時が過ぎて、レナちゃんが学園に入学する年齢になった。
そう。16歳である。
これでいよいよ『春風に囁く恋の詩』のゲーム本編が始まるのだ。
長かった。
本当に長かった。
レナちゃんを引き取った時から考えてもそうだけど、そもそもこの世界に転生してからもかなりの時間が経った様に思う。
当初の目標であった、この世界から不幸な子供を無くそう作戦は大分順調で、ムイゼンと同じ様な学園を世界中に増やすのと並行して、学園内に孤児院を作る事が出来たので、不幸になりそうな子供はそこに入れる事が出来る。
そして、16歳になったら、それぞれの学園に入るか、オリヴァー君が作った冒険者組合に入るか選択出来て、自分で生きる方法を選べるという訳だ。
まぁ、勿論それ以外の全く関係ない道を選ぶ事も出来る。
ただ、そっちは私があまりサポートが出来ないというだけで……。
私としては、出来れば何もない道を歩むより、楽な道を選んで貰いたいのだけれど。
でも、子供の人生だしなぁ。
悩ましい。
「シーラ様」
「……うぅむ」
「シーラ様!」
「はっ! な、なんでしょうか!?」
「いえ。そろそろ入学式が始まりますので」
「あ、そうですね。挨拶ですね。はい。頑張ります!」
「お願いします」
私はペコリと挨拶をして、待機室から出て体育館へと入った。
そして、本当に大勢の学生が座っているのを確認して、ゴクリと唾を飲み込む。
体育館の後ろから入って、テクテクと歩きながら、並んで座っている学生の横を進んだ。
途中に、レナちゃんが座っているのが見えて、レナちゃんが振った手に私も手を振ったのだが、一気に生徒がざわついてしまい途中で中断した。
そんな一挙手一投足を気にするのは止めて欲しいと思う。
いや、確かに私はエルフで珍しいだろうけどさ。
動物園の動物では無いのだ。許して欲しい。
そして、どうにか手足を動かして、壇上に立った私は私用の台に上り、講演台に両手をついて視界の中にいる生徒達へ話をするのだった。
『あーあー』
拡声器に魔力を流して声の状態を確認し、大きく息を吸って、吐いた。
『お、おはようございます。本日は良い天気ですね』
『……はい。えと、その、こんな晴れやかな日に、今日という日を迎えられた事を私も嬉しく思います』
『ここに皆さんがいらっしゃるという事は、今日までの努力が実を結んだという事でしょう』
『今日からの日々をどうぞ、楽しみつつ、学んでいただければと思います』
私は上手い事なんて何も言えず、誤魔化す様に頭を下げた。
そして私が頭を下げると同時に凄い拍手が体育館全体に溢れる。
うーん。
こんなモンで良いのか。
いや、冷静に考えれば珍しいエルフがなんか喋ってたから面白かったって手を叩いているだけだろう。
冷静になれ。
惑わされるなシーラ!
こういう所で図に乗ると後々痛い目を見るからね。
ちゃんと自分の評価は受け止めよう。大した事は言えてない。珍しさから拍手を貰っただけ。
はい。
はぁ……ツラい……。
という訳で気を取り直して、進行してゆく入学式を見ていたのだが。
皆さん良い事言うわー。
流石は世界中から集まった優秀な先生方って感じ。
お飾りエルフとは大違いですわね。
まぁ良いよ。ほら、良く言うじゃない。上が無能だとその分下が優秀になるって。
私が無能であるが故に、実際に働いている人たちがどんどん優秀になってゆくという事で。
どうか許して貰えんか。
なんて、祈りを捧げていた私をよそに、入学式は無事終了し、私は帰ってゆく生徒を見ながら、先生方と会議を行う事になった。
「本日はわざわざありがとうございました。シーラ様」
「え、いえ。大した事はしてませんよ。挨拶も全然良い事言えなかったですし」
「その様な事はありませんよ。私はお話を聞いて涙が止まりませんでした」
いやいや。
大袈裟な上に意味が分からない。
泣けるポイントなんか欠片も無かったけど。
「私は大変気分が高揚しました。新入生は幸せですな。シーラ様のお言葉を頂く事が出来るとは」
「そうですか?」
「はい」
当然だろ? とでもいう様な顔で頷く先生に私は何も言えず、そうですかと言いながら引き下がった。
この人ら、エルフ好きすぎでは?
もうエルフが生きてるだけで楽しいっていうタイプの人なんじゃないかな。
「しかし、今年は遂に入学してきましたな」
「そうですね」
私は不意に始まった先生たちの話を聞きながら資料を見る。
そこにはレナちゃんの詳細な情報が書かれていた。
「聖女ですか……厄介なものですな」
「既にシーラ様によって保護されている以上、どこの国も荒事は起こさないでしょうが、それでも彼女を巡り、各国が動くでしょう」
「幸いというべきか、彼女自身に野心などは無いようだ」
「だが、だからこそ厄介だという話もある。彼女の気分で世界の地図が変わるなど、こちらとしては容認できる事ではない」
「皆さん」
私はレナちゃんが、何か危険物の様な言い方をされているのが気に入らなくて、思わず声を掛けてしまった。
確かに聖女という存在は厄介かもしれないが、それでもレナちゃんは一生懸命な良い子なのだ。
たまに、ちょっと、アレな所もあるけれど。
それでも、レナちゃんは私の可愛い子だ。悪し様に言われたくはない。
「レナちゃんは普通の女の子です。確かに聖女という特異な力を持っているかもしれません。それでも、普通の女の子なのです。どうか、その事を忘れないでいただきたいです」
「シーラ様……」
「どの様な事情があろうとも、レナちゃんも、他の子もこの学園で魔法を学び、将来の為に頑張っているのです。それを私たちが邪魔してはいけないと思います。はい」
「シーラ様のお考え、よく理解しました」
「では、かの生徒は他の生徒と変わらず、一般生徒として扱いますが、よろしいでしょうか」
「はい。その様にお願いします」
私は頭を下げてから、私は次なる議題へと挑む。
そして、会議を終わらせてから孤児院へと帰った。
孤児院へ帰ると子供達が駆け寄ってくれて、仕事で疲れた体が一気に癒されるのを感じる。
「ただいま帰りました」
「シーラ様! 今日のご飯はねー。私が手伝ったのー!」
「そうなんですか? それは楽しみですねぇ」
「ね! ね! 僕はね! 僕はね!」
「はいはい。順番に聞きますよ」
子供達に手を引かれながら、食堂へと向かい、食事をする。
そして、お風呂に入り、全てが終わってから自室へ戻って、明日からの生活についてレナちゃんと話をする事にした。
「明日からレナちゃんも寮生活ですね。準備は大丈夫ですか?」
「うん。初めからその約束だもんね。大丈夫。準備は出来てるよ」
「それは良かったです」
「でも、本当はシーラちゃんも一緒に連れて行きたいくらい」
「ふふ。寂しがってくれるのは嬉しいですが、独り立ちする事も大事ですからね」
「分かってるよー」
レナちゃんは私のベッドに座ると横になり、いじけた様に私の枕を抱きしめる。
まだ子供の様な姿を見て、私は笑みを零した。
「終わってしまう昨日は惜しく感じるものだが、未だ見えぬ明日への希望に比べれば些細なものだ」
「……どっかの偉い人の言葉?」
「そうですね。そんな感じです」
「そっか。楽観的な人だったんだろうね」
「そうかもしれないですね」
「でも、シーラちゃんも前に進み続けてるんだもんね。なら、私も頑張らないと」
「応援していますよ。レナちゃん」
「うん! 私、頑張るよ!」
いよいよ物語が始まる。