(レナ視点)
興奮するヤスミンの相手をしながら私はため息を吐いた。
それはそれは深いため息をだ。
無論それはヤスミンに対する物……でもあるんだけど、それだけじゃなくて、一緒にいるナルシス君、トリスタン、ルイ君に対して、だ。
いつもの変わらず、接しているはずなのに、森に居ると、何だか距離が近くて恥ずかしくなってしまう。
それに、向こうが私に恋をしているらしいという事を考えると余計に意識してしまうのだ。
だぅ!
どうすれば良いんだ!
私はとりあえず心を落ち着けようと、コピーシーラちゃんに近づいて、その体をギュッと抱きしめた。
コピーシーラちゃんは感情が無いはずなのに、嫌がって逃げ出そうとしている様に見えるが、緊急事態だ。
心を落ち着けたい! 今、すぐに!!
「ちょっとレナ。止めなさいよ。嫌がってるから」
「今それどころじゃないんだよ! ヤスミン!」
「何!? そうなのか!? レナ」
「俺で良ければ話を聞かせてくれないかな」
「とりあえずコピーシーラサマが可哀想だから、抱きしめるなら僕にしなよ」
迫りくる男たちを見て、私はグッと心に押し寄せる何かを感じた。
感じたが、何とか抑え込んで、理性百パーセントで息を吹き返す。
「と、とりあえず離れてくれる?」
「しかし」
「良いから」
「でも」
「良いから! お願い。本当の本当にお願い」
「分かったから、コピーシーラサマは解放してあげてね」
私はとりあえず、ルイ君に言われた通り、コピーシーラちゃんを解放して、大きく深呼吸をしてからヤスミンと共に少し離れた場所へと移動する。
無論、索敵はし続けているし、何かあった時、すぐに合流出来る様、ナルシス君達が見える位置にだ。
が、が!!
「どうしようヤスミン。なんかあの人たちが輝いて見えるんだけど! 何かの病気!?」
「まぁ、恋の病っていう病気でしょうね。ちなみに不治の病よ」
「そ、んな……じゃあシーラちゃんに治してもらわなきゃ」
「無理でしょ」
「出来るよ! シーラちゃんに恋すれば良いんだから、簡単!!」
「でも現実問題。今出来てないじゃない」
「頑張れば出来るもん!!」
「頑張ってするようなもんじゃないんだ。恋は。冷静になれよ。レナ」
「何さ! ヤスミンはそんな落ち着いて! ズルいよ!」
「そりゃ私は部外者だからねぇ。当然と言えば当然」
「くっ!」
私は当たり前でしょ。とバカにした様な言葉で私を小突くヤスミンに悔しさを噛み締めながら、恨みをたっぷり込めて睨みつけた。
おのれ……おのれ……ヤスミンにも色々な男の子が迫ってきて、どうしようって困ってしまう様になれば良いのに。
「今さ。私に、レナと同じ状況になれって、願ったでしょ」
「うぇ!? こ、心が読めるの!?」
「いや、レナが単純なだけ」
やれやれとばかりに肩をすくめるヤスミンに激しい悔しさを感じる。
今、私は敗者。敗北者なのだ。
「そもそもさ。今のレナの状況って、私とか普通の女の子からしたら憧れの状況だから。そうなっても嬉しさしか無いと思うよ?」
「は、はぁ!? いや、でも、だって。おかしいよ! どこに憧れる要素があるのさ!」
「格好いい男の子に囲まれて、愛を囁かれているんだぞ! 夢の状況だ! あぁ、いや、男の子も可愛い女の子に囲まれて愛を囁かれる状況に憧れるって言ってたような気がするから、多分性別問わずね」
「どうして、この状況に憧れるって言うのさ。だって、選ばなきゃいけないんだよ? 選ばないっていう選択肢を選ぶかもしれないけど。人生に関わる大きな決断だよ」
「あのさ。ちょっと重く考えすぎじゃない? 良いじゃないの。軽く付き合ってみれば。それで、やっぱ違うなー。って感じたら別れるとか」
「別れる!? なんで!?」
「いや、なんでって。別に家同士の婚約とかじゃない好き同士で付き合ってたら、別れる事もあるでしょうが」
「そうなんだ」
「いや、そうなんだ。ってレナはそう思わないの?」
「うん。それって違うと思う。相手が私の事を好きで、私も相手の事が好きになって、それがずっとずっと続いていくんだと思う。そうじゃないとおかしい」
「いや、おかしいって事はないでしょうけども」
「おかしいよ。そうじゃなきゃ私も、相手も辛いじゃない。ずっと好きでいられる人じゃないと好きになっちゃいけないんだよ」
「……レナ」
「だって。シーラちゃんが私を好きで、私がシーラちゃんを好きじゃなくなっちゃったら、シーラちゃんの気持ちはどうなるの? 一度受け入れてもらえたのに、それじゃあ宙ぶらりんだ。相手を想うだけで苦しくなっちゃう。そんなの可哀想だよ」
「うーん。レナは真面目だなぁ」
「真面目とかじゃないよ。普通でしょ? 想ってくれてるのに、それを無下に扱うのはおかしいかなって思うだけ。みんながみんな幸せになる必要は無いかもしれないけどさ。それでも真剣な想いには真剣に応えるべきだと思う」
「……」
「……おかしい、かな」
私は無言のままジッと見つめてくるヤスミンに恐る恐る聞くが、ヤスミンは爽やかに笑うと、私の腕をバンバンと叩いてきた。
「痛っ! 痛いよ! ヤスミン!」
「私は貴女の友達で誇らしいよ。レナ。最初に会った時は、なんでこんな子をシーラ様が気にするんだろうって不思議だったけど。今になったらよく分かるよ。そうだね。レナはこんなにも素敵な女の子なんだね」
「は、はぁ? 人の事男の方が良いって言ったり、女の方が良いって言ったり、何なの?」
「いや、男の子の方が良かった。っていうのは今も気持ちは変わってないけどね!」
「そこは変わって? 今すぐに」
「でもさ。いや、今は逆にそれで良かったかなって思う」
「はぁ?」
「……だって。もしレナが男の子だったら、私、多分自分を抑えられなかったから」
「ちょっと? 意味が分からないんですけど?」
「分かんなくて大丈夫です! どうせ、私じゃシーラ様には勝てないもんね。これで良かったのだ」
「意味が分からないって言ってるでしょー!? 何でヤスミンとシーラちゃんを比べるの? って、ちょっと! 背中押さないでよ! まだ心の準備が!」
「良いから! 早くレナも現実と向き合いなよ。それが一番大事なんだからさ」
私はヤスミンに背中を押されながら、男どもの所へと戻らされていたのだが……何か後ろからヤスミンが泣いている様な気配がする!
という事で振り返ろうとかと思ったけど、こうして私の背中を押しているのは、涙を見て欲しくないからかと思い、私は深く息を吐きながら、前に進むのだった。
という訳で、ヤスミンの想い? も背負いながら、私は現実と向き合う。
とは言っても、ここからどうすれば良いのか。さっぱり分からない訳だが。
「……」
う、うぅ……。私も無言だけれども、向こうも無言だ。
何なの? この空間はどうすれば良いの?
誰か教えてー!!
って、そうだ! 困った時のシーラちゃん! シーラちゃんである!
シーラちゃんは何でも知ってるから恋とは何か、どうすれば良いかも分かるはずだ。
という訳で、さりげなく私はコピーシーラちゃんに触れて、アドバイスを求めるのだった。
(シーラちゃん! シーラちゃん! 聞こえてますか!? シーラちゃん!!)