(レナ視点)
勝利。
私は全てに勝利した。
ベッドで朝を迎えながら、すぐ隣でスヤスヤと眠るシーラちゃんを見て、ニヤニヤするのが止められない。
「ふへへへ」
きっと私は今、世界で一番の幸せ者だろう。
間違いない。
「……は?」
なんて、人生最高の瞬間を味わっていたら、シーラちゃんの部屋の扉が開いて、誰かの声が静かな部屋の中に響いた。
「ん? あぁ、貴女ですか。いや、貴女のお陰で」
「は? いや、聞いてないんだけど? 意味も分からないし」
「あぁ、そうですか。ではハッキリと言いましょう。私、シーラちゃんと、恋人!! になりましたよ。えぇ」
「……」
「やっぱ、ウジウジ悩んでても無駄だって事ですね。そう、貴女に教えられましたよ。いや! 本当に感謝しかありませんね!! あはは! あはははは!!」
私の声に、女は怒気を身に纏いながら私をジッと睨みつけていた。
その姿を見て、私は何故この女が私をやたらと焚きつけたのか理解する。
そうか。この女! 私を当て馬にして、シーラちゃんの様子を探ろうとしたのか!!
味方みたいな顔をしてとんでもない事考えて!!
しかし、そうと分かれば遠慮は要らないな。
「あれぇ~? どうしたんですかぁ~。わたしぃ、あなたのお陰でぇ。シーラちゃんとラッブラブな関係になれたんですよぉ~? もっと嬉しそうな顔して下さいよぉ」
「殺す……!」
不意打ちの様に魔法を放ってきた女に、私はシーラちゃんに抱き着いて転移魔法を使った。
ついでに、ベッドに捨ててあった私の服を掴んで、短距離転移で服を着る。
昨日、可愛い抵抗をしているシーラちゃんの服を脱がす為に思いついた魔法の応用である。
脱ぐことが出来れば着る事も出来るってワケよ。
という訳で、部屋の中で逃げ回った後、シーラちゃんを抱えながら部屋の外に転移した。
「ちょっと挑発しすぎたか」
爆破され、怒りの姿で飛び出してきた女を空中に浮きながら見ていた私は、向けられた魔法に急いで転移をする。
しかし、言うほど魔力がある訳じゃないから、このままではいずれ撃ち落とされてしまうだろう。
それだけは避けなくては……!
「レナ!!」
「はっ! 何も出来なかっただけの癖にひがまないでよ!」
「先輩に同情されただけの分際で!!」
「何言ってのさ! 私はね! シーラちゃんに!!! 告白されたんだよ!」
「そんなワケあるか!!」
女の魔法は嵐の様であり、密林の様であり、流星の様であった。
故に、私は避けられず、直撃しそうに……。
「んにゅ。さわがしい、ですねぇ」
なったが、寝惚け眼のシーラちゃんが腕を横に振るうだけで全ての魔法をかき消してしまうのだった。
「……す、すごい」
シーラちゃんは私の腕から離れて空を飛びながら、魔法を放った女を見据える。
素っ裸で。
学園の上空で飛んでいる。
「もう! 悪い事しないって約束したじゃないですか」
「いや、先輩その」
「なんですか。私は今お説教をしているんですよ」
「……はい」
女はシーラちゃんの裸をマジマジと見ながら、シーラちゃんのお説教を聞いている。
変態め。
シーラちゃんの全ては私だけの物だというのに。
「……シーラちゃん!」
「ん? 何ですか。レナちゃん。今大事な話をしてるので、後にしてください」
「いや、でも早くした方が良いと思うけど」
「はい?」
「ほら、今シーラちゃん。裸だし」
「……え」
シーラちゃんは私の指摘にゆっくりと下を見て、声にならない声を上げた。
そして、次の瞬間には私たちの前から完全に消え失せるのだった。
危機。
危機である。
世界的な危機である。
私は今、ヤスミンの前で姿勢を正しながらこれまでの事情を全て話し、全力で怒られていた。
「レナ。私はアンタがいつかやらかすと思ってたけどね。本当に最悪で最悪のやらかしをしたわね」
「面目次第もありません」
「それで? どうするのかな。聖女様」
「えーっと……どうしよっか」
私は冷や汗を流しながら、世界に襲い掛かった危機に思考を寄せた。
そう。
あの全裸飛行説教事件の後、シーラちゃんが十日ほど部屋に引きこもり、みんなを心配させた後に、実家へ帰ると出て行ってしまったのだ。
大事件である。
実家。ってどこ? って話だが、まぁエルフの里ですね。
という訳で世界中大騒ぎになってしまったという訳だ。
「でも、本当にどうにかしないと」
「そうだよね。もう世界中大混乱って感じだもんね」
私は自分のやらかした事を思い返しながら、これからどうするべきか考える。
いや、考えるまでもないよ。
答えは一つだ。
「つまり、私がシーラちゃんを連れ戻さないといけないって事だよね」
「当然でしょ。もしシーラ様が消えた真実がバレたら、レナは処刑されるよ」
「ひえ」
「そして、落ち着いてきたシーラ様が戻ってきて、レナが死んでるって分かって最終戦争かな」
「人類滅亡しちゃうじゃん!!」
「そう。だからそうならない様にレナが何とかしないといけないって話なんだよ」
「ぐ、ぅぅ」
「レナの役目はシーラ様を呼び戻す事だから、例え、シーラ様に嫌われても、ちゃんと連れ戻すんだよ」
「ヤダ!! 嫌われるのなんてヤダぁ!!」
「ワガママを言うんじゃありません!!」
「だって、だってぇ! 折角恋人同士になれたんだよ? わたし、世界で一番の幸せものになったんだよぉ? それを、自分から、壊しに行けだなんて……」
「しょうがないでしょ。アンタが外に出る時、シーラ様の服も一緒に着せれば良かったのに。それをしなかったんだから」
「だって、シーラちゃんの肌すべすべなんだよ? ずっと触ってたかったんだよ?」
「そういう下心が原因って事よ。反省しなさい。別れてからね」
「やだぁぁぁああああ!!」
私はそれを拒絶するが、許されるはずもなく、世界が気づく前に早くしろというヤスミンの声を受けて、旅に出る事にしたのである。
最悪だ……。
そして、旅に出る支度をしていると、部屋に尋ね人が来た。
「はーい」
「レナちゃん。聞いた話なんだけど、シーラサマと付き合って、すぐにフラれたってホント!?」
「やかましい!! 出て行け!!」
「いえーい! 僕は今最高に嬉しいよ!」
私は最近少しずつ生意気になってきたルイ君を追い出しながら、苛立つ気持ちを何とか抑え……抑える。
いけない。いけない。
あの生意気な背中に魔法をぶつける所だった。
「レナ。聞いたよ。シーラ様と別れたそうだね。でも俺が居るから安心して欲しい!」
「炎の魔法!!」
「うぉぉおおお! あ、あぶない!!」
私は怒りのままに指先に炎の魔法を集めてそれをアホのトリスタンに投げる。
「炎の魔法グォレンダァ!!」
「ぬわぁあああああ!!」
黒こげの服になって倒れるトリスタンを放置し、私は再び準備を始めたのだが……。
またしても訪問者が。
「なに!? しつこいんだけど!!」
「あ、いや。すまんな。シーラ様との事でお前がエルフの里に行くと聞いてな。手伝おうと思ったんだが……」
「ナルシス君! 君だけが私の本当の友達だよ!」
私は全ての感動でナルシス君を抱きしめた後、二人……いや、ヤスミンとナルシス君。そして野次馬二人の五人でエルフの里を目指すのだった。