【完結】西住安斎大学受験物語   作:そとみち

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西住安斎卒業壮行試合 2

 

 

「…白軍は119号を北東に進み、どうやら宇都宮城址公園に何輌かとどまっているようでしたわ。知波単学園とサンダースの車輌が6輌ほどいるのが見えましたの。あと、レオポンさんチームも」

 

「宇都宮城址跡か…あそこは多数の車輌で陣を敷くには不利な場所だ。さらに北上してより広い場所に布陣する考えか、安斎は…」

 

 

 レオポンさんチームとのレースを終えたローズヒップに合流した西住まほと他紅軍の戦車たちは、ローズヒップからの敵軍の動きの報告を受けていた。

 

 現在、紅軍はプラウダを先頭にグロリアーナ、黒森峰の順番で進軍中である。

 対する白軍だが、ローズヒップの斥候によると、宇都宮城址公園敷地内に7輌の敵戦車が発見されたという。

 こちらの足止め役だろうか。もしくは囮か…?

 囮だとすれば、不用意に交戦を仕掛けるわけにはいかないが。

 西住まほは思案したが、続くローズヒップの報告を聞いて、決断を下すことにした。

 

 

「それと…宇都宮城址公園からさらに北側のほう、戦車のエンジン音がいくつもしたのと、排気の煙が上がっているのが確認できましたわ。おそらく、あちらが本隊かと」

 

「……そうか」

 

 

 本隊を目的のキルゾーンに移動しつつ、7輌でこちらを足止めする。

 もしかすると、安斎ならば何輌かを奇襲のために潜伏させているかもしれないが…それさえ防げれば、宇都宮城址にいる7輌を物量で押しつぶすことはできるだろう。

 

 

「どうしますの?まほさん。囮とも思えますし、しかしここで決断に迷っていればさらなる策に落ちるやもしれません」

 

「マホーシャ、貴女の判断に従うわ」

 

 

 ダージリンとカチューシャから、どのように紅軍は動くのか、判断を促される。

 西住まほの出した答えは―――

 

 

「…撃破しよう。カチューシャはプラウダ11輌を率いて宇都宮城址公園に突入、敵を各個撃破。黒森峰と聖グロリアーナの各車は城址公園の南と西を索敵して奇襲を警戒しろ。もし北から敵の本隊が戻ってきたら、様子を見て一時撤退か、さらに戦力を投下して一気に叩くかだ」

 

 

 プラウダの数の暴力を使い宇都宮城址公園内の戦車と戦闘させる。

 残りの車輌で、周囲からのアンブッシュを警戒する。

 西住まほの立てた作戦は、大まかにこの2つであった。

 

 

「…しかし隊長、南と西はわかりますが、東からの奇襲があったらどうするんですか?」

 

 

 ここで逸見エリカは、西住まほの作戦の中で腑に落ちない部分を見つけて聞いた。

 南と西は索敵する。北は敵本隊がいるはずなのでそちらか進行が来るのは否めない。

 だが、東は?

 

 西住まほはこの問いに対して、何を言っている、と言わんばかりに逸見エリカに反論した。

 

 

「エリカ、もう一度よく宇都宮の地形図を見てみろ。特に高低差に注目してな」

 

「高低差に?……ああ、なるほど。失礼しました、自分の把握不足です」

 

 

 逸見エリカはそう言われて再度戦場となる宇都宮の地形図を確認し…自分の発言が、認識不足から来る稚拙な発言であったことを恥じた。

 宇都宮城址公園の東側には、宇都宮市を流れる田川が存在する。

 

 この川は大きな川ではないが、深い堀に流れる川であり、川とそれに面する歩道との高低差、堀の斜面がすさまじく急なのである。

 堀に対して斜めに走行すれば降りることだけは可能かもしれないが、登るのは戦車の重量上絶対に無理だ。豆戦車でもない限り。

 事実上、この田川が存在することにより、東からの奇襲は不可能であると推測することができた。

 

 

「橋を渡って川の東側に潜伏し、戦闘が始まったらまた橋を渡って戻り挟み撃ち…という戦法もできなくはないが。時間がかかりすぎるうえ、こちらで容易く確認できる。東からの奇襲は不可能だ」

 

「今クルセイダー部隊で川にかかる橋とその周辺を目視しましたが、敵戦車の影はありませんわー!やはり城址公園内だけにいるようですわー!」

 

 

 ローズヒップ率いるクルセイダー部隊からの報告でも、田川にかかる橋の上、および公園東側の路上に戦車の影はない。

 南と西に潜伏する敵戦車のみ、注意すればよい。

 

 

「よし、ではすぐに取り掛かる!敵の動きに注意しながら、それぞれの任務を遂行せよ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

 紅軍の戦車がさらに進撃を続ける。

 先頭を務めるのは、カチューシャ率いるプラウダ高校の戦車たち。

 T-34に乗るカチューシャ、IS-2を駆るノンナ、そしてプラウダ名物KV-2も二人に続くように宇都宮城址公園内に突撃する。

 戦車戦の初交戦が、始まった。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「…来たのはプラウダか。ペパロニ、ケイさん、準備はできてるかー?」

 

「こっちはいつでも行けますよ姐さん!ケイの姉御も準備OKッスかー?」

 

「オーライ、ワイヤーもきちんと繋いだし大丈夫よ。アンチョビ、いつでも指示を飛ばして!」

 

「よし、それじゃあプラウダの戦車が最初に撃ち始めたら…シーソー作戦、開始だ!」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 まず初弾を放ったのは、ニーナの駆るKV-2だ。

 その大きな車体から放たれる弾丸は、しかし敵戦車の回避行動により狙いははずれ、その向こうにある宇都宮城富士見櫓を直撃する。

 ものの見事に白漆喰塗りの城壁が吹っ飛び、瓦礫を周囲にまき散らした。

 そしてそれに続いて…各車輌から、すさまじい爆音にて砲弾のやり取りが開始される。

 周囲にもし人がいたら耳をふさがずにはいられないだろう砲撃音の連打。

 宇都宮城址公園は、一瞬にして戦場へと姿を変えた。

 

 

「あっちゃぁ、外れちまったべさぁ!急いで次の弾、装填だぁ」

 

「がってんだぁ!プラウダの強さ、見せつけてやんべぇ!」

 

 

 KV-2の射撃に続くようにして、ノンナ、カチューシャも敵戦車を攻め立てる。

 プラウダの冬将軍のような一糸乱れぬ砲撃の嵐に、白軍の車輌は城址公園内でみるみる撃墜されていった。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「…うっはー、やばいねこりゃー。プラウダの11輌、全部来ちゃってるみたいだよー」

 

 

 白軍の7輌の中の1つ、先ほどレースにて勝利し部隊に合流を果たしたレオポンさんチームもまた、この戦闘に参加していた。

 砲撃の雨を持ち前の操縦技術で何とか回避し、反撃に放った砲弾で敵チームを1機撃墜する。

 しかし、なんとかといった様子である。すでに白軍の戦車は4輌が撃破され、白旗をその車体からのぞかせていた。

 

 

「急いでくれよーペパロニちゃん、ケイさん。私たちがこらえられなくなる前に」

 

 

 ナカジマは、それでも北に逃げることはせず、その場で急旋回をかましながらギリギリで砲撃を回避しつつ、プラウダの部隊と交戦を続けるのであった。

 ……まるで、宇都宮城址公園の入り口で敵をとどめようとでもするかのように。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……妙ね、敵がもろすぎるわ」

 

「私もそう思います、カチューシャ。何か罠があるような…」

 

 

 圧倒的な戦力差を見せつけつつ、しかしカチューシャとノンナは不穏な気配を感じていた。

 おかしい。

 敵の戦車がここに配置されている意図が読めない。

 

 

「11対7である以上こちらが優勢なのはわかるけれど。ならばなぜ敵は逃げないの?時間稼ぎのつもりかしら?」

 

「…もしくは、増援を待っている…?でも、公園の南と西は他の部隊が警戒してますので大丈夫なはずですが…」

 

 

 現在、南側入り口から侵入したプラウダ軍により、白軍の各車両は西側に追いやられている形となる。

 もし西に逃げようものならそちらを索敵中の黒森峰が撃破するだろうし、北に逃げるにはすでに出口がないところまで追い詰めた。

 『詰み』である。

 

 …そのはずなのだが。

 カチューシャとノンナには、疑念が拭いきれなかった。

 

 

「アンチョビの作戦が大したことない、とは思えないんだけど…なんか気持ち悪いわね」

 

「目の前の敵戦車を撃墜し終えたら、まほさんと相談したほうがよろしいかも――――」

 

 

 既に敵の5輌に白旗を挙げさせ、残るは2輌。ポルシェティーガーと、サンダースのシャーマン。

 対して、こちらの損害はいまだ2輌のみであり、まだ9輌が生存している状況である。

 痛み分けにすらなっていない。

 この布陣にはどんな意図があったのか?と少々呆れも入った思考を二人が纏わせた瞬間。

 事態は動いた。

 

 

「んっぎゃーーー!!!!」

 

「…なっ!?なにごとよ!!」

 

「…KV-2が!?」

 

 

 ニーナの悲鳴が、唐突に二人の無線に入ってきた。

 同時に後方から響く爆音。

 二人が振り返ると、部隊の後方から敵戦車へ砲弾を放っていたはずのKV-2が、爆炎を挙げて白旗判定を食らっていた。

 

 ……なんだと。

 カチューシャとノンナは、同時に冷汗を垂らす。

 なぜ、KV-2が撃墜されたのだ。

 ………目の前の敵戦車は、砲撃をこちらにしていなかったのに!!

 

 

 そして、KV-2を撃墜せしめた、敵の戦車が。

 自分たちの後方―――城址公園の『東側』から、一気に8輌、シャーマン部隊が攻めてくるのが見えた。

 

 

「ハァイ、カチューシャ、ノンナ。ご機嫌いかが?――今から最悪の気分にさせるけど、許してね♪」

 

 

 敵戦車の先頭を駆るシャーマンの濡れた車体、上部ハッチから体を出しているケイが――――にやり、と顔をゆがめた。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

「…なんだと!?」

 

 

 西住まほはプラウダから入った無線に、信じられないといった語気で返事を返す。

 

 

「東側から敵の奇襲が来たっていうの!?どうやって!?」

 

「アリエッティですわー!?わたくし、戦闘が始まる前に確認した時には、確かに道路上にも橋の上にもその向こうにも戦車の姿は見えませんでしたのよー!?」

 

「何かをした、ということでしょうね…安斎さんが。やはり油断ならないお方」

 

 

 同じく驚愕に目を見開く逸見エリカとローズヒップ。

 ダージリンは冷静を装うが、僅かにティーカップを持つ手が震えていた。

 

 

「っ…黒森峰と聖グロリアーナの各車輌は急いで宇都宮城址に突入!敵挟撃部隊を撃破する!クルセイダー部隊は敵の後方からさらに回り込むように進撃しろ!!」

 

 

 すぐに西住まほより命令が飛び、各車輌の履帯がうなりを上げる。

 しかし、既に後手を踏んでしまっているという実感が、西住まほの胸中にはあった。

 

 

「……安斎、何をした…!」

 

 

 …まるでわからない。

 どうやって、東側から攻め込んだのだ。

 ローズヒップの索敵が確かなら、目に見える範囲にはいなかったはずだ。

 

 …だとしたら、川の中か?

 いや、それこそあり得ない。川の中に戦車を入れることはできるだろうが、どうやっても川から道路上まで上がることはできないはず。

 どうやった。何をしたんだ安斎。

 

 宿敵である安斎千代美の戦術に早速うならされながらも。

 挟撃を受ける形となり孤立したプラウダを救うため、西住まほは全部隊を動かす。

 自分たちが到着するまでに、全滅していないことを祈りながら。

 

 

「…っ。西住隊長!!」

 

「どうした、ローズヒップ」

 

 

 息をのむような音と共に、ローズヒップから通信が入る。

 ローズヒップは敵のさらに後方から回り込むように伝えていたため…東側、田川を北上するように宇都宮城址公園へ侵攻していた。

 そこで、ローズヒップは見た。

 安斎千代美が何をしたのか。

 どのようにして、8輌もの中戦車を東側から送り込ませたのか。

 

 

「…マジですの、これ。……川にかかる橋の一本が、落ちてます…」

 

「……何だと」

 

「ですからっ!橋の片方の橋脚が壊されて、落ちていますの!まるで…傾斜を、スロープを作ったかのように!!」

 

「っ…安斎ぃ!」

 

 

 その報告を受けて、ようやく西住まほは安斎千代美のとった奇策の全貌を理解した。

 

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 

「いっやー、しっかし流っ石姐さんだよなー!橋の片っぽを戦車で狙撃して落として、それをスロープにして川から戦車を上げるなんてとんでもない作戦考えちまうんだから!」

 

「ちゃんとそれだけじゃまだ登れないって計算してたから、私たちがワイヤーで引っ張り上げるところまで指示出してくれてるんだもん。行き当たりばったりじゃないのがすごいわよね…」

 

 

 ローズヒップが発見した見るも無残に落とされた橋のすぐ西側で、ペパロニとカルパッチョは路上にうち捨てられたワイヤーを回収していた。

 このワイヤーは、ケイが率いるサンダース部隊が城址公園に突撃する前に捨てていったものである。

 先ほどまで、ペパロニとカルパッチョの乗るセモヴェンテにも巻かれていたものだ。

 

 

 安斎千代美のとった奇襲作戦とは、以下の通りとなる。

 

 まず、敵に悟られる前に、初動の時点でサンダースのシャーマン部隊を8輌、田川に侵入させてそのまま気づかれないように北上させる。

 エンジン音は川に潜ることで消音を施した。

 深い堀のために、平地から川を見ても、かなり近くまで行かないと戦車がいるとわからないだろうと読んで。

 

 次に、城址公園に敵の部隊をおびき寄せた後、砲撃音がうるさく鳴り響き始めたところで、川に潜ませた部隊の砲撃で宇都宮城址公園の真東に位置する橋を撃墜させる。

 それも、橋の中央を打つのではなく2本ある橋脚をそれぞれ。そしてさらに、橋の東側のほうの接合部を。

 その3か所を穿つことにより、橋が東側を下にする形で堕ち、それによってスロープ状の道ができ、川から堀の上まで遡上することができるようになる。

 

 さらに川からの遡上の速度を増すために、橋の西側から垂らしたワイヤーを川底のシャーマン部隊に繋ぎ、セモヴェンテによって引っ張り上げさせる。

 これによって、スロープ状となった橋の上を、シャーマン部隊が高速で駆けあがることができるのであった。

 あとはワイヤーを捨てて道なりに突撃し、わざと西側に追い込まれるように動いていた宇都宮城址公園内の部隊と挟み撃ちになる形で、奇襲敢行となるのであった。

 

 

「この橋はそんなに車通りが多くないところだからいいけど、もう一本北の橋だと朝の通勤ラッシュがひどいことになったかもなー!…さて、ワイヤーの回収はこんなもんかな?」

 

「そうね、あんまりダラダラしていると敵の部隊が様子見に来ちゃうってドゥーチェも……って言ってる傍から来たわよペパロニ!すぐ逃げて!」

 

「マジかよやっべ!!ここでやられたら姐さんに顔向けできないぞ!全速離脱だー!!」

 

 

 あらかたワイヤーを回収し終えたところで、カルパッチョが南から顔を見せたクルセイダーに気づく。

 ローズヒップが乗車しているそれだ。

 慌てて二人は戦車に乗り込み、ちょろちょろと建物の隙間を奔りながら北にいる本隊へ合流するのだった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 

 奇襲攻撃から30秒。

 宇都宮城址公園内にいたプラウダ部隊は、致命的な砲撃の雨を受けていた。

 

 なにせ、後方から完璧なタイミングでのアンブッシュだ。

 戦車が後方を確認する前に、KV-2を含んだ2輌が撃墜された。

 さらに、その後に続く混乱に乗したシャーマン部隊のチャージにより、またしても2輌が撃墜される。

 

 

「……くっ!!」

 

 

 挟み撃ちとなってしまったこの状況。

 カチューシャは、決断に迫られていた。

 すぐに離脱するか、敵の挟撃のどちらか一方を撃破するか。

 …撃破するなら、元からいた白軍の部隊だ。ポルシェティーガーとシャーマン1機を追撃し、少しでも数を減らす。

 残り5輌となったプラウダの戦車を守るために撤退をするのもありだが…逃げ切れるかわからない。

 カチューシャは自問し、0,5秒で自答した。

 

 

「…両方よ!!みんな、西にいるポルシェティーガーとシャーマン1機を撃破!そのうえで西の出口に逃げて本隊と合流を図るわよ!東から来たシャーマン部隊は装填に時間がかかるから慌てなくていいわ!」

 

 

「「Понятно:(了解)!!」」

 

 

 大丈夫だ。プラウダの誇れる同志たちなら、この程度の危機で全滅するはずがない。

 カチューシャは部隊の実力を信じ、撃墜しつつ後退という難度の高い命令を下した。

 そして、もっとも頼れる副官、ノンナには別の指示を。

 

 

「ノンナ、貴女は東からの奇襲部隊を全力で足止めして。でも撃墜されちゃだめよ、一緒に逃げるんだから!」

 

 

「…Да(はい)。まほさんたちが援軍に来るまで、出来る限りのことを」

 

 

 ノンナは、カチューシャから託された最高に難しいミッションを、しかし誇らしい気持ちと共に受け取った。

 信頼してくれているからこそ、任せてくれる。

 ならば―――愛しいカチューシャのために、やれない道理があろうか。いや無い。

 

 

「すべてはカチューシャのために。…行きます、ケイさん!」

 

「…来るわねノンナ!上等よ!!」

 

 

 プラウダの中から一機、奇襲部隊に吶喊をかける車輌がある。ノンナのIS-2だ。

 ケイは、それを真正面から受けて立たんと、車体を超進地旋回させて砲口をノンナに向けた。

 熱いバトルだ。受けてたってやろうじゃないか。

 ケイのハートに火がともり、まさに今燃え上がろうとしていた。

 

 ―――そんなところに。

 

 

『ケイさん、撤退だ!西住が城址公園に向かってる!これ以上いると押しつぶされるぞ!』

 

 

 白軍の隊長である安斎千代美から、無線が入ったのであった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

「くっそー、やっぱり打つ手が速いぞ西住…!これ以上はこっちが後手に回っちゃうかー!」

 

 

 安斎千代美は現在、宇都宮城址公園の北に位置するNHK宇都宮支部の屋上から戦局を眺めていた。

 自分の考えた奇襲は成功。今もまた、7輌目のプラウダの戦車を撃墜し、残るは4機となった。

 こちらの被害は奇襲前に撃墜された5機と、今また撃墜されたシャーマンが1機。

 紅軍7:白軍6。悪くない数字であった。

 

 これ以上宇都宮城址公園で戦闘を続けると、こちらの被害が大きくなる可能性がある。

 相手も撤退しそうな動きを見せているし、ここらで初戦闘は終了だ。

 

 

「シャーマン部隊は敵をやり過ごして北上!ポルシェティーガーもそれに続いてくれ!もう十分だ、よくやってくれた!」

 

 

 安斎千代美が全軍に無線を飛ばす。

 次の策も既に練ってある。新たなキルゾーンへ移動する必要があるのだ。

 

 しかし、ここで安斎千代美へは思わぬ返事が返ってきたのであった。

 

 

『あ、ごめーん安斎さん。レオポンさんチーム、ここで討ち死にしちゃってもいいかなー?』

 

「へ!?何言ってるんだナカジマさん!?囮には使っても見捨てたりなんかしないぞ!?」

 

 

 安斎に返ってきたのは、宇都宮城址で戦っているレオポンさんチームからの自決の申し出であった。

 どういうことだー!と憤る安斎に対して、ナカジマからは冷静な一言が。

 

 

『いやー、どうもさっきちょっとモーターやっちゃってたらしくて、もうすぐレオポン止まっちゃいそうなんだよねー』

 

「な、なんだってー!?」

 

『だからさ、もう思い残すこともないし。ちょっと玉砕してくるけど、許してねー』

 

「ちょっとー!?」

 

『安心して。…サンダースの皆さんはできるかぎり無事に送り届けるし、相手ももう少し倒してみるから。それじゃ、あとは任せたよー』

 

 

 安斎千代美が無線を聞いて呆然としているうちに、向こうから通信がカットされてしまった。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「…さっ、それじゃあレオポンさんチーム、最後の活躍と行きますか!」

 

「この4人で戦車に乗るのもこれが最後だからね。レースもできたし、あとは悔いを残さず散るだけかな」

 

「…ごめんね先輩、私がレオポンに無理させちゃったせいで…」

 

「何言ってんのツチヤ!あんたじゃなかったら今頃私たちは撃墜されてたんだから。それに、レオポンもここまでもってくれたし」

 

「囮としてはしっかりと仕事できたからいいんじゃないかな。何よりレースは最高に燃えたしね!」

 

「うん、あとはプラウダの戦車にスリップかますだけ。なんとか全滅させられたらいいねー」

 

「カチューシャにはちょっと悪いけどね。でもまー試合だし、しょうがない」

 

 

 

「……楽しかったね、3年間」

 

「ええ、ツチヤが来てくれてからの2年間は、もっと楽しかった」

 

「最後の1年は一番楽しかったねー、戦車に乗るとは思ってもみなかったけど」

 

「…………………」 

 

「…私たちの高校生活、もう何の未練もないよ」

 

「ええ、輝きまくった、って感じ?一生の思い出になるわね」

 

「………だからさ、泣くなよツチヤ。笑って終わろう?」

 

「………うん……!!」

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 西住まほ率いる紅軍本隊が城址公園の西側入り口から突入するまで、あと20秒。

 戦場はその後大きく動き、現在…4輌のプラウダ軍が西側入り口に向けて撤退していた。

 カチューシャとノンナもその中に加わっている。

 

 ノンナは、先ほどケイ率いるシャーマン部隊へ吶喊した後、1輌撃墜しつつも自身への砲撃はすべて回避するという離れ業をやってのけた。

 さらに、相手にもこちらの本隊が迫っていることが伝わったか、撤退する動きが見えたため、深追いせずにプラウダの戦車たちと合流した。

 

 カチューシャもまた、残り2輌の戦車を率いて、突破口を開くことに成功していた。

 ポルシェティーガーは流石というべきか、うまくこちらの砲撃の間を縫い、すれ違うようにしてシャーマン部隊と合流してしまったが。

 それでももう1輌のシャーマンのほうは無事撃破し、西口への通路を拓くことができた。

 あとはこのまま味方と合流するだけだ。

 

 こちらの被害は7輌。

 敵の被害は6輌。

 少々こちらの被害が大きいが…この程度の損害で、あの奇襲をやり過ごせたのなら上等だろう。

 

 

「…相手の戦術への認識を改める必要がありそうね…」

 

「そうですね、カチューシャ。恐ろしい手を使うものです、安斎さんは」

 

 

 合流への目途が明確に立ったことからの安心感か、カチューシャもノンナも、落ち着いた様子で言葉を交わすことができた。

 しかし。

 2秒後、カチューシャは全身が震えるような寒気を覚えることになる。

 

 

 ドルン。

 ドルルン。

 

 

「……………っ、この音は!?」

 

「後方から…!?敵戦車が、まだ!?」

 

 

 後方から聞こえるモーター音。

 この音を、カチューシャはとても印象深く覚えている。

 なぜなら、大洗騒動の時に。この音を追いかけて、敵戦車と対峙したことがあるからだ。

 

 

「……レオポンさんチーム!ナカジマ、スズキ、ホシノ、ツチヤ…!!!」

 

 

 恐怖による震えをもってカチューシャが振り返る。

 その眼には、あの時と同じようにモーター音を唸らせながら、しかしこちらを撃墜するために突撃してくるポルシェティーガーが写った。

 その後ろには、シャーマンが3機。

 それはかつて、自分がやった超高速の奇襲戦術。

 

 

 ―――スリップストリーム=アタック。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 

「悪いねーケイさん、アリサちゃんたちも。最後のバンザイアタックに付き合わせちゃって」

 

「吶喊精神は日本の文化よ、気にしないわ!それに、話を聞けば私たちがミスらなければシャーマン3機はちゃんと脱出できそうだしね。打ったらすぐに北側に逃げればいいのよね?」

 

「そのためには敵の戦車を一発で全滅させる必要があるんですけどね…ナオミ、任せたわよ?」

 

「…任された。ノンナさんに一泡吹かせるのも悪くない」

 

 

 風の抵抗を、先頭を走るポルシェティーガーが一身に引き受けることにより成立する超高速の吶喊戦法。

 スリップストリームと呼ばれる現象を利用したそれは、大洗騒動の山場にてレオポンさんチーム、逸見エリカ、カチューシャの3人で敢行したものだ。

 しかし今回はもう1機プラスして4機。レオポンさんチームの後ろにケイ、アリサ&ナオミ、サンダースの3年だ。

 敵の4機を逃がすまいと、爆音をあげて突撃する。

 

 

「…ごめんねレオポン。終わったら、また私が修理してあげるからね」

 

 

 ポルシェティーガーのモーターが悲鳴を上げる。その様子を聞いて、涙を零しながらツチヤが労わる言葉をかけた。

 悲しみの涙ではない。笑顔を伴った涙である。

 最後の最後は、笑おう、と大好きな先輩たちに言われたから。

 

 これから先―――レオポンの整備も一緒にできなくなる、卒業してしまう先輩たちのための試合で。

 全力を出さないわけには、行かないから。

 

 

「…行くよ。本日二度目の、モーター全開!!」

 

 

 モーター制御のレバーを、レッドゾーンまで一気に引き上げる。

 さらなる加速を伴って、4輌が往く。

 敵車輌を殲滅せんと、往く。 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「――――退避よ!!」

 

 

 カチューシャは無線に叫び、後方から迫りくる4輌を見据えて回避行動をとった。

 プラウダ隊の他の3輌も、この突撃に応戦せんと超進地旋回や左右へ車体を振るなどにより、対応を急いだ。

 しかし。

 

 

「…これ、は―――」

 

 

 間に合わない。

 そう、ノンナは理解した。

 

 こちらの油断である。

 一度モーターを酷使したポルシェティーガーが、再度突撃してくるなんて考えてもいなかった。

 突撃に気づいた時は、こちらは相手に背を向けて。またしても奇襲を受ける形となった。

 振り返るまでに相手の砲弾が飛んでくるだろう。

 

 …一人一人が生き残れないのならば、誰かを生かすべきだ。

 ノンナは、大洗騒動の試合の時にも生じた思考を、またしても頭に思い浮かべた。

 

 

 

 

「……ファイヤー!」

 

 

 まずポルシェティーガーの砲撃が飛ぶ。

 高校生活最後の砲撃となったその弾は、正確にカチューシャの隣のT-34に吸い込まれ、白旗を生んだ。

 

 ポルシェティーガーの加速は止まらない。すでに砲撃の衝撃で、モーターとエンジンが焼き付いているようだ。

 その勢いのままに、西口の出入り口へ突っ込んでいく。

 

 

「…アイスストーム!」

 

 

 続くケイが、ノリノリでポルシェティーガーに続いて射線を通す。

 ノンナの前方のT-34が、その砲撃でまたしても撃墜された。

 

 

「そんでもって逃げる!みんなも続きなさいよ!」

 

 

 ケイの車輌は、敵の撃墜が確認できた瞬間に方向転換し、北側に向けて脱走した。

 一発目を決めたら、シャーマンのみんなはすぐに逃げるように。

 レオポンさんチームと、このスリップストリーム=アタックに参加するときに約束した、絶対の条件だった。

 

 

 プラウダの残り戦車は2輌。

 カチューシャとノンナが残るのみ。

 

 

「……同志カチューシャのため…」

 

 

 ノンナは、静かに瞳を閉じて、覚悟を決めた。

 

 ……私が犠牲になり、カチューシャを守ろう。

 あの時のように。

 あの大洗騒動の時のように、守ろう。

 私が次の1輌の砲撃を受けている間に、カチューシャに最後の1輌を撃破してもらえばいい。

 それで、カチューシャだけは生き残る。

 

 閉じた瞳を開き…目前に迫るシャーマン、ナオミとアリサが乗るそれを見据える。

 ちょうど、今の立ち位置はカチューシャを守れる配置だ。

 何も言わずとも、カチューシャは次のシャーマンを撃破してくれるだろう。

 ノンナは、自分が最も崇拝し、愛する者を守れたことに満足を得た。

 

 

「…カチューシャ、後は――」

 

「――――後は任せたわよ、ノンナ!!」

 

 

 だが、その満足は一瞬で吹き飛ぶ。

 自分の戦車、IS-2の前に、カチューシャが飛び出したからだ。

 まるで、自分を守るかのように。

 

 

「なっ…!カチューシャ、何を!?」

 

「いいから撃ちなさい!!」

 

 

 なぜ、と問う声を遮るように、カチューシャの檄が飛ぶ。

 私が今やろうとしたことを…まったく逆の立場で。

 つまり、ノンナをカチューシャが守り、ノンナが最後の1輌を撃破する。

 そんなシナリオを、カチューシャは描いていた。

 

 

 

「ダイヤキュート!」

 

「ノリノリねナオミ!?」

 

 

 

 シャーマンの2輌目、ナオミが砲手を務めるその戦車が、火砲を鳴らす。そしてそのまま北口へ逃走。

 その弾は、見事に…ノンナを守ったカチューシャの車輌に、吸い込まれた。

 カチューシャの戦車から、白旗が上がる。

 

 

「っ!!カチューシャ!!」

 

「撃って!ノンナ!!」

 

 

 悲鳴のようにカチューシャの名前を叫ぶノンナ。

 それでも、カチューシャから返ってくる言葉は一つだった。

 『――私のしたことを、無駄にしないで。』

 

 

「――――Огонь:(撃て)!!」

 

 

 ノンナは叫ぶ。

 砲手に指示を出し、それによってIS-2の砲口から放たれた弾は、最後のシャーマンを砲撃を行う前に仕留めることに成功した。

 

 ……生き残ることに、成功した。

 ……生き残って、しまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カチューシャ…なぜ…なぜ、私を守ったのです…!」

 

「……なぜって、そんなこともわからないの?ノンナは」

 

 

 もくもくと煙の上がるカチューシャの戦車を前にして、ノンナは泣きそうになるのをこらえてカチューシャに通信をつないだ。

 白旗が挙がってから、約30秒は無線の使用が認められる。

 

 

「私がやられるべきだった…!!同志カチューシャを守るために、私が…!隊長をお守りすることができないなんて、副官失格です…!!」

 

「…ねえ、ノンナ。前から、私の事を同志って呼んでくれてるけどさ」

 

 

 自責の念からくる謝罪の言葉を口の端から漏らし続けるノンナに、カチューシャから妙に冷静な声色で返事が来る。

 

 

「前にマホーシャも言ってたじゃない。信頼と崇拝は違う、だっけ?私、あの言葉が妙に引っかかってたのよね。確かに言われて考えてみると、ノンナの私に対するそれって、崇拝よね」

 

「……崇拝では、いけないというのですか。私は、カチューシャを…」

 

「あー、違うの、何ていうか…私ね。ノンナの事、一番の友達だと思ってたから」

 

 

 無線から返ってきたその言葉に…ノンナは、涙を流しながらもはっとした表情を作った。

 カチューシャが続ける。

 

 

「プラウダで隊長をやってたころはまだいいわ、部隊の指揮にも係わったしね。でも、今はお互いもう卒業で、来年からは同じ大学の1年生でしょ?それでいつまでも、私も偉そうにしてるのはどうなんだろうなー、って思ってたの」

 

「………カチューシャ」

 

「なかなか地が抜けないからそうは見えなかっただろうけど、気にしてたのよ?戦車道の履修が終わった後も、ノンナが副官として接してくれてたことを」

 

「…それ、は」

 

 

 ノンナは困惑する。

 カチューシャは何を言っている?

 私が、カチューシャのために全てをしてあげたいと思うのは当然のことだ。

 なぜなら、カチューシャは私にとって―――私にとって、カチューシャは。

 

 

「ノンナは前の大洗騒動の時に…私の事、助けてくれたでしょ?あれは、私の事隊長として、そして友達として信頼してくれていたからじゃない?」

 

「……あれは、」

 

「だからね、今度は私が助けたかったの。一番の友達として、貸し借りなく胸が張れるように!ノンナの事、信頼してるから!」

 

「…!!!」

 

 

 ノンナはそのカチューシャの言葉で、ようやく自分の中の気持ちに整理をつけることができた。

 

 ああ、そうか。

 隊長とか、副官とか、部隊とか、いろんなしがらみがあったけれど。

 すべてを除いて究極的に考えれば―――私は、カチューシャと友達だから、こうして一緒にいるんだ。

 

 友達だから、守れなくて悔しいし。

 友達だから、守りたいと思う。

 

 

「今まで、ノンナには色々私の面倒を見たりと苦労かけてきたと思うわ。…正直、私の尻拭いをさせていたようなところもあった。でもね、ノンナ」

 

「…はい、カチューシャ」

 

「最後の試合くらい、私に縛られないで自由に戦ってみなさい!私や、プラウダのみんなの想いを背負って、自由にね!!」

 

 

「っ!……Да(はい)、わかりました、カチューシャ。貴女の想いを継いで…最後の試合、自由に戦ってみたいと思います」

 

「いい返事よ!私は後ろから応援しているから、精一杯やりなさい!!」

 

 

 ノンナは、カチューシャに頭を下げ、そして振り返らずにIS-2を発進させる。

 シャーマンを追いかけるように、北口出口から宇都宮城址公園を後にした。

 

 

「…………」

 

 

 カチューシャを撃墜された恨みはある。

 カチューシャに託された想いもある。

 カチューシャへの気持ちに気づいた自分がいる。

 カチューシャに、私の戦いを魅せたい自分がいる。

 カチューシャのために。

 しかし、崇拝ではなく友の信頼として。

 

 

「私の戦い―――カチューシャ、あなたに捧げます」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ケイとナオミの乗ったシャーマンは、敵本隊に合流されてはたまらない、と宇都宮城址公園北門から即座に脱出し。

 公道レースと最後のスリップストリーム=アタックでモーターもエンジンも焼き付けたポルシェティーガーは、西口出口を封鎖するような形で停車し、白旗判定を食らっていた。

 

 

「……手痛くやられたな」

 

 

 宇都宮城址後西口、ポルシェティーガーを押しのけるようにして入った公園内で。

 最後にカチューシャから受けた報告で、初戦の状況は理解していた西住まほが、重い口を開く。

 

 紅軍の最終的な損害は10輌。プラウダは、ノンナを除く全員が撃墜された。

 それに対し、白軍の損害は8輌。内訳は大洗のポルシェティーガーが1輌、知波単の九七式中戦車が1輌、サンダースのシャーマン部隊が6輌だ。

 

 総数で行くと紅軍20輌:白軍22輌。

 プラウダがほぼ全滅してしまったことも含めると、大損害だ。

 

 

「流石は安斎といったところか。……だが、ここからだぞ安斎。私は最後まで食らいつく」

 

 

 戦況を再認識し、自軍の不利を自覚した上で。

 しかし西住まほは、自身の顔に浮かんでいる笑みに気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

※   ※   ※

※   ※   ※

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

「……お疲れさまー、カチューシャ!いやーいい勝負だったねー」

 

「…ナカジマ、みんなも。うん、お疲れさま。あんたたちにはうまくやられちゃったわね!」

 

 

 そして宇都宮城址公園、西口から少し進んだところで、ナカジマら自動車部のメンバーはポルシェティーガーを下りて、カチューシャに話しかけていた。

 ――試合の後はノーサイド。

 戦車道をやる上で、最も重要な部分であるそこを、ナカジマらもカチューシャも理解していた。

 だからこそ、ナカジマは笑顔でカチューシャに話しかけることができたし、カチューシャも笑顔を返すことができた。

 

 

「一応作戦通り、って感じだけど、ノンナさんが生き残ったのは少し予想外だったなー。カチューシャ、やるじゃん」

 

「ふふん、当然よ!前は私が助けてもらったんだから、今度は私が助けてあげたの。私の一番の友達だからね!」

 

「あら、カチューシャは私たちが一番の友達じゃないんですって。私たちは友達だと思ってたのになー」

 

「えー、悲しいなー」

 

「んなっ!ば、バカ言ってるんじゃないわよ!ノンナが一番なのは譲れないけど、あんたたちだって大切な友達なんだから!」

 

「あはは…先輩、人が悪いよー」

 

 

 自動車部の3年生sにからかわれ、顔を真っ赤にするカチューシャ。

 ツチヤが困ったかのように笑いを零す。

 

 

「ごめんごめん。私だってカチューシャは大切な友達だと思ってるよ。…ところでカチューシャ、知ってた?」

 

「もう…!ん、何のことかしらナカジマ?」

 

「実はね。私たち、カチューシャと同じ大学に行くんだー」

 

「へー。……え、えーーーーー!!!???」

 

「あ、やっぱり知らなかったのね。まあ私たちは全員推薦で合格してたからね…受験の時は会わなかったし」

 

「今朝ノンナさんに聞いたんだよねー、機械系に強い大学に行くっていうからどこか聞いてみたら、一緒の大学だったから私たちもびっくりしたよー」

 

 

 カチューシャは、いきなり伝えられた衝撃の事実に驚きを隠せなかった。

 ノンナと一緒の大学で、楽しくやっていけると思っていたけれど…まさか、この3人も一緒だなんて!

 

 

「自動車のサークルも入るけど、やっぱり私たちも戦車道まだ続ける予定だからさー」

 

「兼部って形になるけど、これからもよろしくね、カチューシャ」

 

「また遊びに行こうよ、ツチヤと逸見ちゃんも誘って、6人でさ。大学の近くの美味しい店、見つけよ?」

 

「うん…うんっ!!嬉しいわ、本当に!これからもよろしくね、みんな!!」

 

 

 戦車から飛び出して、わー、と3人に抱き着くカチューシャ。

 思い思いにカチューシャを撫でる先輩たちの姿に、ツチヤはとても微笑ましい気持ちになるのであった。

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