(レナ視点)
野外活動から帰ってきてゆっくりしていた私は、突然部屋にシーラちゃんが来た事でビックリして飛び起きてしまった。
もしかして、私の気持ちが通じたのだろうか。なんて的外れな事まで考えてしまう。
しかし、どうやら事態はそんな浮ついた話ではなく、もっと重い話らしい。
「よく聞いてください。レナちゃん。大変な事になりました」
「大変な事?」
「はい。レナちゃんが聖女である事が世界にバレました」
「えぇぇえええ!!? レナって聖女だったんですか!!?」
すぐ近くで大声を上げるヤスミンに私は、あっと声を上げてしまったが、シーラちゃんがこんなミスする筈が無いし。
これもきっと予定通り……。
「あ」
じゃないみたい。
「ごめんだけど。ヤスミン。今の話は忘れて?」
「いや、忘れられるわけ無いでしょ! こんな大ニュース!」
「そう。じゃあしょうがない。記憶の代わりにヤスミンを消すしか無いみたいだね」
「あえー? 何の話だっけー。私、なーんにも覚えて無いし、なーんにも知らないよー」
「あ、いや。ヤスミンちゃんも知っていて貰えると嬉しいです。ここから先は信頼出来る人は多い方が良いので」
「そうなの? だって。ヤスミン」
「……なるほど。何か凄く大変な事が起きてるのね。それは分かったわ」
「うん。そういう事だよね? シーラちゃん」
「はい」
そして、シーラちゃんは野外活動が終わってから起きた事を全部説明しようとしたのだけれど、それに待ったをかけて、私はナルシス君たちも呼んできて良いかとシーラちゃんに問うた。
そう。さっきシーラちゃんは信頼できる人は多い方が良いと言っていた。
なら、ナルシス君たちも居た方が良いだろう。
「確かに。そうですね。では私も少し失礼して、信頼できる方を連れてきましょう。では人も多くなりそうなので、特別教室に集まる様に言ってください」
そう言って消えたシーラちゃんを見送りながら、私はヤスミンに視線を向けた。
「ヤスミン。とにかく信用できる人を集めて! 信用の基準は、シーラちゃんを絶対に裏切らない人!!」
「分かった!」
私はナルシス君たちを呼びつつ、同じ様な条件で人を集めて貰う。
そして、私自身も同じ条件で人を集めていたのだけれど、ふと走りながら気づいた。
シーラちゃんを絶対に裏切らない人って、この学園に居る人全員じゃないの? と。
というか、もっと多い。
私は孤児院に向かって走り、かつて孤児院を出た人も呼んでもらう事にした。
とにかく多くの人が居る。
一人でも多い方が良い。
という訳で集めたのだが、特別教室で入りきる様な数では無くなってしまった為、体育館へと集合場所を変えるのだった。
そして、特別教室には伝言を残して、体育館で集まりつつある人たちに予め事情を話してゆく。
ただ、シーラちゃんとの契約がある為、聖女である事は明かす事が出来ず、話せるのは、シーラちゃんがキッフレイ聖国で襲われたという話なのだけれど。
「……戻りました、が。凄い多くの人が集まっていますね」
「うん! みんなシーラちゃんの為にって集まったんだよ」
「いや、狙われているのは私ではなくレナちゃんなのですが……まぁ良いですか。人は多い方が良いでしょうから」
それからシーラちゃんは拡声魔法で、全員に起こった事を伝えた。
傀儡魔法についてもそうだ。
そして、傀儡魔法の対策魔法も伝え、皆がそれを自分の体に使ってゆく。
「私が考えるに、敵はおそらく魔王です。そして目的は聖女であるレナちゃんだと考えます。なので……」
「意義あり!!!」
私はシーラちゃんの言葉を遮って大きく手を挙げた。
「へ? レナちゃん?」
「良いから」
私は壇上で呆然としているシーラちゃんを横にずらして、拡声魔法を使う。
「みんな。集まってくれてありがろう!! シーラちゃんが言った通り、敵の目的はシーラちゃんだ。それはみんなも分かるよね?」
「え? え?」
私の声に、みんなが大きく肯定の声を上げる。
うん。やっぱり私の考えは正しかった。
それはそうだろう。
真実、私が目的だと言うのなら、シーラちゃんを囲んだ時点で、魔法を使えない状態にして殺してしまえば良いんだ。
でも、それをしないって事は敵の狙いはシーラちゃん。
私なんてただの口実だ。
むしろ私が目的だとシーラちゃんに教える事でエルフの里とかに逃げない様にしているんだ。
「敵の狙いはシーラちゃんを捕まえて、その傀儡魔法を使う事だと私は思う。きっと自分の妹にして、毎日一緒にご飯を食べて、毎日一緒にお風呂に入って、一緒に寝るつもりなんだ! シーラちゃんを独り占めするつもりなんだよ!! 許せる事じゃない!!」
「意義あり!!」
「っ!?」
私は驚き、その立ち上がった人を見た。
そして、その人は拡声魔法で語り始めた。
「私が思うに、敵はシーラ様を有能幼女秘書にするつもりだと思うわ。大して急ぎでもない仕事をあたかも急ぎの様に語って、シーラ様を走らせるのよ」
「いや違う! 敵は芸術家に違いない! シーラ様をモデルにした絵を彫刻を作るつもりなんだ!」
「それならお願いすれば良いだけだろ! 敵はシーラ様に家庭教師をやらせるつもりなのだ! 見た目は小さいお姉さん家庭教師に、こんな所も分からないんですか? しょうがないですね。と教えをだな」
「それなら生意気シーラ様が私は好きかな。こんな魔法も使えないんですか? って見下されたいわぁ」
「わかる」
「しかし、それだとシーラ様を分からせる事が出来ないじゃないか。生意気からは分からせが良いと長年の研究で分かっている事だろう?」
「別に魔法以外なら何でも分からせは出来るでしょ? 魔法だけ優位に立てるから必死に魔法の事を訴えるのが良いんじゃない」
「うーん。神」
「ここに天才が居るぞ!」
会場はあっちもこっちも大騒ぎである。
しかし、これも仕方がない事だ。
敵を特定すれば、自ずと戦い方も見えてくる。
「あの。レナちゃん? 敵の狙いはレナちゃんだと思うんですけど」
「シーラちゃんは黙ってて。今大事な話してるから」
「う……またこの扱い。ぶー。いじけちゃいますよ。私」
構ってちゃんなシーラちゃんの頭を撫でながら、私はハッと思いついた事を口にした。
「分かった!!」
「何がですか?」
「敵の狙いだよ。それに敵の正体!」
私は拡声魔法で声を大きくしながら叫んだ。
「敵の正体が分かった!」
そしてその声に全員が黙る。
私はその静寂に包まれた体育館で声を上げた。
「敵の正体は宵闇の魔王! 狙いはシーラちゃんを恋人にする事なんだ!」
「な、なんだって」
「そんな恐れ多い」
「それは本当なのか!? 少女レナ!」
「うん。だって、私は一度その宵闇の魔王の魔王に会ってるから。そして、その時見えたんだ。魔王の気持ちが」
「……」
「それは恋! あの魔王はシーラちゃんに恋をしてるんだ!!」
私は間違いないと声をあげ、全員が事態の重要さに拳を握りしめた。
緊迫した空気が溢れてゆく。
恐らくはここに居る誰もが一度は夢を見たであろうシーラちゃんと恋人になるという夢。
それをこんな形で無理矢理叶えようとする敵への怒り、殺意。
「……戦おう」
「あぁ」
「そうだな!」
「こんな形で想いを叶えようなんて、許せない! みんな! 今こそ立ち上がる時だ!」
私は右手を天高く振り上げて、戦いの意思を示すのだった。