(レナ視点)
例の女が消えてから一日経った。
既に学園の外には多くの灯りが集まっている。
おそらくは炎の魔法か、松明か何かなのだろう。
私は学園の奥にある見張り台からそれを見て、その多すぎる数にゴクリと唾を飲み込んだ。
「れ、レナちゃん」
「大丈夫。ヤスミンは私が必ず守るからね」
「そういうお前も前には出るなよ。レナ」
「そうそう。俺たちよりも後ろにいて」
「まぁ、そうだね。レナちゃんは考えが足りないタイプだし」
よくもまぁ言ってくれる。
しかし、完全に間違いという訳でもないし、何も言い返せない所ではある。
「それはみんな同じでしょ。という訳で、レナチームは無理しないで、生き残る事を第一に考える事」
「うん。そうしよう!」
私とヤスミンの言葉にみんなが頷いて、私たちは戦いの為の準備をしていたワケだが……思っていたよりも早く獲物が釣れた。
「あーあー。無駄な努力を頑張ってるんですねぇ」
「っ! みんな! 警戒して! コイツがシーラちゃんを傷つけた女だ!」
「傷つけた。なんて言うと語弊がありますね。私は先輩に愛の告白をしただけなんですから」
「頭もおかしい! 気を付けて!」
「本当に失礼な子ですねぇ。まぁ良いですけど。私の理解者は先輩だけで」
「シーラちゃんがお前みたいな女を認めるワケ無いだろ!!」
「先輩の事。なぁーんにも知らないんですね。ふふ。愚かな子」
「っ」
「先輩は誰かの事を否定しませんよ。私の事も同じ。だから先輩が欲しいんです。先輩だけが私の世界」
空中に浮きながら笑っていた女に、私たちは警戒をしつつ、それぞれが魔法の準備をしていた。
しかし、女は手を横に振るうと、私たちを全て見張り台の外へと吹き飛ばしてしまうのだった。
「あ、あわ! わたし、とべ!」
「ヤスミン!」
私は短距離転移でヤスミンの傍に移動すると、そのままヤスミンを支えて宙に飛ぶ。
他のみんなはと見ると、何とか飛行しながら地面に降りて行っている様だった。
そして、私は見張り台の屋根を壊し、中にあるベッドに近づく女に視線を移す。
「あぁ、先輩。会いたかったですよ。さ。一緒に世界の終わりを見ましょう? 先輩の事を閉じ込める世界の終わりを」
「かかった……! コピーシーラちゃん! 今だよ!!」
コピーシーラちゃんが、傷ついたシーラちゃんと同じ姿で寝ている所に、女が触れた瞬間、私は叫んだ。
そしてコピーシーラちゃんはその声に反応し、目をカッと開いて、魔法で無防備な女を、動くことも魔法も使えない様に拘束する。
「なっ!? 何故! その傷で!」
「傷なんか無いよ。私がもう完全に治したから。残念でした!」
「そんな事出来るはずがない! 私はこのゲームを全て調べて! 主人公であるレナ! 貴女の力だって、全部把握してるのに!! 願いで別の願いは打ち消す事は出来ない! 永遠の魔法を解くには永遠の魔法しかない!!」
訳の分からないことを叫んでいる女に私たちが動揺していると、どこからか転移してきたシーラちゃんが女の前に立った。
「宵闇さん」
「ちょ! シーラちゃん!! 危ないよ! 何の為にコピーシーラちゃんで作戦実行したか、忘れたの!?」
「まぁまぁ。私も直接話がしたかったですから」
「先輩! やっぱり最後には私を選んでくれるんですね!?」
「うーん。それは悩みどころですね」
「どうして!」
「ほら。私、一度宵闇さんに傷つけられてしまいましたし。宵闇さんの魔王としての力を私にくれたら、宵闇さんと共に居る事を考えるんですけど」
「分かりました! はい!!」
「え? 本当にくれるんですか?」
「えぇ。別にこんなの要りませんし。先輩が傍に居てくれるなら、どうでも良いです」
「そ、そうですか。では遠慮なく」
シーラちゃんは女の手を取って何かをすると、直後に私の前に転移して、私の手を取った。
そして、私の中から何かが奪われる感覚と共に、昨日からずっとお腹の奥で渦巻いていた気持ちの悪い感覚が消えている事に気づく。
「シーラちゃん!?」
「ではこれで一件落着ですね。後は操られている人ですが……解除も難しいので、無理矢理魔法を吹き飛ばしましょうか」
シーラちゃんはそう言うと、おそらくは集団が居るであろう場所に空から大きな石を落とした。
サイズは、学園と同じくらいだろうか。
「な、なぁ……!?」
「あぁ、怪我はしない様にしているので、大丈夫ですよ。ただあの周辺にある魔法を全て潰すだけです」
なんて笑いながら言うシーラちゃんに私はタラりと汗を流しながら、一気に終わってしまった状況を見据えた。
何だかんだと、結局シーラちゃんが全部終わらせてしまうのだ。
これでは昼間に考えていた作戦が全部台無しである。
トラップとか色々考えて仕掛けたのにな。
「では私はあの人たちを元の国に戻してきますので、大人しくしていて下さいね」
そして、聖女の発見から始まった騒動は全て終わった。
後々、キッフレイの王様とか色々な国の王様がシーラちゃんに謝りに来たけど、シーラちゃんは操られていたのだからしょうがないと全て許してしまうのだった。
私はと言えば。
相も変わらず学生として学園に通っている。
最近シーラちゃんに教えてもらった魔法を使い、五本の指全てに炎の魔法を宿して一気に解き放つ!
「ふぃー。私の勝ちィ!」
服を黒焦げにしながら倒れている男の背に足を乗せ、踏みつけ、私は笑った。
今日も今日とて快勝である。
入学から今日まで色々な相手と戦ってきたけれど、決闘は全て勝っている。全勝だ。
それもこれもシーラちゃんに相応しい人間になる為、今日も頑張るのだ。
「もー。レナ。またやってるの?」
「いや、しょうがないでしょ。挑まれてるんだから」
「そっちじゃなくて。こっち。踏みつけてる方です!」
「あぁ。これ?」
私はグリグリと足元にある敷物を踏みつける。
「あ、こら! 可哀想でしょ。そんなにしたら」
「いや、これが決闘で負けた時の条件なんだから」
「はぁ?」
「この人がさ。自分が勝ったら付き合ってください。負けたら踏んで下さいって言ってたから、それで良いよ。って受けたの。それで。こう」
私はグリグリと足に力を入れる。
足元からは何か嬉しそうな声が聞こえて来ていた。
「それ。勝っても負けてもレナに得が無いじゃん」
「あるよ」
「いや、無いでしょ」
「あるって。これで私が最強だって証明できる!」
私はヤスミンにそう笑いかけ、私たちの前に現れた新たなチャレンジャーに目を向ける。
「レナさん! 私と決闘をして下さい! 私が勝った場合は交際を! 負けた時には、ヤスミンさんに踏んで貰いたい!!」
「良いよ。やろうか」
「いやいやいやいや! 私、嫌なんだけど! 人を踏むなんて! 嫌なんだけど!」
「最初っから全力で行くよ……!」
「はい!! 来てください!!」
何故かその男の子は私の魔法を両手を広げながら受け止めて、そのままノックダウンした。
「私の勝ちー。じゃヤスミン。お願い」
「ヤダって! 今のレナだって見てたでしょ!? この人、明らかにわざと負けにいってたよね!?」
「そうかもしれないけど。決闘の結果は受け入れなきゃ」
「私……決闘なんてしてないのに」
それからヤスミンは酷く嫌そうな顔をしながら、倒れている男の子の背に足を乗せた。
しかし、軽く、そっと乗せているせいか、男の子は顔を上げ、怒りの声を上げる。
「ヤスミンさん! もっと! もっと強く」
「えぇ……こ、こうですか?」
「違います! もっと! もっとです!!」
「こ、こんな感じですか?」
「Motto! Motto!!」
「も、もっと!? も、もう乗るくらいしか」
「Come on!!」
それからヤスミンは男の子の背に乗り、おどおどと立っていたが、やがて体勢を崩し、その背に座り込んでしまった。
その衝撃に男の子は酷く嬉しそうな声を上げ。
私は腹が立ったので、もう一度吹き飛ばしておくのだった。