はい! こちら現場のシーラです!
現在特別教室一年の生徒は野外活動で魔物が出る森へ来ているのですが!
あちらの洞窟に見えるのがレナちゃんとナルシス君ですね。どうやらマクシム君は別の場所にコピーシーラと居る様です。
あぁ! 御覧ください! レナちゃんとナルシス君が良い雰囲気です! 何か今からお手て繋いで、自分の想いとかを口にしそうな雰囲気です!
何だかこっちまでドキドキしてきました。
いったい二人はどうなってしまうのでしょうか!
っ! ま、まずい! マクシム君が近づいてますね!
どうしたの! 空気の読める男! 優秀なサポートマン!
ここで君が突撃したら空気壊れちゃうでしょ!
あぁー! まずいまずい! なんなら早足になってきたんだけど!?
ちょ! ちょっと! それはまずいって!
黒歴史になっちゃうよ!? 五十年くらい、ナルシス君に
『お前、俺がレナと良い雰囲気だった時に何かドタバタ入ってきたよな』
って言われちゃうよ!
良いの!? 良くないよね!? いや、良くないよ!
わ、私が何とかしなきゃ!
えと、えと……そ、そうだ! コピーシーラに何かさせよう。
そうだ。お腹痛いってうずくまって、それで、それで……後はアドリブ!!
とりあえずコピーシーラの近くの音を拾いながら、アドリブだ!
『う』
『ん? シーラ様のコピー様。どうかしましたか? 早く戻らないと兄さんとレナちゃんが』
『オナカイタイ』
『お腹? えぇえええええ!!? それはどういう、これは魔法の不具合という事ですか!? シーラ様にすぐ連絡を』
『あ、いや、シーラは、いま、すごく、忙しい』
『でも』
『忙しい』
『それなら、コピーシーラ様は頼れないという事ですね。では安全の為に野外活動はこれで中止を『大丈夫!!』』
私はコピーシーラを急いで動かしてマクシム君の肩を掴んだ。
戻らせてたまるか!
ここで戻ったら全部台無しだ!
『大丈夫!! シーラは戦闘出来る』
『いや、それはシーラ様は戦えるでしょうけれども。コピーシーラ様の不調は』
『大丈夫! コピーシーラは無事!』
『でもお腹痛いんですよね?』
『痛いけど、強い! 強靭! 無敵! 最強!』
『うーん。大丈夫。なら戻りますか』
『うあー。お腹が痛い』
『……』
や、やばいマクシム君がジトっとした目でコピーシーラを見てる。
そして、周囲をキョロキョロと見始めた。
ま、まずい! 隠れないと。
私は急いで近くの草むらに隠れたのだが、マクシム君はかつて私が教えた索敵魔法を使って、私の方に視線を送ると真っすぐに歩いてきた。
まずい! まずい! とりあえず転移!
私は今度は空中に転移して、草むらを歩き回って何かを確認しているマクシム君を見下ろした。
『転移の跡……間違いない』
マクシム君はそのままコピーシーラの肩を掴むと、怖い笑顔で話しかけた。
コピーシーラではなく、私に。
『シーラ様。見てますね?』
『みてない。ここにいるのはコピーシーラ』
『見てますね? 逃げないで、ここに来てください』
『みてな』
『さ、兄さんの所へ戻ろうか。走って』
『それは駄目!』
『ふぅん。なるほど。そういう感じですか。分かりました分かりました。では、今から十数える間に出てこない場合、兄さんの所へ戻ります。何が何でも』
マクシム君は邪悪な笑い方をすると、十から順番に数え始めた。
『十』
な、な、なななな!
『九』
何とか、何とかしないと!
『八』
でも、数が!
『七』
あー!
『六』
ダメダメ! 駄目だって!
『五』
「駄目です!」
「四……と。ようやく出てきましたね? シーラ様」
「うぅ……マクシム君は意地悪です」
「シーラ様が変な事をするからでしょう。それで? 何が目的なんですか?」
「……」
「言わないのであれば、このまま兄さんの所へ」
「あー! 待って! 待ってください! 言います! 言いますから!」
「はい。待ちましょう」
「えと、ですね。実は今、ナルシス君とレナちゃんが洞窟で良い雰囲気なので、マクシム君が入る事でそれが壊れてしまうのが困るというか、何というか」
「はぁ……なるほど。そうですか。シーラ様も同じ事を考えていたのですね」
「え? マクシム君も?」
まさか、マクシム君もナルシス君とレナちゃんの恋愛を見たい勢だったとは。
「はい。僕は、兄さんがこのままではいけないと考えています。今兄さんは凝り固まった思考の中に囚われています。自分の中にある考えや想いが全部正しいとそう思っている。思い込んでいる」
「……」
「それは兄さんの周りに、兄さんの事を肯定する人しか居ないからだと僕は考えています。だからこそ、兄さんよりも頭がよく、魔力が高く、兄さんよりも優秀なレナちゃんとの交流が兄さんをより高い次元へ……って、シーラ様? どうしました?」
「な、なんでもないです」
私は頬が熱くなるのを感じながら、両手で頬を押さえた。
な。何という恥ずかしい勘違いをしていたのだろうか!
頭ピンク色ではしゃいでいたのが私だけだったとは!
マクシム君はナルシス君の将来を真剣に考えていたというのに!
私は、何という恥ずかしい!!
「マクシム君!」
「は、はい」
「必ずナルシス君の未来を良い方向へと導きましょう!」
私はマクシム君の手を握りながら強く、そう言い放った。
しょうがない。こうなった以上は、押せ押せでいくしかない。
バレたらまずい。頭ピンク色のエルフとか思われたら恥ずかしくて百年は引きこもりそうだ。
という訳で、私とマクシム君は気配を魔法で消しながら、二人が居る洞窟へと向かった。
姿も完全に消しているから見えるはずはないが、一応隠れながら様子をみる事も忘れない。
「……シーラ様。こんなに近づいて大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。声も気配も姿も全部消してますから、私たちの事は私たちにしか見えませんし、認識出来ません。そう。例えどんな偉大な魔法使いであろうとも、魔王であろうともね」
「す、すごい。これが魔法の極致」
「そんな褒める様な事じゃないですよ。ただの覗き魔法ですし」
「そんな事は」
「あ、でも。悪い事に使っちゃだめですよ? 流石に私は見つける事が出来ますからね。エッチなのは駄目ですよ」
「分かってます!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶマクシム君に初心なんだなぁと私はクスリと笑った。
そして、私は意識をナルシス君やレナちゃんに向ける。
「ちなみに、シーラ様」
「はい。なんでしょうか?」
「正直この魔法は使い方次第でとても恐ろしい事が出来ると思うのですが……シーラ様はどの程度までなら問題ないと思っているのでしょうか」
「どの程度って……お風呂とか覗いたら駄目だと思います」
「え?」
「え?」
「いや、まぁ、そうですよね。覗きは良くない。僕もそれは絶対に駄目だと思います」
「はい。そうですよね! 私、そういうのは正々堂々と言わないと駄目だと思うのです」
「……正々堂々なら良いのですか?」
「え? それは良いのではないですか?」
「例えばシーラ様でも?」
「はい。別に一緒にお風呂へ入るくらいは構いませんけど」
「……」
「……?」
「なるほど」
マクシム君は一人で納得しながら、天を仰いでいた。
そして、赤くなった頬を両手でペシペシと叩きつつ、真剣な顔で私を見る。
何だろう? 一緒にお風呂に入って欲しいのかな。
「ちなみに、シーラ様。この魔法。軍事転用された場合、どの程度危険か把握されていますか?」
「ぐんじてんよー? え? ……え?」
「分かりました。シーラ様。大丈夫です。シーラ様は何も知らずとも問題ありません。ただ、この魔法を知りたいという人間が現れたら、必ず近くの信頼できる人間に相談してください。僕でも構わないので」
「え?」
「良いですね」
「いや、あの」
「良いですね?」
「……はい」
何か、マクシム君が少し怖い。
別に怖がってないけどね? 全然。
というか覗くだけの魔法で何をそんなに怒ってるのだろうか。
うーん。謎だ。