(ナルシス視点)
酷い屈辱だ!
酷い屈辱だ!!
幼い頃より、王になる事を定められてきた私は、王となるべく努力を重ねてきた。
魔法だって、幼い頃は大した才能も無いとバカにされてきたが、シーラ様に師事を受け、バカにする者が居なくなる程に強くなる事が出来た。
誰もが私を次期王と認め、価値ある存在として認めて来たのに!
あの女は!!
「クソッ!! クソォ!!」
「荒れてるね。兄さん」
「荒れない理由があるか!? あの女! シーラ様の庇護下にあるというだけで偉そうにしおって!!」
「でも、孤児の問題は僕たち王族にも原因があるよ。彼女はただの被害者だ」
「分かっている! そんな事は!」
「もしかしたらレナちゃんは王族に恨みがあるのかもしれない」
「そんなものが、あの女にあるとは思えないがな。どう考えても、シーラ様を独占しようと考えている性格破綻者にしか見えん」
「兄さん」
「分かっている。王になる者として、決めつけや推論は止めろというのだろう? 分かっている。分かってはいるが、あの女だけはどうあっても認められぬのだ。何か運命的な相性の悪さを感じる」
「まぁ、兄さんもレナちゃんも自分が強いからね」
「それが王という者だ。一度決めた事をその場の感情や浅い思考で変えてしまえば、民もその身を預ける事は出来ん」
「言ってることは立派なんだけど」
「故に、あの女とは決して手を繋ぐ事は無いだろう!」
「はぁ……これだもんなぁ」
「そもそもだ。マクシム。あの女と親交を深めるメリットはなんだ。確かに魔法はそれなりに使える様だが、アレでは騎士になれぬ。精々がスラム街の王という所だろう。正々堂々という精神はあの女には無いからな。つまり、そんな害悪極まる存在と手を取り合う必要は無いわけだ」
「そんな事言って。もしレナちゃんが伝説の聖女様とかだったらどうするつもり? 予言じゃあ、もう世界に存在しているって事だし。あの子だって可能性はあるよ。魔力も多いみたいだしね」
「バカを言うな! あの女が聖女様なんて器か? 傷を癒すどころか、立ちふさがる者全てを倒す戦士のそれだろうが」
「いや、まぁ。それはちょっと否定しがたい所があるけど」
「あの女の呼び名をお前も知っているだろう。マクシム。特別教室一年のバーサーカーだぞ。聖女とは対極の存在だ。間違いない」
ナルシスの言葉にマクシムは困ったように笑う。
そして、ナルシスは非常に嬉しそうな顔をしながら続く言葉を吐いた。
「それに、だ。聖女様という名はシーラ様こそその名に相応しいと私は思う。あの何年経っても変わらないお美しいお姿も、清廉さも、慈悲深い姿も、全てが聖女という名に相応しい。そうは思わないか? マクシム!」
「僕は兄さんほどシーラ様に夢を見ていないからね。シーラ様に何もかもを背負わせるのはどうかと思うよ。ただでさえ救世主だなんだって、窮屈な思いをさせてるんだからさ」
「だからこそ! だからこそ、私がシーラ様をお支えするのだ。我が国に迎え入れて、我が妃として過ごし、シーラ様の救済をお手伝いする。それこそ、我が使命……!」
「また始まったよ。兄さん。前も言ったけど、シーラ様と兄さんの間に子供が出来るかどうか分からないし、出来ない場合は次代をどうするかって問題があるんだけど?」
「たわけが! シーラ様は永遠を生きる御方だぞ! 例え次代が生まれずとも、キッフレイ聖国を見守って下さるわ!」
「でもさ。それだと、兄さんが死んだ後、シーラ様は一人で残される事になっちゃうんだよ?」
「なに……?」
「仮に、シーラ様と兄さんが互いを好きになって。結ばれたとして、シーラ様は兄さんと一緒に居たいからキッフレイ聖国へ行くのに、兄さんが居なくなって、兄さんの子孫も居ない独りぼっちの世界で生きていかなきゃいけないんだ。兄さんはその辺り、どう考えているのさ」
「……」
「兄さん?」
「わ、私は、何という事を……! シーラ様にその様な想いをさせてしまっていたとは!」
「仮にね。今のは仮定の話だよ。兄さん」
「マクシム! 教えてくれ! 私は、私はシーラ様にどの様に謝罪すれば良いのだ!」
「いや、今謝られてもシーラ様も困っちゃうから。そういう未来の事も考えておいた方が良いよ。ってだけの話」
「ぐ、ぁぁあああ! なんたることだ! まさかこの様な問題があろうとは! 私は、私はどうすれば良いのだ!」
「別にそんなに悩まなくても、側室を持てば良いでしょうが」
「出来るわけが無いだろう! その様な不誠実な真似が! 側室とした女性にも、シーラ様にも申し訳が立たん!!」
「でも、次代が生まれない事には僕らも困る訳だし。そういう未来もあり得るよ?」
「ぐ、ぐぬぬぬ。こうなったら、シーラ様にお願いする他あるまい」
「お願い?」
「無論、我らの子をだ。女神の子を、次期王とするしかあるまい!」
「そういう方向に飛んだかぁ」
私はマクシムの呟きを聞きながら、右手を強く握りしめた。
聖女であるシーラ様は子供を愛してらっしゃる。あの女の様な者すら愛したほどだ。
ならば、私との子も愛して下さると思う。
大丈夫。大丈夫だ!
「というか、兄さんってそっちの知識は大丈夫なの? 妙に潔癖だし。僕が居るしで、変な女に引っ掛かる心配は無いだろうけどさ。シーラ様との未来を目指すなら、そっちの知識も付けなきゃね」
「なんだ。その、そっちの知識という奴は」
「子作りの知識だよ。子作り」
「そのくらい知っているわ。バカにするな」
「へぇー。意外。どこで覚えたの?」
「母上に聞いた」
「母上が? 一番兄さんの性教育に反対してたのに。珍しい事もあるもんだ」
「うむ。母上は私が間違いを犯さぬ様にとちゃんとした知識を授けて下さったのだ。そこから考えるに、シーラ様に子を望む場合は、シーラ様への負担が相当大きい事になるであろう事は想像に難くない」
「まぁ、シーラ様見た目は完全に子供だもんね」
「うむ。そうだな。幼い体では神秘の泉へ入るのも危険が多い」
「ん?」
「しかも子が出来るまで泉の中に居続けなくてはいけないとは……私も傍で見守るが、やはり「ちょっと! ちょっと、兄さん!?」どうした?」
急に大声を出して騒ぎ出したマクシムに私はその理由を尋ねる。
「もしかして兄さんは神秘の泉に入れば子供が出来ると思っている?」
「あぁ。そう母上も言っていたぞ」
マクシムは私の答えに頭を押さえながら唸り声をあげる。
「どうした。何かおかしいのか?」
「おかしさしか無いよ。どうして兄さんはそれに疑問を……! って、そうか。兄さんの周りは兄さんに心酔する人ばかりだったね。それで母上の歪んだ教育が正されなかったのか」
「マクシム。一人で納得するな」
「兄さん、僕は割と本気でシーラ様じゃなくて、レナちゃんと接するべきだと思うよ。今の兄さんに大切なのは、兄さんの行動を全肯定してくれる人じゃなくて、兄さんに否と言ってくれる人だ」
「なにぃ!?」
「まぁ、それは追々やっていくとして、今はその間違った情報を正そうか。そのままじゃあシーラ様に呆れられちゃうから」
「シーラ様に!? わ、分かった! すまないが、頼む!」
そして、俺はその日、マクシムより新たな知識を授けられるのだった。