ある雷元素使いの青年の話   作:濃霧/Nolm

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第3話 逃亡 ☆

「岩王帝君が……死ん……だ……?」

 

蛍が今の状況を信じられないとばかりに呟いた。

かく言う俺もこの事態が理解出来ず、周りと同じように硬直していた。

七神最強とも呼ばれた岩王帝君が死んだ、なんて信じようとも信じられないだろう。

その場で誰もが立ち竦んでいると、千岩軍の兵士たちが一人一人に事情聴取をしている。

 

「なぁ、このままじゃオイラたち、犯人だって疑われちゃうんじゃないか……?」

「いや、それはな──────」

「ないとは限らないな」

「えっ」

 

俺は蛍の言いかけた言葉を遮る。

そして、周囲には確実に聞こえないように話す。

 

「ぱっと見渡す限り俺たち以外に元素力を使えるような人間はいない。元素が使えなきゃ岩王帝君を殺害するなんて夢のまた夢だからな。それに、俺も蛍もパイモンも異邦人だ。岩王帝君に何らかの恨みを持っていても違和感のない話だ」

「確かに……それじゃあ、人目を盗んで逃げる?」

「あんまり現実的な案じゃあないが……それ以外に出来るようなこともなさそうだな。疑いたくはないが、この事件の収束のために凝光が俺たちに濡れ衣を着させてくる可能性がないわけでもないし」

 

そう今後のことを決め、俺たちは動き出した。

あまりにも不自然に見えないようにさりげなく人混みを抜け出す。

そうして、出口に近づけたはいいものの……

 

「外にも千岩軍がいっぱいだぞ……」

「上手いこと障害物に隠れながら進むしかなさそうだな」

 

俺たちは細心の注意を払いながら、建物や岩に隠れつつ進む。

しかし、もうすぐ階段というところで、気が緩んでしまったのか蛍が木の枝を踏んでしまう。

ほんの小さな音だったが、千岩軍の兵士たちには聞こえていたようで、こちらへ近づいてくる。

 

「おい、まずいぞ!どうするんだ……?」

「ごめん、私のせいで……」

「気にするな。……あんまりやりたくなかったが、今はこうするしかないか」

「?どういうこと……?」

「俺がおとりになる。お前らはその間にあの階段まで逃げろ」

「え、でもそれじゃあ……」

『こっちのほうから音がしたよな……』

『あぁ、間違いない』

「もう時間がない。後で落ち合おう!!」

「あ、ちょっと、影継!」

 

俺は蛍の制止を振り切って岩陰から飛び出す。

 

「何者だ!」

「はっ、今は名乗ってる暇はないな!!」

 

3人ほどの兵士が槍を持ってこちらへ向かってくるが、俺は雷を凝縮させて片手剣の形に変化させ、構える。

 

「捕らえろ!!」

 

まず一人目がこちらに突撃してくる。

俺はその槍を体を捻って回避すると、柄の途中から切断する。

しかし、相手は戦いに慣れているのか刃部分がなくなっても残った柄だけで的確に突きを繰り出してくる。

彼に気を取られていると、左側から槍が突き出される。

間一髪のところで避け、一旦距離を取る。

軽く周囲を見渡せば、増援が来るのが分かった。

 

今千岩軍の中では俺に注目が集まっている。

それは、蛍たちが逃げ出すチャンスが近づいているということだ。

先ほど左から奇襲を仕掛けてきた兵士がこちらへ向かってくる。

これ幸いとばかりに彼に接近し、槍をその手から弾き飛ばす。

そのまま彼に左拳を突き出し、そこから雷元素を流す。

雷元素をもろに食らった彼は成す術もなく気絶してしまった。

そして、その兵士を軽く投げ飛ばすと、俺は自らに雷を纏う。

完全に俺に注目が向いた瞬間。

 

蛍たちは岩陰から物音を立てないように気を付けながら、走り出す。

その様子を横目で確認しながら、近寄ってきた兵士たちを片っ端から無力化する。

そんな調子で暴れていると、茶色と金色の装飾を施した高身長の男性が現れた。

彼の足音に千岩軍の兵士たちは振り向くと、全員が驚いた顔をする。

 

「鍾、離先生……?」

「彼は俺の客人なんだ。ここは俺の顔を立ててくれないか?」

「し、しかし……」

「彼は無実だ。暴れたことは……往生堂から賠償を立て替えておこう」

「…………」

 

鍾離先生と呼ばれた男性はかなり無茶なことを言う。

しかし……なぜか有無を言わせぬ迫力があった。

そして、彼の雰囲気にはどこか懐かしさを感じる。

誰だったか……と考えていると、どうやら兵士たちは離れていったようだ。

 

「助かりました。ありがとうございます」

「どういたしまして。俺は鍾離。往生堂の客卿だ。それと、そんなに堅苦しくしなくていいぞ」

「それでは遠慮なく……俺は影継だ。よろしく」

「ああ、よろしく頼む」

 

俺は鍾離と握手した。

 

「さて、一度往生堂に戻るか。影継も着いてくるか?」

「ああ。もちろんだ」

 

ということで、往生堂へ向かうことになった。

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