めっっっっっちゃ怪しいカードの精霊が契約契約って騒がしい 作:「めっ契」製作委員会
「私の……ターン」
山札に手をかける。その手が固まった。
「どうした」
「……この一枚で、全てが決まる」
あの時──学校の校庭で晶と戦った時と同じ状況。絶体絶命の大ピンチ。
あの時は、この状況で『幻惑の魔術師』を引いて辛勝した。
今回も、同じことができるのか?
「……ヤバいかも」
そう思うと、今までなんとか抑え込んでいた「普段の遊介」が顔を出し始めた。この
「……大丈夫だ」
「!」
ふと、幻惑の魔術師が遊介の背後から肩に両手を置いた。
「信じろ、ユースケ。問題ない」
諭すように、囁くように、幻惑の魔術師は顔を近づけ、騒音にかき消されないように遊介の耳に言葉を流し込んでいく。
「君は最高のエンターテイナーだ。ならばこの場面、きっと最高の逆転劇が待っている。だから恐れるな、君はやれる。私が保障するとも」
その言葉は鼓膜を揺らし、聴神経を通して脳髄へ達する。それは今まさに顔を出そうとしていた本来の遊介を押し込め、自らにかけた
「俺なら……」
「そうだ……君ならできるとも……自分を信じたまえ……さぁ……カードを引くんだ……」
ふーっ、と大きく息をつき、カードを引く。遊介が引いたカードは──
「さぁどうだ? 何が引けた?」
「……」
「その顔……大したカードじゃなかったようだな。
鬼原が煽る。それにあわせて周囲もやかましく騒ぎ立てた。
「……」
瞬間、周囲の騒音を制するように遊介の
「!」
「私は墓地から『大翼のバフォメット』『融合』『幻惑のバリア-ミラージュフォース-』の三枚を除外します」
「三枚除外だ……?」
一転して怪訝な表情に変わった鬼原の目の前で、遊介は静かに宣言する。
そしてそのまま先ほど引いたカードを決闘盤に置く。瞬間、夜空のさらにその上から、光が差し始める。月光ではない。もちろん日光でもない。これは──と鬼原が顔を上げると、そこには、巨大な亀裂が生じていた。
「なんだ……!?」
「このモンスターを召喚するには、墓地からモンスター、魔法、罠カード三種を除外しなくてはなりません。さぁご注目! これより来るは
遊介が叫ぶ。その瞬間、亀裂が大きく裂け、そこから『グリアーレ三傑』よりも、『
「『至天の魔王ミッシング・バロウズ』召喚!」
このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードは自分の墓地からカード3種類(モンスター・魔法・罠)を1枚ずつ除外し、手札から特殊召喚できる。
②:このカードが手札から特殊召喚した場合に発動できる。モンスター1体と魔法・罠カード2枚を相手のフィールド・墓地から除外する。
「で……
「なんだありゃあ!? 根源的恐怖ゥ!」
「『ミッシング・バロウズ』の効果!」
あまりに巨大な大魔王の威光に周囲の不良やゴブリン達が慌てふためく中、鋭く宣言する。
「このカードが手札から特殊召喚された時! モンスター一体と魔法・罠カードを二枚除外することができます! 私が除外するのは──」
「
今日一番の鬼原の激。一瞬、その場が水を打ったように静まり返った。
「それがお前の切り札か。だが甘ぇ、甘ぇ甘ぇ甘ぇ! 忘れたのか! 俺の場には『
「!」
鬼原の場に置かれている永続罠から鎖が飛び出し、それをガボンガが手に取った。ガボンガは不安がる周囲を鼓舞するように鎖を振り回し、天に向かって放ると、鎖はみるみるうちに巨大化し、空の上からこちらを見下ろす『ミッシング・バロウズ』を簡単に拘束してしまう。
「お……おぉ!」
「とんだ
「流石だぜ鬼原サーーン!」
再び周囲が大歓声に湧く。
「さぁお前ら! X素材が取り除かれたぞ!?」
「
ガボンガが鎖を引く。するとバロウズはその引力に負け、地上へ引きずり降ろされていく。
「おい見ろよ! 降りてきたぜ!」
「所詮はアレもモンスターか、鬼原サンの敵じゃねぇ!」
やがてバロウズはゴブリンたちより小さく縮小し、一つの光球になってしまう。
「……!」
「勝負あったな」
それを見て鬼原と周囲の不良たちは盛大に笑い声を上げた。騒ぎ、エンジンを吹かし、騒音をかき鳴らす。その渦中で遊介は黙り込み、俯いてしまう。
「さぁ~て? もうどうにもならねぇだろ、
「これは……参りました。せっかく引いたカードだったんですが……」
「そうだなァ。んでこの状況をひっくりかえせるカードもねぇと来た! さぁ? これからどうしてくれるんだ?」
「えぇと……そうですね……」
遊介が顔を上げる。
「逆転、しましょうか」
「あ……?」
そう言うと遊介は決闘盤を構え直し、再び鬼原と向き合った。
その顔には、妖しい笑みが浮かんでいる。
「お忘れですか? 私が前のターン、手札に戻した
「……まさかお前」
瞬間、『タロンズ・オブ・シュリーレン』と『大陰陽師 タオ』が破裂するように雲散した。
「さぁ再びご注目! 私は二体のモンスターをリリースし、
「まさかお前……!」
「逆転劇はこれより始まる、真打は今から現れるのです!」
周囲に漂う煙が濃度を増していく。その先から遊介の視線だけが妖しく輝き、まるで鬼原を射すくめるような独特の緊張感を放ち始める。
「──『ミッシング・バロウズ』は
「その通りッ!」
闇夜に声が響く。
天から轟くように、
地中から響くように。
その気取ったような、はたまたゴブリンたちに負けず劣らずやかましいようなその声が。
「フフフ……フッハハハ……」
やがて、煙が人の形を取る。
「ハァーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハッ! さぁ三度参上だ! 『
「──『
幻惑の魔術師がその場に舞い降りる。
金色の衣装を纏った大男は三度月下に舞い降り、“鬼”に挑戦的に向き合った。
「なんて野郎だ……あんな大型を妨害をかわすためだけに使うとはよ……」
「さぁ、ここからはこちらの番です。攻めていきますよ……!」
「だが」
冷たい声が飛ぶ。
「所詮は
「墓地の『大陰陽師 タオ』の効果発動」
「あぁ!?」
遊介は涼しい顔で効果の発動を宣言する。瞬間、遊介の足元から影が伸び、そこから『タロンズ・オブ・シュリーレン』がずるりと立ち上がる。
「……だからなんだって──」
「バトルです」
喉元に鋭くナイフを突きつけるような宣言。遊介に気圧された鬼原は言葉を飲み込んでしまう。
場の空気はすっかり遊介に掌握されていた。
「『幻惑の魔術師』で『百鬼羅刹の大饕獣』に攻撃!」
「ダボがァ! 返り討ちだッ!」
両者が素早く対峙する。幻惑の魔術師は両腕に魔力を籠め、大饕獣は大口を開けてそれを迎え討つ。
「──“
「──“
ばくん、と音を立てて幻惑の魔術師は大饕獣に飲み込まれてしまう。
「ハハハハハハ! 脅かしやがって!」
「『幻惑の魔術師』はその効果によって戦闘破壊されません」
すると、大饕獣の後頭部から煙と化した幻惑の魔術師が現れた。
「そして──」
再び煙が形を取る。不気味に、不思議な空気を纏いながらゆっくりと振り返り、足元の獣を見下ろした。
「このモンスターと戦闘を行ったモンスターは、そのコントロールを奪われる! 『大饕獣』は……再びこちらのフィールドへ!」
「!」
幻惑の魔術師が腕を振る。すると周囲を漂っていた煙が鎖と首輪を作り出し、素早く大饕獣の首へと巻きついた。それに引かれ、のそりのそりと遊介の前に歩み出る。
「またかよ!?」
「逆転劇もいよいよ大詰め、さぁ……決着をつけにいきますよ」
「どうやるってんだ、俺の
そう。このターンでライフを削り切ることはできない。
『百鬼羅刹の大饕獣』は遊介の場に移動したことでその攻撃力は元の数値に戻る。そして鬼原の場にはモンスターが二体。このまま遊介が総攻撃に出たとして、4000もの直接ダメージを稼ぎだすことはできない。
そう──鬼原は考えたのだが。
「できます」
遊介は静かにそれを負け惜しみだと断じた。そして、今の今まで伏せられていた──最後の伏せカードを、切る。
「罠発動! 『スノーマン・エフェクト』!」
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。①:自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、そのモンスター以外の自分フィールドのモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする。このカードを発動するターン、対象のモンスターは直接攻撃できない。
「このカードは、自分フィールドのモンスター一体に他のモンスターの攻撃力を上乗せする効果を持ちます。対象は当然……『百鬼羅刹の大饕獣』!」
「な……!」
「
「代償としてこのターン、このモンスターで直接攻撃はできませんが……もう関係ないでしょう。『大饕獣』で『巨魁ガボンガ』に攻撃!」
幻惑の魔術師が手に持っていた鎖を引く。それに引っ張られ、大饕獣は宙へ浮かんだ。
「お……俺は……!」
そのまま幻惑の魔術師に、ガボンガめがけて振り下ろされる。
「俺は……」
巨大な影が迫る。その先には、ガボンガと──
「また……
そのまま、獣は鬼を踏みつぶした。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
***
「ま……負けた……」
「鬼原サンが……負けやがった……」
決着。遊介が荒い息で周囲を見回すと、それまで二人を囲っていた不良たちはにわかに統制を欠いたように慌て始めた。
いや、これは──困惑と言うより、失望──か。
「また
「しゃあんめぇ
彼らは口々にそう言うと、誰一人鬼原のことを心配することなく、蜘蛛の子を散らすようにどこかへと去っていった。
「……」
「不良の世界とは弱肉強食……強さこそが全てというわけか。こうなると虚しいものだな……」
「……あ、そうだ!」
遊介はそう言うと今だ倒れている鬼原の下へ向かう。カードは周囲に散らばっており、それに視線を走らせた。
「きっと……この中に……!」
見つけた。散らばったカードの中に一枚、妙な力を感じるカードがある。
あの時と同じだ──遊介はそれに手を伸ばす。
「待て、ユースケ」
と、それを幻惑の魔術師が制止する。
「君が触るのは危険だ」
そう言うと代わりに幻惑の魔術師がカードを拾い上げる。そしてそしてそれを眺めると、何か思案するように黙り込んだ。
「……ねぇ?」
「……」
「おーい」
「……」
「ねぇ」
「む。あ、あぁ、すまないな。とにかく、このカードの処理は私がしよう」
「できるの?」
「君に敗れたことで邪気がかなり薄まっている。これなら私でも祓えるさ」
「そう……」
「……う…ん……」
「!」
と、そこで鬼原がうめき声を上げた。
「大丈夫ですか」
遊介が鬼原を助け起こす。その表情には力が無く、とても番長のそれには見えなかった。
「あ……あぁ……ここぁ……どこだ……?」
「え……いや、どこって……」
意識を取り戻した鬼原の返答は要領を得ない。なにやらぼんやりとしている。
「……自分が今まで何をやってたか、わかります……?」
「今まで……? いや……確か俺は……他グループとの抗争に敗けて……それから……!」
そこまで呟くと、突然鬼原は覚醒したように立ち上がる。
「そうだ! 思い出した! 河川敷で妙なカードを押し付けられて……! それから……どうしたんだっけか……」
「妙なカード?」
「そうだ、よくわかんねぇやつからよくわかんねぇカードを押し付けられて、そっから記憶がねぇ……見たところ、ここで暴れてたって感じか」
「えぇと……まぁ……そう……です」
「そうか……まさかお前は」
「暴れてたあなたに絡まれてた者です」
「あぁ……そうだったか、迷惑かけたな」
「いえ……」
「ユースケ」
背後から幻惑の魔術師が声をかけてくる。見ると、散らばっていた鬼原のデッキを集めなおし、こちらに差し出していた。
「もうカードに邪気はない。彼に渡してやってくれないか」
「……うん。あの、これ……」
「あん?」
鬼原は遊介に差し出されたデッキを受け取る。そこに描かれている小鬼達を怪訝そうに見つめた。
「さっきまで、あなたが使っていたカードたちです。よければ、その」
「……『
鬼原はそう言うとデッキを受け取り、立ち上がった。その時、二人の頭上から光が差した。見ると、先ほどまで故障していたのか点いていなかった電灯が二人を照らしている。
「うわ……眩し……」
「さて……じゃ、俺は行くかな。迷惑かけたな。お前、名前は?」
「我妻……遊介です。あの、行くってどこへ……?」
「さぁな……どこへ行こうか。仲間も、舎弟も……全部無くなっちまったが……また新しい
「……そう、ですか」
じゃあな、と鬼原は軽く言うと、夜の街並みへ消えていった。
***
「う~むすっかり夜も更けてしまったな」
「なんというか厄日だったよ……」
先ほどまでの喧騒から一転、静寂に包まれた公園で遊介は息をつく。幻惑の魔術師のいう通り、既に時間は深夜に迫っており、あたりはすっかり暗くなっていた。
「まさか再びあのカードを持っている者と遭遇するとは……ツイてなかったな」
「きっかけを作ったのは君だけどね」
恨めしそうに言う遊介をふと、幻惑の魔術師が静かに見下ろした。
「……何」
「なぁ、ユースケ。あのカードだが」
「え? ……うん」
「もう少し、調べてみないか?」
「え?」
「彼の口ぶりから察するに、あのカードは何者かによってこの街にばら撒かれているようだ。恐らく、今後もこの間のような事件が起こりかねない」
「うん……まぁ、そうかもね……」
「そこでだ。次回以降も他の者が対処する前に我々でなんとかしてしまう。そうすれば、今回のようにあのカードの情報は我々が得ることができるだろう」
「え……嫌だけど……」
「そこは首を縦に振るところじゃないのか!?」
「なんでそう思えるのさ……第一、俺にはあのカードを追う理由がないだろ」
「理由ならある」
遊介の言葉を遮り、幻惑の魔術師が指を立てる。
「文化祭での君の同級生、そしてさっきの番長……二人とも、カードを手に入れた前後の記憶が無くなっているのだ」
「……まさか」
「ユースケ。君は……」
「俺があのカードに既に手を出してるって言いたいのか!」
焦ったような表情で遊介が立ち上がる。
「可能性が無いとは言えない。現に君は記憶の一部を失っている。あのカードは君の記憶の手がかりになるかもしれんのだ」
「そんな……怖いこと言うなよ!」
今度は遊介が幻惑の魔術師の言葉を遮った。そうして乱暴に鞄を担ぎ上げる。
「何度でも言うけど! 契約の話は絶対に人違いだから! じゃあ仮に俺があのカードに手を出していたとして、暴れてないのはなんでなのさ」
「そう。そこだ。彼らと違い君は正気を失っていないように見える。兎河嬢や晶君の様子を見るに、周囲の人間にも違和感を抱かれない程度には君の精神は正常だ。他に何か、別の要素があるはずなのだが──」
「そんなの知らないって……とにかく、俺はもう帰るから」
話を無理矢理切り上げると、遊介は幻惑の魔術師の返事も聞かず、踵を返して公園を後にした。
「……まぁ、君の気持ちはわかる。だがユースケ」
そんな遊介の背中を見つめながら、幻惑の魔術師が呟く。
「それでは困るのだよ」
消えかかっていた街灯が再び限界を迎える。そうして幻惑の魔術師は暗闇の中に消えた。
ゴブリンライダー、描写が大変でした
今後もっと大変かもしれないテーマが控えているので頭を抱えています。