めっっっっっちゃ怪しいカードの精霊が契約契約って騒がしい 作:「めっ契」製作委員会
「誰とはゴアイサツだな! 私だ!」
「いや知らない! 知らないっ! 本当に誰!?」
目の前の大男は大きな声で豪快に笑ながら馴れ馴れしく話しかけてくる。遊介の周りをぐるぐる周り、実体のない腕を気安く肩に回してくる。
誰だ、誰なんだコイツは。
次々に起こる理解の及ばない状況に遊介の頭はますます混乱する。相変わらず黄色い男はやかましく騒いでおり、この状況に不釣り合いな陽気な声が頭にうるさく響く。
眩暈を感じながら、そこで遊介は気づく。この大男を見たことがある。具体的には少し前に。
「……
「そうだ! 君の良き友、ナイトメア・マジシャンだとも。君が来いと言うから来てみたが……これが君の言っていた面白いことか? 私には少々悪趣味に映るが」
「これが面白いことなわけないだろ! 何がなんだかわかんないよ……」
「だろうな。君がこんなことするわけない」
そう言って幻惑の魔術師は窓から外の様子を伺う。
「一体どういう状況だ?」
「わかんない……いきなり校庭にバケモノは出てくるししかもそれが実体化してるし……っていうかあなたのこともそうなんだけど」
「あなたなんて他人行儀に言ってくれるなユースケ! “君”でいい。というか私は別に驚くようなことじゃないだろう」
「いやいやいや何言ってんの」
「う~む……混乱しているのか? まぁ、この際私の話は後回しでいいだろう。とにかくこの状況をなんとかしないとな!」
「た……確かに」
そう言って幻惑の魔術師は両手を広げる。一挙一動がいちいちやかましい。遊介を窓辺に誘い、相変わらず校庭で大暴れしているモンスターを見やった。
「恐らくは校庭で暴れているアレが元凶だろう」
「あれが出てきてから皆おかしくなったんだ」
「ふぅーむ……強敵だろうな」
「近づくだけでも危ないよ」
「だがアレを操っているのは見たところ一人だ」
「それに見つからなければいいってこと?」
「いや、対処すべき本丸は最初から見えているという意味だ」
「待って」
「なんだ?」
「もしかして俺が解決する前提で話してる?」
「そうだが?」
「いやだよ?」
遊介と幻惑の魔術師が見つめ合う。奇妙な沈黙が流れた。
「いやなの!?」
「いやだよ!?」
「何故だ!」
「こっちの台詞だよ!」
両者絶叫する。幻惑の魔術師はまるで遊介が止めに行くのを嫌がるなどありえないと言わんばかりのリアクションだった。当然遊介からすればそんな英雄的思考は持ち合わせていないし、自分が行ったところでどうにかなるなど思えなかった。
「本当にどうしたんだユースケ! 頭でも打ったのか!? らしくないぞ!」
「らしくないって……! 別にいつも通りだよ!」
そう言うと遊介は床に散らばったカードを拾い集める。そうしてかろうじて無事だった鞄を担ぎ上げると、出口に足を向けた。
「とにかく避難だ! このままここにいちゃ危ないよ!」
「ま……待てユースケ! 君の言わんとすることはわかるがこのまま逃げてしまっていいのか!?」
「いいよ! 第一それが普通じゃないの!?」
そう言って遊介は廊下へ飛び出していく。部室に一人残された幻惑の魔術師は呆然と立ち尽くしていた。
***
「くっ……! 梓実……どこに行ったんだ……!」
廊下に飛び出してからも受難は続いた。既に校内は実体化したモンスター達によってめちゃくちゃにされており、その中を遊介は駆け抜ける必要があった。
校舎の内外でモンスターは暴れ、それを使役する者、止めようとする者がデュエルし、さらに被害を広げていく。
頭上から破壊された壁の破片が降り注ぎ、地面は危なく揺れる。本当に校舎が倒壊するのではないかと頭に嫌な予感がよぎる。
──とにかく、梓実を探さなくては! 遊介の焦りは最高潮に達していた。
「うわっ!」
と、昇降口にさしかかったあたりで何かの瓦礫に躓いて転ぶ。全力で走っていただけにそのまま勢いを殺しきれず、転がるように校庭へ飛び出した。
「!」
そこでは、あのドラゴンと蛇龍が相変わらず戦っていた。両者から発せられる衝撃や炎の軌跡に遊介は飛び上がる。
その時不意に遊介は蛇龍の足元に人影を認めた。そこにいたのは、見慣れた人物だった。
「晶!」
蛇龍を操り、目の前のドラゴンを食い止めんとしているのは晶だった。鬼気迫る表情で決闘盤にカードを叩き付け、デュエルを展開している。
対して巨大なドラゴンを操るのは──
「そんな……彼は!」
そこにいたのは先ほど廊下ですれ違ったクラスメイト。久しぶりに学校に顔を見せた級友がそこに立っていた。
「なんで……!?」
「下がってろ!」
遊介の気配を感じたのか晶は背後に目をやることなく叫んでいる。厳しそうな表情をする一方で、相手はさも愉快そうに笑って見せる。明らかに正気ではない。
「なんで……何が……!」
その瞬間。遊介の死角から新手が飛来する。巨大な怪鳥が空から現れ、遊介に爪を突き立て──
「危ない!」
遊介の前に梓実が飛び出す。それと同時に、梓実の操るモンスターが怪鳥を撃退した。
「あんたの相手はあたしだって言ってるでしょ!」
「梓実!」
「遊介! 大丈夫だった!?」
「あぁ……うん……ありがと……梓実は」
「おかげさまで! 林の方に行けば安全なはずだよ! 後で合流で!」
「わ……わかった」
ふらふらと立ち上がり、梓実に言われた方へ足を向ける。丘の上に立つ袖花高校は周囲を林に囲まれており、身を隠すには丁度いい。
「……ここなら……」
茂みの中に飛び込み、息をつく。次の瞬間、緊張がほぐれたからか崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。全身から力が抜けたようだ。いつの間にか額と背中はすっかり汗で濡れており、それに不快感を感じる程度の余裕が帰ってきた。
「ユースケぇ……」
「うわっ!」
が、突然横から声をかけられ転がる。見ると、奥の茂みの中にいつのまにか幻惑の魔術師がしゃがみ込んでおり、顔を覗かせていた。
「いいのかこのままで……兎河嬢を助けるどころか逆に助けられてしまったじゃないか。男子としていかがなものかと思うぞ」
「う……それは……」
幻惑の魔術師は遊介を咎めるような声色で言いながら茂みから出てくる。そのまま立ち上がると、遊介を見下ろした。
「やれやれ、らしくないな。私と会わないうちに何があったんだ」
「はじめましてなんだけど……?」
「この期に及んで照れ隠しは不要だぞ。それで、どうするんだ」
「どうするって」
瞬間、遊介の背後から大きな音と共にドラゴンが倒れ込んだ。見ると、校庭の戦いが決着していた。あのドラゴンを操っていた生徒はその場に倒れ込み、肩で息をしている晶が腕から決闘盤を外しているのが見える。
「……終わった?」
力の大元が無力化されたのか、他のモンスターや狂気にあてられた決闘者達達もスイッチを切り替えたように大人しくなっていき、校内は一転して水を打ったような静けさに包まれた。
遊介は探るように茂みから身を乗り出し、校庭に出る。
「待てユースケ」
「なに?」
「まだ終わってない」
「え……」
幻惑の魔術師がそう言った瞬間、遊介の全身に悪寒が走る。ぞわりとつま先から這い上がってくるような不快感。それに引っ張られるように再び前を向いた。
視線が勝手に動く。吸い込まれるように、自然とそれに目が向いていく。
晶が倒れた生徒の決闘盤を調べ──その中に収められたデッキに指が触れる。
──まずい。
「駄目だ……それに触っちゃ駄目だ!」
叫ぶ。次の瞬間、再び校庭に強い力が発された。カードと晶を中心に衝撃が走り、遊介はとっさに腕で頭を庇った。
何か、まずいことが起こった。衝撃が収まると遊介は再び校庭に目をやる。
「──!」
そこに広がっていたのは、想定しうる限りの“最悪”だった。
「あき……ら」
晶が立っている。しかし、様子がおかしい。先ほどまで肩で息をしていたのに、今は不気味なほど静かだ。そのまま、まるで何もなかったかのように決闘盤を腕に装着した。
そのまま、振り返る。その視線が、一番近くにいた梓実とものとぶつかる。
「梓実!」
瞬間、晶がデッキを決闘盤にセットする。その瞬間二度目の衝撃が校内に走り、無力化されていたモンスターと決闘者達が再び暴れ始めた。
「錦くん!? 大丈夫!?」
「……兎河か。問題ない。むしろ調子がいいくらいだ」
「それなら……今度は彼らを止めないと」
「いや」
「?」
「そのままでいいんじゃないか」
「……は?」
何でもなさそうに晶が言う。その時、遊介は晶の視線があの生徒と同じように妖しく光るのを見た。
「僕にもよくわからないが……何故だかこの学校は破壊した方がいい気がしてきた。彼らがやってくれるなら僕はそれを歓迎しよう」
「な……何言ってんの!?」
梓実が晶を挑戦的に睨み返す。
「そこの子のデッキに触っておかしくなったんじゃないの!? しっかりしてよ!」
「……うるさいな」
晶はそんな梓実から視線を外すと、面倒くさそうに頭を掻いた。そして次の瞬間、何の前触れも無に決闘盤を起動した。
「少し静かにしていろ」
「……!」
晶は梓実を排除する気だ──遊介は瞬間的に直感した。
助けなくては。このままでは梓実が危ない。
そう思う頭とは対照的に、足が動かない。すくんでしまい、茂みから飛び出していけない。
「ユースケ!」
「な……なんだよ!」
遊介が泣きそうな声で返事をする。幻惑の魔術師が遊介の正面に歩み出た。
「どうするんだ」
「だから何を!」
問う。遊介の返事はもはや絶叫に近かった。
「兎河嬢を助けないのか」
「無理……だよ……」
「だがこのままでは兎河嬢が危ないぞ!」
「わかってるよ! ……でも……怖いよ! 俺には……何も……」
「できるさ」
刺すような一声。遊介の口から漏れ出る弱音に一息に蓋をするような言葉だった。
「君ならできる。思い出せ。なぜ君はマジックステージに立てる」
「それは……そういう時には、役になりきって……そういう俺に、なり、きってる、から……」
「ならば今、勇気が必要なこの場面。その場面だけ、奇術師の君になりきってみるのはどうだ? マジックステージも今も、何も変わらない。いつも通り、上手くやるだけさ」
遊介が顔を上げる。
「なんで……」
「?」
「なんで君は……そこまで俺に期待するんだよ。なんでそんなことが言えるんだよ……?」
「だって」
二人の視線がぶつかった。
「君には、勇気があることを私は知っているからさ」
何故か、その言葉には言い返せなかった。
幻惑の魔術師の放った言葉は、あらゆる障壁を乗り越えて遊介の心の──より深くへ、まるで錨が投げ込まれたかのように突き刺さった。
「俺、には──」
幻惑の魔術師は何も言わない。ただ、遊介を見つめている。仮面をつけたその表情はうかがい知れないが、きっとその表情は、真面目なものなのだろう。
「……上等……!」
遊介の背後で梓実が決闘盤を起動する。二人の間に、強烈な緊張感が走った。
「……ま」
「デュエ──」
「待てェッ!」
叫ぶ。同時に、足が勝手に動いて茂みの中から飛び出していった。
「お前は……」
言った。
ああ言った。
言っちゃった。
心臓が激しく鼓動し、体が急速に熱を持っていく。遊介の乱入に晶と梓実の視線は釘付けになり、こちらを真っすぐに見据えていた。
「恐れるな、ユースケ」
遊介の傍らに幻惑の魔術師が降り立ち、静かに告げる。
「君ならやれる」
「俺なら──」
ゆっくりと目を閉じ、息をつく。
「何の用だ」
「遊介……!」
体の震えを抑え込む。
ここは舞台だ。俺はその上に立っている。そう自分に言い聞かせる。
舞台に立っている間は、自分は変われる。
俺にできるのか? わからない。
でも、“私”になら──
もう一度深く息をつく。そして、ゆっくり目を開く。
その瞳は、“奇術師”我妻遊介のものに変わっていた。
「その話、少し預からせていただきたい」
「何?……どういうことだ」
「こういうことですよ」
胸を張り、少々大げさな足取りで歩み出る。不敵な笑みを向け、滑らかな手つきで決闘盤を取り出した。
「私が、お相手します」
上手く区切れるところが無くて一話ごとの文字数が偏りがちになる問題……