めっっっっっちゃ怪しいカードの精霊が契約契約って騒がしい 作:「めっ契」製作委員会
「はぁ……はぁ……畜生……薄情モンどもが……」
袖花市西部、河川敷。
既に日は沈み、夕日の残光も薄れて暗くなってきた頃。街の西部を縦断する大きな川は静かに流れ、静謐な空気を醸し出している。
その川に架かる袖花大橋の下で、一人の男が荒い息をしていた。
「おやおや……惨めだな……」
「あ……?」
不意に声がする。声がした方を見ると、フードを目深に被った人間が雨の中傘も差さずに立っている。日が沈んでいる上に雨まで降っているせいで表情はうかがい知れず、男か女かすらもわからない。しかし、男は目の前の人間がフードの下で薄ら笑いを浮かべていることだけは感じ取った。
「なんだァてめェ……」
「袖花西高校、“伝説の番長”鬼原虎二……仲間の裏切りに遭い他校との抗争に敗れる、といったところか」
「あぁ!?」
鬼原と呼ばれた男は嘲るように言うフードに殺意のこもった視線を向ける。
「なんだてめェ、おれを笑いにでも来たのか? 消えろ、ぶっ殺すぞ!」
「とんでもない……私はむしろ、お前に願いを叶えてもらいたいのだ」
「なんだと?」
鬼原が怪訝な視線をフードに向けると、フードは懐から一枚のカードを取り出した。
「願ってみたまえ──契約だ。これは君の願いを叶えるもの。ただでは無いがね。しかし、それでも君は願いのために何を差し出す?」
フードとカードを鬼原は交互に見つめる。そして──ゆっくりそれを手に取った。
『契約成立』
***
──二日後──。
「……」
文化祭での一件から数日後。あの一件で校舎は半壊し、袖高は封鎖が続いていた。
私立高校で発生した怪異、と街は大騒ぎになったが、数日もすると不思議なくらい落ち着きを取り戻し、既に日常を取り戻しつつある。
そんな平穏が戻りつつある街並みの一角。洒落た喫茶店の座席に遊介は着いていた。窓から差す西日は店内を穏やかに照らし、日没が近いことを知らせてくる。
学校の制服は着ておらず、代わりに私服のワイシャツにダブルのベスト、胸元にループタイを締める姿はより一層手品師らしいものであるが、反面表情は固く顔色も真っ青で残念な意味で遊介らしかった。
ここまで遊介が緊張しきった顔でこの席に座っている理由──それは──
「すまない、待たせた」
声がする。引きつった表情の遊介が顔を上げると、そこには晶がいた。頭に包帯を巻いており痛々しい見た目ではあったが、相変わらずのぶっきらぼうさで椅子を引き席に着く。
あの一件の後、晶は気を失って病院に搬送されたが、脅威的な回復力を見せ、二日後には退院してしまった。その後、何を思ったか遊介を放課後にいきなりこの喫茶店に呼びつけたのだった。
「や、やぁ……怪我の方は、大、丈夫……?」
「問題ない」
いきなり用件も聞かされず呼びつけられ、まさか先日の件の復讐でもされるんじゃないだろうか、と気が気でない。とりあえず話を振ってみたが、口から出た瞬間に失言だったとさらに顔に青みが増す。
「い、いやぁ大変だよね。授業もオンラインになっちゃってさ。あ、知ってる? B組の数学、通信環境が悪くて休講になったんだって」
「知ってるさ。僕のクラスだからな」
なんとか空気を変えようと遊介は話題を切り出すが、晶の振る舞いは変わらない。ますます遊介の表情は固まっていった。
「……それで、本題だが」
そんな遊介の心情を知ってか知らずか、晶は不愛想に話を切り出した。晶の視線に睨まれたように感じた遊介は萎縮して小声で返事を口から漏らした。
「先日の件だが、まずはすまなかった」
そう言って晶はいきなり頭を下げた。
「え」
目の前の光景に遊介は目を白黒させる。いきなり理解の追いつかないものを突きつけられたようにその場に固まった。
「え、ちょ……えっ」
「お前に危害を加えた。あれはこちらの落ち度だったからな」
「うん……え、あ……うん、大丈夫……です、だよ?」
混乱しきった頭でなんとか返事を絞り出すと、晶はゆっくり顔を上げた。その表情は相変わらずの仏頂面だが、確かな誠意がそこにはあった。
「俺を呼んだのって……もしかして謝るため?」
「第一にはそれだ。が、もう一つある」
そう言うと晶は鞄から一枚のファイルを取り出し、遊介に向ける。
「これは?」
「あの一件のあと行われた調査の資料だ。本来は一般に公開されるものじゃないが、お前は何が起こっていたのか知る権利がある。そう思ってな」
その一般に公開されない資料をなんで当然のように持っているんだろうか──と思いながら遊介はファイルを受け取る。その中からは一枚のカードの写真と、数枚の文書が出てきた。
「これは……カード?」
「そのカードはあの日学校で暴れた生徒が持っていたものだ。曰く、数日前に自宅に送り届けられたものらしい。差出人も不明、心当たりもなく、送り返そうと手に取ってから先の記憶はないそうだ」
「そんな非科学的な。漫画じゃあるまいし」
「僕もそう思う。だがこれ以上の情報は得られていない」
「そうだ、彼は何て言ってるの?」
彼とはもちろん文化祭で暴れたクラスメイトのことだ。なぜあんな凶行に走ったのか、動機を知りたかった。
「動機としては、学校の環境に対する不満
「
「本人もなぜあんなことをしたのかわかっていないらしい。学校に対し不満を持っていたのは確かだが、何も破壊したいとまでは思っていなかった、あのカードを手に取ってからの記憶がない、その一点張りだ」
「……」
「まだ錯乱しているだけの可能性もある。なんにせよ落ち着きを取り戻すまで事情聴取は続くだろうな」
晶はそう言うと椅子に深くかけなおし、いつの間にか供されていたコーヒーを口に運んだ。
「……」
「どうした」
「いや……なんだか、後味が悪いなって」
遊介が視線を落とす。そうしてカップに手を伸ばす。
「俺、彼のこと何も知らないんだ。せめて何か、自分にできることくらいは探すべきだったのかな……って思って……彼、どんな気持ちでいたんだろう」
「さぁな。わからないし、わかる必要もないだろう」
なんでもないように言った晶の言葉に、遊介の手が止まる。
「……ちょっと。その言い方はないんじゃないか」
じろりと見つめ返す。その視線の先で晶は涼しい顔をしていた。
「事実だろう」
「そういう態度が彼を追い込んだんじゃないの」
「だとしても今更僕達にできることはない」
「そうだけど……!」
「くどいぞ。とにかくこの話はここまでだ」
ぴしゃりと晶は言い放ち、遊介からファイルを受け取る。
「この件に関してはこちらでも調査を続ける。何かあったらすぐに警察に駆け込め」
「……わかった」
不満そうな顔をしながらも遊介は返事を放る。二人の視線がぶつかるが、そこには敵意──とまではいかないまでも、微妙な苛立ちが滲んでいた。
***
「しかしなんというか凄まじい奴だな彼は」
晶が店を出て行ってから少しして。不意に遊介の傍に幻惑の魔術師が現れる。
「まぁ錦家って言ったら街一番の名士だし……たぶん警察に知り合いがいたんじゃない? お高く止まっちゃってさ……」
そう言いながら遊介は口をとがらせる。晶の暴言に腹を立て、苛立ちを抑え込むようにコーヒーを飲み込む。
「なんだ、御曹司なのか彼は」
「この街は元々海運業で発展した所でさ。昔から錦家の人が街を動かしてるんだよね」
「なるほど、企業城下町か。で、その企業が彼の実家というわけだな」
そういうこと、と遊介は呟き、息をつく。
「まぁ、彼にも彼なりの事情があるんだろう。それよりユースケ!」
「契約の件なら知らないって言ったでしょ」
「またそれか……なぁユースケ。そろそろ面白くないぞ。私にも許容できるジョークとそうでないジョークがある」
「本当に知らないんだもん……」
あれから幻惑の魔術師はずっと遊介に付きまとっていた。曰く、かつて自身は遊介とある“契約”を交わしており、その代償を取り立てに来たのだ、と。
しかし遊介にそんな記憶は無く、二人の会話は水掛け論になっていた。
「ハァ~~~~~~嘆かわしい。私と長く会わない内にすっかりジョークの下手な男に育ってしまったのだな君は……失望したぞ」
「そんなこと言われたって……人違いじゃないの?」
「忘れるものか。あの一面のコスモスの花畑! 白い花弁の散るあの場所で私と君は運命的な出会いを果たしたではないか! 今でも目を閉じると思い出すぞ。あの時の私は君の姿を見て──」
「じゃやっぱり人違いだよ。俺はそんなところ知りません」
ぴしゃりと遊介が遮る。
「……本当に覚えてないのか?」
「うん」
遊介が何でもないように言う。何度も言っただろう、とでも言いたげな様子だ。それを見ると幻惑の魔術師は考え込むように顎に手を当てる。
「……何かしらの理由で記憶が欠落しているのか……?」
「あくまで人違いを認めない線で行くのね」
「決めたぞユースケ」
「何を」
「君が思い出すまで私は君と一緒にいよう」
「ああそう……」
うんざりしたように遊介は言うと、コーヒーを口に運び、次の瞬間盛大に吹き出した。
「えーーーッ! 嫌だ勘弁してよ!」
「君が覚えていない以上そうするしかないだろう! 諦めろ!」
「そんなことするくらいならいっそ教えてよ! 俺と君はどんな契約を交わしたっていうのさ!」
「言えん!」
「なんで!?」
「あの、お客様……」
横から声をかけられる。見ると、店員が奇人でも見るかのような目でこちらを見ていた。
「……あ、えーっ、と」
***
「すみませんでしたーッ!」
光の速さで荷物を纏め、会計のお釣りも確認せずに店を飛び出した。
どうも幻惑の魔術師は遊介にしか見えていないらしく、先ほどまでの遊介は傍から見れば一人で喚き散らかしていたように見えるのだ。それに気づくと遊介は耳まで真っ赤にしながら全速力でカフェを離れ、少し走った先にあった大きな公園のベンチに倒れ込んだ。
「……もうあそこ行けない……」
「まぁ……なんというか……気を落とすな、そんなこともあるだろうさ」
「き! み! の! せ! い!」
半泣きの表情で喚く。それに対して幻惑の魔術師は肩をすくめるだけだった。
「だいたい本当に何なの君……なんで俺にしか見えないの……」
「カードの精霊についても忘れてしまっているのだな」
「なんだよそれ……」
相変わらずの幻惑の魔術師に遊介はうなだれる。そのままベンチに身を預け、天を仰いだ。既に日は落ち、星がちらほら見え始めている。
「……デュエルモンスターズのカードには魂が宿っている。そしてたまに、その魂を知覚できる者が現れる。この資質を持っている者は滅多にいない。故にユースケ、人違いであるはずが無いのだ。君は私と契約を交わした。君がただそれを忘れてしまっているだけなのだよ」
「じゃあ教えてってば……どんな契約を交わしたって言うんだよ……」
「すまないがそれは言えない。君が君自身で思い出すことに意味がある契約内容だからな」
「そんなこと言っても……って」
すると突然、うんざりした表情で話していた遊介が深刻そうな表情に変わり、突然ベンチの背に飛び込むように身を隠した。
「うわ、最悪……」
「どうした」
幻惑の魔術師がベンチの裏を覗き込むと、遊介はその肩越しに広場の方を指さした。幻惑の魔術師が振り返ると、その先に学ランを着崩した粗暴な雰囲気の学生たちが現れ、広場の中央に集まってきていた。
「何やら柄の悪そうな連中だな」
「あの制服……袖西だ」
「袖西?」
「袖花西高校。ちょっと荒れ気味なとこなんだけど……うげ、結構いるなぁ……」
渋い顔をする遊介の視線の先で不良集団は数を増していった。公園内にはかなり広い広場があり、彼らがたむろするには丁度いいのだろう。
「なんか……多くない?」
「まるで一昔前の不良漫画のようだな。今でもこういう連中はいるものなのだな。ちょっと感激」
「うるさいよ」
あんな連中に絡まれてはたまらない──と遊介は身をかがめ花壇に身を隠しながらその場を離れようとする。しかし──
「おい」
背後から声をかけられた。びくりと大きく体を震わせ、ぎりぎりと首を回して振り返る。
「何してんだ、コソコソしやがって」
そこには、これまた学ランを来たバンカラな偉丈夫が街灯に照らされ立っていた。まるで漫画の中から飛び出してきた昭和の番長のような風体だ。
きゃーーーーーー。
遊介は心の中で絶叫し、口から悲鳴とも呼吸とも取れない微妙な息を漏らした。
「い、いいいいえ……何、も……?」
「
「あっ、鬼原さん! お疲れ様です!」
すると、広場の方に立っていた不良がこちらに気付き声を上げた。それが連鎖反応を起こすように他の不良たちも男に向けて挨拶を叫ぶ。
「オゥ、ご苦労。それよりお前ら、今コイツが物陰からコソコソ俺達を
「とんだシャバ僧ッスね!」
「“
不良たちは鬼原の低い声に呼応するように次々に叫びだす。すっかり興奮状態だった。
終わった──これはもう逃げられない──遊介の顔はどんどん青みを増していき、視界がぐらつく。
「おーおー
「ひぃぃぃぃぃ結構ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「チッ……
鬼原は不機嫌にそう言うと遊介の胸ぐらを掴み持ち上げる。すると、その表紙に遊介の鞄から
「あ? なんだお前……
「持ってないですぅぅぅぅぅぅぅ」
「ごまかすんじゃねェ! おいお前、今から俺と
「え……」
「お前が勝ったら解放してやるよ。だが俺が勝ったらお前のデッキと決闘盤を差し出してもらう!」
「そ、それは……!」
「わかったな? さぁ
押忍!と周囲の不良たちは返事を返すと、一糸乱れぬ動きで公園に散開していった。
「
「鬼原さんの
不良たちは美しさすら感じる動きで公園に陣を張るが、その表情は今から面白いものが見られると言わんばかりに興奮しきっていた。いつの間にか完成された不良たちの結界の中央に遊介は取り残されてしまう。
「ユースケ、これはやるしかないぞ」
「う、ううう……」
「ユースケ!」
「わ……わかったよぉ」
深く息をつく。
大きく吸った息を限界まで吐き出し、俯いた。
「……やれば……」
顔を上げる。するとその表情は直前までの泣きそうなものとは変わっていた。
「……やればいいのでしょう?」
「
決闘場面(デュエルシーン)はまだ創造(か)いてる途中なんでもう少し待機(ま)ってください夜露死苦ゥ!