人形遣いの魔王との戦闘が終わり、私たちは倒れている冒険者さんと冒険者組合の人を助け起こした。
直接的には傷つけてないけど、傀儡魔法が解けて勢いよく倒れている人も居たし、怪我をしていないか心配である。
という訳で、怪我をしている人を介抱しつつ、私は荒れてしまった冒険者組合の建物も修理するのだった。
「シーラ様。この度は大変申し訳ございませんでした」
「いえいえ! しょうがないですよ。あの魔王の事はどんな資料にも書いてなかったですし。それに、あの魔王は触れるだけで相手を操れますからね。対策は難しいです」
「……そうですか。それで、その魔王は」
「一応倒しました。しかし、魔王である以上、いずれ復活するでしょう。どのくらいで復活するのか、その時間まではちょっと分かりませんが」
「承知いたしました。では、かの魔王の姿や傀儡魔法を他の地区にも伝えます」
「お願いします」
「そして、おそらくは最も重要な案件になると思うのですが」
「ん?」
先ほどまでとは雰囲気が完全に変わり、重々しい空気になるとジャックさんは一つ一つ言葉を選んでいる様な雰囲気で、口を開いた。
「魔王なる存在がシーラ様を狙っていると分かった以上、我々としてはシーラ様の護衛を増やし、どの様な事態が起きても対処が出来る様にと」
「本当にそれが可能であると、貴方は考えているのですか?」
ピリッと空気が弾けて、ジャックさんとオリヴァー君が危険な雰囲気になる。
今にも戦いが始まりそうな空気だ。
なんで? なんで、ここでバトルが始まるの!?
「シーラ様は王都に戻るべき。そうでしょう?」
「それは!」
「王都の騎士団は優秀だ。個としても優秀な人間たちが、群として存在している。他の魔王がどの様な魔法、手段を用いてシーラ様を狙うか分からない以上、その護衛はより優秀な方が良い。というのは当たり前の事だと思いますが?」
「し、しかし。ムイゼンも魔物と長く戦い続けてきた者たちばかりだ。どの様な者が相手でも負けはしない」
「負けたでしょう。しかもシーラ様の足を引っ張り、危うく魔王の手の内に落ちるところだった」
「同じことが騎士団で起きないという保証がどこにある。我々の所では実際に起こった。が、その優秀な騎士団とやらは未だ戦場にすら立っていないだけだ」
「……」
「……」
互いに言うだけ言って睨み合う二人に、私は大きく息を吐いた。
なるべく目立つように。
そのお陰か、ジャックさんとオリヴァー君の視線が私に集まる。
「まず第一に。私は王都に戻るつもりはありません」
「っ」
「理由はいくつかありますが、一番大きな問題は孤児院です。元々ムイゼンに来たのも、孤児院を建てるだけの土地が王都には無かったからです。城壁で囲まれた王都では、広げるのも難しいですからね」
「しかし、時間を掛ければ」
「費用の無駄ですし。今住んでいる人を動かす事が出来ない以上、外側に増設される訳です。そうなると、魔物に襲撃された際、最も危険な場所に子供たちを置くことになってしまうので、私は反対です」
「……シーラ様」
「オリヴァー君。以前、ジェイクさんにも言いましたが、騎士団の存在意義は、民を守る事です。私の様な小さな存在を守る為に存在している訳ではありません」
私はひとしきり話してから、胸をなで下ろしているジャックさんに視線を向けた。
「ただ、このままで良いとも思っていません」
「シーラ様……?」
「このままムイゼンでのんびりスローライフをしているのも良いかと思ったのですが、あれほどまでに悪意を振り撒く魔王が居る以上、私という存在が敵を呼び寄せる可能性はあるわけです」
「それは……そうですね」
「ですので、私としては現状維持は難しいと考えています」
「し、シーラ様、では、他の土地へ……?」
「いえ。結局他の土地へ移っても大きく問題は変わらないでしょう。ですので、変えるのは土地ではなく、ムイゼンの町を変えるべきかと考えております」
「ムイゼンの町を?」
「変える?」
「無論、今住んでいる方の許可は必要ですし、大がかりな工事になる可能性も大きいですが……」
私はジャックさんやオリヴァー君だけでなく、多くの人が注目しているのを感じながら、その提案を口にした。
「私はムイゼンにあらゆる技術、知識を学べる巨大な学園を作ろうかと考えております」
「「学園!?」」
そう。『春風に囁く恋の詩』シリーズに登場する主人公たちが通う学園だ。
詳細な場所は不明だが、三つの国の国境付近にあるという事。
そして、とんでもなく大きな学園である事を考えると、ムイゼンはその舞台として相応しいと思う。
まぁ、違ったらトライウィザード・トーナメントよろしく、ムイゼン学園として主人公の学園に接触すれば良いし。
ここに学園を作る事には特に大きな問題が無いのだ。
住民の気持ちを無視すれば。
という訳での提案である。
「とにかく大きな学園を作ります。そして大きな学園を作る以上、学園を囲う壁を作る事も可能ですし。中に入る人間を確認する事も可能です。また魔王や魔族、魔物に対する防衛魔法を展開すれば、容易く侵入する事は出来ないでしょう。維持費とか、ムイゼンの人たちの事とか、色々と考えなければいけない事は多いんですが、完成すればあらゆる国の人間を受け入れ、最新技術を研究開発出来る場所になります。国境を超え、人類が知恵と技術を一つに……と、話し過ぎましたね。この様な案は如何でしょうか?」
ジャックさんもオリヴァー君もポカーンと口を開いていた。
あまりにもアホ提案過ぎて呆れているのだろうか。
くっ、しかし私の知能ではこの辺りが限界なのだ。許してほしい。
「……シーラ様。いくつか確認をしても良いでしょうか」
「はい。いくらでもどうぞ」
「では、まず確認したいのが、完成した場合、シーラ様も何かしら関わる可能性があるのでしょうか」
「そうですねぇ。最初は教師も少ないでしょうし。大した事は教えられませんが、魔法でも教えようかと考えています」
「っ!?」
一気に周囲がざわつく。
あぁ、私エルフだし。魔法は凄いからね。知りたいって思うのは当然か。
ふむふむ。そう考えると、これは便利かもしれないなぁ。
「あの、確認なのですが。私が魔法を教えるというのは需要があるのでしょうか? 教えて欲しい方が居る?」
「それはもう世界中に居ますよ! 私だって知りたいくらいです」
ジャックさんの後ろで静かに聞いていた女の人が、元気よく前に顔を突き出しながらアピールしてきた、
熱量高すぎてちょっと引くけど、まぁ、分かった。
それならお金になりそうだね。
「では、多少はお金も貰えそうですね。では、授業一回で1000ウィルベンでどうでしょうか。ちょっと豪華なお夕飯一回分くらいのお値段ですよね」
「「「1000ウィルベン!!?」」」
私の提案に声を揃えて叫ぶ一同。
安くて文句を言う人は世の中に存在しないので、つまりは高いという事だ。
前世で大学とか凄い高かった気がするけど……でも、冷静に考えると授業一回分の値段じゃないもんね。
調子に乗り過ぎたか。
いやー。でも孤児院にいる子供だって、頑張れば半日くらいで稼げるお金だよ?
いや、そう考えると高いわ。冷静に考えると高い。あり得ない値段してるわ。
私がアホ面してペラペラ喋るだけで、あの子たちが一生懸命働いた半日が同じとか、アホ丸出しですね。
シーラ反省。
「シーラ様、大変失礼を承知でお聞きしますが、本気で言ってるんですか!?」
「いや、私もちょっとおかしいなと思ってました」
「そ、そうですよね。いや、本当にビックリしました」
「100ウィルベンくらいですね」
瞬間、皆が壊れた。
いったい何が悪かったのか。私には皆目見当もつかないのであった。