どうも、こんにちは。
レナちゃんの家に居座り始めてから五年くらいの時間が流れました。
子供の成長は早いもので、レナちゃんはすっかり自分の足で走り回れる様になっており、将来の夢をしばしば口にするようになっておりました。
「レナは騎士になる!」
木の枝を掲げながら、快活に笑うレナちゃんに私は笑みを向けながら心の中でツッコミを入れる。
どうしてこうなった!
おかしい、妙だな。
原作のレナちゃんは、まぁ確かに元気な子ではあったけど、それでも女の子がイメージする女の子らしい女の子という様な。
少女漫画とかに出てくるような普通の女の子であったはずなのだけれど。
そう、あの特徴が無いのが特徴というか。
派手さとかもなくて、ある程度プレイする人間が感情移入しやすいようなキャラクターであった。
少なくとも、村の男の子達をチャンバラごっこで倒してしまうようなヤンチャな子では無かったはずだ。
「囚われのお姫様ごっこしよう!」
だから、私は不意にレナちゃんが言い始めたごっこ遊びを聞いて、チャンスだと思った。
これで、お姫様役にレナちゃんがなれば、騎士側ではなく、お姫様サイドに憧れるのではないかと。
「じゃあ誰が何やるか決めよう!」
「うん!」
「でも、お姫様役はもう決まってるよね?」
お友達の一人が発した言葉に私はうんうんと頷いた。
流石は主人公! やんちゃしていても隠し切れない魅力が……。
「お姫様役は、やっぱりシーラちゃんだよね!」
「そりゃそうでしょ」
「わかるー」
「……は?」
「という訳で決定。私は騎士ね!」
いやいやいや、待って!!
待って欲しい。
そもそもの話。私は別にごっこ遊びで楽しむ様な年齢ではないのだ。
あくまで護衛としてここにいるだけである。
そんな私をごっこ遊びに混ぜるのは、まぁ、良いけど。木の役とかにするべきでは無いだろうか。
演技力とかないし。
いや、そうか! もしかして、アレか!
私の得意技である、いついかなる時もニコニコ笑って座っているだけ。がここにきて悪い方向へ運んでしまったのか。
確かにこの世界のお姫様的存在はニコニコ笑って座っているだけである。
それ故に、私が適任だと思われてしまったという事か!!
何という事だろう! この圧倒的才能がここにきて足を引っ張ってしまうとは!
しかし私は負けない。ここで負けては未来のイケメン達に申し訳ないからね!
「わ、私は、レナちゃんがお姫様が良いと思うのですが、如何でしょうか」
「え? レナやだよ。お姫様なんて退屈だし」
「そんな事ないですよ! お姫様は色々なカッコいい男の人達に囲まれて、とっても幸せにして貰えるんですよ?」
「ふーん。他には?」
「ほ、他ですか!?」
「そもそも、幸せにして貰えるって、どういうこと?」
「え? いや、あの」
「男と居て、何が幸せなの?」
何が? え? いやだって、付き合ったら幸せなんじゃ無いの?
ゲームじゃあそう言ってたし。私もそういう物だと思ってたけど。
幸せって何?
いや、でも、子供たちは、みんな幸せだって言ってる。
そうだよ。みんなが幸せって言ってるんだから、それを言えば良いんだ。
「その、美味しいご飯が食べられて」
「今も食べてる」
「安心できる家があって」
「今もある」
「その、一緒に居て嬉しい人が」
「ママ、シーラちゃんと一緒に暮らしてる」
「えと、えと……えと」
「終わり?」
「えと……はい」
「ふぅん。じゃあレナにはどうでも良いよ。そんなの。はい。という訳で、お姫様役はシーラちゃん」
「ぐぬぅ」
私は花の王冠を受け取りながら、お姫様役として座ろうとしたのだが、残念。何度か使っているせいか、王冠は壊れてしまった。
「ありゃ」
「壊れちゃったねぇー」
「じゃあまた作りに行こうか」
レナちゃんとお友達たち。それに男の子達も連れて、この村の同じ年頃の子たち全員で森へと向かう。
子供だけでは当然危ないからダメなのだが、まぁ私が居れば危険は無いし。
私が居れば基本的には大丈夫だ。
という訳で、今日も今日とて花畑に来るまでに出てきた魔物は雑魚ばかりだ。
草むらから飛び出してくるので、シューティングゲームみたいな感覚で、石ころを投げて魔力弾に変えて打ち込む。
それだけで倒せるので、雑魚という訳なのだが。
まぁ、子供だけだったら当然アウトである。
子供たちも私と一緒に居るから感覚がおかしくなっていそうだが、一応子供だけで行くような真似はしないから大丈夫だろう。
「わー。今日も綺麗だねー」
「おーい! 向こうで冒険ごっこしようぜー!」
「あまり遠くへ行っちゃだめですよ!」
「分かってるよー!」
花畑から遠くへと走ってゆく男の子達を見送りながら、一応声を掛ける。
まぁ、どうせいう事は聞かないだろうから、何かあった時用に遠隔監視魔法は使っているが。
「じゃあ、花冠つくろうよ!」
その点、やはり女の子は良い。
ちゃんと私の周りで大人しく遊んでいてくれるから。
まぁ。
「ほらー! シーラちゃん、逃げないで!」
「どうせなら花冠だけじゃなくて、お花で服を飾ろうよ!」
「いいね! やろうやろう!」
私を玩具にしている事を考えると、どっちもどっちな様な気もするのだけれど。
私はお人形では無いので……。
「っ!?」
私はソレの気配を感じて、顔を上げた。
子供たちが逃げてくる感覚と、その後ろから付いてくる存在。
かなりの大物だ。
大人でも、目の前に居たら逃げ出したくなるような大物。
それが子供たちを追いかけて、こちらに来ていた。
「みんな。私から離れないで下さい」
私は魔法を使って、男の子達を呼び寄せると、女の子たちと同様に、私の後ろに置く。
魔法で守ってたから怪我はしていないけど、怖い思いはしたのだろう。大泣きをしていた。
これで少しは冒険も怖い物だと分かってくれればいいのだけれど。
私はフッと笑いながら、子供たちから離れて一歩二歩と、森の向こう側から現れた魔物に向かって歩き出した。
「し、シーラちゃん!」
「ん? どうかしましたか?」
「……ううん。なんでもない」
「分かりました。少し待っていて下さい。怖いのはすぐに終わりますからね」
私は、魔力を全身からみなぎらせて、魔法の準備をする。
魔力弾とかでも消し飛ばせるけど、そうすると森の木々が倒れたり、地面にクレーターが出来たりって、色々問題も多いしね。
最近は、こう、あえて大規模な魔法を使って、追い払うのが一番だという事に気づいたのである。
という訳で、派手に分かりやすい魔法を使ってやるのだ。
最初は水の魔法で、私の何倍も大きな、木よりも大きな魔物の顔を濡らしながら、空に向けて放ち。
私に気づかせてから、火の魔法と雷の魔法を顔の両側に通過させる。
それだけで良い。
たったそれだけで、力量差が分かるから、魔物は去ってゆくのだ。
けれど、また忘れた頃に来るんだろうなぁと私は空に浮かぶ虹を見ながら考えるのだった。
「じゃ、魔物も帰った事ですし、私たちも帰りましょうか」