(レナ視点)
学園での授業が終わってからシーラちゃんの部屋に行く。
最近はあの女が居るから、行くたびに微妙な気持ちになるけど、それでも会いたいから……。
「お邪魔します」
「あら。また来たのね。今先輩は居ないわよ」
「そうなんだ」
私はシーラちゃんのベッドに座ってお気に入りのクッションを抱きしめながら横になる。
ベッドは相変わらずシーラちゃんの匂いだけがしていて、落ち着く。
「あなた。まるで先輩の子供みたいね」
「……子供じゃないもん」
「そう? それならそれで良いけどね。そこをちゃんと見ないと後悔するわよ」
「何それ。牽制のつもり?」
「ふっ、ホントに子供」
「私は子供じゃない!!」
「そうやってムキになる所が子供だって言ってるのよ」
女は余裕そうな顔をしつつ、シーラちゃんの部屋に置いた女用のテーブルで仕事をしながら鼻で笑った。
その態度に腹が立つが、この女は魔王としての力は失っても魔法やらその辺りの力を失った訳じゃ無いのだ。
今の私では勝てない。
それが分かっているから、私はギュッとクッションを抱きしめて、睨みつけるだけで終わらせる。
「レナって言ったわね」
「……なに?」
「そう敵意をむき出しにしないで聞いて欲しいんだけど。出来ない?」
「かなり難しい」
「はぁ。なら良いけど。別に伝えてあげる義理なんか無いしね。好きにすれば良いんじゃない?」
「……どういう意味ですか?」
「あら。難しいんじゃなかったの?」
私は女の言葉にムカついて、思わず強く睨みつける。
しかし女は私を憐れむ様に見て、口を開いた。
「別に。あなたがどうなろうとどうでも良いのよ。でもね。何も知らず後悔して一人で泣くのは悲しいでしょ。だから出来る限りの努力をしてから諦めた方が良いって思っただけよ」
「貴女は」
「一度しか言わないからよく聞きなさい」
「……」
「先輩。あー。シーラだったわね。シーラさんは、私から魔王の力を持って行って、ついでに永遠の魔王の力も奪っていったわ。そして、その魔王の力であなたの永遠を消した」
「知ってます」
「だから、このままだとあなたはシーラさんよりも早く死ぬ。同じ時間を生きる事は出来ないわ」
「知ってます!!」
「なら、ウジウジして悩んでないでやる事があるんじゃないの? 言っておくけど、シーラさんは黙っていても分かってくれる。なんて人じゃないし、何なら死んでも言わなきゃ分かってくれないわよ」
「……どうして」
「ん?」
「貴女だってシーラちゃんが好きなんでしょ。なのに、なんでこんな事」
「別にあなたみたいな子、ライバルだなんて思って無いわよ。ただね。あなたが昔の私に少しだけ似てるから。気になっただけ」
「……」
「それにね。どうせ、私とシーラさんは永遠に近い時間を生きるから、これからの五十年くらい、あなたにあげるわよ」
私は苦笑する女に、何も言えず黙ってクッションに顔を埋めた。
負けた様な気がして悔しかったからか? 違う。
自分の気持ちが見透かされた様な気がして、腹が立ったからか? 違う。
違う。
あぁ、そうだ。
私は永遠の魔法を使った時、確かに嬉しかったんだ。
これで思いが通じなくても、永遠に一緒に居られるって分かって。
でも、それは失われてしまった。
そして、あの女はそれを手に入れた。
だから、私を憐れんでいるのだ。
憎しみも怒りも無く、ただ純粋に憐れんでいるのだ。
その気持ちは私にもよく分かる。
分かるからこそ、酷く悲しかった。
例え思いが通じても私はシーラちゃんと永遠を生きる事が出来ない。
だというのに、思いが通じるかどうかも分からないのだ。
怖い。
悲しい。
悔しい。
色々な感情が嵐の様に襲ってきて、苦しい。
胸の奥が酷く痛かった。
ムカムカとした気持ちを抱えながら、私は気が付いたら眠ってしまっていたらしく、布団を被った状態で寝ていた。
そして、布団を上げながら体を起こすと、あの女は居なくなっていて、代わりにシーラちゃんがいつもの机で仕事をしているのだった。
「あ、おはようございます。大分疲れていた様なので、そのまま寝ていてもらいました」
「うん」
「最近はよく決闘してましたからね。それで疲れが出たのかもしれませんね」
「……シーラちゃん」
「はい。なんでしょうか」
「その……強くなる為にはどうすれば良いのかな」
「強くなる為に、ですか? うーん。そうですねぇ」
シーラちゃんは私の言葉にうんうんと悩みながら、一つずつ提案してくれる。
しかし、所詮は素直に言えない言葉を誤魔化す為に出た言葉なので、返答に意味はない。
いや、折角答えてくれているのだから、覚えてはおくけど、でも、それだけだ。
私が本当に言いたい事はそれじゃない。
……。
言わなきゃ。
あの女に言われたからじゃないけど。
シーラちゃんには言わなきゃ伝わらない。
しかも、いつもみたいに誤魔化した言い方じゃダメなんだ。
ハッキリと言わないと。
うー。でも!
でも! 言えないよ!
今さら、こんなこと!!
「そ、そう言えばさ。急に思い出したけど、前に言っていた奴あったじゃない? あれって何を言おうとしてたの?」
「前?」
「ほら、あの女がシーラちゃんを刺した時、塔の上でさ。何か言おうとしてたでしょ?」
「あ、あれですか」
ん?
なんだ?
何かシーラちゃんの顔が真っ赤だけど。何かあったのか?
もしかして、シーラちゃんも私に告白しようとしてたりとか?
まさかね。
そんな事あり得ないか。
「どうしたのかなぁ。何か恥ずかしい事考えてたの?」
私は悪戯心がムクムクと湧きあがあってきて、シーラちゃんをからかった。
「も、もう! 大人をからかわないで下さい!」
「シーラちゃんが大人ぁ~? こんなに小さいのに?」
「小さいのはしょうがないじゃないですか! ある時からすっかり成長が止まってしまったんですから。でも、こんな見た目ですが、中身はしっかりとした大人なんですよ」
「ふぅん」
「あ。その顔! 信じてないですね!? むー! こんなにしっかりしてるのに!」
「大人はしっかりしてる事が当たり前だから、わざわざしっかりしてるなんて言わないよ」
「いや、それはそうかもしれないですけど……」
「大人な部分がしっかりしてるって事しか無いんじゃあ、やっぱり子供かなぁ。しっかりしてる子供。だよね」
「むむむ! そんな事ないですよ!」
「どうかなぁ。あ。そうだ。大人だって言うんなら、さっきの恥ずかしい話も出来るよね?」
「え! そ、それは……」
「はぁー。やっぱり言えないんだね。子供だから」
「そんな事はありません!」
シーラちゃんは煽りに負け、立ち上がると、大きく息を吸って、吐く。
そして、私の方を真っすぐに見ながら両手を胸の前で合わせて……。
「本当はこんな風に言いたくはなかったのですが」
「……」
「レナちゃん。保護者としては失格ですが、私はレナちゃんの事が好きです。多分。恋愛という意味で」
「え?」
「まぁ、正直こんなことを急に言われても困ると思うので……」
シーラちゃんがブツブツと一人でなにか言っているが、私はその言葉が何も耳に入ってこなかった。
だって、そうだ。
こんな事は夢か幻だと思ったから。
現実かどうか信じられなくて。
私は確かめる様にシーラちゃんに近づいて、思わず抱きしめていた。
「れ、レナちゃん?」
「……わたし、私もシーラちゃんの事が……好きだよぉ」
そして、シーラちゃんを抱きしめながら泣いてしまうのだった。