(ヤスミン視点)
最近、気づいた事があるが……実はレナという人間は酷く甘ったれで、いい加減で、可愛くて魔力が強いだけのアホなのでは無いかと。
いや、本当はずっと分かっていたのだ。
分かっていて、目を逸らし続けていた。
そうなんじゃないかなって思っても、思わず口に出しちゃっても、それでも! 違うと信じて居たかった。
信じ続けて居たかった!
それもこれも! 全ては私の中のレナ像を守り続ける為であったのだが、もうダメだった。
私の中の乙女世界は完全に破壊され、レナはレナとして私の中に生まれた。
しょうがない。
友達はまっすぐに見なさいという神様からのメッセージなんだろう。
しょうがない……くぅぅ、しょうがない!
という訳で、レナがやらかした事が世界にバレる前に、シーラ様を連れ戻して、一件落着という状態まで持っていく事が今回のミッションなのだが……。
いや、冷静に無理じゃないかな。
私だったら絶対にレナを許せないよ。
結ばれて即、体の関係になったというのも衝撃だけど、雰囲気が、と拒否するシーラ様を無理矢理脱がせて? 挙句裸のシーラ様を外に連れ出して、ちゃっかり自分だけは服着てるとか。
レナを殺して私も死ぬってなってもおかしくない。
そんな中、引きこもりからの逃亡だけで終わらせたシーラ様は本当に素晴らしい方だ。
レナは真実反省して欲しい。
「あぁ、なんだ。君たちはシーラのお友達なのか。よく来たね。まぁまぁお茶でも飲んでくれたまえ」
森で出会ったエルフに案内され、私たちは酷くアッサリとエルフの里に入る事が出来た……が。
正直に言おう。
緊張でおかしくなりそうです。
私はテーブルに置かれたお茶? の入ったコップを手に持ちながらバレない様に小さく息を吐く。
木製で座りにくいが、椅子があって良かったと思う。
無ければきっと今頃倒れていただろうから。
「いやいや。本当にね。お友達。お友達で良かったよ」
私たちの前に座り、笑いながら私たちを見るエルフ。
部屋の中に立ちながら私たちを見つめているエルフ。
そして窓そ外に立ちこちらをジッと見ているエルフ。
私たちは完全に囲まれており、しかもその目には言葉ほど友好的な色は見えていなかった。
「……あ、あはは、ちなみに。シーラちゃんに恋人」
「ギロ」
こんな緊張の中、レナは大汗をかきながら口を開いたが、目でも言葉でも睨みつけられてしまい、完全に固まってしまった。
が、流石は聖女というべきだろうか。即座に固まった体を解放すると、言葉を続ける。
「その、ですね。恋人の様な何かが出来た場合、どの様に対処されるのでしょうか」
「死刑だ」
「え?」
「シーラはなまだまだ幼い。生まれたての赤子の様なものだ。そんな幼いシーラを恋人に。なんて考えている者がいればそれは邪な者しかあり得ない。故に死刑だ」
「な、なるほど」
「……」
「ちなみに、私、実はシーラちゃんより年下なんですよ」
「そうか」
「……まぁ、こちらのヤスミンも同じなんですけど」
突然私に話題が投げられ、私は動揺しながらコップをテーブルに置いたのだが、やけに大きな音がしてしまい、私はさらに動揺してしまう。
「例えば! 例えばの話なんですが! シーラちゃんよりも年下で……しかも大分年下な私やヤスミンみたいな子がシーラちゃんの恋人になった場合は……」
「ちょっ! レナ!?」
「死刑だ」
「……!」
あぁ……申し訳ございません。お父様。お母様。ヤスミンはここで終わりです。
アホな親友の暴走を止められなかったばかりに。
しかも謎の巻き添えを受けて……。
いや、どの道ここから生きて帰れるとは思えないし、しょうがないか。
さよなら。ありがとう。私の人生。
「先ほどから、妙な反応だな。まさかお前たち……! シーラを騙したのか!? まだ生まれたての赤子の様に幼く純粋で穢れを知らぬあの子を!!」
エルフが怒りの声を上げた瞬間、魔力が噴出して、家の屋根が吹き飛んだ。
そして空で粉々の塵になる。
「誤解だ。我々に戦闘の意思はない。シーラ様を穢したという事実もない!」
「黙れ!!」
「っ!」
オリヴァーさんが必死に言葉を重ねるが、それも聞き入れてはもらえず、エルフは私たちに右手を向けて……魔法を放った。
私はレナに抱き着きながら、必死に目を閉じて痛みに耐えようとしていたのだが……何か様子がおかしい。
いつまで経っても痛みが来ないのだ。
もしかして一瞬で命を落としてしまったのだろうか。
と、私は恐る恐る目を開けたのだが、真実は私たちの目の前にあった。
「シーラちゃん!」
「まったく。何の騒ぎですか。これは」
「シーラ。危ないだろう。さ、こっちに来なさい」
「嫌ですけど」
「な、ななな! シーラが、言う事を聞かない!?」
「こんな事は初めてだ!」
「いや、多分結構前からそうですよ。そもそも、ここを出ていく時だって反対を押し切って出て行ったでしょうに」
シーラ様が呆れた様に言った言葉は届かず、エルフたちは皆大騒ぎをしながら各々に好き放題話している。
そんなエルフたちを見ながら、シーラ様は大きなため息を吐いて、私たちに振り返った。
最後に見た時と何も変わらない、穏やかで落ち着いた笑顔だ。
「皆さん。お久しぶり……で良いんでしょうか? どうしてこちらまで?」
「え? あ、それは……」
「シーラ様がレナに怒って学園を出て行ってしまったので、そのお許しをいただこうと」
「あ……」
ここでシーラ様はレナを見て顔を真っ赤にしながら俯く。
そして、レナはそんなシーラ様を見て、どこか居心地が悪そうにしているのだった。
「こ、こほん」
しかし、シーラ様は顔を真っ赤にしながらも、何とか自分を取り戻して話し始めた。
「ま、まぁ? 確かに、動揺があった事は確かです。ですが、私も大人ですからね。いつまでも些細な失敗に囚われていても仕方ないでしょう。という訳で、そろそろ私も学園に戻りましょうかね」
「なら! 私の事はもう怒ってないってこと!? 別れたりしないよね!?」
「……それは、ちょっと色々と考えさせてもらいたいです」
「えぇぇええ!! やだー! ねぇ! ねぇ!! 考え直してよ!」
「いや、だから考え直すんでしょ? レナとの事」
「そっちじゃないって! もー! 意地悪言わないで!」
「ま、どうしようもない時は諦めなって」
「やだ!」
「レナ。お前には俺が居るだろ?」
「帰れ!」
「レナちゃん。僕は今、最高にうれしいよ」
「帰れ!」
「元気を出せ。レナ。何。誠心誠意話せば分かってもらえるさ」
「……! やっぱり私の親友はナルシス君だけだよ! ありがとう! 私、絶対に勝つからね!」
「何に勝つの?」
「シーラちゃんから消えそうな愛に! 再び燃え上がらせて見せる!」
「そ。精々頑張ってね」
私は適当に返事をしながら、シーラ様と話をするオリヴァーさんとエミリーさんを見つめた。
流石というかなんというか。落ち着いている。
どこぞの自称最愛の恋人とは大違いだ。
「じゃ、皆さん帰りましょうか」
「……認めん! 認めんぞ!」
そして、一件落着で終わるかと思われた今回の旅だが、まだ波乱は残っているらしい。
声の方を見れば、怒りに震えるエルフが居るのだった。