さて。いよいよ『春風に囁く恋の詩』のゲーム本編が始まった訳だが。
正直な所、私のやる事はそんなにない。
というか人の恋愛事情に首を突っ込むのもどうかと思うので、ただ見守るだけだ。
ま。レナちゃんはとっても可愛いし、いい子だし、頭も良いし、気配りも出来る凄い子だからモテるのは間違いないだろう。
なんて思っていたのだが、どうもそう上手くはいかないようだった。
そう。問題は、キッフレイ聖国から来た双子の王子のナルシス・ノグロ・キッフレイ君にある。
いや、問題があるって言い方は良くないな。
別に彼に問題がある訳ではないのだ。素直な子だし。努力家だし。
まぁちょっと、こう、プライドが高いというか。意識が高い所があって、そういう所がとっつきにくいのだけれど。
それでもよく話せばいい子だという事は分かる。
表に出さないけど家族大好きだしね。これから王様になる訳だけど、民衆に対しても何か悪感情がある訳でも無いし。
普通の貴族と言えば、普通の貴族だ。
ただし、これが『春風に囁く恋の詩』における攻略キャラクターとなると話が変わる。
はい。そう。私の冴えわたる頭脳は、ナルシス君とレナちゃんが二人で話をしているシーンを見て、ビビビッと思い出しましたよ。
あ、この子、この世界のヒーローの一人やんと。
何故忘れていたのかとかいう人は、是非50年以上前にプレイしたゲームの詳細を語ってみてもらいたい。
それが出来てから私と話をしよう!
私は未だロリの中のロリという見た目で、歩くだけでそういう性癖の人にねっとりとした目線を送られるくらいには幼女だが、それでも相当長生きしているエルフなのだ。
この世界に転生してから30年近くエルフの里で過ごし、そこから45年くらい人間の世界で過ごしてきた。
……。
ごめん。そう考えたら50年じゃなかったわ。75年だわ。
はい。この中で、75年前にプレイしたゲームの内容を覚えている人だけが私に石を投げても良いですよ。
ま。そんな人がいるわけも無いので、話を先に進めよう。
そう。なんやかんやあって忘れていたけれど、ナルシス君は攻略キャラクターなのだ。
タイプ的にはあれね。俺様系王子様。
多分テニスとかやらせたら、俺様の美技に酔いなとか、メッチャ良い声で言ってくれるよ。
知らんけど。
という訳で、俺様キャラ故か、自分が絶対正義という精神を以って、レナちゃんに接しているんだけど。
レナちゃんも結構気が強いタイプだから、バッチバチにぶつかり合っちゃってるんだよね。
「おい。平民。誰の許可を得てこの教室に居る」
「シーラちゃんですけど。というか、人の事を指さしてお前とか言わないで貰えますか? 薄汚い盗賊の生まれじゃあ知らないかも知れないですけど。これ。常識ですよ」
「お前……! 私を愚弄するつもりか!!」
「あぁ、これは申し訳ございませんでした。盗賊の生まれでもまともな人はいますもんね。間違えました。人間以下の人間と同じような言葉を話す害虫さん。不愉快なので、口を開かないで貰えますか?」
「お、おま……お前!」
良いのか? これで?
大丈夫? まだ息してる? 乙女ゲーム。
何だかんだと生まれも良いし、環境も良いナルシス君は悪口の引き出しが貧弱で、レナちゃんの悪意しかない言葉にいつも打ちのめされている。
可哀想……。
「お前のような女は……! 初めてだ!」
「随分と狭い世界に生きていたんですね。同情しますよ。薄っぺらい人生経験しか積めないなんて。これからも何も知らず、無知で、無価値で、無意味な人生を送るんでしょうね。うーん。羨ましい」
「……っ!!」
ナルシス君が一度言葉でレナちゃんを軽く、てい! と叩くと、レナちゃんが無限を描きながら一発一発が必殺技くらいの威力がある暴力の中の暴力というようなパンチを雨の様に浴びせるのだ。
もはや、戦いですらない。
ナルシス君は涙目になりながら、それでもレナちゃんを必死に睨みつけていた。
年齢的にはナルシス君の方が上だし。ゲームでも年上キャラの一人であったのだけれど。
今ここに年上キャラの包容力とかそういうのは完全に消え失せている。
あるのは荒野に咲く、今にも吹き飛ばされそうな互いへの好感度という名の花だけだ。
「あのー。そろそろ授業を始めても良いでしょうか」
「はい! ごめんなさい! シーラちゃん。教室が汚れていたので、ゴミ掃除をしていました」
「は? どういう意味だ」
「……殿下。おそらくは殿下がその掃除の対象だと言っているのではないかと」
「何ィ!? 貴様!! 平民!!」
「騒がしい汚水ですねぇ。今から授業をしたいってシーラちゃんが言ってるじゃないですか。言葉も理解出来ないんですか? この教室では……いいえ。この世界でシーラちゃん以上に優先される事項は無いんですよ?」
あー、ほら。そうやってすぐ挑発する。
世界の中心にいる俺様がそんな事聞く訳無いじゃんねぇ?
あぁ、またここから喧嘩か。
これが学級崩壊。まさか異世界でこんな事を知ってしまうなんて。
「あぁ、そうだな。申し訳ございません。シーラ様」
「……」
いや、なんでやねーん。
教室に居た全員がびっくりするくらいの速さで椅子に座り、姿勢を正して私を見る。
いっそ怖いけど。
何? 私は神かなにかなの?
……。うぅ、深くは考えない様にしよう。
「皆さん。それぞれの考え方、生き方があり、意見が合わない事もあるのは分かります。ですが、どうか表面的な事情や言動だけで相手を判断せず、どうしてそういう考えをするのか、理解してゆく事も大事だと私は考えます」
「……」
「まぁ、とはいってもどうしても合わない方が居るのも事実。そういう場合は、無理に排除しようとせず、そこにいる事だけは認めて下さると、世界は少しだけ平和になるかな。と考える次第です。はい」
なんて。それっぽい言葉を言ってみたけれど。
まぁ、言われてすぐに変わる様なら苦労はしない……。
「はい! シーラ様!」
「うん。分かったよ。シーラちゃん。ナルシス君だっけ。さっきはごめんね。私、言い過ぎてたよ」
「あぁ、私もだ。すまなかったな……レナさん」
「良いよ」
って、もう仲直りしてる!!
早っ!
でも、そうか。そうだよね。元は良い子たちだもんね。
なんかこう、色々と気分が悪いとか、色々とあってぶつかってただけなんだろうなぁ。
良かった。良かった。
私は楽しい気分になり、ニコニコと笑いながら授業を行った。
私の魔法の授業はそれなりに好評らしく、今日も今日とて好評のまま終わるのだった。
しかし、授業が終わってからふと一つの疑問が頭に浮かんだ。
それはレナちゃんとナルシス君の恋の行方である。
私はなるべく喧嘩とかが無いようにと言ったのだけれど、ゲームでも何かとぶつかっていた様な気もするのだ。
その度に周りは二人を注意していた。
でも、でも! 二人とも本当は喧嘩をしつつ、互いを認めていたのだ。
相手を認めていたからこそ、二人はぶつかり合っていた。
喧嘩ップルという奴かな。
最大のライバルであり、最愛の相手とでも言うのだろうか。
つまりはそういう相手だった訳だが……もしかして、私のせいで二人が恋愛をする切っ掛けを奪ってしまったのではないだろうか!
あぁ! だとしたら非常に申し訳ない!
でもそれを確認する事も出来ないし。
うぐぐ。どうすれば良いんだ! 私は!!