最近、学園内で話をしているナルシス君とレナちゃんをよく見かける様になった。
何か言い争いをしている様にも見えたが、私が近づくと二人は一気によそよそしくなってしまう。
……。
これは、もうかなり良い感じになってるな?
私の目は誤魔化せないぞ!
と考えると、私が近づこうとするのは悪手な気がする。
今はお若い二人で二人きりの時間を過ごしてもらうのが一番だろう。
という訳で、私はなるべく学園内では二人と距離をとる事にした。
したのだが……。
「シーラ様。少々お時間よろしいでしょうか」
「はい」
「実はシーラ様にお聞きした魔法の使用法について疑問がありまして」
「何でも聞いてください」
ナルシス君に授業でのことを聞かれたり。
「シーラちゃん。ちょっと授業で分からない所があって、聞いても良い?」
「はい。良いですよ」
「それがね」
レナちゃんに授業の事を聞かれたりしていた。
うん。勉強熱心で良い事だなぁ。
……。
いやいや! おかしいよ! 二人ともなんで私に聞くのさ!
そこは二人で互いに……って、そうか。
気づいてしまった。
私、もしかしたら天才かもしれない。
恥ずかしいから出来ないんだ。二人とも気が強いから、素直になれないんだろう。
なんだ。そういう事だったのか。
なら、このまま静かに状況を見守るべきだろうか?
否。
否だ。
こういうじれったい二人は放置しておくと、このまま何も進展しないという事もあり得るのだ。
ゲームとか漫画でもよくあった展開だ。
ならば! 私が一肌脱ごうでは無いか!
翌日。私は授業で学園の近くにある演習場へと向かった。
「今日はここで皆さんに実践式の訓練をして貰います」
「実践式の訓練……?」
「そうです。以前にもお伝えしましたが、魔法はじゃんけんによく似ています」
私はいくつかの戦闘手段を見せながら、話を続ける。
「かつては魔法を互いに使用しながら隙を見つける様な戦いを行っていましたが、相手の魔法に干渉出来る技術が確立してからは、魔法に対しては魔法闘争を仕掛けるのが有効であるという風潮になりました」
私は片目に名前を言ってはいけないスカウターを付けながら笑う。
「しかし、魔法闘争を仕掛けられても、魔力を魔法に使わずそのまま塊として打ち出す事で、相手を攻撃できるという事が判明してからは魔法闘争を仕掛けられても、魔力砲で対処できるという事になり無敵の方法では無くなった訳ですね」
近くにあった石を広い、空に向かって石を核とした魔力砲を放ち雲に穴を開けた。
「ですが、魔力砲は強固な防御魔法を貫く事が出来ません。所詮は魔力の塊をぶつけているだけですからね。大きな力にはなっていない訳です」
私は左手に防御魔法、右手に魔力砲を生み出し、それぞれをぶつけて、霧散した魔力砲に対して防御魔法が無事な事を見せた。
「つまり、魔法は魔法闘争に弱いですが、魔法闘争は魔力砲に弱く、魔力砲は魔法に弱い訳です。ではどの様にして戦うべきか。分かる人は居ますか?」
「「はい!!」」
私の問いに、ナルシス君とレナちゃんが同時に元気よく手を挙げる。
「では、ナルシス君」
「はい。相手の使用する攻撃方法を見極め、最適な方法で対抗します」
「素晴らしい」
「……! まぁ。それほどではありませんよ。シーラ様」
「はい! はい!! はーい!!」
「はい。レナちゃん」
「相手のを見極めるなんて遅すぎるので、まずは相手に気づかれない内に牽制に魔力砲を放ちながら、魔法闘争の準備を行うべきです。上手くすれば、こちらの魔力砲を防ごうと展開しようとしている防御魔法を妨害出来ます」
「な、なんという野蛮な。決闘を何だと思っているんだ」
「勝てば良いんだよ。勝てば」
「貴様! その様な蛮行がいつまでもまかり通ると思うなよ!?」
「通用しなくなったら別の手段を考えるだけだけど。そんな事も分からないの? バカなの? あぁ、ごめんごめん。お勉強は出来たね。お勉強は!」
「ぐぅ、ぬぅぅう!!」
「はいはい。二人とも、言い争いは駄目ですよ」
「はぁーい」
「……分かりました」
私は上手くいったなと思いながら、両手を叩き、笑う。
この二人が意見を出し、それがぶつかる。それが見たかったのだ。
「どうやらお二人の意見はぶつかっている様ですね。では、どちらがより優れているか試してみましょうか」
「「え?」」
私の声に全員の視線が集まる。
「今から皆さんには2つのチームに分かれていただきます。その上で、ナルシス君の方法が良いか、レナちゃんの方法が良いか。実際に試してみましょう。ただし、全員相手が怪我をする様な魔法は使っては駄目ですからね」
それからナルシス君とレナちゃんがそれぞれ別の場所に立ち、強い方法だと思っている方に人が集まってゆく。
見た感じでは、平民とか騎士とか、戦う経験の多い方がレナちゃんの方に付いて、貴族とか学者とかあまり戦った経験のない方がナルシス君の方に付いている感じかな。
とりあえず全員がどちらかのチームに分かれた事を確認し、私は自分の分身を作りそれぞれのチームに向かわせた。
「はい。では敗北条件はそのコピーシーラが消えたらです」
「じゃあ勝ったら貰っても良いの!?」
「駄目です!」
「ぶー!」
レナちゃんから謎の注文が飛んできたが、何か変な事に使う人が出てきそうだから、却下しておいた。
そして、何故かナルシス君の方はコピーの私用の椅子を用意していて、そこにお姫様の様に座らせていた。
お人形遊びとか好きなんだろうか。
逆にレナちゃんの方は私のコピーを持ち上げて、体の細部を確認したりしている。
……さっさと始めて終わらせよう。
作戦名:夕焼けの河原で殴り合って友情や愛情を育もう作戦。
「では、始め!」
開始の合図と同時にあらかじめ話した様に、レナちゃんが魔力砲をナルシス君達に向かって放つ。
しかし、ナルシス君たちは防御魔法でそれを防ぐ……と見せかけて、防御魔法の人に魔法闘争を仕掛けさせてから、別の人が魔法で土の壁を作り、それで魔力砲を防いでゆく。
そして、その壁で身を隠しながらレナちゃん達に向かって魔法を使おうとするのだった。
だが、その魔法は魔法闘争で防がれて、と一進一退の攻防をしている。
何だかんだと優秀な人たちが多いから、戦いは拮抗している様だ。
そんな中、一人、一人と魔法を受けて退場してゆき、最後にナルシス君とレナちゃんの二人だけになった。
想定通りの展開である。
ここから二人の分かり合う展開がと私が期待に思わず立ち上がる。
そして、魔法で地面を爆発させてレナちゃんがナルシス君へと一気に迫る。
おそらくは魔法闘争で決着をつけるつもりなのだろう。
ナルシス君もそう考えたのかスカウターを用意して……固く握りしめたレナちゃんの拳を頬に叩きつけられて、地面に転がる。
「えぇ!?」
レナちゃんはそれから地面に転がっているナルシス君に魔力砲を放ち、それを防ごうと魔法を使おうとしている所を魔法闘争で邪魔する。
私は咄嗟にナルシス君を助けたが、泥にまみれ、ボロボロなナルシス君は大層不憫な姿だった。
「も、申し訳、ございません。シーラ様」
「い、いえ。怪我は大丈夫ですか?」
「ふん。よわっ! また口だけだったね! じゃ、私はシーラちゃんを二人とも持って帰るから」
地面に転がるナルシス君を見て、鼻で笑い去ってゆくレナちゃんを見ながら私はコピーを消して、何か想定とは違う景色に首を傾げた。
何がいけなかったんだろうか。
次は気を付けないと。
そして、演習場では悔しそうなナルシス君とレナちゃんの声が響くのだった。