めっっっっっちゃ怪しいカードの精霊が契約契約って騒がしい   作:「めっ契」製作委員会

8 / 10
演目8:High and more high / ???vs天盃龍

●国定 LP:4000

●梓実 LP:4000 

 

天盃(てんぱい)……(りゅう)

「さぁ展開していくぞ! えーと、まずは……」

 

 国定は元気に宣言しつつ、手札のカードを検め始める。

 梓実の首筋に汗が伝う。なんだか嫌な予感がした。

 

「『天盃龍パイドラ』の効果! このカードが場に出たとき……カードをデッキから手札に加える!」

 

 国定はそう言いながらデッキからカードを元気に引き抜く。しかしそのままカードを見つめながら黙り込んでしまった。

 

「……どうしたの?」

「何って効果の確認さァ。きちんと効果を把握しておかないと、勝てるものも勝てないだろ?」

「……」

「よし発動だ! 俺は手札からこのカードを発動する!」

 

 そう言いながら今引いたカードを決闘盤(デュエルディスク)に置く。すると、にわかに空模様が怪しくなってくる。

 

「な……何……?」

 

 次は地面が揺れる。これは──この状況は──

 

「まさか……!」

 

 あの時と同じだ。遊介と晶が戦った時と同じように、決闘(デュエル)が現実になっている。梓実にとってはまだ二度目の遭遇である事態に生唾を飲んだ。

 それと同時に、地面を突き破るように三本の柱が出現する。それぞれ先端に三色の炎を灯し、そしてそれらを照らすように空では雷鳴が響いていた。

 

「フィールド魔法……『盃満ちる燦幻荘(さんげんそう)』!」

 

『盃満ちる燦幻荘』 / フィールド魔法

このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

①:このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分メインフェイズ1の間、自分フィールドのドラゴン族・炎属性モンスターは相手が発動した効果を受けない。

②:自分メインフェイズに発動できる。デッキから「天盃龍」モンスター1体を手札に加える。その後、自分の手札を1枚選んで捨てる。

③:バトルフェイズ中にこのカードが破壊された場合、自分フィールドのドラゴン族Sモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を倍にする。 

 

「っ……ずいぶん派手なフィールドだね」

「『盃満ちる燦幻荘』の効果! デッキから『天盃龍』モンスターを手札に加えて、その後手札を一枚選んで捨てる。え~と……こいつだ! 『天盃龍チュンドラ』を手札に! さらに『チュンドラ』の効果! こいつを特殊召喚だ!」

 

 場に二体の龍が並び立った。見たところ片方はチューナー──シンクロ召喚を用いるデッキか。

 

「さァ行くぜ! 俺は『天盃龍パイドラ』に『天盃龍チュンドラ』をチューニング! シンクロ召喚! 七つ星龍だ(チーシィンロン)! 『燦幻昇龍(さんげんしょうりゅう)バイデント・ドラギオン』!」

 

 三本の柱の中心に稲妻が走り、その中から双頭の龍が現れる。龍はそれぞれの頭で高らかに咆哮し、ゆっくりと威厳ある動きで梓実を見下ろした。

 

「うおすっげかっこいいじゃないの!」

「……」

「さ~て……『バイデント・ドラギオン』の効果! こいつがシンクロ召喚した時、墓地からモンスターを……『パイドラ』を特殊召喚する!」

「後続を呼んだか……!」

「そして俺はカードを二枚伏せて……ターンエンドだ。さァ梓実ちゃんのターンだぜ!」

「……」

 

 ここまで、国定の様子を慎重に観察していた梓実が結論を下す。

 恐らくこの男──決闘(デュエル)に慣れていない。

 ぎこちない決闘盤の操作、やや迷いを感じるカードの展開──、正気を失っていることも含め、カードを使うというよりカードに使われている。

 そこはつけ入る隙になる。この勝負──攻め時を確実に逃さないことが求められるだろう。

 

「あたしのターン」

 

TURN 1 → 2

●国定 LP:4000

場:『盃満ちる燦幻荘』(フィールド魔法)/『燦幻昇龍バイデント・ドラギオン』『天盃龍パイドラ』

手札:1 伏せ:2

 

●梓実 LP:4000

手札:5 

 

「さぁ、梓実ちゃんはどんなカードを見せてくれるのかな?」

「あたしは手札から……」

 

 国定の挑発を無視しながら、素早く展開ルートを頭の中で組み上げる。相手の盤面上に存在するカードを見ながら、攻撃を仕掛けるまでにクリアしなければならない課題を整理し、それを達成しながら辿り着ける盤面を考える。そして、そこに辿り着くための展開ルートは──、カードをドローし、手札を一枚決闘盤に置くまでの一瞬に、最終確認をして行動に出る。

 

「……『重騎士(センチュリオン)プリメラ』を召喚!」

 

 カードが置かれ、梓実の前に一人の少女が現れる。長身な梓実が傍にいることを差し引いても小柄な体躯に真紅の装束、その上から白銀に輝く鎧と兜を纏い、鍵か旗かといったような巨大な武器を携え、目の前の巨大な龍を前にしても恐れることなく、不敵に見上げ返してみせる。

 梓実の相棒、『重騎士(センチュリオン)プリメラ』。遊介から決闘の手ほどきを受けた時から、ずっと梓実と共に戦ってきた仲間である。

 ──が。

 

「……やっぱり」

 

 そんなプリメラの姿を見て梓実は息をのむ。目の前に現れたプリメラはやはり実体を持っていた。映像ではなく、足はしっかりと地面を踏みしめ、まるで梓実と同じ世界のレイヤーに立ったことを喜ぶかのように、振り返って無邪気に手を振ってくる。

 

「……『プリメラ』の効果! プリメラが召喚に成功した時、デッキから『センチュリオン』カードを手札に加える! あたしはこの効果で……『スタンドアップ・センチュリオン!』を手札に加え、そのまま発動!」

 

 そしてそのままそれを決闘盤にセットする。すると、プリメラから鋭い気迫が放たれた。それは周囲で響いていた雷鳴に対抗し、世界をいくばくか国定の側へ押し返す。

 そのままプリメラが天に向けて指を突き上げる。その先から、厚い雲を突いて月光が降り注ぐ。まるでスポットライトのように照らされたプリメラと梓実の背後に巨大な魔方陣が現れ、その背を押した。

 

「『スタンドアップ・センチュリオン!』の効果! 手札を一枚墓地に送って……デッキから『従騎士(センチュリオン)トゥルーデア』を魔法罠ゾーンにセット!」

 

 プリメラの傍らにもう一人の騎士が現れた。身体から吹き出す薄桃色の優しい炎をケープのように肩に纏い、炎と同じ色のマントをはためかせた少女がプリメラの傍に跪く。それを見ると、プリメラは少女へ向けて手を伸ばした。

 

「『トゥルーデア』は永続罠扱い状態の時、効果で特殊召喚できる……トゥルーデア、スタンドアップ!」

 

 トゥルーデアがプリメラの手を取り立ち上がる。戦場に並び立った二人は、頷き合うと敵に対して向き合った。

 

「さらに『トゥルーデア』の効果! 自身と、デッキの『重騎兵(センチュリオン)エメトVI(ゼクス)』を再び魔法罠ゾーンに! そのまま、エメト起動(スタンドアップ)!」

 

 今度は二人の背後に巨大な機兵が現れた。それを見るとトゥルーデアはエメトと融合するかのように搭乗し、エメトは重厚な音を立てつつ立ち上がる。梓実の盤面に、チーム・プリメラの一団が集結した。

 

「ほ~う? なかなかかわいい一団だねぇ」

「ずいぶん余裕じゃない。ウチのチームは……かわいいだけじゃないんだからね!」

 

 そう言うと、梓実は一枚のカードを手に取り決闘盤に置く。

 

「ん?」

 

 瞬間、風の流れが変わる。

 

「このカードは、相手フィールドの総攻撃力がこちらより高い時……手札から特殊召喚できる!」

 

 地を踏みしめる力強い足音。

 敵を睨みつける獰猛な眼光。

 静かに唸る、低い声。

 

「『獣王アルファ』召喚!」

 

 獣の王が高らかに雄たけびを上げる。プリメラより大きなエメト、そんなエメトよりさらに大きい怪物が場に降り立った。

 

「アルファの効果! このカードを手札に戻し、相手(フィールド)のモンスターを──」

「罠発動!」

 

 国定の場に置かれた罠カードが起動する。その瞬間、アルファは動きを止め、その効果が無力化された。

 効果無効の罠か──なら、次の展開を──

 

「……あれ?」

 

 決闘盤が反応しない。

 

「──『燦幻開花(さんげんカイホウ)』。このカードは、相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多くなった時、そのメインフェイズを終了させる!」

「メインフェイズ強制終了!?」

 

燦幻開花(さんげんカイホウ)』 / 通常罠

このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

①:自分・相手のメインフェイズに、自分フィールドのモンスターがドラゴン族・炎属性モンスターのみで、相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合に発動できる。このメインフェイズを終了する。

②:3回以上攻撃宣言された自分・相手ターンに、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分は1枚ドローする。その後、手札から「天盃龍」モンスターを任意の数だけ特殊召喚できる。 

 

「さァメインフェイズはおしまいだ! 選んでもらおうか。バトルフェイズに入るか……このままターンを終了するか! どっちにするんだい」

「く……」

 

 一瞬の逡巡。このままターンを終了するのはあまりにも危険だ。だったらせめて──

 

「……バトルフェイズへ! それなら場を一掃してやる!」

「バトルフェイズに入ったな!」

「!」

 

 梓実の宣言を聞くと、国定は喜色満面といった様子で決闘盤を操作し始める。

 

「待ってよ、バトルフェイズにそっちが自分からできることは──」

「どうやらできるみたいだぜぇ! 『天盃龍パイドラ』の効果発動! 自分、相手のバトルフェイズに……このカードを使ってシンクロ召喚を行う!」

「はぁ!?」

「俺は『天盃龍パイドラ』に『燦幻昇龍バイデント・ドラギオン』をチューニング!」

 

 国定の場に並ぶ竜が咆哮し、天に昇っていく。二体が絡み合い、一際大きな雷鳴が走った。

 

「“燦幻荘に居並ぶ十の煌星──これよりご覧に入れるは、七星を超えしさらなる大神獣!” ──シンクロ召喚! 十星龍だ(シーシィンロン)! 『燦幻超龍(さんげんちょうりゅう)トランセンド・ドラギオン』!」

「これは……!」

「鳴かれちゃったなァ梓実ちゃん。判断は冷静にしなきゃ駄目だぜ。『トランセンド・ドラギオン』の効果! このモンスターが場に存在する限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなくてはならない!」

 

 トランセンド・ドラギオンが一声吼える。それを聞くと、まるで何かの術中にはまったかのように梓実のモンスター達は一様に表情が険しくなり、それぞれ構えを取る。

 

「……!」

「さァ攻撃宣言! どうするんだ?」

「……っ……『獣王アルファ』で『トランセンド・ドラギオン』に攻撃!」

 

 元より相手フィールドを更地にするつもりではあった。『ドランセンド・ドラギオン』の攻撃力は『アルファ』と同じ。相打ちなら取れる。突然シンクロ召喚をしてきたことには驚いたが、戦闘破壊してしまえばなんということはないだろう。梓実の思惑通り、アルファは獰猛に一声吼えると、飛び出しトランセンドの喉笛に噛みつき組み伏せた。トランセンドも負けじとアルファの横腹に噛みつき、二体は同時に破壊されてしまう。

 しかしそれでも場はがら空きになった。ライフを削るなら今だ。

 

「おっと」

「さらに『プリメラ』で攻撃(ダイレクトアタック)!」

「うっ」

 

●国定 LP:4000 → 2400 

 

「やるねぇ~……」

「さらに『エメトVI』で──」

「攻撃宣言三回目! 墓地の『トランセンド』の効果発動! こいつを墓地から特殊召喚する!」

 

 その瞬間、再び先ほどと同じ雷鳴が響く。稲妻が場に刺さり、そこに龍の影が見える。

 

「速攻魔法発動! 『リミッター解除』!」

「!?」

 

 龍がその姿を現す直前に梓実が鋭く宣言する。それに合わせ、エメトがにわかに内部機関の音を激しくたてはじめた。

 

『重騎兵エメトVI』ATK:2000 → 4000 

 

「このカードは機械族の攻撃力を倍にする……もう一回トランセンドには墓地に行ってもらうから!」

「マジかよ、そんなカードが……! どうすっかな……お?」

 

 その瞬間、『トランセンド』が現れると同時に場に何本もの稲妻が降り注ぐ。それらは周囲に建っていた柱に突き刺さり、それらを破壊してしまう。

 

「……!?」

「『トランセンド』は墓地から蘇る時、場のカードを一枚破壊できるっぽいな。俺が破壊するのは『盃満ちる燦幻荘』だ!」

「フィールド魔法を……何のために」

「君と一緒さ。『盃満ちる燦幻荘』の効果! このカードが破壊された時……自分フィールドのドラゴン族のシンクロモンスターの攻撃力を倍にする!」

「!」

「倍化には倍化だ! 迎え討て!」

 

『燦幻昇龍トランセンド・ドラギオン』ATK:3000 → 6000 

 

 勢いよく躍りかかったエメトをトランセンドが迎撃する。飛び出し、トランセンドへ輝く槍を突き立てようとしたところでトランセンドが放つ光線の中に消えていった。

 

●梓実 LP:4000 → 2000 

 

「うっ……わあああああああああっ!」

「残ね~ん。攻撃力を倍にするトコまでは良かったんだけどなァ」

「くっ……うぅ……!」

 

 攻めたはずなのに返り討ちに遭い、逆にライフを削られてしまった。プリメラが心配そうに梓実に視線をやるが、梓実は気丈に親指を立てて見せる。

 

「バトルフェイズを終えて……メインフェイズ2へ」

 

──メインフェイズを強制終了させる罠──バトルフェイズにシンクロ召喚する効果───

──天盃龍──常識が通用するデッキじゃない──!

 

「あたしはカードを二枚伏せて……ターンエンド」

 

 ***

 

「どっちだね!?」

「こっち!」

 

 一方その頃。梓実からの電話を受けて遊介は街を自転車で走っていた。

 家を飛び出し、まずは梓実の自宅へ向かったがそこに梓実の自転車は無く、彼女の母もまだ帰ってきていないと言う。遊介の焦りはいよいよ高まった。

 どこだ──どこから電話をかけてきた。

 そのまま梓実の通う塾までのルートを辿り、必死にペダルを踏み込む。晶や、鬼原のように正気を失った決闘者(デュエリスト)に襲われていないとも限らない。何事も無ければいいが──

 

「!」

 

 その瞬間、雷鳴が響く。音に驚いた遊介が空を見上げると、いつの間にか曇り模様になっていた。

 

「……今日雨降るって予報だったっけ……?」

「いや……明日の朝まで快晴の予報だったはずだが」

 

 遊介と幻惑の魔術師が顔を合わせる。

 

「ひょっとしてフィールド魔法?」

「現実に影響を与えている……まずいぞユースケ、我々の予想は当たった!」

 

 見ると、海沿いの方が時間に反して明るく見える。

 あそこか! と二人は叫び、急行する。そこへ近づく程に人は少なくなっていき、代わりに異様な空気感を感じるようになる。晶や、鬼原と戦った時の緊張感。呪いを宿したカードがそこに存在することの嫌悪感のようなものか感じられ、自身がした予想が当たってしまったことを告げてくる。

 

「……梓実!」

 

 はたしてその先に梓実はいた。空には何度も雷鳴が響き、その下に堂々と建つ三本の柱。そして龍と対峙する見慣れたモンスターと──幼馴染が

 

「遊介……!?」

「大丈夫!? 今助ける!」

 

 言うなり遊介は自転車を乗り捨てるように飛び出し、鞄から決闘盤を引っ張り出す。

 

「……待って!」

「えっ」

 

 しかし、梓実はそれを制止した。

 

「あたしは……大丈夫。それよりお願いしたいことがあるんだけど」

「大丈夫って」

「大丈夫だから! 決闘(デュエル)部エースを侮らないで。それより……あいつがいる」

「あいつって? ……例の不審者!?」

「そう。まだ近くにいるはず。そっちをお願い!」

 

 そう言う梓実に対し、遊介は躊躇するように立ち止まる。

 

「……早く!」

「っ……わかった。無茶はしないでよ!」

 

 梓実は振り返らず、親指を立てる。それを見ると遊介は決闘盤を装着したまま、再び自転車を起こして走り去る。

 

「……続けるよ」

「う~ん……」

「何」

 

 今のやり取りを見ていた国定が思案するように顎に手を当てる。それまでの軽妙な雰囲気から一転真面目に考え込むような動作に梓実は警戒するように睨みつけた。

 

「……ひょっとしてボーイフレンド?」

 

 ──は。

 

「なっ……別にあんたには関係ないでしょ!?」

「ひゅ~っ、いいねぇ、初々しい。いいもの見せてもらったぜ、御馳走様」

「うるさい!」

「へへ、それじゃ俺のターンだな。ドロー!」

 

TURN 2 → 3

●国定 LP:2400

場:『盃満ちる燦幻荘』(フィールド魔法)/『燦幻超龍トランセンド・ドラギオン』

手札:1 伏せ:1

 

●梓実 LP:2000

場:『スタンドアップ・センチュリオン!』(フィールド魔法) / 『重騎士プリメラ』 / 『従騎士トゥルーデア』(永続罠)

手札:0 伏せ:2

 

「俺は手札から『天盃龍ファドラ』を召喚!」

「こっちも『従騎士トゥルーデア』の効果で特殊召喚するよ」

「お? なんだよそっちも動いてくるんじゃねぇか。『ファドラ』の効果で墓地から『パイドラ』を特殊召喚!」

 

 場に素早く二体の龍が並び立つ。同時に、トゥルーデアもまた再び場に舞い戻った。一ターン前の激突で両者戦力を大きく削られ、その立て直しを行っていく。次の激突に備え、戦力を万全にまで整えなくてはならない。

 

「『パイドラ』の効果発動! デッキから二枚目の『盃満ちる燦幻荘』を手札に加えるぜ」

「墓地の『エメトVI』の効果発動! 『トゥルーデア』を永続罠とし、このカードを特殊召喚する!」

 

 トゥルーデアが炎の中に姿を消し、煌めきの中からエメトが現れる。中空から現れたエメトが重厚な音を立ててその場に着地すると、それまで梓実達の背後で淡く光っていた魔方陣がその輝きを増していく。

 

「あ……?」

「……「天盃龍」と「センチュリオン」は、ひょっとすると同じタイプのデッキなのかもしれない」

「なんだ急に」

「こういうこと」

 

 その瞬間、エメトとプリメラが眩い光に包まれる。この光は──シンクロ召喚が行われる際の発光。

 

「な……今俺のターンだぞ!?」

「さっきのお返し。相手のターンにシンクロ召喚ができるのはあんただけじゃない……! 『スタンドアップ・センチュリオン!』の効果発動!」

 

 エメトとプリメラが跳び上がる。既に両者は光の塊と化しており、それらが十二分割され、空に並ぶ。

 

「モンスターが特殊召喚された時、「センチュリオン」モンスターを含むカードでシンクロ召喚を行う! あたしは『重騎兵エメトVI』に『重騎士プリメラ』を……チューニングっ!」

 

 梓実が高らかに宣言する。それに合わせ、空にシンクロ召喚の三つの光輪が現れた。それに向け梓実は高く指を突き上げ、叫ぶ。

 

「“突き上げろ! 想いと絆の旗印(エンブレーマ)! どこまでも、誰よりも高く跳び上がれ”!」

 

 シンクロ召喚特有の光線が空を裂く。それは雷鳴響く燦幻荘の稲妻を押し返すように強く輝き、やがて光の中から薄桃色のあの炎が、獰猛に、力強く、爆炎と化して飛び出してくる。

 

「シンクロ召喚! 迎撃せよ(スタンドアップ)、『騎士皇(センチュリオン)レガーティア』ッ!」

 

 爆炎が弾け、その場で大爆発を引き起こした。周囲を灰塵に帰さんとするほどの爆発だったが、不思議と傷つく者はおらず、代わりにそこには純白の装甲に炎を纏った巨大な騎士皇(センチュリオン)の姿があった。

 

「『レガーティア』の効果!」

 

 まるで自分の番だと言わんばかりの勢いで梓実が宣言する。

 

「このモンスターが特殊召喚した場合、一枚ドローし……相手フィールドの攻撃力が一番高いモンスターを破壊する! 攻撃力が一番高いのは『トランセンド・ドラギオン』だね! いけ! レガーティア!」

「!」

 

 レガーティアがゆっくりと動く。拳にぐっと力を籠め、まっすぐに龍を見据えた。

 

「放て! “騎士皇撃拳(ミーレス・パグナス)”!」

 

 解放。榴弾砲の如く獰猛な一撃がトランセンドを襲い、その重厚な体躯を貫いてしまう。たまらず龍は悲鳴をあげ、爆散した。

 

「くっ……! やるねぇ! 盛り上がってきたぜこっちも! そんならこっちも『盃満ちる燦幻荘』を発動! 『幻禄の天盃龍』を手札に加え、代わりの手札を一枚捨てる! そのまま『幻禄の天盃龍』の効果で自身を特殊召喚!」

 

 トランセンドが破壊され巻きあがった埃の中から新たな龍が姿を現す。そのまま間髪入れずに国定が叫んだ。

 

「今度は……こっちの番だァ! バトルフェイズ! 『ファドラ』『パイドラ』『幻禄の天盃龍』で『レガーティア』を攻撃!」

 

 それに応じ、三体の龍が同時にレガーティアに襲いかかる。レガーティアは応戦しようと拳を構えるが、三体の龍の攻撃はまるで実体を持たないかのようにその体躯をすり抜けていった。

 

「『パイドラ』がいる限りこっちが受けるダメージはゼロになる……そして! 三回攻撃したなァ!」

「!」

「墓地の『バイデント・ドラギオン』の効果発動! 三回攻撃宣言したので、こいつを墓地から──」

「やっぱり来たね……! 罠発動!」

 

 瞬間、国定の決闘盤に稲妻が落ちる。燦幻荘のものではない。驚いた国定が顔を上げると、梓実の傍で罠カードが開いていた。

 

「『神の通告』! 『トランセンド・ドラギオン』が蘇るなら、『バイデント・ドラギオン』だって蘇るはず。読みが当たったね。その蘇生は無効!」

「く……!」

 

●梓実 LP:2000 → 500 

 

「……さぁ、どうするの。墓地の『バイデント・ドラギオン』も『トランセンド・ドラギオン』も復活できない。新しくシンクロ召喚したって、レガーティアの攻撃力は3500! 仮に蘇ったとして、どっちでも超えることはできない!」

 

 突きつけるように言う。国定の狙いは一ターン目と同じ、復活からのフィールド魔法を破壊、攻撃力を倍化することだったはずだ。しかし墓地からの復活は防がれ、場のモンスターを使って新たにシンクロ召喚をしたとして、レガーティアを上回る攻撃力を持ったモンスターは呼び出せない。

 

「……なぁ梓実ちゃん」

 

 ──()()は、そう思っていた。

 

「ギャンブルって、やったことあるか」

「……何急に」

「まぁねぇか。高校生だもんな。いつかやることがあった時の為に、一つアドバイスしておいてやる。ギャンブルのコツはな」

 

 そう言いながら、国定は決闘盤に手を置く。

 

「……最後まで底を見せないことだ!」

「!」

 

 先ほどレガーティアに襲いかかった三体の龍が同時に光を放つ。レガーティアが現れた時に負けじと強烈な光を放ったそれは、空で一本の光線となり、そこから──

 

 三つ首の龍が現れる。

 

「“天より降りし三頭龍──永劫の時を超え、今こそその暴威を知らしめん”! シンクロ召喚! 『トライデント・ドラギオン』!」

 

 光から生れ出た最後の龍が咆哮する。耳を劈くほどの大声量に、空気が震え近くの建物の窓ガラスが次々に砕け散った。

 

「こいつが俺の最後の切り札だッ! 『トライデント・ドラギオン』の効果! このカードがシンクロ召喚に成功した時、自分フィールドのカードを二枚まで破壊する! 対象は『盃満ちる燦幻荘』と……この伏せカードだ!」

「伏せカード……!?」

「せっかくだから教えてやるよ! この伏せカードの名前は『Z-ONE(ゼット・ワン)』! 効果は破壊された時に墓地の永続魔法かフィールド魔法を回収するってものだ!」

 

 国定が哄笑する。自分の優位を誇示するように、はたまたこの状況そのものが可笑しくてしかたないかのように。

 

「『トライデント・ドラギオン』は効果で破壊した枚数分戦闘回数を増やす。さらに『盃満ちる燦幻荘』が破壊されれば攻撃力は倍! わかるか、つまり攻撃力6000の三回攻撃が可能になるってわけだ!」

「……」

「そっちの場には『レガーティア』が一体! とうてい防ぎきれないぜ!? さァどうする!? どうもできないよなァ! これで終わりだ! ッハハハハハ……アーッハハハハハハハッ!」

 

 トライデント・ドラギオンが三つ首の先でそれぞれ力を溜める。その狙いは、自分の伏せカードだ。これが通れば、国定の言う通り梓実は負ける。

 レガーティアにこれを止める手段はない。

 手札もたった一枚。

 墓地にも動ける者はいない。

 

「さぁぶっ壊すぜ!」

 

 ──だが。

 

「……残念だけど」

「……あ?」

 

 目を開く。それまで静かに国定の講釈を聞いていた梓実が、口を開いた。

 

「もうあんたの底なんて、とっくに見えてんの!」

 

 叫ぶ。高く──高く指を天に向け、突き上げながら叫んだ。

 

「罠発動! 『騎士皇爆誕(トゥルース・センチュリオン)』! 魔法罠ゾーンの『従騎士トゥルーデア』を墓地に送り……その効果を無効にする!」

 

騎士皇爆誕(トゥルース・センチュリオン)』 / カウンター罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

①:モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、自分の魔法&罠ゾーンの表側表示のモンスターカード1枚を墓地へ送って発動できる。その発動を無効にし破壊する。 

 

 梓実が宣言する。その瞬間、レガーティアが腕を組み、その巨躯からさらに爆炎を放った。

 

「何ッ……!?」

「どれだけ龍が高く飛んだって!」

 

 レガーティアの前にトゥルーデアが降り立つ。舞い踊るようにレガーティアの周囲を飛び回りながら、その姿を空に溶かしていく。

 

「あたし達はその上を行く!」

 

 レガーティアが指を立て──主人と同じく天を衝いた。その瞬間、そこから世界を灼かんとする程の光が放たれた。

 

「覚えときなよ! 兎は月まで……どこまでも高く跳んでいくものだって!」

 

 その光は威嚇か、はてまた悲鳴か咆哮するトライデント・ドラギオンを容赦なく飲み込み──その中に姿を溶かしていってしまった。

 

 ──勝敗は、ほぼ決した──。

 

「……」

 

 光が収まる。そこには、がら空きになった国定のフィールド、それに向き合うレガーティア、そして梓実が立っていた。

 

「……ハッ」

「……」

「……くはっ、ハハハ……! してやられちまったぜ全く……! ツイてねぇなぁ本当に俺はよォ!」

「ツイてないんじゃない。ただ、あたしが実力であんたを上回っただけだよ」

「手ッ厳しい~~……じゃあ、俺は俺らしく最後まで運に身を任せてみるかなァ!」

 

 そう言って国定が決闘盤を操作する。すると、墓地から一枚のカードが飛び出した。

 

「墓地の『燦幻開花』を除外して効果を発動。カードを一枚ドローするぜ。その後、手札から「天盃龍」モンスターを特殊召喚できる。俺の手札は今ゼロ……これで「天盃龍」が引けるかどうか……だな」

「……」

「行くぜ……ドロー!」

 

 国定が元気よくカードを引く。そして、そのカードを見ると──

 

「……やっぱり今日はツイてねぇや!」

「……エンドフェイズ時、『レガーティア』の効果。墓地の『プリメラ』を永続罠扱いに」

 

 国定は何も言わない。相変わらずへらへら笑ったまま両手を上げている。

 

「あたしのターン。ドローして……バトルフェイズ!」

 

 その言葉に反応する龍はもはや、いなかった。

 

●国定 LP:2400 → 0 

 

 ***

 

「痛ってぇ~~~……」

「大丈夫?」

 

 その場に国定が倒れ込む。その傍に梓実がしゃがみこんだ。

 

「いやぁ強いな梓実ちゃん! 参った参った!」

「……あんまり堪えてなさそうだね」

 

 国定は相変わらずへらへら笑っている。そんな様子に梓実は心底呆れたように息を漏らした。

 

「いいねぇ、美人な上に決闘(デュエル)まで強いなんてなァ。もう一戦どう?」

「お断り。それより、あんたにそのカードを渡した人について話してもらうよ」

「え? あ? 何、カード? あぁ、これ」

 

 国定が決闘盤から『トライデント・ドラギオン』を取り出した。しかし、それを見ると急に表情を失い、それを凝視した。

 

「そう、それ。誰からもらったの?」

「……誰だっけ」

「は? とぼけないでよ……」

「や、本当に……このカードを貰った……貰ったんだよな。その時のことを思い出そうとすると……なんかぼーっとするっていうか」

「そんなわけないじゃん! ついさっきのことでしょ!? あのフードを着た人のこと! わかってる範囲でいいから!」

「いや、マジ申し訳ねぇ……本当に何も思い出せないんだワ」

「はぁーーーっ!?」

 

 梓実が叫ぶ。海沿いの倉庫街の中でその声は反響し、空へと吸い込まれていった。

 ──一方。

 

「くそ……どこ行った……」

「ユースケ! あそこだ!」

 

 時間は少しだけ戻り、梓実と別れた後の遊介。まだ近くに潜んでいるはずの不審者を追い、走り回っていた。やはり梓実の読み通り、フードを被った怪しげな人影を近くで発見したが、遊介の姿を見るなり逃げ出したので確実にあいつだ──と追いかけまわしていた。

 

「待てッ!」

 

 フードは動きにくそうな服装の割に素早く、遊介が運動音痴だと言うことを差し引いてもかなりの速度で逃げていった。わざと入り組んだ路地に逃げ込み、倉庫に窓から飛び込み遊介の追跡をかわそうとする。

 

「く……そ……待……て……!」

「駄目だユースケ逃げられてしまう!」

 

 結局、ある倉庫の中に逃げ込み、窓から外に飛び出していったのを見たのを最後に見失ってしまった。人気のなくなった倉庫で遊介は座り込み、大きく息をつく。

 

「くっ……そ~~~~!」

「すばしっこかったな……」

「逃がしちゃった……せっかく捕まえるチャンスだったのに……!」

 

 恨めしそうに吐き捨てながら遊介はその場に寝転がる。瞬間、背中に鋭い痛みが走った。

 

「痛ッ!?」

「どうした」

「床に……何か……」

 

 起き上がり、床に視線をやる。

 

「これ……鍵……?」

「のようだな」

 

 そこには小さなステンレスの鍵が落ちていた。何やら数字が刻印されており、特に劣化している様子もないあたり、最近も使われている鍵のように見える。加えて、埃が堆積している倉庫の床の上にあって一切埃を被っていなかった。

 

「……まさかこれ、あいつが……?」

「落としていった可能性は高いな。仕方ないが、今晩はその手がかりを得たということで満足するしかないだろう」

「……そっか……」

「はぁーーーっ!?」

「! 梓実の声!」

 

 声がした方へ足を向ける。先ほどの場所へ戻ってみると、決闘(デュエル)が決着していた。

 

「梓実!」

「あぁ……遊介」

「大丈夫? 怪我はない?」

「おかげさまで。そっちは?」

「……ごめん、取り逃がした」

「そっか。いや、大丈夫。落ち着いて考えたら、危ないことさせちゃったね」

「いいんだ、そんなこと……その人は?」

「もう大丈夫。でも……ちょっとびっくりしちゃったな」

「……」

「遊介?」

「えっ! あ、あぁ、いや、なんでもない……」

「大丈夫?」

「うん……大丈夫」

 

 ふと、遊介が意味深な表情をしたことに気づき、梓実がその表情を覗き込む。遊介はそれを受けると、顔を反らしてしまう。

 

「……あ」

 

 不意に梓実が顔を上げる。見ると、遠くにパトカーの赤いランプが見える。気づけば周囲に野次馬が集まり始めていた。

 

「あー……ちょっと騒ぎすぎちゃったか……」

「これ逃げられる?」

「……諦めよう」

 

 遊介と梓実は諦めたように息を漏らし、その場に座り込む。野次馬は割れたガラスや倒れている男の姿に何かあったのかと不安げな視線を向けていた。

 

「……」

 

 そんな野次馬達の後方。

 

「兎河……梓実ちゃんかぁ……」

 

 一人の女が呟く。フードは被っておらず、代わりに洒落た洋風の帽子を被っていた。そんなもの被っていれば目立ちそうなものだが、まるで周囲の人間は幻術にでもかかったかのように一切女を気にしない。その場に存在していることを認識していないかのようだった。

 

「……あの子、いいかも」

 




監修班の奮闘を讃えたいと思います。本当にありがとう。
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