(エミリー視点)
シーラ様とオリヴァーがデートをしたと聞いて、私もシーラ様とデートをしたのだが……。
そこで嫌な話を聞いた。
オリヴァーは死ぬまで……いや、多分死んでも決して想いが伝わらない様にと考えている。
それがシーラ様を傷つけないという事だから。
でも! そんなの! 私は嫌だ!
私はシーラ様とずっと一緒に居たいんだ。
いつか想いが通じて、なんて子供じみた恋愛感情はもうない。
でも、私やオリヴァーが居なくなったらシーラ様は絶対に悲しむ。
これは自惚れでも何でもない。
だって、シーラ様は少しも考えている様に見えないのだ。
私たちが永遠に傍に存在すると思っている様にしか見えない。
「オリヴァー」
「……エミリーか。どうした?」
「少し、貴方と話があるの」
「なんだ」
私はシーラ様を悲しませない為に、永遠を手に入れる為に。
オリヴァーと話をする事にした。
「永遠の魔法を手に入れたい」
「永遠の魔法だと? 永遠の魔王の魔法か。しかし人間に扱えるのか?」
「私が使える必要はないわ。シーラ様が使えば良いもの」
「……お前」
「分かってるでしょ? オリヴァー。シーラ様はエルフで、しかも子供よ。シーラ様は大人だって言ってるけど、そのお心はずっと変わっていない。無邪気で、純粋な子供なのよ。私たちが居なくなるかもしれないなんて、考えてもいない」
「だからシーラ様が永遠に生かしたい相手を生かし続けるのが正解だと?」
「そうよ」
「話にならないな。俺は反対だ」
「なんで……なんでよ!」
「仮に、俺やお前が永遠を生きる事が出来る様になったとして、それを他の人間がどう思うか。分からないお前でもあるまい」
「それは……でも、選ぶのはシーラ様よ。私は自分が選ばれなくても不満は無いわ」
「だから問題なんだ!! シーラ様に命の選別をさせるつもりか! お前は!!」
「っ」
「生きる者と殺す者。その判断をシーラ様に全て押し付けて、永遠に生きるだと? バカを言うな!!」
私は怒るオリヴァーの言葉を聞きながら、唇を噛み締めた。
分かっている。分かっているさ。それくらい。
でも、私にはシーラ様ほど上手く魔法が使えないんだ。
こんなに長く生きても、昔とほとんど変わらない。
「それに。もし仮に俺たちが行き続けるとして、他の者はどうするんだ。団長だってもう長くない。いつかシーラ様は別れを知る事になる。それは変わらないだろう」
「……分かってる」
「なら、今出来る事をするべきなんじゃないか?」
「分かってる」
「シーラ様に大切な者の死を教えるのが俺たちの役目だ。それから目を逸らしたら、大事なものを見落とすぞ」
「分かってるって言ってるでしょ!! 全部、全部分かってるわよ!!」
私はオリヴァーに言葉を苛立ちのままに叩きつけて、自分の研究室に走って帰る。
研究室に帰ってきた私は、イライラしながら椅子に座ると、暗闇の中にシーラ様の笑顔を思い浮かべて悔しさから涙を流した。
オリヴァーの言っていた事は全部正論だ。
世の理を歪めた所で、意味なんか無い。
問題を先送りにするだけだ。
でも、それでも、最後に自分が見る顔がシーラ様の泣いている顔だなんて、嫌じゃないか。
少しでもそれを先送りにしたいと願って何が悪い。
私はオリヴァーみたいに強くはないんだ。
『ふ、ふふ』
「っ!? 誰!?」
私はどこからか聞こえて来た声にスカウターを付けて、周囲を見渡す。
暗闇の中に人の気配はない。
だが、確かに声は聞こえた。
「どこに居るの。出てきなさいよ!」
『私ならここに居る』
もう一度聞こえて来た声に、私は研究室の真ん中にあるソファーに目をやった。
そこには見た事もない男が一人、勝手にソファーに座りながら、カップで何かを飲んでくつろいでいる。
「あなたは……」
『私は永遠の魔王』
胸の奥で鼓動が強くなる。
今日、まさに話をしていた魔王が、まさかここに現れるなんて。
私が魔王を狙ったから、それをさせない為に来たのだろうか?
「わ、私をどうするつもり?」
『どうする? 別にどうもしないさ』
「なら」
『同じ願いを持った同士の気配を感じたのでな』
「っ、おなじ、願い」
『そう。君も願っているのだろう? 愛する者との永遠を』
「わ、私は」
『私ならばその願いを叶える事も可能だ』
永遠の魔王が発した言葉に、私は息を吞んで、それ以上何も言えなくなってしまった。
そんな私を見て、魔王は笑う。
『人が永遠を求めるのは必然であるが、まさかエルフの為にそれを願うというのは初めてだ。クク』
「……」
私は静かに魔法を準備して、永遠の魔王に攻撃するべく準備をしていた。
しかし。
『私と敵対するのは止めた方が良いぞ』
「っ」
『まぁ、私は魔王としてはかなり弱い方に入るがな。それでも、君の人生に絶望を与える事は可能だ。例えば、シーラというエルフに悪意を持つ人間にだけ永遠を与えるとかな』
「お前!」
私は苛立ちのままに右手を真っすぐに魔王へ向けて魔法を放つ準備をした。
ここで排除し。シーラ様に警告をする。
それが最善だからだ。
『まぁ、交渉が失敗したのなら、しょうがない。私はこのまま去るとしよう。君が命を落とすまで姿を隠そうじゃないか』
「……」
『ふふ。欲望に正直だな。そう。ここで敵対してしまえば君は永遠を手にする事が出来ない』
「あなたは、何が欲しいの?」
『話が早くて助かるな。私は聖女を探している』
「聖女?」
『そう。君たち人間の中にたまに現れる存在だ。私は彼女が邪魔でね』
「殺せって?」
『いいや? 君にその体を奪って貰いたいのさ』
「は……? どういう事」
『そのままの意味さ。聖女の体からその魂を抜き出して、君がそれを取り込み、君の魂を聖女の体に入れれば良い。後は私が君に永遠の魔法をくれてやろう』
「それで、貴方にどんな利益があるっていうの」
『く、くく。簡単な話だ。君が聖女として永遠に存在し続ける限り、新たな聖女は生まれず、君は私と取引をしている以上、私には手が出せない。どうだ? 分かりやすい図式だろう?』
「……」
『まぁいきなりこんな事を言われても、信じる事は難しいだろう。故に。これは友好の証だ。受け取ると良い』
永遠の魔王はテーブルの上に置いてあった紙に、何かを書くと私に投げてよこした。
私はその紙を見て、魂を抜き出す魔法や、それを取り込む魔法。そして私の体から魂を抜き出して、別の誰かの体に入り込む魔法を提示した。
そして、最後に……。
「永遠の魔法」
『そう。これは友好の証だ。あぁ、ただ聖女の体を手にする前に永遠の魔法を使わない方が良いぞ。使えば君は確実に命を落とすからな』
「……」
永遠の魔王は言いたいことを言った後に、そのまま何処かへ消えていった。
私は、椅子に深く座り込みながら渡された紙に目を通してゆく。
確実にそれを記憶する為に。
そして、全て覚え終わってから私はその紙を燃やして証拠を完全に消し去るのだった。
「……聖女、か」
気が付いたら窓の外に打ち付ける様な激しい雨が降っており、私は窓の外へ視線を送りながら、一つの覚悟を決めた。