成り上がりの英雄譚   作:カニ漁船

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イマイの弱点が判明する……っていうか今までも割と露呈していたか。


ヒカルイマイの弱点

「ねぇ、イマイ」

「……なんじゃ、トレーナー」

 

 トレーナーとヒカルイマイの間には微妙な空気が流れている。神妙な面持ちのトレーナーと、バツが悪そうにしているヒカルイマイ。周りにはウマ娘達もいるが、全員が気まずさから目を逸らしていた。

 

「今の模擬レース見てて思ったんだけどさ」

「言うんじゃねぇ!」

 

 大声を上げるヒカルイマイ。だが、そういうわけにはいかないとトレーナーは首を横に振る。歯ぎしりをするヒカルイマイ。

 

「イマイ、君は……」

「……」

 

 驚きに満ちた表情で、トレーナーはヒカルイマイに告げる。

 

「ビックリするぐらい王道の先行策が下手だねッ!?」

「じゃかぁしいわボンクラぁ!んなこと言われんでも分かってんだよぉ!」

 

 微妙な空気の原因。それは、ヒカルイマイがあまりにも先行策が下手なことが原因だった。

 

 

 

 

 

 

 今後のためをと思ってヒカルイマイに先行策を覚えさせようと模擬レースを企画。人数が集まってくれるだろうか?と心配もされていたが。

 

「私が一肌脱ぎましょう。イマイが心配なので」

「うっせぇよトウメイ。お前の力なんか借りなくてもなんとかならぁ」

「本当!?ありがとうトウメイ!トウメイだって忙しいはずなのに……」

 

 まずはトウメイの協力を得ることができた。彼女のトレーナーにも確認を取ったところ、怪我明けの調整がしたかったから丁度いいタイミングだとあちらも喜んでいた。それにしても、トウメイの協力を得られたのは大きい。彼女は相当な実力者だから、イマイのためになることも多いだろう。

 後は意外だが、先輩の協力を得ることもできた。そして、先輩が担当しているウマ娘も模擬レースに参加してくれることに。後はスカジャン騒動の時に対決したウマ娘も、イマイの模擬レースに協力してくれると言ってくれた。

 

「イマイの実力なら、こっちからお願いしたいぐらいだからな。それにしても最初の担当でこんなにも勝つなんて……お前も中々やるじゃねぇか!」

「ち、ちょっと痛いですよ先輩!」

「へ、後輩の成長が嬉しいんだよ!このこのっ!」

 

 とにかく人数は集まった。早速模擬レースだ!

 

 

 ……と、勇んだのがついさっきの出来事。俺と先輩、そしてトウメイのトレーナーさんを交えて模擬レースを観戦していたのだが。

 

「嘘だろ?」

「ねぇ、アレは大丈夫なのかしら?」

「いや、大丈夫じゃないですね……」

 

 そこで見てしまったのは、信じられないような光景だった。12人ほどで開催された模擬レース、イマイの結果は──シンガリ負け。調子良く3連勝していたとは思えないほどにボロ負けを喫した。ただ、なんというか……敗因は目に見えて分かっているというか。

 

「イマイ、確かに先行策はあまりとったことがないから戸惑うかもしれないけどさ」

「う、うるせぇうるせぇ!儂は悪くねぇ!」

 

 イマイは基本的に後方待機策だ。でも、作戦が一辺倒だとあまり良くない。他の作戦も走ってみて、同じウマ娘の気持ちを考えてみよう……という狙いで先行策の勉強をさせたんだけど。見せられたのはあまりにも酷い惨状だった。

 

「凄くボーっと走ってたね。これじゃあ勉強どころじゃないよ」

「うっ」

「あまりにもお粗末な走りだったな。根本的に向いてねぇ」

「うぅ!」

「イレ込むし、ソラを使うし……悪い見本市ね」

「~~~ッ!」

 

 俺を筆頭としたトレーナー陣から酷評されてイマイは顔を真っ赤にする。けど、それだけ酷かったってことだ。トウメイ達も何とも言えない表情を浮かべている。

 

「先行策と後方策でこれほどまで差が出るなんてね……」

「え、あたしこれに負けたの?嘘でしょ」

「で、でも!末脚は凄かったから!」

「無理に慰める必要はありません。結局はシンガリ負けなのですから」

「ウッセぇよババア!」

 

 イマイが選抜レースで負け続けていたのもなんとなく分かった。思えば最初に見た時も、イマイは無理に前で走ろうとしていたし。あの時は別の原因もあったけど、そもそもがイマイに向いてないんだろう。

 

(バ群が固まるのがダメなタイプなんだろうな。走る時、近くに他のウマ娘がいるのが気性的にダメなんだろう。なら、後方待機策は変えない方が良いか)

 

 しかし困ったな。レースの勉強をさせたいのにこれでどうにかなるか……。いや、とにかくやってみよう!

 

「とりあえずイマイ。少し休んだらもう一本模擬レースをしようか。次のレースまでは同じことをやるよ」

「……先行策か?」

「勿論。厳しいけど、これから先闘うためには、自分の武器を発揮させる状況を作らないといけない。そのためには必要なことだよ」

「~~~ッ!わーったよ!やるよ、やればいいんだろ!?おら、さっさと模擬レースするぞ手前ら!」

 

 イマイはずんずん足音を鳴らしながらスタート場所へと向かう。他の子達も遅れてスタート位置へと向かっていった。

 

「良い関係が築けているようね」

「あぁ、あの気性難が素直に言うことを聞くなんてな」

「えっ?」

 

 トウメイのトレーナーさんと先輩から、そんな風に言われた。良い関係、は築けてるとは思ってる。あくまで個人的な感想だけど。

 

「誰もが見向きもしなかった気性難。生まれも育ちも良くなかった彼女が、今ではクラシック候補の一人に数えられている」

「しかも、それを担当しているのが新人トレーナーと来たもんだ。誇れよ中島、お前がやってんのはすげーことだぞ?」

「あ、ありがとうございます!」

 

 でも、いざ他の人から褒められるとすげぇ嬉しい!まだまだ若輩の身だけど、これからも頑張ろうって気合が入る!ただ、今度は一転して厳しい目を俺に向ける2人。

 

「ただ、気をつけておきなさい。確かにヒカルイマイの評価は変わりつつあるけど……それでも、彼女の評判はあまりよろしくないわ」

「クラシック候補の1人とは言われているが、他のトレーナー陣からの評価は中の下ってところだ。やっぱ、なんも積んでこなかったのが相当響いてんだろうな」

「け、結果を出してるのにまだ言われてるんですね。ファンからは割と好感触なんですけど……」

 

 ファンからは結構評判良い、と思ったけどイマイのファンなんだから当たり前か。

 

「結果を出しても厳しい評価を下す連中は一定数はいるが、イマイのはちと異常だな」

「やはり、親戚関係が不明というのがどこまでも響いているんでしょうね」

「……大事なのは、今の彼女を見ることなのに」

「頭では分かっていても、そう簡単に割り切れねぇってことだよ。お前みたいにな」

 

 慰めるように頭に手を置く先輩。あまり子ども扱いされたくはないけど、慰めてくれようとしているのは素直に嬉しい。

 

「そうだ中島。あの時は悪かったな」

「あの時、と言いますと?」

「ヒカルイマイをスカウトしようとしてた時だよ。お前には散々言っちまったからな」

 

 あ~、そういえばそんなこともあったな。でも。

 

「あの時点では、先輩の方が正しかったですよ。イマイの評判はお世辞にも良いとは言えませんし、結果も出せてませんでしたから」

「それもだが、お前が周りから散々止めるように言われても俺はなんも言わなかった、言えなかったんだ。恥ずかしながら、お前の反論を聞いても口は動かなかったからな」

「その話は私も聞いたわ。トレーナー間では結構有名な話ね。生意気な新人がいるって」

 

 な、生意気な新人って。自分が言ったことに後悔はないけど、大分酷いこと言われてるんだな。

 

「でも、あなたの言っていることは正しいわ。大事なのは今のヒカルイマイを見ること……大多数はあなたの敵だけど、私達はあなたの味方よ」

「そうだ。あの時は何も言えなかったが……今はもう断言できる。お前は間違ってねぇってな」

「せ、先輩……!」

 

 柔らかな笑みを浮かべる先輩2人に感極まっちゃうな……褒められて、味方だと言ってくれたのがすげぇ嬉しい……!

 

「ただ、ヒカルイマイは良い意味でも悪い意味でも注目されているわ。引き抜きを画策しようとする相手も、出てくるかもしれないわね」

「ひ、引き抜き!?」

「評価は下の方とはいえ、ヒカルイマイはクラシック候補の1人だ。欲に目がくらむ奴はいるだろうな」

 

 引き抜きだなんて……いや、別に心配することないな。うん。先輩達も言ってて気づいたみたいだ。

 

「ま、あの子が引き抜きに応じるなんてことはなさそうだけどね。あなた以外のトレーナー、基本的に嫌ってそうだもの」

「当たり前だろ。だって散々酷い評価下されてたんだぞ?トレーナー嫌いになったのもそれが影響してんだし、引き抜きに応じるわけねぇ」

「というか、イマイの性格的にボロクソに貶しますよね。今更掌返してんじゃねぇ!って」

「絶対言うわ」

 

 イマイはそういう手合いが嫌いだし、間違いなく罵倒するだろう。自分を見なかったくせに何言ってんだ、今更都合がいいこと言ってんじゃねぇぞ、ボロボロに貶されたこと覚えてるんだからな、誰がテメェなんかの引き抜きに応じるかバーカ!ぐらいは言いそうな気がする。

 

「ヒカルイマイの評価は変わりつつある。これから先も勝って、クラシックも取ることができればきっと……」

「あぁ。間違いなく名ウマ娘になれるな。そのためにも、しっかりとトレーニングをっ、ってどうした?なんか浮かない顔してるが」

「あ、あ~……いや、大丈夫です」

 

 思い出すのは、イマイの目的だ。イマイが結果を出すことに固執しているのは自分を見下した世間に対する復讐。そして、自分を捨てた両親に対する復讐。このままいけば、イマイは有名になれるだろう。強いウマ娘として評価を残すことになる。

 気になるのは、イマイの両親のこと。いずれ現れるであろう彼らに、俺はどうすればいいのだろうか?

 

(イマイを守ることは既定路線だ。悪意をもって接するようなら、俺は絶対に彼らを止めなければならない)

 

 でも、イマイの両親について俺は何も知らない。だからこそ決めあぐねていた。俺は……彼らに会ったとしてどうするのか?

 

「イマイの両親が誰なのか、判明するといいんですけどねぇ……」

「あぁ~……確かにな。気になるよな、ヒカルイマイの両親」

「どういう理由があったのか、今どこで何をしているのか。知りたいわね」

 

 先輩達の言葉に頷く。イマイは……

 

「クッソ!またしんがり負けかよ!後方で走らせろや!」

「諦めなさい。先程のトレーナー達の言葉をもう忘れたのですか?堪え性のない子ですね」

「うるせぇ!」

 

 うん、いつも通りだな。




やっぱ後方待機策しかねぇって!
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