「あ、ちょっと、影継!」
影継は、私の制止も聞かず岩陰から飛び出してしまった。
「……おい、あいつ、行っちゃったぞ……」
障害物からこっそりと外の様子を見ると、千岩軍と交戦しているようだった。
「うぅ……私のせいで……」
「蛍が気にすることないぞ……。今は、影継の作ってくれたこの隙に逃げ出すことに専念しよう……」
私はパイモンの言葉に頷く。
ここでもじもじしていても、影継の骨折り損になってしまう。
今私たちに出来るのは、パイモンの言う通り、彼の作ってくれたチャンスを無駄にしないようにすることだ。
逃げ出す隙を伺っていると、影継はあからさまに目立つように雷元素を使い、一人の兵士を気絶させる。
千岩軍の注意がそちらへ向いた瞬間、私たちは一目散に走り出した。
無事に階段まで到着し、急いで駆け下りようとした時、下から千岩軍の兵士が現れる。
意を決して片手剣を取り出し、睨み合う。
そんな時に彼らの後ろから一つの影が現れた。
彼は水元素で模られた双剣で瞬く間に兵士たちを無力化すると、私たちのほうを向いた。
警戒して半身になるが、灰色の服に赤いマフラーを巻いた彼は人の好さそうな笑顔を浮かべると、その双剣を消した。
「そんなに警戒しなくてもいいよ」
「君は……?」
「俺は『公子』だ」
「『公子』……?変な名前だな」
「まあ、ただの肩書みたいなものだからね。例えば……『淑女』とか」
「『淑女』……『公子』……って、まさか、お前ファデュイか?!」
「ああ、そうだよ。モンドでは『淑女』が手荒な真似をしてすまないね。でも、俺のことは信用してほしい。俺は君たちを助けにきたからね」
「助けに?」
「うん、岩王帝君の殺害の疑いをかけられたんだろう?」
「なんでそれを……?」
「あんな騒ぎがあれば誰でも気付くはずさ。それで、どうだい?俺のことを信用する気にはなったかな?」
とりあえず片手剣をしまう。
が、正直目の前の彼は物凄く怪しい。
モンドでの一件もあり、私もパイモンもファデュイにいい印象を持っていなかった。
「とりあえずこんな事件現場から離れようか」
『公子』と名乗った男の提案に、私は頷いた。
彼は、初対面の時の影継以上に怪しいが、この場から一刻も早く離れたいのもまた事実。
信頼したくはないが、ここは彼の言う通り、大人しく現場から離れたほうがいいだろう。
私たちは今、璃月港のメインストリートであろう場所を歩いている。
はぐれてしまった影継のことをぼーっと考えていると、『公子』が話しかけてきた。
「どうしたんだい?浮かない顔をして。あぁ、もしかして、さっきまで君たちと一緒にいた彼のことが心配なのかな?」
「まあ、そんなところ」
「彼なら心配はいらないよ。俺の知り合いが助けに行ってるハズだから」
彼の言葉は先ほどから変わらず胡散臭いが、なぜかその言葉が直感的に嘘ではないと思った。
ただ、彼の言う知り合いが、ファデュイ絡みの人物ではないことを祈る。
彼との思い出は殆どないに等しいが、それでも旅に同行させてくれ、と言ってくれた友人に災難が訪れるのは嫌だ。
暫く歩き、とある建物の入口の前まで来る。
「ここは?」
「ここは北国銀行の璃月支部だ」
「北国銀行……確か、スネージナヤの銀行だったよな?」
「そうだよ、おチビちゃん」
「スネージナヤ、ってことはファデュイに関係してるってこと?」
「まあ、あながち間違ってないかな。俺たちはここから資金援助を受けてるし」
「……」
「ははっ、そんな表情しないでよ。君たちに危害を加える気は今のところないから、安心してくれていいよ」
『公子』はそう言うと、先に建物の中へ入っていってしまった。
今のところ、という部分には少し引っ掛かったが、彼の言う通りならば今なら入っても問題ないのだろう。
パイモンと目配せを交わし、北国銀行の中へ入ることにした。