(レナ視点)
物心ついた時から、シーラちゃんが傍にいて、ずっとシーラちゃんと過ごしてきた私には分からない事であるが、シーラちゃんは世界にとって、とても重要な人らしい。
あぁ、そうか。人じゃなくてエルフだったね。
まぁだからなんだって話なんだけど。
シーラちゃんが重要だという話も、エルフだから人とは違うっていう話も、全て私にとってはどうでも良い話だ。
だって、シーラちゃんはシーラちゃんだし。
これまでも、これからも当然私の隣に居てくれるし、私も隣に居られる様にする。
運命の人だ。
シーラちゃんが恋や愛が幸せを運んできてくれるというが、それなら、シーラちゃんと一緒に居て幸せを感じている私は、今シーラちゃんに恋をしているし、愛情を感じている事になる。
うん。まぁ、そうだね。別におかしな事は何もない。
私はシーラちゃんが大好きだし。シーラちゃんも私が大好き。
なら、何も問題は無いし。これからもそれが続いていくべきだろう。
そう。そうなるべきなのだ。
だというのに、世界にはそれが気に入らない奴もいるというのを、学園に入ってから知った。
「ちょ、ちょっとレナ。駄目だよ。あの人。キッフレイ聖国の王子様だよ?」
「だから?」
学園に入り、寮生活を始めてから同室になった、ヤスミンの言葉を背中で聞きながら、私は偉そうに廊下の真ん中を歩く男を睨みつけた。
「邪魔なんだけど。道は譲り合って歩きましょう。って話、理解できない?」
「そう思うならお前がどけば良いだろう。平民」
「ハッ。自分一人で生きていく事も出来ない男が偉そうに話さないでくれる? 笑っちゃうから」
「何ィ?」
最初の出会いは最悪だった。
互いに廊下の真ん中を歩いて、睨み合って、結局そのまま決闘になった。
まぁ、勝ったけど。
こっちはシーラちゃんから10年以上魔法を教わってるんだ。その辺の奴には負けないよ。
「ばっ、バカな! この俺が!」
「ダッサ。口ばっかりの男って最低よね。ね? ヤスミン」
「ちょっとレナ。私に振らないで。私まで王子に睨まれたくないんだけど」
「別にそんな怯えなくても大丈夫でしょ。こんな雑魚!」
私は地面に倒れる王子とかいう名前の雑魚の背中を踏みつけて笑った。
敗者となった雑魚は酷く悔しそうな顔をしていたが、負けた奴は何も意見をする資格が無い。
それは私が人生の途中から暮らしていた孤児院の常識である。
しかし、この日から負けた雑魚が何度も何度も挑んできては、私の生活を邪魔してきたのだ。
「平民! 今日こそ、思い知らせてやる!」
「はい雑魚」
「今日の私は一味違うぞ!」
「雑魚の中の雑魚ー」
「今日という今日は決着をつけてやる」
「あれ? おかしいな。何か声が聞こえたんだけど。気のせいかなぁ。ま! 気のせいか! あれ!? こんな所に足ふきマットが落ちてるぞぉー? 靴の裏をよく綺麗にしておこっと」
本当に面倒な話だ。
私はシーラちゃんとの将来の為に頑張っているというのに、それを邪魔するなんて、万死に値するよ。
でも、そんな口だけの雑魚も、ちゃんと五体満足で返してあげる辺り、我ながら優しいなぁと思う次第だ。
「ねぇ。レナ。アンタそれ本気で言ってる?」
「当たり前じゃん」
「……今さ。学園で貴女がなんて呼ばれてるか知ってる?」
「興味ないから知らない」
「特別教室一年のバーサーカーよ。信じられる? バーサーカーよ。狂戦士! 私ならそんな名前付けられたら発狂するわよ」
「バーサーカー、か」
私は食堂でお昼ご飯をヤスミンと食べながら、自身に付けられた名前を聞き、思わず手を止めて考え込んでしまった。
「あら? どうしたの? まさか、ようやく自分がおかしいかもしれないって気づいたの?」
「うん……狂戦士はちょっと、困るな」
「そうよね! そうよ! 良かった! レナもちゃんと女の子だったのね。そりゃあ嫌よね。狂戦士なんて! 可愛くないもんね」
「うん。当然だよ。だって、シーラちゃんは小っちゃくて可愛い妖精って感じだけど、その横に居るのは女神とかの方が相応しいもんね。今度から私の事狂戦士とか言う奴らは全員殲滅しよう。ありがとう。教えてくれて」
「……ふぁ」
「ん?」
「ちがーう! 違うでしょ! なんでそこで殲滅なの!? そういう所が可愛くないんだって! そんな事やったら余計に狂戦士だよ!」
「じゃあ、撃滅の方が良いって事?」
「滅の派生形から離れてくれませんか!? もっとこうさ。言葉でなんとかしようと思わないの?」
「言葉ぁ? めんどくさ。魔法で倒す方が楽だよ」
「楽とか楽じゃないとかそういう話じゃないの! 良い? よく聞きなさい。レナ。アンタ。このままじゃあシーラ様に見捨てられるよ!?」
「えぇ!? どういう事! ヤスミン!! あ、違った。どういう事でございますでしょうか。ヤスミン様」
「いきなり態度変えないでよ。気持ち悪いから」
「四肢を砕いて、魔物の森に生きたまま放置しますわよ?」
「怖い怖い。ニコニコ笑ってとんでもない事言わないで! そんな事したら、私シーラ様に全部言うからね……って、ちょっと? レナ? なんで魔法の準備してるの?」
「今までありがとう。ヤスミン。最高の友達だったよ」
「過去形にしないで!! 分かった! 分かったから!! シーラ様の写真を一枚あげるから!!」
「……うん」
「突然大人しくなったわね。ホント、爆発魔法みたいな子だわ。とりあえずはい。写真」
「ふぁぁぁぁ。シーラちゃんのねむねむな顔だぁ。可愛いなぁ。ちゅっちゅ」
「……アンタがいつかシーラ様を襲うんじゃないかって毎日不安だわ。ホント、止めてよ? 戦争が始まっちゃうから」
「はいはい」
私は適当に返事をしながら写真を大事に懐へしまった。
そして、少しだけ真面目な話をするために、ヤスミンを見据える。
「それで? 口で話すってどうしたら良いのさ」
「いや、シーラ様と話しているみたいにやれば良いでしょ? 私と話している感じでも良いけどさ」
「シーラちゃんと話している感じで話すぅ? 凄い事言うね。ヤスミンってば」
「は?」
「だって、シーラちゃんと話す時は、とっても楽しいもの。こうやって目を閉じて、想像するだけで楽しくなっちゃう」
「はぁ、そうですか」
「授業だってね。シーラちゃん、いっつもニコニコ楽しそうに話してるんだよ? 可愛いでしょ。一生懸命でさ。もう、いっつも抱きしめたいなぁって気持ちを我慢してるんだから」
「その気持ちのほんの一欠けらでも良いから、他の人にも分けてやりなさいよ」
「え? どういう事? ちょっと意味が分からないんだけど」
「そんな難しい話をした覚えは無いんだけどなぁー!」
「ふーん」
「でもさ。ほら、きっとシーラ様も、レナが色々な人と仲良くしてたら喜ぶと思うけどなぁ」
「そうかなぁ」
「いや、もう間違いないよ! 私が保証する」
「……分かった」
「レナ! 分かってくれたのね」
「うん。分かったよ。だって違ったらヤスミンを痛めつけてストレス解消すれば良いだけだもんね」
「え? レナ?」
「よし! やってみよう!」
「レナさーん!? 聞こえてますかー!?」
それから私は、一生懸命お話をしようとしたのだけれど、結局シーラちゃんに怒られてしまった。
表面上だけあの男と仲直りしたフリはしたけれど、イライラとした気持ちは私の中に降り積もる。
「……はぁ。シーラちゃんに嫌われちゃったかなぁ」
「あはっ、あはははははは! ゆる、ゆるしてっ! あはははは」
「私、悲しいよ。ヤスミン」
「あははははは」
「もー。ヤスミンってば、何がそんなにおかしいの!」
「あんたが! あはははは! くすぐりの! あはははは! 魔法を!」
「はー。もうなんか疲れちゃった。私は先に寝るね」
「ちょ! レナ!? あはははははは!!」
「魔法は朝には終わるから。じゃ。おやすみ!」
「し、しぬ! あははははは! レナ! あははは! レナぁぁぁああ!!」
私は夜だというのに、騒いでいるヤスミンに睡眠魔法をかけて、静かにしてから眠るのだった。