融合素材としたカードの数だけ自分はデッキからドローし、フィールドで融合素材としたカードの数だけ相手フィールドのカードを選んで破壊する。②:自分の墓地に「融合」が存在する限り、このカードは相手の効果の対象にならない。

 

「『ガーディアン・キマイラ』の効果発動! このカードは、融合素材としたモンスターが元々どこにいたかによってその効果を変化させます。今回素材にしたモンスターは場に一体、手札に二体。これによりその効果は……“相手の場のモンスターを一体破壊し、さらにデッキから二枚カードをドロー”! 破壊するのは、『アスカーン』です!」

 

 遊介がアスカーンを指さすと、巨大なキマイラは咆哮し、獰猛に腕を振る。その爪はアスカーンを確かに捉え、その身体を深々と引き裂き、破壊してしまう。

 

「アスカーン!」

「さらにフィールド魔法、『融合再生機構』を発動。手札を一枚捨て、デッキから『融合』を手札に」

 

 攻勢は止まらない。宇宙を押し返すように遊介のフィールド魔法が展開される。スクラップ処理場のような、はたまた工場のような世界が素早く広がっていき、まるで遊介とキマイラを守る砦のように世界を二分した。

 

「そのまま『融合』を発動! 次は手札の『モコモッコ』と『プリンシパグ』で融合召喚!」

「また……融合……!」

「“魔王の威光、今ここに炸裂す。悪鬼魔獣の天に座す魔剣の煌めきを魅るがいい”! 融合召喚! 『幻獣魔王バフォメット』!」

 

 ガーディアンキマイラの隣に、負けず劣らず存在感を放つ魔王が降臨する。宇宙を切り取り、自らの領域を得たからか、遊介の陣営はすっかり勢いづいている。

 

「『バフォメット』の効果。デッキから『大陰陽師 タオ』を墓地に送ります……さぁいよいよ大詰め。最後に登場するのは幻想より来る影! 墓地の『タオ』の効果で私はこのモンスターを特殊召喚!」

 

 墓地から一枚のカードが飛び出し、遊介の手札に収まる。それを素早く決闘盤に叩きつけ、告げる。

 

「“契約は果たされた。その契りに依りて、幻惑の微睡から姿を顕せ”──!」

 

 いつものように、影が形を作っていく。それは深い宇宙の中にあって、その部分だけ切り取られたように、なおはっきりと教会が視認できるさらに深い闇。

 

「『幻惑の(ナイトメア)』」

「『魔術師(マジシャン)』!」

 

 影の中から、金色の魔術師が姿を現す。これで遊介の場には三体のモンスターが並んだ。

 

「まずはゴーティスを彼女から引きはがす。いくよ」

「任せたまえよ」

「バトルフェイズ!」

 

 遊介が叫ぶ。周囲の空気が緊張感を増した。

 

「『ガーディアン・キマイラ』で『キーフ』を攻撃!」

「その瞬間、私の効果が発動だ!」

 

 ガーディアン・キマイラと幻惑の魔術師が同時に飛び出す。キマイラが獰猛にその爪を振り上げると、さらにその頭上に幻惑の魔術師が飛び上がる。その手には錫杖が握られていた。

 

「ダメージステップ時、幻惑の魔術師はフィールドのカードを一枚破壊できます。破壊するのは……『最果ての宇宙(うみ)』!」

「! 駄目……!」

「闇を祓え! 幻惑の魔術師!」

 

 錫杖が天に突き上げるように掲げられる。すると、そこを起点に宇宙全体に亀裂が走った。強化ガラスが粉みじんに割れるように、周囲を漂っていた闇は突如として硬度を得て、粉々に砕け散った。ガラス片と化した宇宙が降り注ぐ中、キーフはガーディアンキマイラに、灯魚の置き土産であったランプトークンはバフォメットに破壊されてしまう。

 

「……これでわかったでしょう」

 

 陽依の周囲は、埃っぽい倉庫に戻る。コンクリートの上に陽依は立っていた。

 

「ここは海じゃない。あなたの行きたいところでも、行くべきところでもない」

「……」

「カードの力に負けてはいけません。自分をしっかり持つんです」

「……」

「……陽依さん!」

 

 遊介の説得は必死さを帯び始める。手を伸ばし、戻ってこいと言葉を投げかける。

 そんな遊介に、陽依は──

 

「……ふふ」

 

 静かに笑った。

 

「!」

「この子たちを……悪く言わないで……この子たちは……私のともだち……この子たちがいれば……私は……」

 

 顔を上げる。その表情は、相変わらず涼しい笑みのままだった。

 

「何も怖くないんだ」

「~~~ッ! エンドフェイズ時、『融合再生機構』の効果で、墓地から『幻爪の王 ガゼル』を手札に。そして……『幻獣王キマイラ』の効果……」

 

 陽依の手札が飛び上がり、ひとりでに墓地に消えていく。それを陽依はぼんやりと眺めていた。

 

「……ターンエンド」

 

 そう呟く遊介の声には、わずかばかりの絶望がにじんでいた。

 

 

 




メンバー多忙につき、更新ペースが落ちてます……縦軸動かすって言った傍から申し訳ないです……。
エタらせる気はさらさらないので気長にお待ちください!
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