トレーナー室にてイマイと次走に関する打ち合わせ。とはいっても、もう決まっている。
「次走はなでしこ賞だ。丁度2週間後だね」
「結構すぐだな」
「まぁね。正直、疲労はないだろう?」
「誰にものを言ってやがる?ねぇよそんなもん」
京都レース場で開催されるなでしこ賞がイマイの次走。メイクデビューの疲労もなさそうだし、できるだけ多く勝ちたいであろうイマイの意思を汲み取ってこのローテに。
「結構間隔詰めてローテを組む予定だけど、イマイの体調と相談だね」
「必要ねぇよ。怪我なんてしねぇんだから」
イマイは自信満々に宣言するが、それは甘い。怪我のリスクなんてどこにでもあるのだから。
「ダメだよイマイ。怪我をする可能性は0じゃない。どれだけリスク管理してもする時はする、なってからじゃ遅いんだ」
「お、おう」
「俺は君をケガさせないように頑張る。イマイもできる限り、怪我のリスクが高まるようなことは止めて欲しいんだ」
それに、これはイマイの目的のためでもあるんだ。もし出走できなくなったら、彼女の復讐は果たせなくなるのだから。
「怪我をしたらレースに出走できない。そうなったら、君の目的である世間を見返すという目標は永遠に叶わなくなってしまうかもしれない。それは嫌だろう?」
「……わーったよ。ちゃんと管理しとく」
どうやらイマイも分かってくれたみたいだ!これで一安心だな!
「じゃあ脚を見せてもらえる?」
「やっぱ変態じゃねぇか手前は」
しまった!?また端折って伝えてしまった!
「違う違う!君の爪のことだよ!」
「あん?儂の爪だと?」
「そうそう!ウマ娘の脚は特に重要だからね。細部に気を配っておかないと!」
後イマイって手入れに苦戦してるし。少しでも負担を減らすためにもやらねば!
「相変わらず手前は大事なことを端折るな。まぁいい、ならさっさと済ませろ」
「分かった!」
ヒカルイマイが脚を差し出すので張り切って爪を切る。とはいっても、特に問題はないな。これなら少し形整えるだけで良さそうだ。
格闘すること少し。
「……よし、終わったよ!」
「んあ?あ~終わったか。んじゃ「次は蹄鉄だね。持ち物も大事だ」まだあんのかよ?さっさとトレーニングした方が良くねぇか?」
「ダメダメ!いざという時のために備えておかないと!」
走りやすくするためには大事なことだ。それに、レース明けだからあまりトレーニングをするつもりもないし。
こうしてイマイに色々と教え込み、トレーニングは軽めに流す。
「もっとトレーニングした方が良いんじゃねぇのか?」
「今日はレースが終わってから間もないからね。軽めの調整にして、徐々に負荷を増やしていくんだ。レース明けだと故障率も上がるからね」
「そういうもんかい」
イマイも納得しているようだし、後はなでしこ賞に向けて調整を進めていくだけだ。勝てるように頑張らないと!
◇
迎えたなでしこ賞。イマイの調子も悪くない。ただ……メイクデビューよりもさらに多い出走数となった。
「21人かぁ……やっぱり多いね」
「関係ねぇよ。全員ぶち抜きゃ勝ちだ」
「理論上はそうだけどね?」
実際それができるのがイマイなんだよなぁと改めて思う。メイクデビューの時も後方から一気に差し切ったし。
「他の子達もメイクデビューを勝ってきた子達だ。イマイと同じだね」
「ハッ、上等じゃねぇか。それで勝ってこそ、儂の箔も付くってもんだろ」
「ま、そうだね」
イマイは自信満々だ。緊張は見られないし、落ち込んでいる様子も見られない。ベストパフォーマンスを発揮してくれるだろう!
「それじゃあ頑張ってきてね!スタンドで応援してるから!」
「フン。ぶっちぎってやるよ」
イマイは相変わらずだ。
そしてなでしこ賞が始まる。イマイは……少し出遅れてのスタート。後方集団につける形になった。
《1番人気ヒカルイマイは後ろから4番手の位置。スタートで少し立ち遅れたか?》
《ただ、彼女は直線での末脚が武器ですからね。問題はないでしょう》
《先頭を走るのはダッシュオーカンとスターホマレ。この2人がレースを引っ張ります。バ群は固まっていますね、警戒し合っているようです》
固まっているこの状況……ならイマイは有利だ。最後の末脚勝負になればまず負けない。それがイマイ最大の武器だから。
そのことを証明するように、最後の直線でイマイが後方から一気に追い上げてきた。
「いけー!頑張れイマイー!」
後方から一気に先頭へと近づいていく。
《後方からヒカルイマイが飛んできた!これは凄い末脚!前との差をグングン詰めていく!》
《バ群は固まっていましたからね。シャダイナイトは粘れるかどうか?エバーホープも来てますよ!》
《残り100m!ここでエバーホープが先頭に躍り出た!エバーホープを追いかけるヒカルイマイ、ヒカルイマイも追い込んでくる!ヤマホウユウとタニノカイソクも来ているぞ!粘れるかエバーホープ!》
「頑張れー!」
エバーホープが逃げ粘ろうと頑張っていたが、ヒカルイマイが最後の最後に追いつく。イマイはエバーホープを差し切り、アタマ差でなでしこ賞を勝った!やったやった!
《ヒカルイマイ、ヒカルイマイだ!なでしこ賞を勝ったのはヒカルイマイ!これはお見事だヒカルイマイ!1番人気の期待に見事応えました!2着はアタマ差でエバーホープ!》
「よくやったぞイマイー!」
「おめでとーう!」
観客席からも黄色い声が上がる……んだけど、イマイは素っ気ない態度だ。すぐに踵を返して帰っていく。
(もうちょっと愛想よくしてくれたらなぁ)
と思わずにはいられない。でも。
「う~ん、あの反応も悪くないな。こう、素直になれないヤンキーみたいな感じで」
「そうそう!猫みたいで可愛い~!」
……どうやら問題はなさそうだな、うん。
◇
なでしこ賞が終わって次のレース。ガンガン詰めていこう!
「次はオープン戦を走るよ!」
「おう、2週間後……問題ねぇな」
「場所は同じ京都レース場、距離はなでしこ賞と同じだから走りやすいと思う。ただ、なでしこ賞の時とは違って今回は少数だね」
なでしこ賞は21人での出走だったが、今回のオープンは5人立てだ。一気に16人も減った。まぁ他のレースとの兼ね合いだろう。
「大人数のレースもそうだけど、少人数でも慣れておかないとね。少人数だと実力がモロに出てくる、ここで勝てるようなら」
「儂の実力も本物、ってことかい」
「そういうことだね。君の強さは本物だってみんなに喧伝するチャンスだ!」
イマイの実力を疑っているわけじゃないが、やはりファンの中にはイマイの実力を疑っている人もまだいるわけで。イマイの強さを分かってもらわないと!
後、嬉しい報告がある。
「そうだイマイ!君のファンからファンレターも届いてるよ!」
「ファンレターだぁ?物好きなヤツもいたもんだな」
「仮にも自分のファンに何言ってるのさ……まぁ一通だけなんだけど」
なんとイマイにファンレターが届いたのだ!……一通だけ。でも、一通だけでも届いたことには届いたんだから嬉しいな!
ファンレターをイマイに渡す。中身を呼んで……しかめっ面を浮かべていた。な、なんで?
「あれ?嬉しくなかった?」
「……いや、嬉しくないとかそういうわけじゃねぇ。ただこの字、どっかで見たことあんだよ」
あぁでもないこうでもないと首を捻るイマイだが……何かに気づいたようだ。立ち上がって声を上げる。
「これ、ババアの字じゃねぇか!」
「ババアって……君のおばあちゃん?」
頷くイマイ。初ファンレターはイマイのおばあちゃんかぁ。
「どっかで見たことあると思ったら……プレゼントとかにいつも挟んであるメッセージカードと同じ字じゃねぇかこれ。身内からのファンレターねぇ」
「ま、まぁ身内だけどファンレターには違いないから」
「だとしてもなぁ……」
どこか釈然としない様子のイマイ。それにしてもおばあちゃんか。ちゃんとイマイのレースを観てくれてるんだな。
「というか、いつもメッセージカード挟んでるんだね」
「おう、毎年律儀にな。全く……いつも家で顔を合わせるんだから必要ねぇだろ」
「それだけイマイのことが好きなんだよ、イマイのおばあちゃんは」
「……うっせ」
そっぽを向くイマイ。さて、次のレースに向けて調整を頑張るか。
◇
やってきた京都レース場のオープンレース。天気は小雨だけど、バ場には問題ない。良バ場での開催だ。今回は5人立てのレース、力の差が顕著に出るな。
イマイは……あ、出遅れた。やっぱりゲートはあんまり得意じゃないなぁイマイは。
(将来を見据えて先行策も勉強させたいけど……模擬レースで経験を積んでからの方が良いなコレ)
その場合人を集めるのに苦労しそうだ。
《ヒカルイマイは最後方からのスタート。ファインニアルコが先頭に立ちます。5人立てのこのレース、後続4人を引き連れて先頭に立つのは4番ファインニアルコ、2番人気。2番手はミチシバ、3番手ヤマニンカブトオー、ミチシバ、ヒカルイマイと続きます》
《この人数でヒカルイマイの末脚は光るのか?注目したいですね》
ヒカルイマイはまたも1番人気。2連勝で勢いに乗っているし、この勢いを殺さずにいきたいところだ!
「頑張れイマイー!応援してるからねー!」
周りのファンからもチラホラとイマイを応援する声が上がっている。良い感じだ。
迎える最後の直線。イマイはまだ最後方。残り200m、頑張って躱してくれ!
《ヒカルイマイが追い上げる!2番ヒカルイマイ怒涛の追い上げ!ヒカルイマイが先頭に立ったヤマニンカブトオーと捕まえんと上がってくる!1バ身、半バ身と差を詰めてっ!残り100mで躱した躱した!》
やった!後もう少しだ!
《ヒカルイマイが先頭に立ちます!ヤマニンカブトオー必死に粘る!しかしヒカルイマイとの差は開いていく!ファインニアルコ以下3人はもう無理だ!ヒカルイマイ先頭、ヒカルイマイが先頭!》
最後はイマイが粘るヤマニンカブトオーを突き放しての勝利!これで無傷の3連勝だ!
《やったやったヒカルイマイ!ヤマニンカブトオーを突き放しての1と半バ身差でオープンレースを勝ちました!これで3連勝だヒカルイマイ!》
《当初はさほど注目されていなかったヒカルイマイですが、あれよあれよと3連勝!この実力は疑いようがないでしょう!》
《彼女のクラシックも注目ですね!3連勝のヒカルイマイ、次はどのレースに出走するのか?楽しみになってきました!クラシックの主役は彼女かも知れませんね!》
「やったイマイー!おめでとーう、おめでとーう!」
なんかイマイは恥ずかしそうに俺を見ている気がするけど気にしない!嬉しいもんは嬉しいし!
無傷の3連勝を飾ったイマイ。