かなりの時が流れた。
しかし、世界に大きな変化はない。
なんか世界的に若返りの魔法やら、不老長寿の魔法やらが流行った事もあり、本当に何の変化もない。
私自身もびっくりするくらい、変わらないせいで、本当に時間が流れているのか分からないくらいだ。
しかし、間違いなく時代は進んでいる。
何故なら! 『春風に囁く恋の詩』の1作目の主人公レナちゃんが生まれたからだ。
いやー赤ちゃんでも分かる、とんでもない美少女であった。
これが乙女ゲームの主人公って訳ね。
しかもこの見た目を持ちながら将来は聖女。
そらモテますわって感じですね。
まぁ、この世界ってば傷を癒す方法が無いからさー。
みんな傷だらけよ。
そして、そんな傷だらけの世界で、イケメン達の体や心の傷を主人公ちゃんは癒していくって訳ね。
……お医者さんかな?
乙女ゲームは医療ゲームだった……?
ま、まぁ良いわ。とりあえず、主人公ちゃんが生まれた以上! しっかりかっきり成長してもらって、世界を救ってもらいましょう!
その為にも!
この小さな命、絶対に護らねばならぬ!
という訳で。
「あー、もし。そこのお方。実は私、旅をしている者なのですが、泊まる家を探しておりましてな」
「え? あ、貴女はシー」
「あぁっと! 私は決してシーラとかいう名前のエルフではないので、その辺りは勘違いされない様に」
「しょ、承知いたしました。シーラ様!」
「シールです。シール。シールとお呼びください。ペタペタ貼るシールですよ」
「ハハッ。承知いたしました。シール様」
「頭下げなくて大丈夫なので! かしこまらないで下さい。ただのシールです」
「承知いたしました。シール様!」
それからも何かと頭を下げるレナちゃんのお母さんを何とか宥めて、私はお母さんとレナちゃんと一緒に家にお邪魔するのだった。
「はぁ」
「シーラ様。それで、私に何か御用でしょうか?」
「シールです。シール」
「あぁ! 申し訳ございません!」
「あー。いや、もう良いです。気にしないで下さい。えっと、それでですね。話しかけた理由なのですが、実はレナちゃんについてなのです」
「レナについて!? ま、まさか! レナに何か良くない事が起こるのですか!? まさかそんな!」
「違います違います。そういうんじゃないです。どちらかというと逆で、レナちゃんに聖女の疑いがあるのです」
「そんな」
レナちゃんのお母さんは絶望した顔で崩れ落ちてしまった。
地面に座り込みながら、救いを求める様に私を見ている。
いや、これじゃ完全に悪役なんですけど。
って、まぁそれはしょうがないか。
この世界じゃあ聖女って分かっただけで、誘拐されたり、貴族に奪われたりと、子を愛する親からしたら許せん話ばっかりだからな。
「一応先に言っておきますが、私はレナさんを攫いに来た訳でも、奪いに来た訳でもありません。私にとって嫌いな物は愛する親子を引き裂く存在ですから」
「で、では」
「これから先、どうあってもこの子は聖女という役割をこなさなくてはいけなくなります。ですから、その事でこの子が傷つかない様に、守る為にここへ来ました」
「シーラ様……! なんとお礼を言えば良いか!」
「いや、お礼とかは良いですよ。趣味ですから」
「もしそうなのだとしても、私にとってはこれ以上のない救いでございます」
「あぁ、という訳でお金はお渡しするので、私をこの家に泊めていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい! この様な汚い家ですが、いくらでも! あぁ、ベッドは私の物をお使いください。私は床で眠れば十分ですので!」
「いや、大丈夫ですから。買いますから。お母さんもお母さんでゆっくりと休んでください」
「母! 私の事を母と……! レナ。良かったわね。素晴らしい方が貴女を」
「ちょいちょい! 待ってください! 待ってください! 今のはそういうアレじゃないですから。レナちゃんのお母さんという意味ですから!」
「そうでしたか。これは大変な勘違いを」
何とも慌ただしい事だが、何とか説得は成功し、私は主人公レナちゃんの家に潜り込むのだった。
私の潜入作戦は順調に進んでいる。
学園には複製魔法で私そっくりの複製体を用意しておいたし。
レナちゃんの住んでいる村でも私の正体に気づいている人は居ない。
「あー。シー、シー」
「村長。シール様です。シール様」
「おー! そうだった。そうだった! シール様。本日も良い天気ですな」
「えぇ。そうですね。村長さん」
「あー。それで、折り入ってご相談があるのですが」
「はい。なんでしょうか? 一般エルフの私に出来る事であれば何でも」
「村の畑に祝福をかけていただけないかと」
「えっ」
「……」
「畑への祝福って、一般エルフには可能でしょうか……?」
「と、当然ですよ! ねぇ! 村長! いやー! 俺も前に見たことあるけど、エルフはみんなやってたなぁ!」
「そうね! 私も見たことあるわー! もう普通かなって感じでしたねー!」
「あ、そうなんですね。では引き受けましょう。私は一般エルフですからね。普通のエルフに出来る事は普通にできます」
「ほっ」
「では、畑はどちらに」
「今、案内します!」
私は畑に祝福をかけ、元気にしてから、再びレナちゃんの所へと戻った。
そしてレナちゃんのお母さんが元気に家の仕事をしているのを見ながら、レナちゃんをあやす。
きゃっきゃっと笑うレナちゃんは大変可愛らしく、例のロリコン魔王が生きていたら、すぐにでも攫ってしまっただろう。
「ぃーら!」
「はいはい。なんですか? レナちゃん」
「きゃっきゃ!」
「あー。今日も可愛いですねぇー」
そしてレナちゃんはまだまだ赤ちゃんだというのに、非常に人気だ。
何故なら、私がレナちゃんと遊んでいるだけで、村に居る多くの子供が一緒に遊ぼうと言ってくるのだ。
す、すごい!
これが乙女ゲームの主人公!
こんな子供の内から愛される技能を習得しているだなんて!
うーん。レナちゃんってば天才!
「ねぇねぇシーラ様。僕も抱っこして」
「えぇ。良いですよ」
私はレナちゃんを浮遊魔法で浮かせながら、甘えん坊な子供を抱っこし……次の瞬間には、僕も私もと大人気になってしまった。
いやぁー。私もモテモテ。
なんて言っていると悲しくなるけれど。
良いのだ。子供にモテるのだって才能だから。
良いのだ!
どうせ今の私は合法ロリエルフだからさ。普通の男の人と付き合うのは難しいからね。
どうしたって向こうはロリコンやんという目で見られちゃうし。
かと言って、子供を見ても、子供だなという風にしか見えないし。
オリヴァー君くらい年を取ってれば良いんだけど……まぁ難しいよね。
そういえば、オリヴァー君はいつエミリーちゃんと結婚するのだろうか。
エミリーちゃんも若返りと不老長寿の魔法で若いままだけど、心は老いてゆくのよ。
男の人は結婚があまり乗り気じゃないかもしれないけど、それでもそこを頑張ってもらいたいものだ。
なんて。
私が言ってもしょうがないけどさ。
という訳で、今日も今日とて、これからも。
未来の聖女の守護者として頑張っていくゾイ!