(レナ視点)
今日は私の10歳の誕生日だ。
楽しい日だ。楽しいはずの日だった。
でも、ママが病気で、もう二度と目を覚まさないとシーラちゃんに言われて、とても悲しい日になった。
シーラちゃんは結構前からママの病気の事を知っていて、どうにかしようとしていたんだけど、無理だったらしい。
そして、これからの事を聞かれた。
「これから?」
「そう。レナちゃんには三つの選択肢があります」
「みっつ」
「はい。一つはこのままこの家で暮らしていく事。ただし、お金を稼がないといけないので、どこかで働く必要があります。でも、多分これが一番静かに生きていく事が出来ます」
「……」
「二つ目は、レナちゃんが癒しの魔法を使える事を、聖女である事を世界に明かす事です。おそらくはどこかの国で保護される事になり、教会に入る事になります。この場合、労働はほとんど無くなりますが、おそらく自由も無くなります」
「……最後は?」
「三つめは……ムイゼンの孤児院に入って、勉強を頑張って、ムイゼンにある学園に入学する事です。聖女である事を隠して。そして将来に繋げる為の勉強をして、聖女である事を武器にしない生き方をする。でしょうか」
私は全部を聞いて、一番大事な事を聞けなかったと、シーラちゃんに再度尋ねた。
「シーラちゃん」
「はい」
「どれを選んだら、シーラちゃんと一緒に居られるの?」
「私、ですか?」
「うん。私にとってはそれが一番大事。将来なんかより、家族と一緒に居られなくなる方が、嫌だ」
「……レナちゃん」
私は、シーラちゃんの言葉を待って、両手でスカートを握りしめた。
どれもシーラちゃんと一緒に居られないと言われたらどうしよう。という不安が私の中に湧き上がる。
しかし、そんな私の不安を吹き飛ばす様に、シーラちゃんはいつもの笑顔を浮かべた。
「大丈夫。どんな未来を選んでも私は傍に居ますよ。まぁ大人になるまでは。ですが」
「大人になるまでは……か。私が大人になったら、シーラちゃんはどこに行くの?」
「私ですか? 私は孤児院がムイゼンの学園にありますので、そこに帰る予定です。今はたまにしか帰る事が出来ていませんので、子供たちに怒られてしまいそうです」
「……孤児院、か。シーラちゃん。私、決めたよ」
「はい」
「私、そのシーラちゃんがいる孤児院に入って、勉強頑張って、ムイゼンの学園に入る。それで、ムイゼンの学園で働けるように勉強頑張る!」
「先生になる。という事ですか?」
「え? うん。先生。そう。先生。ずっと先生になりたいって憧れてたから」
シーラちゃんが怪しい物を見る様な目で私を見たが、私はスッと視線を逸らした。
だって、シーラちゃんが大人になったら離れ離れにならないといけない。なんて言うから。
だから大人になっても、その学園に居ればシーラちゃんと一緒に居られるって訳だ。
「……はぁ。分かりました。きっとレナちゃんも学園に入れば考えが変わりますから。学園には格好いい男の子もいっぱい入ってくるでしょうし」
「ふぅん。それってシーラちゃんが前から言ってる奴だよね。結婚して幸せがどうのって奴」
「はい。そうですね。今は家族が私だけになってしまいましたから、傍に居たいと考えていると思いますが、いずれ恋をすれば変わりますよ」
「ふぅーん。恋ね。シーラちゃんはしたこと無いのに、私がその男の子たちに恋するって信じてるんだ」
「はい! 間違いないです!」
自信満々に頷くシーラちゃんを見ていると、何だか腹が立ってきて、シーラちゃんの頬を指で突いた。
それから逃げようとするシーラちゃんを捕まえて、くすぐり攻撃をしてゆく。
シーラちゃんはさらに逃げようとしているが、私が小さい時から全く見た目の変わっていないシーラちゃんに逃げられる訳もなく、あっさりと捕まって、笑い転げているのだった。
ある程度遊んだ所で解放したが、シーラちゃんはまだ警戒しているのか、離れた場所で小さくなり、両手で脇を守っていた。
可愛い。
こうしていると、シーラちゃんは本当に可愛い。
その人間離れしたエルフという種族の容姿もそうだが、何だかんだと子供のまま成長しない心が可愛さを表に出しているのだろう。
でも、だからこそ。
普段はちょっと抜けてて、子供っぽくて可愛いばかりのシーラちゃんだからこそ、たまに見せてくれる格好いい姿に、私はきっと恋をしてしまったのだ。
シーラちゃんが何度も格好いい男の子の話をするたびに、私がイライラとしているのをシーラちゃんは知っているだろうか。
きっと知らないだろうな。
だから、そんな顔も名前も知らない人たちに恋をするんだ。なんて断言できるのだ。
「でも……ライバル多そうだなぁ」
「むむ? 学園の話ですか? 確かに、学園には世界中から優秀な人が集まりますが、大丈夫ですよ! レナちゃんはきっとその中でもトップクラスに優秀ですから!」
「ふぅん」
「あれ!? 信じてませんか!?」
いや、そっちは別に疑っていない。
だって、子供の時からずっとシーラちゃんに魔法を教わっているから。
いつかシーラちゃんと並び立ちたくて、頑張ってきたから。
その辺りの奴には負けない。そういう自信はある。
でも、そうじゃない。そうじゃないのだ。
気になっているライバルは、シーラちゃんをめぐるライバルだ。
何せ、シーラちゃんはこの村の中ですら、終ぞ自分に向けられる好意に気づかなかったほど鈍いのだ。
どうせ、その学園やら孤児院やらにもライバルはいっぱいいるのだろうと思う。
しかし、負けない。負けたくはない。
「シーラちゃん。私必ず勝って見せるからね!」
「はい。応援していますよ!」
「……」
ふと、真剣な表情で私を応援してくれるシーラちゃんを見て、悪い考えが浮かんだ。
そうだ。
「シーラちゃん。私ね。本当は凄く不安なの。学園に入れないかもしれないって。入れなかったら、私、独りぼっちで生きてかなきゃいけなくなるんでしょ……? その男の子達にも会えなくなっちゃう」
「だ、大丈夫ですよ! 私が付いてますから!」
「……ねぇ、シーラちゃん。私、頑張って学園に入れたら、ご褒美が欲しいな」
「ご褒美ですか? それはどんな……?」
「それは、言えないけど。ほら、男の子の事とか、色々あるじゃない? だから、今はまだ言えなくて」
「あ! そ、そうですよね! はい、分かります」
「だから、約束だけ、して欲しいの。私が学園に入学する事が出来たら、シーラちゃんが私の言う事、なんでもきいてくれるって」
「分かりました! お任せください!」
私はシーラちゃんと約束をしながら、見えない所でニヤリと笑った。
本当にシーラちゃんは甘い。
こうやって色々な所で騙されているんだろうなと思いながら、私は自分の事は棚に上げて、シーラちゃんを守ろうと心に誓うのだった。
そして、生まれ育った家とママに別れを告げて、私はシーラちゃんとの新しい生活を送るべくムイゼンという町へ向かう事になった。
まずは、孤児院の掌握だ。
そこにどれだけシーラちゃんを巡るライバルが居るのかは分からないけど、仲間は増やしておく方がいい。
最高のハッピーエンドを迎える為に。
私、新しい町でも頑張るよ! ママ!