待って。
待って待って!
凄い事になってきた!!
私は興奮しながら、二人の行く末を見守っていた。
そう。レナちゃんとナルシス君の恋の行方である。
最初は体調が悪そうにしていたレナちゃんをナルシス君が介抱していたのだが、ある時突然恋がどうのと話し始め、そして気が付いたら二人は手を取り合って見つめ合ったりしていたのだ。
もうクライマックスじゃないかっ!!
え? こんな事ある?
この野外活動最大三日くらい考えてたんだけど、一日目からしてもうコレ!
やっぱり二人は運命の相手だったって事ね。
最高じゃないか!
幸せになってもらいたいものですね。
「シーラ様」
「はい。なんでしょうか」
「あの。我々はここで見ていても問題ないでしょうか」
「え? あぁ、大丈夫ですよ。この洞窟に近づく魔物は片っ端から全部倒してますし、幻覚魔法で生徒もここには近づきません。それに、コピーシーラも最大反応にしていますから、生徒に何かが起きるのなら、起きる前に転移なりなんなりで逃がします」
「いや、そうではなく、先ほどもシーラ様が言った通り、これは覗き行為なのでは?」
「え?」
「はい」
「いや」
「覗きですよ。シーラ様」
「でも、私、レナちゃんの保護者みたいなエルフで」
「それでも覗きは覗きです」
嘘ぉおおおお!!
駄目なの!? 見てちゃ、駄目なの!?
だって、ようやく物語が始まったんだよ!? 百年くらいこの時を待ってたんだよ!?
なのに!
駄目ェ!?
そんな事ってある!? 無いよ! そんなのあんまりだよ!
「……」
「シーラ様」
「あの、少しだけ」
「駄目です」
「ほんのちょびっとで良いんです。二人の想いが通じ合って、唇が触れ合ったくらいで終わりますから」
「もうそれはちょびっとではなく、大分楽しんでおります。駄目ですよシーラ様」
「あぅ」
私はマクシム君に手を引っ張られ、泣く泣くこの場を離れる事になってしまった。
洞窟の外に出た私は何とか中の様子を伺う方法は無いかと考えつつ、空に広がる無限の星空を見上げる。
かつて私が生きていた前世の世界とは違い、地上にも空にも灯りが少ないこの世界では星がより一層輝いて見えた。
それはそれは、とても美しい世界であったが、まぁ、今見たいのはこれではない。
「……はぁ」
「し、シーラ様!」
「はい。なんでしょうか?」
「無礼な真似をしてしまった事! 大変申し訳ございません!!」
「ぶれい?」
首を傾げながら疑問を口にする私にマクシム君は恐る恐るという様な様子で語り始めた。
「いえ。先ほどシーラ様のご意思に反して、図々しい真似を。それにここへ来るまでも様々なご無礼を」
「あぁ、その事ですか。何も気にしなくて良いですよ。マクシム君はごく当たり前の話をしていただけですし」
「……」
「それに、私も久しぶりに対等なお友達と話せたみたいで楽しかったですから」
だから気にすんなという様な意味を込めて笑いかけたのだが、マクシム君は涙で私の笑顔に応えた。
なんでやねん。
「シーラ様!」
「はい」
「シーラ様は、エルフでございます」
「え? あぁ、そうですね。はい」
「ですから我らはシーラ様と同じ時間を生きる事は出来ません」
「まぁ、そうですね」
「ですが、それでも私は、私たちはシーラ様と同じ景色を見て、生きてゆきたい。その為に努力は惜しまず在るつもりです」
「……」
え?
どういう事?
今、見てますよね?
同じ星空。
「マクシム君。空を見てください」
「え? あ、はい」
「あの星々は、気が遠くなる様な時間をかけてゆっくりと変化してゆく物です。だから、今日ここで見た景色はいつでも空を見上げればそこにありますよ」
ま。流石のエルフも万年は生きないだろうし。
私が死ぬまでに見上げる星空は今日と変わらないものだ。
「だから、大丈夫。私は、マクシム君たちと同じものを見ていますよ」
「……っ! シーラ様」
なんや。その分かってねぇ。こいつみたいな顔!
分かってるって言ってるでしょ!?
しかも今結構エモエモな感じの事言ったじゃん!
なーんで通じないかなー。
乙女ゲーム因子が少ないんか!?
「まったく。マクシム君は」
「え?」
「何を心配しているのか分かりませんが、安心してください。どれだけの時間が流れても、私は今日の事を絶対に忘れませんよ。マクシム君と話した事も、レナちゃんとナルシス君が話していた事もね。何も忘れません」
「……」
あーあ。マクシム君は遂に俯いてしまいました。
シーラのせいです。
いや、マジ。難易度高すぎるって。
誰か正解を教えて欲しい。
いや、だって、同じ景色見たいんでしょ? 見れば良いじゃん。
「シーラ様」
「はい」
「人は、私たちはシーラ様ほどに様々な事を知りません。理性よりも感情を優先します」
「……はい」
「だから、見えている景色は違うんです」
「……?」
「星を見ても、我らはそこに星があるということしか知らない」
「……」
「森を見ても、そこに木がある事しか知らない。魔物が出る危ない場所だという事しか分からない」
「……えと」
「シーラ様。我らは命の短い、未熟な生き物なのです。それをどうかご承知ください。貴女様がいつか、その違いに苦しめられる前に」
「えと、えと……はい」
「差し出がましい事を言いました。どうかお許しください」
「え、えぇ。はい。大丈夫。です」
私の頭は大丈夫じゃないけど。
マクシム君の頭脳に対してチンケな私の頭じゃあついていけない
そういえば、かつて生きていた世界でIQに関する話を聞いたことがある。
その数字が20だか30だか違うと、話が通じないらしい。
つまりはそういう事だ。
私がアホ過ぎるという事である。
まぁ、分かっていたことだが?
「マクシム君のお話は少し難しいですね」
「……申し訳ございません」
「いえいえ。私がもう少し頭が良ければ良かったのですが」
「……くっ」
そのさ。悔しそうな顔するの。止めてくれない?
哀しくなってくるから。
こんなにも通じないのかよって絶望しないで欲しい。
流石に切ないわ。
この星で一番切ないラブストーリーになってしまう。
シュウちゃん。ごめん。私、こんなアホになっちゃった。
「マクシム君。私も色々と勉強してゆきますから。どうかそんなに悲しまないで下さい」
「分かりました。でも、どうか思い詰めないで下さい。辛いときはレナちゃんや、私にご相談を」
「えぇ。分かりました」
「おそらく、そう遠くない時に、それは来ると思いますから」
「……」
意味深な事言われてる。
そ、そうか。
そんなにすぐ、私は自分の頭の悪さが嫌になって絶望する時が来るのか。
辛すぎる。
しかも子供たちに相談するレベルって、どんだけアホを極めてしまったんだ。私は。
「そんな日は、来ないと良いですが」
「えぇ。そうですね。しかし、いずれ来ますよ」
止めてくれ。
何? 予言者なの?
本日の予言。お前、頭悪すぎてビビる。いずれその頭の悪さに苦しんで相談しに来るよ。
地獄やろ。