凄いを通り越して、酷い速さで開発が進んでゆくムイゼンを見ながら、私は日課となっている魔力弾による銅像の破壊を行っていた。
よく鏡で見慣れた姿とよく酷似しているアレは、壊しても、壊しても必ず次の日には復活して学園の中心にある噴水の前に置かれる事となるのだが、あんな所に、あんな物を置いてはいけない。
別にこれは私の個人的な感情から言っている事では無いのだ。
だってゲームで主人公が、学園に入ってから真っすぐに歩いて、正面にある噴水の前には小さくて可愛らしい天使様の像がおいてあるって言ってたもん!
天使が居たんだもん!
まかり間違っても、いつまでも成長しないエルフの像ではない。
絶対に。
「……あぁ、今日も来ましたか。無駄な事を」
噴水の近くでは、毎日毎日、懲りもせずに銅像を魔法で直し続けている人が周囲を見渡しながら怒り狂っていた。
しかし、残念。犯人はここに居る。
孤児院の三階からちょうど銅像が見える為、ここから狙撃しているのだ。
早く諦めないかなと思いながらも、明日またあったら壊そうと心に決めるのだった。
良いから早く天使様の銅像を作ってもらいたいものだ。
という訳で、ムイゼンの町を例の魔王が襲ってから五年の月日が流れた。
自分を見ていると、まるで成長が感じられないけれど、オリヴァー君に出会ってから約12年の月日が経った事になる。
オリヴァー君もすっかり大人になって、最近ではムイゼンの町で冒険者として活動を始めた様だった。
騎士団は辞めてしまったらしく、騎士姿のオリヴァー君をもう見る事が出来ないのは非常に残念だ。
まぁ、しかし。そんな個人的願望で人の人生を歪める事も出来ないので、素直に祝福をするべきだし、実際にそうした。
そのお陰か、ムイゼンは今、魔法の私。剣のオリヴァー君と鉄壁の町となりつつある。
出会った当初夢見ていた、最強の二人! が出来るという事になる。
おー! なんかいいじゃん。
ムイゼンの名物にしよう。そうしよう。
そうと決まれば早速ムイゼンの冒険者組合へ向かって、オリヴァー君とパーティーを組もうと言わなくては……!
私は転移魔法でパパっと冒険者組合へ向かい、扉を開きながら、オリヴァー君の姿を見つけ、勢いのまま叫ぶのだった。
「オリヴァー君! せっかく冒険者になったのですから、私とパーティーを組みませんか!?」
瞬間、時が止まった。
私以外の全ての人が完全に止まっている。
あれ? 私、いつの間にか時間を止める能力者になっていたのか!?
こいつは驚きだ……。
「っ!? し、シーラ様。今のは、本当に?」
「いや、嘘を吐いてもしょうがないじゃないですか。聞くところによれば、オリヴァー君は遂にジェイクさんをも倒したという話ですし。私も魔法にはそれなりに自信があります。そこで! 私たちで最強のふたり! って奴を目指しませんか? というお誘いです」
オリヴァー君の問いに答えつつ、ドキドキと早くなる心臓を手で押さえながら、息を吐く。
そして、気持ちをちゃんと言葉にしようとオリヴァー君を真っすぐに見て、笑った。
「オリヴァー君、私では、駄目ですか?」
「っ!?」
「オリヴァー!! 俺と勝負しろ!!」
「ふぇ?」
「俺も、貴様に一対一の決闘を申し込む!!」
「私とも戦いな! オリヴァー!」
「え? え?」
急にオリヴァー君が大人気。
何がどうしたというのか。
いや! これは! これは毎度の流れだ! 私の相方の座を求めて、争いが発生している!!
急いで止めなくては。
「皆さん! 争いは止めてください!」
「……シーラ様」
「オリヴァー君に挑むなんて、怪我をしたら大変です」
「いよっし! オリヴァー! 今すぐやるぞ! 表に出ろォ!!」
「えぇぇえ!?」
いや! 待ってって! 勝てないって!
相手はゲームでも最強キャラの一人だよ!?
無理だって!
「そこまでです!」
私がどんな言葉で止めようかと考えていた時、私の後ろからよく聞きなれた声が聞こえてきた。
そう。エミリーちゃんである。
もうすっかり大人のお姉さんになってるけど。
「シーラ様を悲しませるような真似は私が許しません!」
「……いや、しかしな。この状況じゃあ」
「はい。分かります。シーラ様に最も信頼される位置。それはとても魅力的です。しかーし! ルール無用の争いを容認すれば、闇討ちをする様な者すら現れるでしょう! ゆえに! トーナメントを開催します!!」
「「「「トーナメント!?」」」」
「そう。シーラ様と共に居る権利を得る為に、争え! 戦士たちよ!! 我こそはと名乗る人間を集め、一対一で厳正なルールの下、競い、力を、技術を競い合うのです! そして、最後に残った一人が……! シーラ様と共にパーティーを組む権利を得られます!!」
「おぉ! おぉぉおおお!!」
「いや、そこまでしなくても、私はオリヴァー君が」
「シーラ様は黙っていて下さい。今はシーラ様の話をしているんです」
「……はい」
出た出た。いつもの奴。
私の話をしているのに、私に黙ってろって、どう考えてもおかしいでしょ?
でも私以外は誰もその事をおかしいとは言わないし、挙句の果てに無視である。
なんか考えたら、だんだんと腹が立ってきたぞ?
良いよ。良いよ。要するに、トーナメントして勝った人がオリヴァー君なら納得するんでしょ?
なら、オリヴァー君に全力の全力で支援魔法をかけるから。
ただでさえ最強なオリヴァー君を、シナリオ上も最強無敵にしてやる。
これで文句ないだろ。
私はコソコソと冒険者組合の中を移動しながら、オリヴァー君の近くまで移動して、支援魔法をオリヴァー君の体に触れながら与えようとした。
どんな魔法も全部弾いて、早く走れる様になって、剣を振るうだけで爆発とかする様にしてやる。
しかし、その手は誰でもないオリヴァー君自身に止められてしまう。
「シーラ様」
「……なんですか?」
「俺は必ず勝ちますよ。信じて、待っていて下さい」
「嫌です」
「シーラ様……」
「私は騎士様が来るまで待っている大人しいお姫様じゃないんです」
「……」
「でも、確かに、最強の二人! をやるなら、互いを信頼し合うのが大事ですもんね。だから、信じます」
私は右手の魔法を消して、力を抜いた。
そしてしょうがないなぁと苦笑する。
オリヴァー君はそんな私の前で跪くと、私の右手を取って、手の甲にキスするのだった。
「必ずや、シーラ様に勝利をお届けします」
「……はい」
どこで、こんなキザな事を覚えてきたのか。
って、そうか。騎士団か。
私は右手を抱きしめながら、何とか頷いて、すぐ後ろの椅子に座り込んだ。
何だか頬が酷く熱い。
ま、まぁ? こんな人が多い場所でこんな事をされれば、誰だって恥ずかしいと思う。
だから、私の反応は、別に普通だ。
そう。普通なのだ。
「シーラ様」
「あ、その……私、応援してますから!」
何だかオリヴァー君と顔を合わせるのも恥ずかしくなって、私は冒険者組合から逃げ出した。
いや、違う!
逃げ出したわけじゃない。
そう! 用事! 用事が終わったから帰る事にしたのだ。
ただ、それだけなのだ。
私は孤児院に駆け込み、扉を勢いよく閉めてから、床に座り込んで、荒い鼓動を何とか整えようとしていた。
しかし、どれだけ深呼吸しても、鼓動はドクドクと早く鳴り響くばかりだ。
「……別に、オリヴァー君の事なんて、何とも思ってないですからね」
そう。だって、オリヴァー君の事は子供の時からよく知っているのだ。
だから、こんな気持ちは嘘っぱちだ。
オリヴァー君の事を男の人として意識してしまっているだなんて事は……勘違いなのだ。