めっっっっっちゃ怪しいカードの精霊が契約契約って騒がしい   作:「めっ契」製作委員会

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演目3:Don't You Worry 'Bout A Thing. / 幻想キマイラvs???

「お前が?」

「えぇ。お気に召しませんか?」

 

 訝し気な視線を向ける晶に対し、遊介は片手をひらひらと振りながら軽く答えて見せる。片目で梓実に視線をやると、心配そうな顔でこちらを見ている。

 

「戦えるようには見えないが、本気で言っているのか?」

「もちろん。多少のブランクはありますが、実力は保障しますよ」

 

 両者の視線がぶつかる。晶の瞳には明確な敵意が滲んでいた。遊介は片目を閉じて余裕そうな表情を向ける。

 ──両目で見つめあったら仮面が剥がれ落ちてしまいそうだった。

 

「……ハッ、いいだろう」

 

 晶が邪悪に笑い、遊介に向き合う。遊介もそれに応え、決闘盤を構え直して見せた。

 

「……遊介!」

「梓実、ここは危ない。離れておいてくれ」

「……わかった」

 

 そう言うと梓実は決闘盤をひっこめ、遊介の隣を通ってその場から離れていく。

 ──が、途中で立ち止まり──、

 

「……負けないでね」

 

 遊介は背中越しに親指を立てて見せた。

 

「覚悟はいいな」

「問題ありません。さぁ! 開演です!」

 

決闘(デュエル)!」

 

遊介 LP:4000

晶  LP:4000 

 

「私の先攻」

 

 決闘盤から五枚のカードを引き、目を走らせる。

 悪くない──問題なく展開できる手札だ。遊介は即座に頭の中で戦略を練り上げ、今後の展開を予想する。どの手札を切り、どのように動けばいつもの勝ち筋を辿ることができるか──数パターンのシミュレーションを素早く終わらせ、一枚の手札に指をかける。

 

「私は手札から……このモンスターを召喚!」

 

 言うなりそれを決闘盤にセットする。同時に決闘盤がモンスターのソリッドビジョンを映し出した。

 そこ処に現れた一体の獣──ライオンのような体躯に獰猛な視線を飛ばし、さらにその双眸の上に一本の角が伸びている。

 

「『幻爪の王ガゼル』!」

 

 ガゼルは一声吠え、晶を威圧的に睨みつけた。が、その姿に遊介は微妙な違和感を感じる。

 目の前のガゼルは決闘盤が映し出すソリッドビジョン──映像のはずなのだが、嫌に解像度が高い。体毛の一本一本が異様にリアルだった。

 

 ──やっぱり──実体化してる──?

 

「気をつけろ遊介」

「うわっ」

 

 いつの間にか隣に幻惑の魔術師が立っている。唐突な登場に遊介は驚くも、なんとか平静を装った。

 

「このデュエル、何かがおかしい」

「今更でしょ」

「そうじゃない。思っていた以上におかしいと言う意味だ」

「……わかった。気を付けるよ」

 

 再び晶に視線を飛ばす。幻惑の魔術師の姿は見えていないのか、特に驚いた様子も見せない。

 

「ガゼルの効果発動。デッキから、『大翼のバフォメット』を手札に加えます」

 

 出だしは好調──遊介は激しく鼓動する心臓をよそに、すました顔で手札を探る。目の前の晶は明らかに正気を失っている。何をしてくるかわかったものじゃない。

 晶も腕利きの決闘者と聞く。実際暴徒化した生徒を抑え込んでいる。手加減ができる相手ではない。

 

「続いて手札から『融合』を発動! 場の『幻爪の王ガゼル』、『大翼のバフォメット』を墓地へ!」

 

 ──開幕から、全力で行く!

 

「──“交わる二対の獣王よ、その影を重ね合わせ、幻獣となりて新たなる姿を顕せ”!」

 

 ガゼルとバフォメットの姿が溶けあい、それぞれの影の中へと崩れていく。やがて影は交わり合い、その中から一回り大きい獣が立ち上がった。

 

「融合召喚! 『幻獣王キマイラ』!」

 

 二つの頭を持つ巨大な獣王がその場に現れ、大きな咆哮を響かせる。その姿を見た晶は一瞬たじろぐような仕草を見せるが、すぐに挑戦的に睨み返して見せる。

 

「『幻獣王キマイラ』……キマイラデッキか」

「……さて、まだまだ終わりません。融合素材として墓地に行った『幻爪の王ガゼル』の効果を発動! デッキから幻想魔族モンスター一体を手札に加えます。私が手札に加えるのは……『ミラー ソードナイト』!」

 

 不敵に笑いながらデッキからカードを手札に加える。その様子を見て晶は静かに口を開いた。

 

「そのカードは……」

「幻想魔族を見るのは初めてですか?」

 

 遊介は手の中でカードを素早く裏返し、カードの絵柄を晶に見せつける。

 

「結構! 幻想魔族は幻惑の種族。あっと驚かせてご覧にいれましょう。さて、『幻獣王キマイラ』の効果を発動!」

 

 挑発的に天に指を向け、ぱちんと鳴らして見せる。それに呼応するように幻獣王キマイラが一声吼え、翼が淡く光始める。

 

「このモンスターが融合召喚に成功したターンのエンドフェイズ時、あなたの手札をランダムに一枚捨てさせてもらいます。行け! キマイラ!」

 

 瞬間、キマイラの両翼から閃電が走り、晶の手札に着弾する。

 

「くっ!」

「さらに手札を一枚伏せ……ターンエンド。そして幻獣王キマイラの効果処理!」

 

 瞬間、晶の手札が一枚ひとりでに飛び出し、決闘盤の墓地へと飛び込んでいく。

 

「おのれ……」

「手札五枚からスタートしてもらいますよ。ではあなたのターン!」

 

 そう言って遊介は芝居がかった動作で晶を指し示す。その先で晶は忌々しげに渋面していた。

 

TURN 1 → 2

●遊介 LP:4000

場:『幻獣王キマイラ』

手札:2 伏せ:1

 

●晶 LP:4000

手札:4 

 

「僕のターン」

 

 仏頂面に戻った晶が手札を引く。手札を一瞥すると、そのまま一枚の魔法カードを決闘盤にセットする。

 

「手札から、フィールド魔法発動」

 

 瞬間、地面が大きく揺れる。その場の空気が冷気を放つように緊張感を持ち始める。

 

「……!」

「遊介……来るぞ!」

 

 そして、唐突に緊張が弾ける。瞬きの刹那に周囲の空気と共にその姿が変わっていく。校舎は古びた石材に変わっていき、太陽は沈んで妖しい輝きの月が代わりに昇る。グラウンドの土は急速に乾いていき、地面を覆うように風化した石畳が広がっていく。それを伝って重苦しい空気が遊介の首を締め付けるように感じられた。

 

「赫き瞳は魂の罪を見据える。さぁ──恐怖しろ! これより貴様の魂は蛇龍の俎上へ上がる! 『蛇眼神殿スネークアイ』発動!」

 

『蛇眼神殿スネークアイ』/フィールド魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このカードの発動時の効果処理として、自分の手札・デッキ・墓地から「スネークアイ」モンスター1体を永続魔法カード扱いで元々の持ち主の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く事ができる。

(2):自分フィールドの炎属性・レベル1モンスターの攻撃力は1100アップする。

(3):1ターンに1度、相手がモンスターを召喚・特殊召喚した場合、自分・相手フィールドの永続魔法カード扱いのモンスターカード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分フィールドに特殊召喚する。 

 

「世界が……変わった……!?」

「モンスターだけではない……フィールド魔法まで世界に影響を与えている……!」

 

 幻惑の魔術師がそこで何かに気づいたのか、思案するように顎に手を置く。そして深刻な口調で遊介に告げた。

 

「今ここで展開されているデュエルはまやかしの映像などではない……? 全てが真実としてこの世に現出している……この特徴は……? いや……だとすればなぜこれを……彼が……」

「……どうしたの?」

「このフィールドも、召喚されるモンスターも全て真実──実体がある。ユースケ、攻撃を喰らうな。モンスターやフィールド魔法が真実になるということは、おそらくそのダメージもまた真実となって君を襲う!」

「……は?」

 

 握りしめた片手に一気に手汗が噴きだした。

 

「何それ」

「おそらくこれは特定の条件が揃うことで発動される魔術的な儀式……それに類する状況と言ったところか」

「何……なんだよそれ……」

「すまないが、私にもまだ詳しくはわからない。とにかくなんとかこのデュエルを切り抜けるぞ!」

「……」

 

 ──全てが真実になる? ダメージを実際に受ける?

 冗談じゃない。そんな危ないことしていられるか。

 そう思うと、無意識に手が動いた。手札を握っていない片手がゆっくりデッキに伸び──

 

「駄目だユースケ!」

「!」

 

 幻惑の魔術師に刺すように制止されはっとする。

 

「逃げられるような相手じゃない。それにここで逃げたら兎河嬢を危険に晒すぞ!」

 

 瞬間、対峙する晶と目が合った。その瞳には狂気が宿っており、真っすぐに遊介を見据えている。

 まるで射すくめられたかのような強烈な緊張感を覚えた。幻惑の魔術師の言う通り、ここで両手を上げたところでなんとかなる相手じゃないと本能的に理解する。

 

「……ッ!」

「『蛇眼神殿スネークアイ』の発動時の効果」

 

 晶が告げると、不意に場に一体の石像がせりあがってくる。それは一つの巨大な球体を頭部に掲げ、そこから獣の体が伸びているような異形だった。

 

「僕はデッキから、『スネークアイ・ワイトパーチ』を永続魔法扱いで場にセットする」

「モンスターを永続魔法扱いで……?」

「続いて手札から、『スネークアイ・オーク』を通常召喚」

 

 石像の前にさらにモンスターが現れる。こちらは石像と同じ赤い球体から巨人のような人型が生えている。しかし石像と違うのは体躯だけでなく、その体が緑色の炎で構成されていたことだった。ゆらゆらとゆれる焔の巨人は、黒い外殻をまとい、威圧感を放ちながらじっとキマイラを見つめている。頭部の球体がまるで眼球のようにこちらを見ているように感じられた。

 

「モンスターはどっちもレベル1……だが、フィールド魔法で攻撃力を上げているようだ。レベルの低さから来る召喚の容易さを活かして物量戦か?」

「いや……」

 

 遊介が深刻そうな顔をする。

 

「何か……来る!」

「『スネークアイ・オーク』の効果発動! 僕は場の『スネークアイ・オーク』と永続魔法扱いの『スネークアイ・ワイトパーチ』を墓地へ送る!」

 

 瞬間、二体の異形が一瞬で燃え上がり姿を消す。

 

「“審判の時来れり──神殿に座する守護神よ、蛇眼の光を以て、罪深き魂を燃やし尽くせ”!」

 

 空間が震える。大気が熱を帯び始め、空に昇った月に雲がかかる。薄暗くなった場に──小さな火が灯った。

 

「現れろ──『蛇眼の炎龍(スネークアイズ・フランベルジュ・ドラゴン)』!」

 

 瞬きの刹那、小さな火は激しく燃え上がり、その中からあの赤い蛇眼が現れる。蛇眼は燃え上がる炎にすくい上げられるように天に昇っていくと──そのまま炎柱が巨大な蛇龍の姿を取った。

 

「大きい……!」

「これが……彼のエースモンスターか!」

 

 蛇眼の炎龍は巨大な炎の体躯に龍の外殻を纏い、あまりにも巨大な両翼を広げた。

 圧倒的な威圧感。実際に質量を持った存在として相対すると、背中を嫌な汗が伝う。

 

「これより断罪を開始する。罪に塗れた魂に居場所は無い! 『蛇眼の炎龍』の効果発動!」

 

 瞬間、炎龍の蛇眼が一際妖しく輝く。その視線に射すくめられたキマイラは、即座にその動きを止め、体を強張らせる。

 

「キマイラ!」

「『幻獣王キマイラ』を永続魔法扱いで魔法罠ゾーンへ!」

 

 動きを止めたキマイラが石像のように色を失っていく。そのまま物言わぬ塊と化してしまった。

 

「……!」

「更に手札から、『コズミック・サイクロン』を発動。ライフを1000払い、お前の伏せカードを除外する!」

 

晶 LP:4000 → 3000 

 

「罠発動! 『天地返し』!」

 

 このまま除外されるくらいなら──と、遊介が罠カードを起動する。

 

「このカードは、自分のデッキの一番下のカードを手札に加え……その後、デッキ内の好きなカードをデッキの一番下に置きます」

 

 そう言いながらデッキからカードを選び出す。同時に場の罠カードが暴風にさらわれ姿を消した。

 

「……バトルだ」

 

 死刑宣告にも等しい宣言。遊介は強張った表情で炎龍を見上げた。

 

「来るぞ……!」

「……!」

「『蛇眼の炎龍』でダイレクトアタック!」

 

 炎龍が不気味に大口を開け、そこに青白い火球が膨れ上がっていく。

 

「“断罪の──爆炎龍咬波(バーンストーム)”!」

 

 炎龍から放たれた光線とすら言える火炎が遊介を襲う。炎のうねりは容易く遊介を飲み込み、その身を焼きつくさんと襲いかかった。

 

「うっ……わあぁぁあぁぁああぁぁああぁぁあっ!」

 

 遊介は絶叫し、宙を舞う。爆炎から解放された次の瞬間、地面に墜落して全身に痛みが走った。

 

遊介 LP:4000 → 1000 

 

「ユースケ!」

 

 即座に幻惑の魔術師が傍らに現れる。遊介を抱き起こそうとしたが実体の無い腕ではどうすることもできなかった。

 

「だ……い、じょうぶ」

 

 肩で息をしながら、なんとか立ち上がる。今の一撃で一気にライフを削られた。急速に迫ってくる敗北の実感に、嫌な汗が背を伝う。

 

「次のターンで息の根を止める」

「それは……なるほど、大きく……出ましたね」

「僕はカードを一枚伏せてターンエンドだ。最後の抵抗を許そう」

 

TURN 2 → 3

●遊介 LP:1000

場:『幻獣王キマイラ』(永続魔法化)

手札:3 

 

●晶 LP:3000

場:『蛇眼神殿スネークアイ』(フィールド魔法)/『蛇眼の炎龍』

手札:1 伏せ:1

 

「私の……ターン」

「大丈夫かユースケ、まだやれるか」

「なんとか……ね……。私は手札から、『ミラー ソードナイト』を召喚! そのまま効果発動。自身を墓地に送り、デッキから『大翼のバフォメット』を特殊召喚します」

 

 ソードナイトが煙となって姿を消し、その中から入れ替わるようにバフォメットが姿を表した。

 

「『大翼のバフォメット』の効果。デッキから──」

「リバースカードオープン」

 

 無情な宣告。同時にバフォメットに天から透き通ったぶどう酒が降り注いだ。

 

「『禁じられた聖杯』。『大翼のバフォメット』はこのターン、攻撃力が400ポイント上昇する代わりにその効果を無効化される!」

「くっ……」

 

 反撃の芽が摘まれてしまった。足元にまとわりついていた恐怖の感情が、少しずつ体を這い上がってくるのを感じる。晶は次のターンで仕留めると宣言した。ここで何かできなければ──が──

 

「……私はカードを一枚伏せ、ターンエンドです」

「エンドフェイズ時、『蛇眼の炎龍』の効果発動」

「!」

 

 冷たく晶が告げると、炎龍の蛇眼が輝く。すると、遊介の場で物言わぬ塊と化していたキマイラが動き出し、軽やかに飛び上がって炎龍の傍に着地した。

 

「コントロール奪取効果……!」

「無力化した敵を操る効果か……! 厄介だな……!」

「お前の場にいた抜け殻は我が眷属となった。そのまま僕のターンだ」

 

TURN 3 → 4

●遊介 LP:1000

場:『大翼のバフォメット』

手札:2 伏せ:1

 

●晶 LP:3000

場:『蛇眼神殿スネークアイ』(フィールド魔法)/『蛇眼の炎龍』/『幻獣王キマイラ』

手札:1 

 

「終わらせてやる」

 

 静かに晶は告げ、カードをドローする。

 

「『蛇眼の炎龍』の効果をもう一度発動。『大翼のバフォメット』を永続魔法化させる!」

 

 キマイラに続き、今度はバフォメットがその動きを止め、色を失っていく。

 

「場ががら空きに……」

「なら……! 手札の『タロンズ・オブ・シュリーレン』の効果! バフォメットを手札に戻し、このカードを守備表示で特殊召喚!」

 

 バフォメットが完全に動きを止める直前に飛び上がり、入れ替わりに異形の四肢を持つ魔人が場に着地した。

 

「炎龍の効果をかわしたか……だが!」

 

 晶が手札を一枚、決闘盤に叩きつける。すると、炎龍のそれと同じ蛇眼がその場に現れた。

 

「状況は変わらん! 手札から『反逆の罪宝-スネークアイ』を発動! 今度は『タロンズ・オブ・シュリーレン』を永続魔法化させる!」

「魔法カードでも同じことができるのか!?」

「いや……それでいい!」

 

 今度は遊介が不敵に笑う番だった。引っかかったなと言わんばかりに口角を釣り上げる。

 

「その瞬間、シュリーレンの効果を発動! 自分のカードを対象とする効果を相手が発動した時、このカードを手札に戻し……あなたの場のモンスター一体を対象に破壊する!」

「!」

 

 シュリーレンのカマキリのような腕に光が集まっていき、それが一気に解放される。それは蛇眼を避け、その奥の蛇眼の炎龍へ殺到し破壊した。炎龍は地響きのような断末魔を上げ、その場に倒れ込み──一瞬で燃え上がった。

 

「よし! 上手いぞユースケ!」

 

 それを見て幻惑の魔術師が大げさにガッツポーズを取る。

 シュリーレンは相手ターンにしか特殊召喚できない。相手が攻勢を仕掛けてきた瞬間に飛び出させ、効果に意識を向けさせまいとした遊介の罠に、晶は見事に引っかかった形になる。

 

「……などと、考えているんじゃないだろうな」

「えっ」

「『蛇眼の炎龍』の三つ目の効果を発動する」

 

 底冷えするような冷たい声が効果を宣言する。見れば、炎龍は破壊されたはずなのに燃え上がるだけでその姿は今だに消えていない。

 まさか──と遊介が思った瞬間、その中から二体の異形が飛び出し、炎龍の亡骸の前に着地した。

 

「『蛇眼の炎龍』が破壊された時、墓地から炎属性レベル1モンスターを二体特殊召喚する! 僕は墓地から『スネークアイ・オーク』と『スネークアイ・ワイトパーチ』をそれぞれ守備表示で特殊召喚!」

「そんな!」

「さらに『スネークアイ・オーク』の効果! 今特殊召喚した二体を墓地へ送り──」

 

 叫び、再び爆炎が立ち昇る。その中から、あの蛇眼がのっそりと現れ──再び、場に巨大な蛇龍が現れた。

 

「再び『蛇眼の炎龍』を特殊召喚するッ!」

「炎龍が……」

「蘇った……!?」

「万策尽きたな我妻! 今度こそ断罪の時だ! くく……はははははははははははッ!」

 

蛇眼の炎龍(スネークアイズ・フランベルジュ・ドラゴン)』 3000/2500

このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

①:自分か相手のフィールド(表側表示)・墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを永続魔法カード扱いで元々の持ち主の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。

②:相手ターンに、フィールドの永続魔法カード扱いのモンスターカード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分フィールドに特殊召喚する。

③:このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分の墓地から炎属性・レベル1モンスター2体を特殊召喚する。 

 

「バトルだッ! 罪を抱いて燃え尽きろッ! 『蛇眼の炎龍』でダイレクトアタック!」

「ッ! 手札から『幻蝋館の使者』の効果を発動!」

 

 炎龍が再び大口を開け、火球が見えた瞬間に手札のカードを切る。

 

「このカードは相手モンスターの攻撃宣言時に手札から特殊召喚される! そして……このカードが戦闘を行う場合、その二体は……破壊されないッ! う、わあああぁぁああぁぁあああああッ!」

 

 手札から現れた蝋燭の頭を持つ紳士が炎龍の攻撃を受け止める。しかし衝撃までは殺しきれず、遊介は後方へ吹き飛ばされた。

 

「……ち、勝負を急ぎ過ぎたか……」

 

 それを見た晶は忌々しげに呟く。その視線の先では、遊介が立ち上がり、肩で息をしながらもすました顔をして見せていた。

 

「まぁいい。状況は今だ優勢だ。……ターンエンド」

 

TURN 4 → 5

●遊介 LP:1000

場:『幻蝋館の使者』

手札:2 伏せ:1

 

●晶 LP:3000

場:『蛇眼神殿スネークアイ』(フィールド魔法)/『蛇眼の炎龍』/『幻獣王キマイラ』

手札:1 

 

「私の……ターン」

 

 デッキに指をかける。カードを、引く──

 

「……」

 

 ──引けない。

 指先が震え、カードを引こうとする手も覚束ない。

 敗ける。

 

 そう思った瞬間、鳩尾のあたりまでで食い止めていた恐怖が一気に頭の先にまで駆け上ってきた。手札は残り二枚。この中でさらに展開を繋げることができるカードは──、

 

「……ユースケ?」

「……駄目だ」

 

 視界が揺れる。絶望感が遊介の思考を浸食していく。それまで頭の中で構築されていた戦略が黒く塗りつぶされていくようだ。

 

「この状況は……もう……」

「ユースケ」

「……どうにも、ならない」

 

 俯いてしまう。手札自体はある。が、それでどうにかなる状況ではない。シュリーレンによる炎龍の効果破壊は乾坤一擲を賭す一手のつもりだった。が、あまりにもあっさり切り返されてしまった。今度こそ手詰まり──

 

「……いや、まだだ」

 

 声が飛ぶ。

 ──幻惑の魔術師は、今だ諦めていなかった。

 

「まだ終わりじゃない。まだ……やりようはあるはずだ」

「無理だよ」

「私は君が強いことを知っている。君ならなんとかできるさ」

「そんなこと言ったって……」

「信じられないか?」

「この状況をどうにかできるって言うの? 無理だよ……」

「なら、代わりに私を信じてみたまえ」

「は?」

 

 顔を上げる。その先では、幻惑の魔術師が腕を組んでこちらを見据えている。蛇眼の炎龍の放つ光を背負ったその姿は、後光が差しているように見えた。

 

「私は君を信じている。君が強いことも知っている。だから大丈夫だ。騙されたと思って、もう少し頑張ってみないか。心配いらない。君は強い男だ」

「……どうして」

「?」

「どうして、君はそこまで俺を信じてくれるの」

「君こそ、どうして私を信じてくれないんだ?」

 

 幻惑の魔術師がそう言う。顎に手を置き、なんでもないように言うが、仮面の向こうでは笑っているような気がした。

 

「どうした、お前のターンだぞ!」

 

 晶の声が飛ぶ。それに幻惑の魔術師は振り返り、言葉を続けた。

 

「そうだユースケ。まだ君のステージだ! お客を退屈させてはいけないぞ?」

「……」

「諦めるな。君が舞台に立ち続ける限り、きっと上手くいく!」

 

 何故だかわからないが。

 この言葉は信じてもいい気がした。

 

「……わかった」

 

 もう一度、大きく深呼吸をする。

 

「失礼しました! まだ舞台は終わりません。行きましょう……ドロー!」

 

 その瞬間、遊介の指先に何か温かい感覚が伝う。

 引いたカードを見てみると、それは──

 

「! ……なるほど……ユースケ、やっぱり君はエンターテイナーだ!」

 

 ──『幻惑の魔術師』だ。

 

「こ~うなると話が変わってくるなァ! 行こう相棒、ここから先は、私達の番だ!」

 

 カードを引いた遊介の先で、幻惑の魔術師が両腕を広げて見せる。そうして肩越しに両者が見合う。

 ──やってみせろよ、奇術師。

 そう言っているように見えた。

 ──いいだろう。

 

 完璧に演じ切ってやる。

 

「罠発動! 『ダブル・フッキング』! 私は手札の『タロンズ・オブ・シュリーレン』を墓地に送り、墓地の『ミラー ソードナイト』と『タロンズ・オブ・シュリーレン』を特殊召喚!」

 

 高らかに宣言する。

 幻惑の魔術師の効果テキストを読み込んだ遊介の頭の中では、既に新たな勝ち筋が急速に組み上げられていった。場にモンスターが三体並んだ所で、遊介は幻惑の魔術師に目くばせする。

 

「行けるか」

「あぁ。行こう……私は場の『タロンズ・オブ・シュリーレン』と『幻蝋館の使者』を墓地へ!」

 

 二人の奇術師がにやりと嗤う。

 

「さぁ……契約だ! 君は何を望む! 何を差し出す!? 心の望むままに、何を喚いて踊り散らす!」

 

 幻惑の魔術師が芝居がかった動きで朗々と声を張る。それと同時に、宣言された二体のモンスターが溶けるように煙に姿を変え、遊介と幻惑の魔術師の周囲に漂い始める。

 

「──“契約は果たされた! その契りに依りて、幻惑の微睡から姿を顕せ”!」

 

 遊介がカードを決闘盤に叩きつける。

 

「『幻惑の(ナイトメア)』」

「『魔術師(マジシャン)』!」

 

 瞬きの刹那、一瞬で歪んだ空間に亀裂が入る。世界を叩き割るように、実体を得た幻惑の魔術師が躍り出た。

 

「『幻惑の魔術師(ナイトメア・マジシャン)』……?」

「幻想魔族の上級魔術師にして、一流の奇術師です。舞台はいよいよメインへ突入します!」

「だからどうした。『蛇眼の炎龍』の攻撃力は3000。『幻惑の魔術師』では──」

「バトルです!」

「何」

 

 遊介が鋭く宣言する。驚愕した晶が顔を上げると、シュリーレンが飛び出してきていた。

 

「まずは『ミラー ソードナイト』で『幻獣王キマイラ』を攻撃!」

「何……? 攻撃力が足りないぞ!」

「それに合わせて、『幻惑の魔術師』の効果を発動! 自身以外のモンスターが攻撃する際、フィールドのカード一枚を破壊します!」

 

 瞬間、『幻獣王キマイラ』が爆散する。爆風に晶は腕で顔を庇うが、遊介は静かにそれを見つめていた。

 

「第二撃」

「!」

「『幻惑の魔術師』で『蛇眼の炎龍』を攻撃!」

「正気か? 何を考えている!」

「ご心配なく。『幻惑の魔術師』は戦闘を行う時、その二体のモンスターは戦闘では破壊されません。さぁダメージステップ!」

 

 遊介が指をさし、小気味よく鳴らす。それに呼応して幻惑の魔術師が飛び出した。

 

「“幻・想・奇・術(ナイトメア・マジック)”!」

 

 幻惑の魔術師が錫杖を振ると、連鎖反応的に炎龍の体躯が爆発を起こす。が、まるで効いているいるように見えない。それどころか、炎龍からの反撃を受けて幻惑の魔術師は後方へ大きく飛び退いた。

 

遊介 LP:1000 → 500 

 

「……ふざけているのか?」

「滅相もない」

 

 遊介が口元に指をあてる。片目を閉じ、挑発的な視線を投げかけた。

 

「……仕掛けは既に動き出しています」

「なんだと?」

「さぁ、一瞬ですよ。見逃されないよう。スリー……ツー……」

 

 その時。

 炎龍が晶の命令を受けずに動き出した。はっとした晶が顔を上げると、

 

「ワン」

 

 炎龍が立ち位置を変え、晶と向き合った。

 

「何……!?」

「『幻惑の魔術師』の効果。このモンスターと戦闘を行ったモンスターはダメージステップ終了時、その魂は虜となり、傀儡と化すのです」

「貴様っ……!」

 

 渋面する晶。それに向き合う遊介の笑みはどこまでも妖艶で、危険な色気すら感じられた。

 

幻惑の魔術師(ナイトメア・マジシャン)

2500/2000

①:このカードがモンスターと戦闘を行う場合、その2体はその戦闘では破壊されない。

②:このカードが相手モンスターと戦闘を行ったダメージステップ終了時に発動できる。その相手モンスターのコントロールを得る。

③:1ターンに1度、このカード以外のモンスターが攻撃するダメージステップ開始時に発動できる。フィールドのカード1枚を破壊する。 

 

「さぁ、幕引きです」

 

 ずっ……と炎龍が動き、晶を見下ろす。

 

「『蛇眼の炎龍』でプレイヤーにダイレクトアタック! “断罪の──”」

「……!」

「“爆炎龍咬波(バーンストーム)”!」

「う……っおおおおおおおああああっ!」

 

晶 LP:3000 → 0 

 

 ***

 

「うっ……く」

 

 決着。今度こそ力を失ったカードがグラウンドに散らばり、それに伴い世界が元の形を取り戻していく。実体化したモンスター達は消えていき、狂暴化していた決闘者達も大人しくなっていく。正気を取り戻していく世界の中、遊介は限界を迎えたようにその場に座り込んだ。

 

「見事だったぞ」

 

 そんな遊介を幻惑の魔術師が見下ろす。

 

「……ありがと」

 

 緊張の糸が切れたのか、振る舞いを取り繕うこともせず、疲れ切った表情を遊介は向けた。

 

「なんだったんだろ、あのカード」

「わからん。少々心当たりが無いこともないが──私の知っているそれとは大きく異なっている」

「そっか」

 

 俯き、息を整える。

 

「……さてユースケ」

「何?」

「契約の話をしよう」

 

 遊介が顔を上げる。幻惑の魔術師の表情は仮面と逆光のせいでうかがい知れない。しかし、声の調子からふざけているわけではないということはわかった。

 

「……契約?」

「私が今日ここを訪れたのは、君との契約に基づき、その代償をいただくためだ。さぁユースケ、君は代償をいかに私に提供してくれるのかな?」

「……は?」

 

 幻惑の魔術師が手を差し伸べる。

 我妻遊介、十七歳の秋。それは、後に続くあまりにも過酷で──しかし、遊介にとってはあまりにも大切な数か月の幕開けとなった。

 

 

 




デュエル一回ごとに書き溜めて投稿していこうと思っています。まずは一旦ここまで。続きを期待しててくださいね~。
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