成り上がりの英雄譚   作:カニ漁船

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メイクデビューでございます。当たり前だけどレース映像があるわけなかった(絶望)。


来るデビュー戦

 ヒカルイマイはついにデビューの時を迎えた。京都レース場、芝1200mのレース。曇り空の良バ場だ。

 公式で走る初めてのレース。さすがのヒカルイマイにも緊張が走る……

 

「おい手前。いつまで震えてやがんだ」

「いい、いや。だだだだってさ!イ、イマイのデビュー戦だよ!?」

「なんで走る本人よりもトレーナーの手前の方が緊張してんだよボンクラ」

 

 よりも先に、彼女のトレーナーの方が緊張で震えていたため、ヒカルイマイ自身の緊張は和らいでいた。まだパドックも迎えていないというのに、これには呆れた表情をするしかない。

 1つ、2つと深呼吸をし。ようやく落ち着いたトレーナーはヒカルイマイと作戦の打ち合わせをする。

 

「と、とりあえず。今日のレースの確認といこうか。バ場の状態は良バ場、芝1200mのレースだね」

「おう。気をつけるべき点は……あ~、最初のコーナーは坂が続くから、前傾姿勢にはなりにくいだっけか?」

「そうだね。だから基本は前有利だけど、これは気にしなくていいかな?イマイの枠番は6枠の12番。内枠有利だから少しだけ不利なんだけど」

「メイクデビューだから細かく考える必要はない、ってか?」

 

 こくりと頷くトレーナー。1つずつ今回のレースについて確認していく。

 

「そして今回は16人。この中で勝てるのは……1人だけだ」

「負けたら未勝利戦、か。ま、儂には関係ねぇな」

 

 自信満々のヒカルイマイ。ヒカルイマイにも不安がないわけではない。初めての公式レース、自分の実力は通用するのかどうかと思うこともある。ただ、ヒカルイマイは周りへの反骨心が不安を上回っていた。自分の実力を見せつける良い機会だと、ここから自分の復讐が始まるのだと意気込む。

 

「……んで、今回は前目につけりゃいいのか?」

「う~ん……」

 

 ヒカルイマイは今回どのように走るのかをトレーナーに問う。ヒカルイマイは王道のレーススタイルで臨むべきかと考えていた。集団の前につけて、最後にひょいっと躱すスタイル。王道中の王道だ。

 だが、トレーナーの答えは違う。

 

 

()()()()。できるだけ周りに他のウマ娘がいない形になるのが良いかな?バ群がばらけるのが一番良い」

「後方待機……そりゃまたなんで?」

「まず、イマイの末脚はトップレベルだって話はしたよね?だからできるだけ脚は溜めておきたいんだ。前につけてハイペースになると、それだけ脚を削られる。なるべく後ろに控えて、削られるのを避けたい……そんなところかな」

「成程ねぇ。今回は後方待機、加えて周りに他のウマ娘がいない状況がベスト……それはなんでだ?」

「抜け出すのに時間がかかるから。後方待機は脚を溜めれるけど、前のウマ娘が壁になりやすいから抜け出すのに時間がかかるからね」

 

 トレーナーの言葉に頷くヒカルイマイ。まだまだ勉強中の身のようだ。

 

 

 作戦の打ち合わせも終わり、いよいよパドックの時間がやってくる。

 

「い、イマイ!」

「あん?なんだよトレーナー。ンなでけぇ声出さなくても」

 

 トレーナーはヒカルイマイを真っ直ぐに見る。わずかに拳は震えているが、それでも自信をもって告げた。

 

「頑張って!君なら勝てるよ!早々にメイクデビューを勝って──みんなを見返してやろう!」

 

 トレーナーの言葉に、ヒカルイマイはフッと笑う。

 

「──たりめぇだ。手前は観客席で儂がぶっちぎるところを見とけ」

 

 手をひらひらさせて、パドックへと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 パドックでは将来有望なウマ娘はいないかとファンが目を光らせる。中には名門の出のウマ娘や小さい頃から有名だったウマ娘もいるのでチェックは怠らない。

 

「なんだ?あの子」

「見たことねぇな……ただ、見た目が貧相だな~」

 

 そんな中、ヒカルイマイは別の意味で注目を浴びる。他のウマ娘と比べても線が細く、お世辞にも見栄えが良いとは言えないウマ娘。

 

「ヒカルイマイなんて名前、聞いたことねぇぞ」

「俺はなんか聞いたことあるな。選抜レースで負け続けてた子がそんな名前だった」

「へ~。そんなのにトレーナーがついたんだな」

 

 観客の声をヒカルイマイはキャッチする。青筋を立てていた。

 

(好き放題言いやがって……!)

 

 ヒカルイマイの評価は──並。あまり期待はされていないが、それでも5番人気にとどまった。

 

 

 パドックを終えたウマ娘達が続々と京都レース場に姿を現す。

 

《天気はあいにくの曇り空。ですが芝の状態は良バ場と発表されています!京都レース場芝1200mのメイクデビューを迎えました!トゥインクル・シリーズで輝くための登竜門、無事に勝ち上がり名乗りを上げるのはどのウマ娘か?》

《数多の名ウマ娘達が通ってきた道。トゥインクル・シリーズで輝くためにはここを勝たなければまず始まらない。どのようなレースになるのか、楽しみですね》

《1番人気はキョウマツカゼ。抜けた人気を誇っております。期待通りの結果を出すことができるのか?》

 

 出走するウマ娘達は緊張している様子。カチコチに固まっている中、どうにか体をほぐしていた。

 

「う~、き、緊張する~……!」

「が、頑張るぞ~、頑張るぞ~っ」

「勝たなきゃ、勝たなきゃ!」

 

 ヒカルイマイはというと、不思議なほど落ち着いていた。

 

(ハッ、トレーナーの震えてる姿を見たせいか、儂は思ったより落ち着いてる)

 

 身体の状態を確認するように動かし、1つ深呼吸をして気合を入れる。ゲートの時間を待つだけだ。

 

「それでは、ゲートインの準備をお願いします!」

 

 係員の誘導でゲートへと入るウマ娘達。中にはゲート入りを渋るウマ娘……ヒカルイマイもその一人だが、全員ゲートへと入る。

 

《各ウマ娘、態勢整いました。新たなスターが産声を上げるメイクデビュー、勝ち上がるのはどのウマ娘か!》

 

 静まり返るレース場。観客が固唾を呑んで見守る中、ゲートが開く音が鳴り響いた。ヒカルイマイのメイクデビューが始まる。

 

 

 ヒカルイマイはというと、()()()好スタートを切った。

 

(っうし!スタートはまずまずだ!後は……確か、できるだけ後ろに控えるんだっけか?)

 

 トレーナーとの作戦通りに後方待機策を取る。内ではなく外につけ、閉じ込められないようにしていた。

 

《始まりましたメイクデビュー!原石達が駆け抜けます!3番のキンランと4番のシデンカイが少し出遅れたか?それ以外はまずまずな出だし!前につけるのはウメノタカラと最内から上がって行きますワカメ、1番のワカメが上がって行きます。外からは大外枠16番のナルタキスターが前につけようとしている》

《まだ緊張しているのか、前へ前へといこうとしてますね。一足早く冷静になったウマ娘が、勝利を手繰り寄せることができるかもしれません》

《そうですね。まだ序盤も序盤。先頭はウメノタカラとナルタキスター、そしてワカメにヘムロックが上がって行きます!バ群はバラけていくぞ、縦長の展開になるか!》

 

 走っているウマ娘には焦りが見える。やはり今回が初出走のウマ娘達ばかり、緊張が完全に取れないでいた。作戦も何もあったもんじゃなく、ただがむしゃらに走るウマ娘が多い。中にはしっかりと位置取りを確認して自分のレースを貫くウマ娘も見受けられる。ヒカルイマイもその一人だ。

 

(ペースはやや早め、こうなると後方待機が有利つってたっけ?脚を溜めたもん勝ち……つまり儂は有利ってことか?)

 

 現在前から11人目のヒカルイマイ。誰もが前へ前へと位置取りをする中、トレーナーとの作戦通りに後方に控えていた。上り坂へと入り、第3コーナーへと向かう。

 先頭は最内のワカメ。ワカメの半バ身後ろにヘムロックとナルタキスターが控え、ウメノタカラと数人のウマ娘が続く形だ。コーナーへ入るとバ群は外へと膨らみ、内のコースが僅かばかりに空く。ただ、インコースを狙うウマ娘はいなかった。単純に気づいていないか、それとも余裕がないか。

 

 

 レースは早々に第4コーナーへと入る。まもなく最後の直線だ。ヒカルイマイは第3コーナーの下り坂を利用して前との差を詰め、現在先行集団までつけている。

 

《第4コーナーを下り、残り400の標識を通過しました!現在先頭はワカメ、ワカメであります!ここから粘れるかワカメ!1番人気キョウマツカゼはまだ中団だ!ウメノタカラは先行集団の真ん中、シデンカイは最後方!》

《ペースはやや早めですね。これは後ろに控えていたウマ娘達が有利ですよ》

《成程。そして最後の直線に入ります!先頭で入ってきたのはワカメ!ワカメだ!しかしウメノタカラが迫りくる!先行集団がワカメに襲い掛かる!さらにはっ、ヒカルイマイ!ヒカルイマイだ!ヒカルイマイが伸びてきた!最後の直線残り300を切ります!ヒカルイマイがワカメを捕らえた!》

 

 レースが最終局面を迎えたことで観客の熱も上がる。

 

「いけいけー!頑張れー!」

「応援してるぞ~!」

「おっ、ヒカルイマイが抜け出した!これはあるんじゃないか!」

 

 最後の直線でヒカルイマイは早々にワカメを躱して先頭に立つ。後方からウメノタカラや中団に控えていたウマ娘達が続々と上がって行くが、ハッキリ言ってモノが違う。

 

「どけや手前らっ!儂の道を邪魔するんじゃねぇ!」

 

 平坦な道を駆け抜けるヒカルイマイ。溜めていた末脚を一気に爆発させ、2番手以下との差を広げ続けていた。

 

「いっけー!頑張れイマイー!」

 

 トレーナーも応援の声をあげる。ヒカルイマイは独走状態に入っていた。

 

《残り200を切りました!ヒカルイマイ独走独走!ヒカルイマイが独走します!2番手にはウメノタカラが浮上!中団からはキョウマツカゼも上がってきた!上がってきたがこれはさすがに厳しいか!?ヒカルイマイがキョウマツカゼ達との差を広げていく!》

《これは完全にモノが違いますね!しっかりと脚を残していますし、なおかつその脚も素晴らしい!》

《これはもう決まった!2番手との差は4バ身開いている!ヒカルイマイ独走!》

 

 差は縮まらず、ヒカルイマイは駆け抜ける。最終的に、2着のキョウマツカゼに5バ身差つける形でメイクデビューを制した。

 

ヒカルイマイ!ヒカルイマイだ!京都のメイクデビューを制したのはヒカルイマイ!最後の直線であっという間に先頭に立ったかと思うと、瞬く間に駆け抜けていったヒカルイマイお見事!》

《評価は5番人気とあまりパッとしない彼女でしたが、見事実力で黙らせましたね。次のレースが楽しみなウマ娘です!》

《2着はヒカルイマイから遅れること5バ身差でキョウマツカゼ。3着にはパワークラウンが入りました。1番人気ウメノタカラは4着敗戦です》

 

 息を整えるヒカルイマイ。彼女の耳に入ってきたのは、賛辞の声である。

 

「おめでとうヒカルイマイ!よく頑張った!」

「次も頑張れよ~!」

 

 観客の入りがそこまで多いわけではない。それでも確かに聞こえる、ヒカルイマイは僅かに口角を吊り上がらせる。

 

(この調子で勝ち続けりゃあ……クソ親は間違いなく気づくはずだ)

 

 無事にメイクデビューを勝つことができた。勝って勝って勝ちまくれば、いつかは両親が自分を見つけるだろう。その時のことを考え……ヒカルイマイは悪い笑みを浮かべる。

 

「見てろよクソ共……コイツはまだ始まりだ。儂の復讐の、な」

 

 観客の声援に応えることなく、さっさとその場を立ち去るヒカルイマイ。愛想の悪さにファンは少し顔をしかめた。

 もっとも、ヒカルイマイにとってはファンもまた復讐の対象だ。親しい人間以外はすべて敵、自分を見下してきた連中と一緒なのだとひとくくりにしている。

 

(この賞賛だって、儂が勝ってこそのものだ。その内掌を返すに決まってらぁ)

 

 そう決めつける──少しばかり、申し訳なさを感じながら。

 

 

 レース後。控室でトレーナーはヒカルイマイを称える。

 

「おめでとーうイマイ!無事にメイクデビューを……」

「あんまり喜んでじゃねぇよボンクラ。まだメイクデビューを勝っただけだろうが」

「うっ。で、でもメイクデビューを勝つだけでも凄いし」

 

 トレーナーの言葉を手で制するヒカルイマイ。

 

「儂の目的にはまだまだ足りねぇんだよ。さっさと次のレースでも選定してろ」

「わ、分かったよ……」

 

 落ち込むトレーナーだが、ヒカルイマイの様子を見て気づく。トレーナーは、笑みを深めた。

 

「……なんだ?何笑ってんだ手前」

「い、いや?なんでもないよ?」

「……みょ~に気になるがまぁいい。次のレースも頼んだぞ」

「うん!任せて!」

 

 先程の落ち込んだ様子とは打って変わって、元気よく答えるトレーナー。ヒカルイマイはわけがわからなかった。

 

(なんだ。気にしてない風を装ってるけど……イマイも()()()()()()

 

 ヒカルイマイは気づいていなかったが、彼女の尻尾や耳は機嫌良さそうに動いていた。口では大したことではないと言っているが、やはりレースを勝ったのが嬉しいようである。




メイクデビュー勝利!圧倒的勝利!(5バ身)
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