(ナルシス視点)
かつて私の胸にはシーラ様への憧れがあった。多分恋もしていた。
しかし、その想いも時が過ぎれば薄れていって、ただ尊敬の念だけが残った。
そして次に恋を自覚したのは、レナにであった。
意見の違いからぶつかり合う関係ではあったが、そんな中でも、他者の為に戦う姿を見て、心を奪われた。
それからいくつかの事件を共に解決し、聖女と知って強く惹かれた。
しかし、レナの胸には既にシーラ様がおり、その想いの強さを知って、私はこの恋心を奥に隠す事にしたのだ。
レナがただ幸せであれば良いと。
それだけを考えて、レナがシーラ様と結ばれるまでは、何かの役に立ちたいとエルフの里まで付いてきた。
そして、こんな状況になって、更にレナの強さを知る事になるとは思わなかった。
「ただの人間じゃない!! 私は! 私は……! シーラちゃんの恋人だ!!!」
エルフの里に来て、シーラ様がどれだけエルフ達に慕われているか知っただろうに。
エルフに人間の常識が通じず、言葉で分かり合う事など出来ないであろう事は分かっていただろうに。
それでもレナは死など恐れず、愛の為に進むのだ。
強い。
それでこそレナだ。
「ヤスミン嬢。もしもの時はオリヴァー殿やエミリー殿と共に逃げてくれるか?」
「え? それは、まぁ私なんかが居てもしょうがないので、逃げますが……え? ナルシス様は」
「私は行く。例えこの命がここで消えようとも! 一度は愛した者の為に戦う!」
「……っ!」
ヤスミン嬢は私の言葉に目を見開き、オリヴァー殿とエミリー殿は笑う。
そして、トリスタン、ルイは私の背中を叩きながら、前に出てくるのだった。
「一人で格好つけるなよ。ナルシス」
「そうそう。僕らだって戦えるよ。シーラサマの為にね」
「レナの為に!」
「……お前たち」
「こうまで言われてはな。逃げるワケにはいかないだろう? エミリー」
「当然!」
私は幾千の味方を得た様な気持ちで私たちに背を向けているエルフに語り掛けた。
「そこのエルフ!」
「……なんだ。人間。こっちは今取り込み中で……」
「私はな! シーラ様に恋をして、しかも共に風呂に入った事もある!! この意味が分かるか!? シーラ様の裸を見た事があるのだ!!」
「っ!? な、なななな、なんだと!?」
「ヘン! そんなの僕だって何度もやってるよ! 僕なんて一緒に寝たこともあるもんね!」
「俺はシーラ様を抱きしめて寝た事もあったな」
「なんておぞましい種族なんだ。人間!」
「シーラを騙して!」
「それが人間だ。エルフ」
オリヴァー殿は私たちの前に出て、剣を抜く。
そして、その半歩後ろでエミリー殿も魔法を構えるのだった。
いや、違う。あれは魔法闘争か!!
「シーラ様は我ら人間の希望だ。お前たちに奪わせる訳にはいかないな! 我らが守らせていただく!」
「脆弱な人間が! 誰が誰を守るだと!?」
エルフは魔法を放とうとしたが、それをエミリー殿が魔法闘争で止め、更に神速で踏み込んだオリヴァー殿がエルフを順に斬り捨ててゆく。
「くっ!? 何故、私の魔法が」
「先ほど、刺された程度では死なぬと聞いた。ならば斬られても死ぬまい!」
オリヴァー殿は叫びながら次なるターゲットへと走り、エミリー殿と絶妙な連携を繰り返しながらエルフを制圧し、道を作ってゆくのだった。
私たちもその背に付いて走る。
「レナ!!」
「っ!? ナルシス君!?」
そして、たった一人でシーラ様を守るべく魔法を使おうとしているレナの名を叫んで、エルフ達に向かって飛び掛かった。
無論、オリヴァー殿だけではなく私たちもである。
レナやエミリー殿の様に魔法が強い訳ではない。
オリヴァー殿の様に剣術が使える訳じゃない。
だが、それでも友の為、愛した者の為、私たちは戦う事が出来る。
「エルフ! 覚悟!!」
「この! 人間が!!」
「俺のレナちゃんとシーラ様は返してもらうよ!」
「誰がお前のシーラサマか! ふざけるなよ! トリスタン!」
「何で仲間内で喧嘩してるんだ……」
私は何故か仲間内で争っているトリスタンとルイを見ながら進み、エルフの魔法を封じ、剣で倒して、遂にレナとシーラ様の傍にたどり着く事が出来た。
そして、オリヴァー殿とエミリー殿が協力してシーラ様の拘束を解く。
「ありがとうございます。まぁ、私の出番は殆どなかった様ですが」
「シーラ! 君が人間を可愛がっているのは分かったが、それなら里に連れてくれば良いだろう!?」
「その理屈で言うのなら、私が人間の世界に行っても同じですよ」
「違う! 人間は危険なんだ。私たちを見ろ! みんな人間に傷つけられたんだ!」
「当然ですよ。みんなが人間さんの事を傷つけようとしたんですから。仕返しされてもしょうがないでしょう」
「くっ!」
「それと! 私はこの里を出てゆきますが、もしこの事で人間さんに酷い事をしたら絶対に許しませんからね!!」
「それほどまでに……おのれ、人間め」
シーラ様は、大変珍しい怒りの姿でエルフ達にそう言い放つと、転移して学園に戻ろうとしていたのだが……どうやらそれが上手くいかないらしい。
「むー。まだ邪魔するんですか?」
「当たり前だろう!」
「この分では歩いて出て行くのも難しそうですね。さぁ、どうしましょうか」
シーラ様が腕を組みながら悩み、私たちも同じ様に悩む。
そして、一番最初にその答えを出したのはレナであった。
いや、その答えが正解かどうかは難しい所だったが。
「あ。良い事思いついた」
「良い事ですか?」
「私、とんでもなく嫌な予感がするんだけど」
「シーラちゃん! 私とここで結婚式をしよう! それでエルフの人たちに認めて貰えば良いんだよ!」
「ふぇ!?」
「……あんたって子は」
ヤスミン嬢の呆れた様な声を聞きつつ、私は自分のやりたい事を貫いているレナを見て、目を細める。
そこには憧れた景色があった。
そして、やはりレナやシーラ様に相応しいのは自分では無かったかと改めて再認識するのだった。
「……良いんじゃないか?」
「ちょっ、ナルシス!? 何言ってるのさ! シーラサマは!」
「ふっ、そうだな。俺も賛成だ。まぁ、無論シーラ様が良いのなら。という話になるが」
「私、私は……」
「シーラ様。流されなくて良いのですよ。貴女の傍で貴女を支え続けていた者も」
「エミリー。状況を考えろ。状況を」
「あら。貴方だってチャンスがあるのなら、飛び込みたいんじゃないの? シーラ様はレナとの関係を考え直すと言っていたのだから」
「えぇ!? その話ってまだ有効だったんですか!?」
「当たり前でしょ。レナ。貴女は一度付き合ったけど、今は考え中。つまり今全員にチャンスがあるという訳よ」
「だ、だだだだ駄目ですよ! そんなの! 絶対!」
レナが焦った様に慌てているが、シーラ様は先ほどからずっとレナばかり見ているし、それはレナ以外の全員が気づいている。
だから、チャンスなど無いのだが、エミリー殿がわざわざそう言ったのは、二人を焚きつける為か。
「ねぇ! シーラちゃん! シーラちゃんは私の事好きだもんね!? 私しか好きじゃ無いもんね!?」
「それは……でも、レナちゃん、この前、止めて下さいって言ったのに」
「わかった! 今度からは絶対に無理言わないから! お願い~!」
レナは必死にシーラ様にしがみつきながら願うのであった。
そして、シーラ様はそんなレナの手を取りながら、口を開くのだった。