【完結】西住安斎大学受験物語   作:そとみち

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西住安斎卒業壮行試合 1

 

 

 試合開始時間である0900まであと10分

 0850。お互いの戦車30輌ずつが、紅軍は宇都宮自衛隊駐屯地南部に。白軍は宇都宮自衛隊駐屯地北部に。

 それぞれ4kmほどの距離が開けたそこで、横一列に並んでいた。

 

 紅軍・白軍ともに、フラッグ車は隊長が務めることとなった。

 

 ―――――壮行試合が、まもなく始まる。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「では、作戦は先ほど伝えた通りとなる。各自部隊長の指示を守り…敵部隊の索敵および殲滅を心がけるように」

 

 

 西住まほは、紅軍の隊長として、開始前の時間に作戦の最終確認を行った。

 部隊は大きく3つの部隊に分けた。

 黒森峰の戦車を率いる、中隊長逸見エリカ。

 プラウダの戦車を率いる、中隊長カチューシャ・補佐ノンナ。

 グロリアーナの戦車を率いる、中隊長ダージリンに、斥候役を務めてもらうクルセイダー部隊を率いるローズヒップ。

 

 それぞれの学園で連携を取ったほうが動きは円滑になると考え、設定した。

 もちろん、相手の出方や展開次第では、状況に応じて指揮などは変化するが。

 順当と言えば順当。しかし、その順当を極め、戦車道の正道を行くのが西住流。

 

 部隊全体の作戦も、できる限りシンプルにした。

 妙に手段に凝り、奇策を用いようとすれば、その揚げ足を思いっきり刈り取りに来るのが安斎千代美だとも理解していたからだ。

 

 各学園の3部隊とローズヒップ率いる1小隊に分け、斥候役のローズヒップ小隊が先行し、敵の行動を把握。

 少数の孤立した部隊があれば、中隊長率いるそれぞれの学園のどれかの部隊で殲滅にかかる。

 多数でこちらを待つようであれば、全体が集合して正面から打ち破る。

 横合いからの奇襲が来ても、数と面の制圧により対応する。

 

 西住まほの考えた当面の作戦は以上となる。

 …至極まっとうで、面白みのない配置とも言えた。

 

 

「各隊員は突出しすぎず、基本的に多対1で相対できるような立ち回りに努めろ。相手の妙な動きに惑わされるな、自分の役目を果たすことを心がけるように」

 

 

 西住まほは、命令の最後を堅い言葉で纏めた。

 各中隊長、および隊員からは了解の返事が来る。

 黒森峰でもよくある、西住流の戦車道の一幕。

 つまらない作戦だが、守れば勝つ。

 堅実であることこそが西住流の本質とも言えた。

 

 だが、ここで西住まほは、自分の中に生まれている妙な想いに気づき、戸惑った。

 その想いは、今までには一切感じたことのない、考えたことのない内容のそれではある。

 だが、今日という日を迎えられたこと、今日という日までに自分とその周囲の人間が行った日々を思い返して…西住まほは、どうしてもみんなにその想いを伝えたくなった。

 

 西住まほは腕時計を見る。

 8時57分。開始まではあと3分ある。

 …意を決し、本来ならば口にしないような一言を、首のタコマイクを通して部隊に伝える。

 

 

「…最後に一言。その、試合には直接関係のないことだが……」

 

 

 ん、とそれを聞いた部隊の隊員は、西住まほらしくない声色から始まったその言葉に、首を捻りつつも耳を傾けた。

 

 

「…今日という日まで、戦車道を通じてみんなとは色々やってきた。敵同士だった者もいるだろうし、共に戦った者もいる。誰かを救うために協力した人たちも」

 

 

 西住まほから伝わる言葉は、その色ににじみ出る感謝の想いを載せて。

 

 

「だから、…上手くは言えないが、今日という日をみんなと迎えられたことを、心から嬉しく思う。もちろん、白軍のみんなも合わせて、だ」

 

 

 逸見エリカは、その言葉を受けて、目を閉じて大きくうなづく。

 カチューシャは、その言葉を聞いて、にんまりと笑顔になる。

 ノンナは、その言葉の意味を考え、かつて神社に祈った時のように、神に感謝をささげ。

 ダージリンは、その言葉に合致するような格言を口からこぼしそうになり、紅茶を飲むことで中断して。

 ローズヒップは、その言葉に気分が高揚し、早くも国道旧4号を北上したい衝動にかられた。

 

 

「…この試合を企画した人にも、参加してくれたみんなにも、感謝している。心から、ありがとうの言葉を…感謝の気持ちを伝えたい」

 

 

 西住まほは、最後にもう一言…紅軍の部隊のみんなに伝える。

 それは、自分がいつまでも求めてやまなかったものを、手に入れたいが故の一言。

 

 

「最後に―――みんな、この試合を楽しもう。勝ちに固執するのではなく、楽しんで。高校生活最後の試合として誇れるような試合にしよう。…みんなでな」

 

 

 

 

 …試合開始まで残り2分を切った。

 西住まほの放った言葉に、10秒ほど、みんなからは無言の沈黙として返事が来た。

 

 西住まほは、若干焦る。

 む。私は妙なことを口走っただろうか。

 …いや、そんなことはない。私の素直な気持ちを吐露しただけだ。

 私は最後の試合くらい、安斎のように楽しんで、試合をしてみたいと思っただけだ―――部隊のみんなと。

 だから、みんなからは同意を得られなくても別に―――

 

 

「………くっ」

 

「…いけませんわね、くすくす…笑いをこらえて、紅茶がこぼれそう…」

 

「……ぷっ、ぷはっ」

 

「カチューシャ、ダメですよ…我慢して、ふふ…」

 

「………ぶわーーーーーーっはっはっは!!!ですわー!!ちょっと意外過ぎませんのー!?試合前に隊長が笑い殺しにかかってきましたわーーー!!!」

 

 

 

 そしてやかましいローズヒップの笑い声を皮切りに。

 紅軍の部隊30輌すべてから、西住まほへ大爆笑が返ってきた。

 

 

「な、なんだ…!?なぜ笑う!私は本心を言っただけだぞ!?わ、笑うなぁ!!」

 

 

 西住まほは、全身がかぁっと熱くなるという、人生で初めての体験を味わうことになった。

 自分の言葉で、みんながこんなに笑う事なんてなかったからだ。

 笑うなと言っても一度爆発した笑いの波は中々収まることはない。

 はー、はぁー、と息を整えながら、ダージリンがなんとか無線にて返事を返す。

 

 

「ふふ…まほさん、正直に言わせてもらうと、貴女には死ぬほど似合わない台詞すぎて…私、おかしくなってしまいそうよ」

 

「な…ん、だと…!!」

 

 

 似合わない、という事実を突きつけられた西住まほは、まだ試合も始まっていないのに強い焦燥感を覚えた。

 似合わないって。

 ひどくないか、それは。

 

 

「い、いえ、隊長のおっしゃっていることは素晴らしいものだと私も思いますが…くく、失礼、どうしてもおかしくて…隊長が試合前に、そんなっ…」

 

 

 信頼する直属の部下である逸見エリカまで笑いをこらえている。

 そんなにか。そんなに私が楽しもうというのは似合わないか。

 

 

「駄目、駄目よマホーシャ!部隊をリラックスさせるために自分の身を削ってのギャグは!ちょっと面白すぎたわ!!」

 

「失礼ですよカチューシャ、まほさんは本気で言っているのですから。…しかし、強烈に後を引くのも事実です……ふぅー」

 

 

 カチューシャは笑いを隠さず、続けざまにひどいことを言われた。

 さらに続くノンナは、笑いをかみ殺しきれていない。

 

 

「はー、はぁー…ぶわーーっはっはっは!!駄目ですわー!!アッサム様のジョークの100倍はおかしいですわー!!」

 

 

 ローズヒップとそれ率いるクルセイダー部隊は一番爆笑の声が大きかった。

 西住まほは彼女たちの斥候については一番厳しくしようと決意した。

 

 

「……もう笑うな!私は本心から、みんなと楽しんで戦車道をやりたいと思っただけだ…!!」

 

 

 西住まほが恥ずかしさで泣きそうになりながら、首のタコマイクに懇願を飛ばした。

 そこでようやく笑いの波も引いてきたところで、部隊のみんなからは、とても暖かい声が。

 

 

「解っていますわ、まほさん。貴女が言ったという行為には笑ってしまいましたけれども、あなたの言った内容については全面的に同意でしてよ」

 

「すみませんでした隊長…。でも、隊長のおっしゃってくれた言葉、素敵でした。私も…楽しんで、この試合に臨みたいと思います」

 

「マホーシャも変わったわよね!いいことだとカチューシャは思うけれど。彼女の影響かしらね?」

 

「カチューシャの言う通り…安斎さんの戦車道こそ『楽しんで』、ですからね。彼氏に合わせるタイプでしょうか、まほさんは」

 

「すみませんでしたわー、でも任せてくださいまし!私は戦車道の試合で楽しめなかったことなんて一度たりともありませんの!!今回も全力ですわー!!」

 

 

 それぞれの部隊の中隊長から、そしてその後には各戦車からも「隊長、がんばれー!」「昨日の敵は今日の友!」「肩の力抜いてやらせてもらうべさぁ」…などと、とても心温まる言葉が次々に帰ってくる。

 西住まほは、それらを聞いて……やっと、みんなが正しく自分の言ったことを理解してくれていたのだと理解した。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 タコマイクを手に、西住まほは再度お礼を述べる。

 試合開始まで、あと10秒。

 

 

「…では、先ほども言った通り、楽しんでいこう。安斎に胸を張れるような…」

 

 

 あと5秒。

 

 

「………一生の思い出になるような、試合にしよう!!」

 

 

 あと2秒。

 

 

「「「「了解!!!!」」」」

 

 

 

 試合開始のブザーが、鳴り響く。

 

 

「―――パンツァー・フォー!!」

 

 

 

 

※     ※     ※

 

 

 

「…すまないな、みんな」

 

 

 こちらは白軍、北駐屯地。

 試合前のブザーが鳴り響く10分前。

 安斎千代美は、自嘲のような響きをのせて、自分が率いる部隊全員に無線を飛ばす。

 

 

「こちらの作戦はさっき伝えた通りだ。状況に応じてまた指示は飛ばすけど……一つだけ、みんなには断っておくことがある」

 

 

 サンダースのシャーマン部隊を率いるケイは、その独白を無言で聞く。

 ナオミとアリサもまた、無言だった。

 大洗の角谷杏も、西住みほも、ナカジマたちも。

 アンツィオ高校のペパロニとカルパッチョも。

 知波単学園の西も。

 ただただ、安斎千代美の言葉を清聴する。

 

 

「この戦術は、アンツィオ高校のものじゃない。ドゥーチェ・アンチョビのものじゃない。「楽しんでやる戦車道」じゃないんだ」

 

「…姐さん…」

 

「…ドゥーチェ…」

 

 

 ペパロニとカルパッチョが、心配そうに安斎千代美の名を口にする。

 安斎千代美の独白は続く。

 

 

「私が、安斎千代美が…西住まほに、紅軍に勝ちたいがための作戦だ。奇策だ。囮も奇襲も、受け取りようによっては卑怯な手も、何でも使う…私のわがままだ」

 

 

 安斎千代美が作戦会議で部隊に伝えた作戦。

 それは、戦車道の正道からは大きく外れた、奇抜としか呼べない奇策。

 

 作戦会議の際、ケイはその作戦を聞いて、こう表現した。

 

 ――――イカれてる(クレイジー)、と。

 

 

「でも、私は勝ちたい!私は奴を破りたい…!!そのためなら…そのために、みんなを……」

 

 

 安斎千代美は自分の作戦を恥じていた。

 西住まほ率いる紅軍の戦車たちに対抗するには、これしかない。

 部隊の何人かは囮になり、奇襲を主とする戦略。安斎千代美の目指す戦車道を、さらに鋭く研ぎ澄ましたそれには。

 ……囮を任せる戦車がいる、という事実が内包されていた。

 

 囮を任せるということは、言い換えれば捨て石として使うということ。

 それぞれが高校生活最後の戦車道の試合で、そのようなことをしてもよいのか、と安斎千代美は何度も自問自答を繰り返す。

 そして、思わず漏れた試合前の謝罪の言葉。

 苦い思いが、安斎千代美の胸中を支配する。

 戦車の上部ハッチから顔をだし、安斎千代美は首を垂れた。

 

 しかしだ。

 安斎千代美が部隊を共にする学園は、幸運にも負の感情を吹き飛ばすような快活な学園ばかりであった。

 みんなの、安斎千代美に対する思いは一つであった。

 

 

「あら、貴女、さっきの話を忘れちゃったの?私たちは勝ちたいから貴女を隊長に選んだのよ?謝られる理由が見当たらないわ」

 

「…ケイさん…」

 

 

 ケイは、目線を合わせるように自分も戦車から顔を出して、慈愛の籠った表情で、安斎千代美に話しかける。

 

 

「…いいんじゃない?だって、やっぱり結局は、勝ったほうが面白いに決まってるんだし!ケースバイケースよ」

 

「…ま、私は狙い打てればそれでいい」

 

「私だってダーティな戦術の参考になるしー?…ああノン、参考にするだけでやらない予定ですからね隊長!戦車の上から睨まないで!」

 

 

 ケイが続けて、さらにナオミとアリサも思い思いに口にする。

 アリサの言葉には、ケイから痛い目線が飛んだようだが。

 

 ……続いて、大洗学園。

 

 

「チョビ子の想いはわかってるってー。最後の西住さんと戦る機会だもんな、勝ちたいと思うのは当然だと思うぞー?」

 

「私の作戦も、囮になってもらう事とかあります…でも、今までそれに応えてくれたみなさんのためにも、今度は私が応えたいと思ってます」

 

「安心しなよー安斎さん、うちら壁役は得意だし。それに勝ちを望むことは何にも悪いことじゃないよー」

 

「囮役だって、楽しもうと思えば楽しいものよ」

 

「橋落としたり通路塞いだりしてがんばるのもまた戦車道では?」

 

「来年のためにレオポンの調子も確かめたいから頑張るよー」

 

 

 角谷杏、西住みほ、ナカジマらが次々にいたわりの言葉を口にする。

 

 

「安斎隊長、我々知波単部隊は先日の大洗騒動の戦いで、吶喊以外の戦車道の楽しさも見出せました!今回の試合でも安斎隊長の戦術を勉強させていただくことで、きっと我々にとって新しい道が拓けるかと!」

 

 

 知波単学園の西絹代も、持ち前の明るさと話の聞かなさで、微妙にずれた答えを返した。

 

 

「…みんな…」

 

 

 安斎千代美は、部隊のみんなからかけられる声に…思いやりにあふれた言葉に、思わず涙がこぼれそうになった。

 今日は涙腺が緩すぎる。引締めよう、と安斎千代美が思ったところで。

 

 

「……姐さん。私、みんなに慕われてる姐さんの事、大好きっス」

 

「ドゥーチェはドゥーチェらしくあればいいと思います。私たちも、ドゥーチェのために…この試合、必ず勝ちたいです。もちろん、アンツィオらしく…楽しみながら!」

 

 

 実の後輩二人からのダブルアタックを受けて、本日二度目の涙腺崩壊を安斎千代美は味わった。

 

 

「お、お前らぁ~……!試合も始まってないのに、泣かせるなよぉ」

 

 

 ぐす、と鼻を鳴らして涙を腕でごしごしとふき取る安斎千代美。

 …自分にはもったいないくらい、素晴らしい部隊じゃないか。

 こいつらを勝たせてやりたい。

 私の指揮で、あの西住流から、三大高校連合から、勝利をもぎ取ってやりたい。

 

 

「あら、嬉し涙は別に恥ずかしいものじゃないわ!友達とのことならなおさらね。貴女についていくわ、アンチョビ」

 

「次の涙は紅軍の鼻を明かして、勝利の暁に流しなよーチョビ子。みんなで胴上げしてやるから」

 

「安斎さんの楽しんでやる戦車道も、お姉ちゃんに勝ちたい、っていう安斎さんも大好きです。勝ちましょう、絶対!」

 

「自動車部全員、勝利のために驀進するよー。ローズヒップちゃんの速度に負けないくらいにね」

 

「部隊のため、安斎隊長のためにこの身を捧げる所存であります!どうぞお使い下さい!」

 

 

 各学園から、口々に応援の言葉がかけられる。

 安斎千代美はそれを受けて、空を見上げて一度大きく深呼吸をした。

 そして、顔を下ろしたとき…そこには、決意を決めた顔があった。

 強い意志を秘めた、凛々しい表情だった。

 試合開始まで、あと10秒。

 

 

「わかった。なら、みんなの魂をもらう。みんな、私の戦術についてこい!」

 

 

 あと7秒。

 

 

「そして――――高校生活最後の試合を、勝利で飾ろう!!」

 

 

 あと5秒。

 

 

「………一生の思い出になるような試合にしよう!!!」

 

 

 あと2秒。

 

 

「「「「了解!!!!」」」」

 

 

 

 試合開始のブザーが、鳴り響く。

 

 

「―――アーヴァンティー!!」

 

 

 

 

※     ※      ※

 

 

 

 

 ―――試合が始まった。

 紅軍、白軍の各戦車は、エンジンに火を入れ、唸りをあげて進撃を開始する。

 南駐屯地に配置された紅軍は、当然北へ。

 北駐屯地に配置された白軍は――――やはり、北へ。

 宇都宮中心の市街地に向けて、進軍していた。

 

 

「…安斎隊長!敵は南におりますが、なぜ我々は北に向かっているのでありますか!?」

 

 

 知波単の西絹代が、他の戦車の動きに合わせて旧国道4号を北に進みながら、質問を無線で飛ばした。

 確かに白軍にとっての敵である紅軍は南にいる。

 最短で接敵するなら南に進撃する必要がある。

 

 それに対する安斎千代美の返答は、しかし内容としては紅軍白軍ともに折り込み済みの内容であった。

 併せて、西住みほも言葉を続ける。

 

 

「西ちゃん、最初の作戦会議の時に説明したろー!?このままお互いまっすぐつっこんでやりあっても勝ち目がないから、自分たちに有利な地形まで移動するって!」

 

「それに西さん、今回の試合は一応栃木県から提供された場所だから…」

 

 

 

※     ※      ※

 

 

 

「…まぁ、白軍は間違いなく宇都宮市街に向けて北上するだろうな。安斎がよほどの奇策から始めるでもない限り」

 

「でしょうね。そちらのほうがむしろ有難いことではありますが…」

 

 

 白軍の初動をきっちり読み切った西住まほと逸見エリカが会話する。

 安斎千代美としては、白軍としては…初手は北上する以外の選択肢はない。

 理由は二つある。

 

 

 一つは、先ほど安斎千代美も言った通り、そのままお互い距離を詰めあって戦っては、紅軍の勝利が見えているからだ。

 多数対多数の戦闘において西住流は最強である。

 戦車道をかじるものが少し考えれば、勝敗は明白であった。

 だから、安斎千代美は自分たちに少しでも有利な状況を作るために、北上して市街地に入り、キルゾーンを組み立てる必要があった。

 

 そしてもう一つの理由としては……戦車道の試合を行う上で、暗黙の了解として知られているマナーである。

 戦車道の試合は、盛り上がることに大いに意味を持つ。

 なぜなら、多数の観客の誘致、およびそこに在住する一般市民への誘導など、戦車道の試合を行うためには地方公共団体の尽力が必要であるからだ。

 そのため、戦車道の試合を通じて、スポンサーとして、知名度の向上として…試合を盛り上げ、観客に栃木という地方の印象を強く持ってもらう必要がある。

 

 一瞬で決着がついてしまい、試合の時間が短すぎるのは当然NGだ。

 また、宇都宮でも最南方に位置する自衛隊駐屯地の周辺のみで試合が進行してしまっても、宇都宮のPRにはならない。

 その土地を借り受けている以上、市街地にある建物などを紹介する意味合いも込めて、できる限り戦闘範囲を動き回り、活躍する必要があるのであった。

 

 前に行われた、戦車道大会決勝戦やその後の大洗でのエキシビジョン、大学選抜試合もこの暗黙の了解に合致していた。

 その結果、戦場をお互いが移しながら戦うことで、広告としての意味合いも兼ねるのである。

 

 

「だが、安斎は栃木の高校の出身だ。私よりも宇都宮市内の構造の把握は強いだろうな」

 

 

 西住まほは、安斎千代美の戦術が、はたしてどの場所でどのように自分に襲い掛かってくるか、まだ読み切れずにいた。

 というより、読もうとする行為自体を強く遂行しようとはしなかった。

 なぜなら―――読んでも無駄だからである。

 

 安斎千代美の戦略をあらかじめ読むことは不可能だ。

 それは、かつて受験勉強のためのお泊り勉強会の夜に安斎千代美と共に行った、戦車道の戦術議論で深く思い知った。

 あの時に自分が安斎の奇抜な戦術を打ち破るために行った方法として、まず安斎千代美の戦術を受けてから、対応を迅速に行うというものだった。

 安斎千代美の奇襲を受ける、または安斎千代美が配置した戦車の位置で、完全に戦略を読み切ってから動いたほうが、結果的に被害が少なくなることを、西住まほは知っていた。

 

 だから今回も、まずは行き当たりばったりだ。

 安斎千代美が最初にどう出てくるかは知らないが…こちらは西住流の通り、しっかりと斥候を行い、堅実に攻め立てればいい。

 

 

「…ローズヒップ」

 

「はいですわ!」

 

 

 西住まほは無線でローズヒップの名前を呼ぶ。

 最初の作戦立案通り、まずはローズヒップに斥候をしてもらう必要がある。

 

 

「先行し、敵部隊の動きを読んでくれ。ただし突出はし過ぎないように、まずいと思ったら退く様にしろ。特に相手が相手だからな」

 

「了解ですわよー!!クルセイダー部隊、出ッ発進行ですわー!!」

 

 

 ローズヒップが指示をだし、全5輌のクルセイダーたちが他の部隊より先行する。

 紅軍全体がそれに続き、国道旧4号の道路上を突き進み、白軍を追いかけるのであった。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「レオポンさんチームは…やっぱりどうしても遅れちゃうか。ごめんな、今回はワイヤー、そっちに使えないから」

 

「いいっていいってー。いざとなったらモーター回すし。それに、これも作戦の内でしょ?」

 

「うん…頑張ってやられないようにして、あとは例の場所におびき出してくれ。その後は私からタイミングを見て指示だすから」

 

「了解、任せてよ、安斎隊長。私たちにも作戦があるんだー、あの子が来てくれれば…あるいは、きっとね」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 試合開始から20分が経過した。

 ここで初めて、紅軍の車輌が白軍の車輌を捕捉した。

 

 

「いましたわー!あれは…大洗のポルシェティーガー様ですわね!」

 

「ティーガーか…他の戦車はどうだ?」

 

「んー、まだ見えませんけど…ティーガーの前方、排気の煙が上がっているのが若干見えますわ!多分一台だけ遅れてしまっているようですわね!」

 

 

 ローズヒップが先頭となり索敵をしていたクルセイダー部隊が、白軍のスタート地点である北駐屯地を超え、左手に見える富士重工の大型製鉄所を過ぎたあたりの旧国道4号を走行するポルシェティーガーを発見した。

 周辺を見渡しても、現在時点で白組の戦車が潜伏している様子はない。

 単純に北に向かっている最中に、車体の重いポルシェティーガーが遅れてしまったのだろう。

 

 

「どうされますの、隊長?」

 

「…強力な戦車だが、一機で孤立しているならば攻めてみてもいいだろう。慎重にな」

 

「了ッ解ですわー!!クルセイダー部隊、前進!目の前のポルシェティーガーを…」

 

 

 西住まほから許可を取り、ローズヒップが自分の率いるクルセイダー部隊を試合が始まって初の交戦のために進撃させようとしたところで。

 

 

「……あら?」

 

 

 ポルシェティーガーの上部ハッチから、乗員が一人出てくるのが見えた。

 あれは…たしか、大洗高校の自動車部のナカジマさんだ。

 

 

「何ですの?あの方たちがハッチから出てくるなんて珍しいですわね…?」

 

 

 見ると、何やらハンドサインのようなものをこちらに送っているようだ。

 なんなんですの一体、とローズヒップが突撃を前にして、双眼鏡でそのサインを確認する。

 

 ローズヒップの目に、ナカジマの手の動きが移った。

 それは手話とか、戦車道でよく使われるそれではない。ナカジマが今即興で考えた、なんとか意図を伝えようとするそれである。

 だが、しかし。

 ローズヒップの目にはナカジマの伝えたい意図がはっきりと読み取れ…そして、強烈に魅力的に映った。

 

 

 

 ナカジマが右手で自分を指さす。

『私たちと』

 左手でローズヒップを指さす。

『貴女達で』

 そして、大きく後ろを向いて、国道旧4号から119号に切り替わりその先長く続く直線を指さして。

『このストレートで、競争しよう!!!』

 

 

 

 ローズヒップは双眼鏡から目を離す。

 そして、無線に向かって言った。

 

 

「西住隊長。早速ですが一つお願いが」

 

「……なんだ?」

 

「先ほど、西住隊長は楽しんで試合をしようとおっしゃっていましたわね?」

 

 

 ローズヒップが次に続ける言葉は、戦車道の試合においてはありえない類の相談であった。

 相手は白旗を持っているわけではない。

 クルセイダー部隊で交戦するのが正しい選択だ。100人いたら100人は、そうするはずである。

 だが。

 私とあの人たちは、101人目だ。

 

 

「ポルシェティーガー様から、熱いラブコールを受けてしまいましたの。今から彼女たちと競争してきますので、5分だけ…目をつぶってくださいません事?」

 

「…うん、すまない。もう一度頼む」

 

「ですから、ポルシェティーガー様と直線での競争(ゼロヨン)をしてきますわ」

 

「………そうか…」

 

 

 西住まほは、自分が戦車道を始めてから、初めて聞くその状況に、少々困惑を隠せなかった。

 …確か、ポルシェティーガーに乗っているのは大洗の自動車部の部員たちだ。

 前に黒森峰の学園艦にもお呼びして、その技術力の高さにうならされたものだった。

 懐かしい顔を思い返しながら、なるほど自動車部か、ローズヒップと気が合いそうだと思った。

 

 

「…まほさん、うちのローズヒップがわがままを言って申し訳ないわね」

 

 

 西住まほがどうしたものかと思案していると、ダージリンが無線に割り込んできた。

 ダージリンとしては、当然だがそんな相手の提案に乗ることはないと考えたのだろう。

 

 

「今すぐ言う事を聞かせますので。ローズヒップ!!聞こえているのでしょう、敵戦車を前にしてそんな我儘…」

 

「…いや、待てダージリン」

 

 

 西住まほは、ローズヒップを止めようとするダージリンの言葉を制止した。

 普段ならばあり得ない選択肢。

 だが、これは高校生活最後の試合だ。

 先ほど、楽しんでやろう、と言ったばかりではないか。

 ローズヒップにも、大洗の自動車部のみんなにも恩義がある。

 ここは――――

 

 

「ローズヒップ、好きにやっていい。お互い後腐れの無いように」

 

「っ!!あっりがとうございますわー!!西住隊長、愛してますのよー!!!」

 

 

 西住まほは、ローズヒップの行動を咎めることなく、許した。

 ローズヒップはその言葉を聞き終えるのを待てず、西住まほに感謝の言葉を述べながらも既にクルセイダーを発進させ、自動車部とコンタクトを取る。

 

 

「……すまないな、他のみんなには。同じように何かやりたいことがあったら、どんどん言ってくれ。できる限り許可を出そう」

 

 

 西住まほは、自分が出した許可に対して、他の隊員への謝意を込めた言葉を無線にして送った。

 

 

「いいんじゃないですか?私も自動車部の人たちにはお世話になりましたし、面白そうでもあります」

 

 

 逸見エリカは、とても柔らかい調子で西住まほの意志に同調した。

 

 

「カチューシャも自動車部のみんなとは友達よ!こういう試合もありだと思うわ!純粋にどっちが早いか、興味もあるしね!」

 

 

 カチューシャもまた、二人の勝負に興味津々、と言った様子であった。

 

 

「まるで人が変わったようですわね、まほさん。よい変化だとわたくしは感じますけれど。…ローズヒップへの温情には感謝いたします」

 

 

 ダージリンも、紅茶を口にしながら後輩への温情への礼を述べる。

 他の隊員からも、特に反対の言葉は生まれず。

 西住まほは、自分が試合開始前に言った事は無意味ではなかったと得心した。

 

 

「では、全部隊はもう少し前進し、何があっても動けるようにしておけ。奇襲が無いとも限らないからな」

 

 

 周辺への警戒は怠らないようにしつつ…しかし、紅軍と、そして試合を見ている観客全員が、この戦車道における最初の邂逅を見守るのであった。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「いやー、悪いねーローズヒップちゃん、誘いを受けてもらって。決着はつけたいと思ってたし、君たちが一番先頭で来ると思ってたからね。嬉しいよ」

 

「私もレオポンさんチームの皆さんとは一度雌雄を決したいと考えていたところですわ!隊長の許可も下りましたし全力ですわよーっ!」

 

 

 ローズヒップとナカジマらレオポンさんチームが、信号機の下、横断歩道をスタートラインとして横に並ぶ。

 先ほど二人で話し合ったゴール地点については、平成通りと直角に交わる一条2丁目交差点の奥の横断歩道。

 スタートの合図は、信号が次に青になった瞬間。

 スタートまで、あと40秒ほどの時間があると推測された。

 

 

「ついでにさ、もう一個お願いがあるんだけど、いいかな?」

 

「なんですの?今更横合いからのアンブッシュはやめてほしいのですけれど?」

 

 

 スタート前に戦車の上部ハッチからお互い身を乗り出したナカジマとローズヒップが言葉を紡ぐ。

 ローズヒップの言葉は、しかし…ナカジマの様子から、そこまで悪意のある提案でないことはわかっていたため、半分以上は冗談だった。

 そしてナカジマが続けるお願いというのは。

 

 

「いやさ、お察しの通り私たち足が遅いから本隊と一緒に走れなくって。で、このレースをするついでに合流しようって腹なんだけど…」

 

「……」

 

「…もし、私たちが勝ったら見逃してくんないかな?ローズヒップちゃんが勝ったら、その場で撃墜してくれていいからさ」

 

 

 ナカジマの提案は、つまりはこういうものだった。

 もしポルシェティーガーがレースに勝ったら、合流を見逃してほしい。

 負けたらその場で撃墜したうえ、白軍の本隊へ切り込んでもいい。

 

 

「もちろん、私たちが勝ってもローズヒップちゃんが紅軍と合流するまで私たちも撃たないから。どうかな?」

 

「…………西住隊長、聞こえていましたかしら?」

 

 

 ローズヒップは、一応念のため、西住まほに再度の許可を取った。

 もっとも、今の西住まほは大変に柔軟だ。きっと、こう言ってくれるだろうと思っていた。

 

 

「…いいだろう。ローズヒップ、負けるなよ」

 

「了っ解ですのよー!!……ナカジマ様、その勝負受けますわ!!」

 

「ありがとう!ローズヒップちゃんも、西住さんのお姉さんも。これで高校生活、思い残すことはなさそうだよ!」

 

 

 ……それじゃ、と目配せするナカジマ。

 ローズヒップがそれを受けて小さく頷き、前を見る。

 ゴールは前方1km先、平成通りの大型横断歩道。

 歩行車用信号機が点滅し、赤になった。

 自分たちの横に位置する信号機が、青から黄色、そして赤へと変わる。

 

 

 

 ――――――そして、目の前の信号機が、青になった。

 

 

「いっくよー!!モーター出力、全っっ開!!!」

 

「リミッター解除!!ブッ壊れるまで飛ばしなさいなーー!!!」

 

 

 唐突に始まったレースの様子に、井頭公園の観客たちは大いに歓声を上げた。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 純粋なストレートを、2輌の戦車が爆走する。

 途中、道を大きくまたぐ歩道橋の上から、観客の声援が飛んだ。

 

 

「……勝敗の分かれ目は…!」

 

「……どっちが先にリミッターを戻すか、ですわね…!!」

 

 

 ナカジマとローズヒップは、ほぼ同速度で並走を続けながらも、砲塔による妨害などは一切行わなかった。

 ただ速く。

 相手よりも迅く。

 ゴールラインを、割る…!!

 

 

「レオポン、今日は調子がいいよー!まだまだ加速できそうだー!」

 

「ツチヤ、モーターの出力調整は任せるから!自分がギリギリだと思う所で止めて!」

 

 

 自動車部の乗るポルシェティーガーには、自動車部による改造が施されている。

 大洗騒動の前に施したその改造とは、モーターの出力の増強。

 エンジンの出力をいじることは戦車道のレギュレーション違反に当たるが、モーターはその限りではない。

 そのルールの穴をつき、自動車部4人の手によりポルシェティーガーは限界の速度を超えて走行することができた。

 

 しかしその速度にも弱点がある。

 モーターの出力を上げ過ぎると、エンジンが今度は悲鳴を上げて、エンストしてしまうのである。

 この機能を初使用した大洗騒動の試合では、超高速で敵戦車に突撃できたはいいものの、砲弾を放つ前にエンストし白旗判定を食らっていた。

 

 ナカジマはそのモーターの制御を、ツチヤにすべて託した。

 自動車部の中でも一人だけ2年生、一人だけあと一年高校生活があるこの愛らしい後輩を、先輩3人は大切に思っていた。

 みんなが一番やりたがっていた操縦手も、ツチヤだからこそ任せた。

 ポルシェティーガーの操縦に関しては、一番体で理解しているのがツチヤだ。

 

 

「任せたわよ…!」

 

「勝ったらまたドリンクバー奢るからね!」

 

「了解!先輩たちと一緒の最後のレースだもんね、絶対に負けないっ!!」

 

 

 ゴールに向けてレオポンが爆走する。

 戦車の車体に描かれているレオポンのマークが、今日は一段と凛々しく見えた。

 

 

 

 

「…最っ高ですわね!!」

 

 

 ローズヒップは、リミッターを解除して爆走するクルセイダーの車体の揺れを全身に感じながら、思わず叫んでいた。

 いつもは零さぬよう気を遣う紅茶も、今は飲み干して仕舞っておいた。

 今はただ、速く。

 誰にも負けないほど、迅く。

 

 

「クルセイダー部隊の誇りがかかっていますわ!!ギリギリの限界頂点まで、リミッターの再設定は致しませんわよ!」

 

 

 クルセイダーには、最高時速を出さないためのリミッターが備わっている。

 これを開放することで、車体の持つ最高のスペックの速度を得ることができるのだが、欠点が一つある。

 その速度で長時間走行していると、速度にエンジンがついていかず、故障してしまうのだ。

 

 ローズヒップは、故障に至るまでの時間とリミッターの再設定について、自分の感覚を信じることにした。

 何度も何度もリミッターを解除しては故障させた我が愛機、クルセイダー。

 この試合では、その体で覚えた限界頂点までリミッターを開放し続ける。

 勝つために。

 ライバルでもあり憧れでもあった、大洗高校のレオポンさんチームに、勝つために。

 

 

「……残り半分!まだいけますわ!!アクセル全っ開ですわよー!!」

 

 

 2輌は爆走する。

 残り300mとなった、ゴールラインに向かって。

 

 

「……まだだよー、まだ行けるよー、レオポン…!」

 

「……まだですわ…相手も辛いはず……先に根を上げるわけには行きませんの…!!」

 

 

 お互いがその速度の代償である、限界の見極めに注力する。

 恐らくゴールまでは持たないだろう。その前に戦車に限界が来る。戦車が狂う。

 だからこれは、タイムアタックでもありチキンレースでもある。

 先に、限界を迎えたほうの負け。

 

 

「……あと200m……もう少し頑張って、レオポン…!」

 

「…150m………くっ、そろそろヤバいですわ…限界が…!!」

 

 

 今にも車体から火が噴きそうな状況で、しかしまだ行けるとお互い自分の戦車を信じる。

 残り100m。

 目の前に、ゴールラインの横断歩道がはっきりと見えたところで…

 

 

「…今っ!!」

 

「…ここですわ!!」

 

 

 両者が、ほぼ同時にブレーキをかけ、さらに速度の設定を引き下げた。

 レオポンさんチームはモーターの出力を通常に戻し。

 ローズヒップはクルセイダーのリミッターを再設定する。

 ギャリリリリリ、と履帯がコンクリートを削る音が周囲に響き渡り、そしてその勢いのまま2輌は縺れてゴールラインへ。

 

 この勝負に審判はいない。チェッカーもない。

 勝負に参加したお互いがルールであり、審判である。

 

 ゴールラインまであと1m。

 ナカジマは自分の左を走るローズヒップの戦車に目をやった。

 ローズヒップは自分の右を走るナカジマの戦車に目をやった。

 

 先にゴールラインにたどり着いた戦車は――――――

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「…おーい、レオポンさんチーム!応答してくれー!どうなったんだー!」

 

「あ、ごめんよー安斎隊長。ちょっと立て込んでて返事できなかったんだー」

 

「おお、やっと返事が返ってきた!心配したぞ、やられたんじゃないかって。んで、今はどんな感じなんだ?」

 

「あー……安心していいよ。ちゃんと作戦通り、本隊に合流できたから。相手の索敵部隊も、こちらの進軍ルートを見てくれたし」

 

「そっか!ありがとう、お疲れ様だった!…それにしても、よく合流できたなぁ。後ろから撃たれなかったか?損傷とかは?」

 

「ううん。――――――勝ったから、大丈夫」

 

「…はぁ?どゆこと?」

 

「なんでもない、こっちの話。…それじゃ、ここからは自動車部じゃなくて戦車道チームの一員に戻るよ。私たちの心残りはなくなったからね!」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……西住隊長、すみませんですわー……」

 

「……負けたのか、ローズヒップ」

 

「…0コンマ1秒、負けました。私の戦車を信じる気持ちが足りませんでしたの…この失態は、必ず…」

 

「楽しかったか?」

 

「…へ、はい?」

 

「楽しかったか、と聞いている。…楽しくなかったのか?」

 

「い、いえ!楽しかったですわ!…そう、本当に楽しかったんですの!!心から!!!」

 

「ならばいい。お前も戦車を壊さず戻ってきたし、こちらの実害は今のところない。気にしなくていい」

 

「え、いえ…でも、私のわがままで、敵戦車を1輌撃墜できるチャンスを見逃してしまって…」

 

「反省の気持ちがあるのなら、次に生かせばいい。…期待している」

 

「っ、はい!!この後の私の活躍をご覧になってくださいませ!必ず、取り返して見せますわ!!」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 壮行試合の最初の接敵。

 その勝負は、なんと戦車道では初めてであろう、公道レースというものだった。

 井頭公園で観戦していた観客たちはこの突拍子もない勝負に、しかし大いに沸き、称賛した。

 

 こんなハチャメチャな試合、見たことがない!

 この後に続く実際の戦車戦も、果たしてどのような勝負が見られるのか!

 

 観客たちの期待は最高潮に達し、そしてそれに呼応するように、紅軍の本隊が白軍に接近し、次の戦闘が行われようとしていた。

 

 

 しかし、これはいわばコース料理の前菜である。

 これから繰り広げられる、壮絶な高校生たちの試合を目の当たりにして。

 西住まほと、安斎千代美の戦術が激しく火花を散らす宇都宮市を見て。

 観客達は、皆一様にして衝撃を覚えることになる。

 

 

 

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