(レナ視点)
最悪だ。
ヤスミンは特別教室じゃないからしょうがないけれど、まさか……。
あの男と野外活動で同じチームになるとは。
「なんだ平民」
「いーえ。別に。なんでもありませんよ。お・う・じ・様」
「なんだ、そのバカにした言い方は!」
「へっ、別にバカにしたつもりはないけどね! そう聞こえたんなら自分でそう思ってるだけじゃないの!? 自分の事をバカだってさ!」
「なにおう!?」
「兄さん。喧嘩は止めてください。レナちゃんも」
「くっ」
「ま。マクシム君が言うのなら、止めてあげるよ。マクシム君はまだ。どっかの王子とは違って話が通じるからね。人間の言葉が!」
「この!」
「レナちゃん……」
「はいはい。ごめんなさいねー」
適当に謝りながら、そっぽを向いて舌をちょっと出す。
それに反応してまた騒ぎ始めるが、知った事じゃないよ。
騒ぎたいのはこっちだ。
それでも、シーラちゃんの授業なのだから、私は真面目に野外活動を行う事にした。
そうすると分かるのが、あの男ナルシスはそれなりに優秀であるが、こうして想定外の言葉多く起こる場所ではその才能が半分も活かされていないという事だ。
「はぁ」
「っ! なんだ! 貴様!」
「そんなに息を荒くしないでよ。緊張しすぎ。マクシム君もだけど」
「そ、そうですかね」
「うん。緊張するなって事じゃないけど。少しは肩の力を抜かないと持たないし、逆に危ないよ」
「……」
「確かに森は視界が遮られるし、色々な生き物の気配があるから怖いのは分かるけどさ。それでも全部に怖がってたら、疲れちゃうでしょ」
「べ、別に怖がってなどいないわ!」
「そう? じゃあアンタ死んだね」
「っ」
私は分かりやすく怯えたナルシスに軽く笑うと、なるべく優しく言った。
「良いんだよ。怖くて。怖いのが当たり前なんだから。シーラちゃんだって森の中を歩くのは怖いって言ってたよ」
「シーラ様が」
「そ。シーラちゃんは私たちが逆立ちしたって勝てないくらい強くて。そんなシーラちゃんが怖いって言ってるんだから、私たちだって怖いのが普通なんだよ」
「……そうか。では、貴様も。怖いのか?」
「当たり前でしょ。だからさ。二人は当てにしたいの。出来る?」
「無論だ」
「えぇ。これでも訓練はそれなりに行ってましたからね」
「そ。なら期待してる」
私は安心させる様に笑いかけて、ついでに森での歩き方を教える。
「じゃあとりあえず森で歩くときの歩き方を教えるね」
「歩き方……足の運び方とかか?」
「あー。まぁ、そっちは大丈夫じゃない? 二人はちゃんと意識してるみたいだし」
「ほぅ。では何か別のものか」
「うん。そう。ズバリ森で魔物に出会わない為の方法だよ」
「っ! そ、そんな物があるのですか!! っと、申し訳ございません。お二人の話に入ってしまい」
「気にするなマクシム。我らは三人で一つのチームだろう?」
「そうそう。何か気になる事があるのなら言ってくれた方が嬉しいよ」
「わ、分かりました」
「ん」
私は小さく頷きながら、話を切り替える様に人差し指を立てて、周囲に薄く魔力を飛ばしてゆく。
これはシーラちゃんに教わった索敵の方法で、周囲に満ちている森の魔力に自分の魔力を混ぜ合わせて、どこまでも広げてゆく事で、それが何かにぶつかればその大きさが分かるというものだ。
「どう? 簡単でしょ」
「なるほどな。流石はシーラ様だ」
「こういう感じですね」
「やるじゃん」
簡単だろうと言いつつも、初めて見て出来る人は少ないのだけれど、やはりこの二人は優秀だという事だろう。
容易くそれを再現して、自分の物にしてゆく。
そんな優秀な人間たちと共に居るという事で、私もある程度安心しながら森の中を進んでいたのだが、その油断が良くなかったのか。
私たちは大型の魔物と戦っている最中に、近づいてきた小さな魔物を見つける事ができず、ナルシスが襲われそうになってしまった。
咄嗟に庇ってしまい、その小さな私の腕くらいの蛇に私は腕を噛まれてしまった。
すぐに蛇を殺して、自分の体を確認したけど、どうやら毒は無かったらしい。
「レナちゃん!」
「貴様……! 何故」
「兄さん!」
私は呆然としているナルシスの後ろで腕を振り上げている魔物に向かって、全力で魔法を使い、ソイツを吹き飛ばした。
でも、それだけで私の体は限界を迎えてしまい倒れてしまうのだった。
次に目を覚ました時、私は誰かに背負われながら移動している最中だった。
その感覚に懐かしさを覚える。
そうだ。昔、まだ魔力の制御が上手く出来なかった頃、外で魔法を使い過ぎてしまい、シーラちゃんに背負われて、家まで帰っていたんだ。
「……しーらちゃん?」
「あぁ、兄さん! 目を覚ましたみたいだよ!」
「そうか! では暫し待て。休める場所を見つけたからな!」
私はそのシーラちゃんではない声に薄く目を開くと、そこには汗だくになりながら走っているナルシスと、コピーシーラちゃんを抱えながら走っているマクシム君がいた。
そこまで確認してから、私は自分が意識を失ってしまっていた事を思い出す。
「そうか、私……ごめんね。偉そうな事言っておいて」
「良い! 謝るのは私の方だ。すまぬ。レナ!」
「……じゃあ、少しだけ甘えさせて。ナルシス君」
「あぁ!」
私はまだ怠い体をナルシス君に預けて、その休めるという場所まで向かうのだった。
そして、洞窟の中で横になっていた私は、足に鈍い痛みを感じながらも、目を開いて周囲を見る。
「落ち着け、落ち着け。魔力を周囲の魔力に溶かすように……っく」
「……落ち着いて」
「レナ。目を覚ましたのか」
「うん。今。それより、索敵をしようとしていたんだよね?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。すぐに」
私は動揺しているナルシス君の手に触れて、落ち着くようにと笑った。
そのままナルシス君の体に魔力を通して、ナルシス君と一緒に周囲に魔力を通してゆく。
「……すまないな」
「別に大丈夫だよ。私は子供の頃から何度も」
「そちらではない! あ、いや。それもだな」
「……?」
「先ほどはレナのお陰で助かった。小型の魔物も、大型の魔物も」
「あぁ、その事ね。別に大した事じゃないよ。ナルシス君が殺されたら目覚めが悪いから。ただそれだけ」
「……ふっ、お前は素直じゃないな」
「君程じゃないよ」
私はクスリと笑いながら、息を吐いた。
しかし、体の中が熱い。
あの蛇。毒は持ってなかったけど、変な魔法を使うみたいだ。
何か風邪をひいた時みたいに気だるかった。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫か?」
「そんなに不安そうな顔をしないでよ。別に大した事無いからさ」
「そういう訳にもいかないだろう! 私を庇ったせいでお前は」
「だからさ。恩を着せたかったワケじゃないし。ただ戦力が落ちたら困るだけ」
「何を言うか。お前が倒れては同じ事だろう。戦力は落ちてるではないか」
「ふふ。確かにね」
私は自分の言葉をすぐ反論されて、おかしくて笑ってしまった。
こんなくだらない会話が、何故か楽しくて心が落ち着く。
体調が悪くて落ち着かないせいか。
分からないけれど。
今は傍に誰かが居るのが嬉しかった。